いびつな本棚

私の本棚にある本を、既読未読を問わず、一日一冊ずつ紹介します。死ぬまで続けます(予定)。なお、予告なくネタバレを書くことがあります。

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早坂隆『日本の戦時下ジョーク集 太平洋戦争篇』(2007年、中公新書ラクレ)

 太平洋戦争下に生まれた笑い話を簡単な歴史とともに紹介している。『日本の戦時下ジョーク集 満州事変・日中戦争篇』と同時発売の姉妹編。

 まえがき
 第一章 太平洋戦争開戦前夜の時局ネタ(昭和一六年)
  玉松ワカナ・玉松一郎「ワカナの百貨店」
  五代目・古今亭志ん生「隣組の猫」
  横山エンタツ・花菱アチャコ「豆漫才 銃後鍛錬」
  「どなり組」
  「時事談議」
  「仮想空中座談会」
  「牛乳」
  「変な言訳」
  「科学は進む」
 第二章 快進撃から劣勢へ(昭和一七年)
  志摩達夫「チャーチル・ルーズヴェルト敗戦会談」
  「威張る蒋助」
  「大きい帽子」
  「たい飯」
  秋田實「ルーズヴェルトとチャーチル敗戦問答」
  徳川夢声の日記より
  『タコ八の歌』」
  「象牙」
  「反対」
  「もう安心」
  桂文都「ぶたれ屋」
  「彼の戦法」
  「思ひやられる」
  「この頃の儲けもの」
  「新しい解釈」
  「理屈」
  「その筈」
  「倅殿」
  「時世」
  「出ない筈」
  「ばれる」
  「落書き」一
  「落書き」二
  「先生と生徒」
  「うっかりと」
 第三章 苦しくなる国民生活の中で(昭和一八年)
  「代用品」
  柳家金語楼「茶散(チャーチル)に告ぐ」
  替え歌『紀元二千六百年』
  『可愛いスーチャン』
  『ズンドコ節』
  「山の神」
  「鯨」
  「理由は」
  「宰相の悩み」
  横山エンタツ・杉浦エノスケ「漫才 俺は探偵」(秋田實 作)
  「今度こそ!」
  「狐狸合戦」
  「御冗談でしょう」
  「配給」
  「虎狩り小僧」
  「お互いさま」
  柳家金語楼「花月金語楼」
  「逆効果」
  翁亭桂馬「落語 生産戦」
  「逃げ口上」
  「心配」
  楽貴世文「太平洋相撲戦」(田中良一 作)
  「御挨拶」
  狂歌
  『小原節』の替え歌
  「軍人勅諭」の言葉遊び
  「道理」
  「この違い」
  替え歌『愛国行進曲』
  玉松ワカナ・玉松一郎「ワカナの自叙伝」
  「馬鹿は誰?」
 第四章 激しくなる空襲の下でさえも(昭和一九年)
  「雷門」
  「例外中の例外」
  「公園の柵」
  「難産」
  「謎々を解く」
  「足が丈夫」
  「ややこしい」
  「統計が示す」
  「我に不可能の語なし」
  「住めば都」
  映画『轟沈』主題歌
  「困ったのは先方」
  「道理で」
  「忘れた落下傘」
  「嬶天下」
  「効果」
  古川緑波『悲食記』
  「誤診」
  「出せよ白金」
  「出せよ白金!」
  『比島決戦の歌』(一部抜粋)
 第五章 それでも笑いたかった人たち(昭和二〇年)
  「逆襲」
  「宿題」
  「原理」
  「捕虜」
  「第一線」
  「弁護士気質」
  「生産第一」
  「有りそうなこと」
  「さては贋物」
  「一人きり」
 あとがき
 参考文献

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早坂隆『日本の戦時下ジョーク集 満州事変・日中戦争篇』(2007年、中公新書ラクレ)

