![_AA240_[1]](https://livedoor.blogimg.jp/KURENAIFUTOU/imgs/8/7/874f1422.jpg?240240)
NIGHT FLIGHTは、どこか人を食ったような作りで、自らテクノポップユニットのセルフパロディをやってるみたいな感じです。PerfumeはSTYLE OF Perfumeの構築もやるけど同時に解体もしてみせる、みたいな。これを出してくるPerfumeだったらまだまだいける、そう思わせる一曲です。で、何が言いたかったかというと、テクノというジャンルは、どんなに主流となっても、人を食ったような、または、いかがわしさをどこかに持っていないと本来の輝きを失ってしまうように思うのです。Perfumeも、今後どんな路線を歩もうとも、どこかできわものっぽさを持ちつづけていって欲しい、そうすれば決して廃れないと思うのです。
（ただ、あるいはですが、あ〜ちゃんはそういう斜に構えたようなスタイルというのが、好きじゃないのかも知れないですね。いや、本当言うともっと本質的なところでテクノにしこりを感じているのかも知れません。その「あ〜ちゃんのジレンマ」については後で述べたいと思います。）
ええ…NIGHT FLIGHTに戻って。
これ、以前も書いたのですが、これが７０年代末のテクノポップファンやYMOファンにど真ん中だとか、典型的テクノ歌謡とか言われるのもむべなるかな、なのです。
Ａメロの♪ちっちゃい歯車まわしてのあたり、スピード感はピンクレディーの「サウスポー」、サビのベースのチョッパーはYMOの「テクノポリス」（音の作り物っぽさがモロそっくり）、も一度Ａメロ、「♪まわして」や、♪くるくるかみ合うふたりはの「♪ふたりは」の部分のフレーズを、ちょっと憂いのあるシンセの音色で繰り返すのは、イモ欽トリオの「ハイスクール・ララバイ」ですね。
おそらくYMOリアルタイム時代を過ごした日本人が思い描く、いわゆるテクノポップっぽい曲っていうのは、つきつめていくとYMOの「テクノポリス」と「ライディーン」の2曲であり、そしてこの2曲に近い曲なんだと思うんです。テクノポリスは、ピンクレディーに代表されるような「東京的歌謡曲」の坂本龍一的解釈で作られ、「ハイスクール・ララバイ」は、それまで歌謡曲の世界ではアルバム内の曲やシングルのＢ面でのみしか作られてこなかったテクノ歌謡が、本格的にＡ面として世に登場したテクノ歌謡の嚆矢（当時、ヒット作詞家の松本隆が、元バンド（はっぴえんど）仲間の細野晴臣をこの世界に引っ張りこんだ最初というわけです）で、これはYMOのパロディ、特にライディーンのパロデイになってます。ピンクレディー→テクノポリスで、ライディーン→ハイスクール・ララバイとなっているのです。都市系歌謡曲→テクノポップ→テクノ歌謡という、日本独特のテクノのインプットとアウトプットのラインがここにあるのです。
NIGHT FLIGHTっていうのは、テクノ歌謡のマスターピースにもろあてはめられて作られています。日本人のDNAに刻まれているテクノポップっていうのが、かなりこの曲ズバリなんです。これ聴けば聴くほどハイハットがチッチキチッチキでなく、フィルインがズタタタズタタタでないことに違和感を覚えてきてしょうがない。ここまで似ているなら、ドラムは高橋ユキヒロのチッチキチッチキのズタタタズタタタで然るべきなんです。でもそれをやってしまうとテクノ歌謡でなくて、もろYMOになってしまうので、あえてチチチチチってやってるんでしょうね。
ビヨビヨ〜ンというチープなイントロ。スッチャカスッチャカというリズム、かしゆかパートのＢメロのヘンな展開、のっちのコーラスのエフェクトもかなりのヘンケイぶりが素晴らしい。終盤では「フライト」の「ライ」の部分のボイスサンプリングが「ライラララ…」と鳴りまくり言うことなし！（＜散々言い散らかした後ですが…）。