 満州事変・日中戦争下の笑話を、簡単な歴史の記述とともに収録している。幅広く資料を渉猟した労作だと思う。姉妹編に『日本の戦時下ジョーク集 太平洋戦争篇』がある。

 まえがき
 第一章 満州事変とエンタツ・アチャコ(昭和六~九年)
  横山エンタツ・花菱アチャコ「洋行」
  「殴るぞ!」
  「これは御無理な」
  「先生」
 砂川捨丸・中村春代「満蒙出兵」
 榎本健一劇団「最後の伝令」
 「また会う日まで」
 「知らぬが亭主」
 横山エンタツ・花菱アチャコ「満州異状あり」
 「死人に口なし」
 「尤もな話」
 「動物園」
 「しまった!」
 「救いの神」
 「無駄使い」
 「小話」
 島陽之助・堀江洋子「恋の乗換え」
 「天気予報」
 「遠慮深謀」
 横山エンタツ・花菱アチャコ「早慶戦」
 笑の王国「われらが忠臣蔵」
 「この次の仕事に」
 「野暮天」
 秋田實「モダン萬歳 恋愛禁止法」
 柳家金語楼「落語 満州」
 「矢張り駄目」
 「をんな・ごころ」
 「身の上相談」
 「それも一理」
 「双生児は辛い」
 「とんだ遺産」
 第二章 モダンな笑いを追い求めて(昭和一〇~一一年)
  「非常時を横切る」
  「皮肉な」
  「その通り!」
  中村篤九「明治座の砂」
  「敵同士」
  春風亭柳橋「落語 拳闘」
  「嘘の色」
  柳家金語楼「金語楼の後備兵」
  「問題は簡単」
  「金儲け」
  「追憶」
  「論より証拠」
  花菱アチャコ「ケチン坊の話」
  一輪亭花蝶・三遊亭川柳「選挙粛清」
  花柳一駒・三遊亭柳枝「非常時解決案」
  「源平藤橘」
  「親の敵」
  「救世主」
  八代目・桂文楽「悋気の火の玉」
  「苦肉の策」
  花月亭九里丸「異説 厄払い」
  「満洲製」
  「検閲」
  香島ラッキー・御園セブン「うらない訪問服」
  「相身互い」
  天津城逸郎・大道寺春之助「謎のエチオピア」
  「零」
  「地理の時間」
  九代目・翁家さん馬「出世次官」
  「危険」
  中村正常「蒋介石と幽漫作家」
 第三章 日中戦争下で花開く漫才(昭和一二~一三年)
  柳家金語楼「漫談 牛の夫婦さん 東京見物です」
  「漫才」
  「先刻御承知」
  「藤原氏怒る」
  うそくらべ大会「江戸ッ子気質」
  水乃俊二 喜劇台本「赤倉塾挿話」
  美代子・一蝶「空は多忙!」
  美代子・一蝶「燃えたシガー」
  浪花家芳子・浪花家市松「黄色夜叉」
  「一対一」
  「名は体を現す」
  「忘れもの」
  秋田實「祝南京陥落武将珍将総動員」
  「共産主義」
  「排日、抗日」
  「もの凄い」
  ミスワカナ・玉松一郎「新婚貯金戦」(秋田實 作)
  天津城逸郎・大道寺春之助「極楽二人連れ」
  「太鼓の皮」
  林田五郎・柳家雪江「代用品」(秋田實 作)
  「誘導尋問」
  「物は見様」
  あきれたぼういず「四人の突撃兵」
 第四章 第二次世界大戦をも笑いのネタに(昭和一四~一五年)
  桂三木助「千人針」
  「我慢ならぬ」
  「手数料不要」
  「落葉の頃」
  「ゆうもれすく」
  「似たもの夫婦」
  「自然の法則」
  香島ラッキー・御園セブン「ワイフ礼讃」
  中村篤九「言論の自由」
  ミスワカナ・玉松一郎「白井権八」(秋田實 作)
  ミスワカナ・玉松一郎「全国婦人大会」
  三遊亭柳枝・文の家久月「非常時解決案」(秋田實 作)
  花菱アチャコ・千歳家今男「兵隊さん有難う」(秋田實 作)
  「ノムハン事件後」
  「漫才」
  ミスワカナ・玉松一郎「今年は辰年」(秋田實 作)
  「先ず防備」
  松井翠聲「新春新案G・P・U」
  「燃料不足」
  「うっかり本音」
  ミスワカナ・玉松一郎「情愛の価値」
  「五月のおはなし」
  桂米之助「代書」
  「推察」
  横山エンタツ・杉浦エノスケ「金釘流」(秋田實 作)
  リーガル千太・万吉「切符制度」
  「石炭小屋の火事」
  玉松ワカナ・玉松一郎「婦唱夫随」
 あとがき
 参考文献