♪おっきいプロペラまわして くるくる空飛ぶエネルギーなんて歌詞もなんだかバカっぽいし（＜てか、ピノ航空プロペラ機かよ！それじゃ国際線じゃないじゃん）、Ｂメロの、歌詞の割りに、のっちの隙だらけな感じと、かしゆかの力の入っていない感じの歌い方なんかも含めて、全体的にキワモノすれすれっぽい感じがしてしょうがないんですがね。でも、これって昔のテクノポップを知らない人には普通に新鮮でカッコイイ曲に聴こえるのかも知れません。まあ、ふつうにカッコイイ曲として聴いても何もおかしかないですが…。
さて。いよいよ後半「オリジナルの部」へ突入。一言で言うと、いろんなジャンルをやってみましたっていう感じで、魅力は、バックトラックの楽しさ（いつものことですが）と、さまざまな曲調とあわさる３人のボーカル・ボイスの美しさです。
前評判（てか、あ〜ちゃんの発言？）では、サウンド主体のエフェクトかけまくりでボーカルの自律性を損なっているということだったですが、自分はそうは思わなかったです。Perfumeのボーカルは確かにサウンドの一素材かも知れませんが、だとしても中田ヤスタカは３人の声質の魅力を本当によく引き出して使っていると思います。３人の声は本当に魅力的です。かわいいし、きれいだし、下品さがないし、特長があるし。「わたしたち３人が歌っている意味がない」っていう主旨の発言は、あ〜ちゃん特有の「突き放した見方の代弁」であって本人たちはそれほどそう思ってないんじゃないかと思います。ていうか、私に言わせればこの３人の声でないと全然惹かれてなかったと思います。
６曲目Kiss and Music。こういうのを歌ってもあまり背伸びをしている感じが彼女たちもしなくなってきましたね。「勇気ないのね」と歌うのっちの少しぶっきらぼうに聴こえる感じのボーカルがいいです。英語詞ってこともあるのか、今までにないくらいボーカルそのものにグルーブを効かせてます。ていうか、バックトラックとボーカルのコラボレーションでグルーブを生み出しているタイプの曲です。こういうのはPerfume初なんではないでしょうか？ 今まではバックトラックがグルーブを１００％担っていたので、メンバーのボーカルはそのトラックに融合すれば良かった、という作りになっていたと思うのです。確かにPerfumeらしくはないかも知れませんが、何も考えないで棒読みのように歌う、のではなく、曲の持っているグルーブ感を意識して歌う必要が生じていて、これはボーカリストの自律性を損なうどころか促がすことになっていると思います。
７曲目Zero Gravityはテクノ・ボサノバですね。かつハウスっぽいかも。あ〜ちゃんの歌の上手さと声の美しさが堪能できます。のっちも本来のハリのある歌い方は抑制して（２巡目のソロはのっちだと思うんだけど･･･）、かなりガーリーなボーカルで一曲フルで通してます。こういうのもあんまりなかったですよね。中田氏はあ〜ちゃんの声を「弦」と評してますが、だとするとのっちは「管」かな。張りのあるのっちの（あるいは、のっちっぽい）ボーカルにはない、澄んだボーカルが曲調にマッチしてとても気持ちがいい。テクノのトラックと相まって、これはまさに「透明感」でしょう！
８曲目のI still love Uは８０年代に流行った洋楽ポップスの日本語カバー曲って感じですね。こういうの哀愁系ユーロっていうのかな？ ダダスタダダッっていうドラムがシモンズだったりするとぴったりな。世代的には私らYMOリアルタイム世代とほぼ同時期か少し下の世代で流行ってましたが、YMOファンはもっとも聴かなかったジャンルかも（笑）。語りかけるような気取らない感じのボーカルであ〜ちゃんとのっちがＡメロを歌い、Ｂメロでかしゆかが泣かせにかかるという従来のPerfumeでも得意の展開ですが、詞も曲調もいままでのPerfumeの曲にはないスタイルなので新鮮ではあります。
６曲目→７曲目→８曲目だけでもこうしてボーカルの特色がはっきり変化づけされていて面白いです。これ聴くと「私（たち）が歌っている意味がない」なんてことはあり得ないです。
ところで、これのＰＶが限定版のＣＤについているのですが、とてもインパクト大です。バストショットのメンバーがフロントを入れ替わり立ち代わり歌っているという何でもないＰＶなんですが、途中から急にメンバーが壊れていくのです。急にそうなるので何かただならぬことが起こったようなデビッド・リンチの映画のような妙な不安な空気が漂うのです。最初何も知らないで見たときの気味の悪さは忘れられません…必見です。もう気に入って何度も見てますが、かしゆかのリアクションが一番ですね。めっちゃカワイイ。