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瀬古浩爾『まれにみるバカ』(2002年、洋泉社新書)

 「バカ」というキーワードで諸事を切った本。というか、一人高みに立って人をバカ呼ばわりした本。なるほどと思うところもあるが、全体的な印象は良くなかった。第一に、バカ呼ばわりする対象がとっ散らかっていて、結局ただバカ呼ばわりしたいだけなのかという印象を持ってしまう。第二に、言葉遣いが下品である。

 まえがき──「バカが幸福になると手がつけられない」
 第一章 バカはなぜ罪なのか
 第二章 バカ本を読む
 第三章 現代バカ著名人列伝
 第四章 現代無名バカ列伝
 第五章 わたしの嫌いな10のバカ言葉
 第六章 「あとがき日付」一言バカの諸君
 終章 バカを寿ぐ
 「バカ」によって「バカ」を制すためのブックリスト
 あとがき──「バカよ、ごきげんよう」

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切通理作『宮崎駿の〈世界〉』(2001年、ちくま新書)

 割合早い時期に出た宮崎駿論ではないかと思う。面白かったが、まとまった主張が頭に入りにくい構成になっている。上下の動き、身体的要素の指摘が頭に残っている。

 まえがき
 第一章 スタジオジブリ作品を振り返る
  ▼風の谷のナウシカ
  ▼天空の城ラピュタ
  ▼となりのトトロ
  ▼魔女の宅急便
  ▼紅の豚
  ▼もののけ姫
 第二章 少年と泥棒と探偵と──初期作品をたどる
  ▼未来少年コナン
  ▼ルパン三世 カリオストロの城
  ▼『(新)ルパン三世』145話・155話
  ▼名探偵ホームズ
 第三章 漫画映画の伝統から「日常生活の冒険」までえ──宮崎駿前史
 第四章 「心を白紙にしてくれる映画」──宮崎駿論
 第五章 フレームを超えた表現を──『千と千尋の神隠し』
 あとがき

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伊藤滋之『あの実況がすごかった』(2011年、メディアファクトリー新書)

 著者は古館プロジェクト所属の放送作家だそうだ。スポーツ中継の名実況を集めている。
 それなりに面白いが、最近のものばかりなのが個人的には不満。「夕闇迫る神宮球場、ねぐらへかえる烏が一羽、二羽…」の松内則三も、「双葉敗る、双葉敗る」の和田信賢も、「前畑がんばれ」の河西三省も出てこない。こうした過去の名実況の歴史の上に現在の名実況があるのだから、これらに目配りすることでこの本の面白さ・深さはグッと増したはずだ、と私は思う。

 はじめに 「名実況」が教えてくれる悦び
 第1章 英雄たちのデビュー戦
  大物ルーキーの初登板で語られた「影」
  無言の15秒に込められた思い
  選手の歴史を投げかける言葉
  平成の怪物が起こしたどよめき
  海を越えたトルネード投法
  島国から来た男の華麗なデビュー
  バスケ少年が夢を叶えた日
  競泳世界王者の表彰台デビュー
  15歳のフィギュア新ヒロイン
 第2章 衝撃のハイライト、劇的な幕切れ
  ドラマの宝庫、箱根駅伝
  正月のお茶の間が漏らした悲鳴
  放送席が凍りつく瞬間
  スタジオを支配する陰鬱な空気
  歴史的映像の裏側
  緊迫の投手戦で起きた事件
  前代未聞の投手交代
  早朝の日本に届けられた試合
  時と空間を超えた名実況
  世紀の一線で主役になった男
  猛追とロスタイムの悲劇
  悲劇の主人公を追い続けたカメラ
 第3章 冒頭30秒の名文句
  日本サッカーの歴史を伝えた声
  Jリーグ開幕の夢を紡ぐ
  ワールドカップ出場の扉を開くカギ
  夢の舞台に立つ覚悟
  消えゆくチームに別れを告る言葉
  黄金世代の鮮やかな開化
  放送席の継承
  因縁のファイトを煽る劇場型実況
  競馬実況の神様が見せた真骨頂
  20世紀の幕を引くON対決
  国民的英雄の引退
 第4章 熱狂のオリンピック
  ソウル五輪・注目を集めた新泳法
  新しい言葉を定着させたメダル
  バルセロナ五輪(1)・中学2年生の快進撃
  15秒間の掛け合いと14歳の快挙
  バルセロナ五輪(2)・苦境を振り払う金メダル
  バルセロナ五輪(3)・ガッツポーズが物語った矜持
  バルセロナ五輪(4)・あるファイナリストの栄冠
  アトランタ五輪・予想を超えた先制点
  放送席の応援が名実況に
  長野五輪(1)・「低さ」と「速さ」
  長野五輪(2)・物語を背負った男
  よみがえった悪夢
  アテネ五輪(1)・有言実行するスター
  アテネ五輪(2)・体操王国と栄光への架け橋
  解説者の嗚咽と本当のハイライト
  嗚咽は想定外だったか
  トリノ五輪・フィギュアスケート実況の難しさ
  2分15秒間の覚悟
  沈黙の後に出た歓喜の言葉
 第5章 予言する解説者
  ミスター赤ヘルの鋭い勘
  打者の目線が物語った気配
  解説者が読むバッテリーの駆け引き
  球界の頭脳が見せた解説の神髄
 第6章 激闘・アジアカップの記憶
  新生日本代表の快進撃
  実況に表れた激戦の模様
  共感を誘った「迷解説」
  名物解説者が発した危険信号
  松木解説の根底にあるもの
  放送席の外の名解説者
  テレビ中継でだけ流れたドラマ
  最も美しいゴールと60秒間の奇跡
 おわりに 記憶の断片が刻まれたフレーズ

 現在におけるスポーツ実況の第一人者が山本浩であることに異議を唱える人はまずいないだろう。
 山本さんの凄さの一つは、この本にも少しだけ触れてある数々の名フレーズにあるが、おそらくもっと大事なことは、「そこで何が起こっているのか」を理解するスピードが、ほかのアナウンサーに比べても桁違いに速いということだろう。例えばサッカーでプレーが止まったとき、プレーをよく理解していない民放の某アナウンサーなどは「笛が鳴りましたね。オフサイドでしょうか…」などと言う。画面を見ている私は「この状況でオフサイドのわけないだろ。ハンドだよハンド」とイライラする。山本さんの場合、けっしてこういうことは無い。常に迅速かつ正確に事態を把握している。しかも、山本さんが最も得意とするサッカーだけでなく、ほかのどのスポーツでもそうなのだ。
 山本さんの名実況の記録にスポーツ実況についての芸談を加えれば、ゆうに一冊の本になるだろう。そういう本が読みたい! 誰か作ってくれ!


20170722_18
宮下誠『20世紀音楽 クラシックの運命』(2006年、光文社新書)

 以前から「20世紀音楽を通覧するようなムックか本が出ないかなあ」と思っていたのだが、その通りの本が出たので飛びついた。とても面白かった。案内書としてもとても良い。
 この本のおかげで当時、スクリャービンやツェムリンスキーのCDを買ったりした。だいぶ後になってブリテン全集なども買ったな。