９曲目The best thingは、これぞテクノなシンセリフのイントロが気持ちいい。最初のかしゆかのソロから始まって、メンバーそれぞれのロボ声が楽しめます。エフェクトがきついっていうのはこの曲が最たるものかも知れませんが、サビの英語詞のあたりのバックトラックとの渾然一体の融合ぶりは気持ちいいの一言。これぞPerfumeでしょう。高揚感を伴ったメロディで「キミにすべてをあげるわ」なんて彼をリードするような歌も歌うようになったんですね。面白いなと思うのは、ここまで英語詞中心になると、やはりボーカルにノリが生まれてしまうことです。Perfumeの最大の特徴であるボーカルのノリの規制がここでは緩和されてます。Capsuleの曲みたいだ、というのはボーカルエフェクトの問題よりも、この歌い方のノリの問題のほうが大きいように思います。
ノンストップでつながる１０曲目のSpeed of Soundが、物議を醸している（笑）メンバーはボイスのみ、ハウスにアフリカンパーカッションのトラックというナンバー。かしゆかの声が少しはみ出る３人の和声って、かなり萌えなんですが、これって私だけ？ かしゆかは地声が高音と低音に割れて聴こえる、中田氏いわく元々エフェクトがかかっているような不思議な声で、これは歌っているよりもしゃべっている時のほうが目立つので、「Take me Take me」のメインとか、ワンルーム・ディスコの「そのうち楽しくなるでしょ」の「でしょ」とか、こういうボイスのみの曲とか、はっきりしたメロディでない部分で、最大の魅力を発揮していると思います。Perfumeがラップをやるとしたら、筆頭はかしゆかでしょ。
なんて言ってるうちに１１曲目ワンルーム・ディスコですよ。この後願い（１２曲目）だけですよ。で、もう終わっちゃうの？って感じです。で、また頭から聴きたくなると。
５〜１０のオリジナル曲は、既発のシングル以上の魅力を内包していると思います。多分聴けば聴くほど魅力が感じられてくるように思いました。
…また相当長くなってしまいました。
最後に「あ〜ちゃんのジレンマ」についてですが、あ〜ちゃんは、表現というのをもっと素直に伝えたい、自分の本心をストレートに伝えたいという気持ちの強い人なのかも知れないです。だから、本当は自分で作詞作曲して、自然な歌唱で歌いたいというのが理想なのでしょう。翻ってテクノというジャンルは、やはり「作り手主体の音楽」、作る音楽なんだということがあると思います。となるとボーカルはやはり従者となってしまう。もっと端的に言うと素材となってしまう。で、これはテクノの宿命かも知れませんが、サンプリングなどを使えば、そこに参加していなくても参加しているというアリバイが成立してしまうというある意味での危険をはらんでいます。そして「自分たちの表現している世界」について、自分自身がまだよくわかっていないという葛藤があるようです。お客さんへの誠意として、自分の自発的な衝動を楽曲に直結させたいのに、LIVEではほとんど生で歌えないというシバリもあるでしょう。単なる私の推量ですが、それらのことに関して、自分が関わってもいないのに名前だけ貸して商売しているようなイメージを抱いてしまっているのかなあ、と思うのです。これも推量に過ぎませんが、のっちは与えられた枠の中で自分のスキルを磨くことに興味を抱けるタイプで、かしゆかは状況を楽しんじゃえるタイプで、その辺うまく折り合いをつけているのかな、と思うのです（もちろん本当の本心のことなんかわかりませんが）。あ〜ちゃんは周りのことがよく見える人だと思います。並みの観察力の持ち主ではありませんから。状況を観察した上で「自分は誠実だろうか？」という一点に対してひっかかってしまっているように思います。ただ、自分が何をしたいか、ではなく、自分が求められていることをしたい、とも言ってます。そういう矛盾を抱えているのだと思います。観察力があってかつ本当に正直な人なんでしょうね。だから毒舌も冴えている（笑）という…。