 はじめに
 第一章 飽和
  綜合芸術の夢とロマン主義の暴走、そして絶対音楽の完成
  鳴動する宇宙
  印象主義? 象徴主義?
  バッハに倣って 新ヴィーン楽派
  原始主義
  前衛? それとも保守?
  中間者たち
  退廃音楽
 第二章 拡散
  イギリス、イタリア──伝統と革新
  壁のこちら側から向こう側へ
  アメリカ──新大陸の音楽
  ロシア──社会主義リアリズムとの対話
  ハンガリー──民謡と前衛
  モラヴィアのドラマティスト
  東欧の前衛
  北欧のシンフォニー
  ラテン系クラシック
 第三章 変容
  忘れられたシンフォニスト
  鳥の声と管理された偶然性
  前衛の栄光と挫折
  飽和と持続
  多様式とポスト・モダン
  クラシック音楽の運命
  そのほかの主な動向
  ミニマル系とポスト・ミニマル
  音盤、映像における20世紀音楽
 おわりに
 音盤紹介
 謝辞
 人名索引
 
 以前にあるところで、この本にで紹介されている作曲家を拾ったことがあるので、それを写す。目次の項目よりも若干詳しく拾っている(本書の表記によらず一般的な表記にしている。例えば、ヴァーグナー→ワーグナー、ドゥビュッシー→ドビュッシー)。

第一章 飽和
 ワーグナー
 ブルックナー
 ブラームス
 マーラー
 R・シュトラウス
 ドビュッシー
 ラヴェル
 スクリャービン
 ツェムリンスキー
 シュレーカー
 シェーンベルク
 ベルク
 ウェーベルン
 ストラヴィンスキー
 オルフ
 ブゾーニ
 プフィッツナー
 レーガー
 ヒンデミット
 アイネム
 フルトヴェングラー
 クレンペラー
 ルーセル
 オネゲル
 マルタン
 エック
 クシェネク
 コルンゴルト
 トッホ
 ブラッハー
第二章 拡散
 ホルスト
 ヴォーン=ウィリアムズ
 ダラピッコラ
 ノーノ
 ベリオ
 ヴァイル
 アイスラー
 デッサウ
 シェンカー
 ディットリッヒ
 アイヴズ
 ラグルズ
 アンタイル
 ヴァレーズ
 バーンスタイン
 プロコフィエフ
 ショスタコーヴィチ
 ミャスコフスキー
 ハチャトゥリアン
 ボリス・チャイコフスキー
 バルトーク
 コダーイ
 ヤナーチェク
 ヴィラ=ロボス
 チャベス
 ヒナステラ
第三章 変容
 ブライアン
 ミヨー
 ハルトマン
 メシアン
 ブーレーズ
 シュトックハウゼン
 ソラブジ
 フェルドマン
 シュニトケ
 グバイドゥーリナ
 ペルト
 グレツキ
 リーム
 ケージ
 デュティユー
 ツィンマーマン
 クセナキス
 リゲティ
 クルターグ
 ヘンツェ
 ラッヒェンマン
 ライヒ
 グラス
 ナイマン
 アダムズ

 ざっと82人の作曲家が並んでいる。

 日本人が入っていない。武満徹が入ってないなんておかしいではないか、と思う向きもあるかも知れない。著者は本文の最後にこう述べている。ナクソスの『日本作曲家撰輯』シリーズを紹介した上で、

> 本来なら、上記作曲家の生涯や作品の特徴などについてコメントすべきであろうが、このシリーズは大変入手しやすく、また前記片山氏の懇切詳細な解説を超えるような言葉を筆者は何一つ持っていない。読者にあってはぜひ上記CDを一枚一枚丁寧に聞きながら片山氏の解説を読んでいただきたい。

 と。潔いことである。

 著者の本来の専門は美術史なだけに、折に触れて美術史とリンクさせつつ音楽史を語っていて、これがとても面白い。例えば、シェーンベルクとカンディンスキー。また、ストラヴィンスキーとピカソ。音楽史と美術史とは密接にリンクしているのだなあと感じ、刺激を与えられた。

20170722_17
内藤遊人『はじめてのジャズ』(1987年、講談社現代新書)

 ジャズの入門書。はじめにジャズの巨人たちを紹介し、あとは概ねジャズ史をなぞっていき、最後に名盤を紹介するというオーソドックスな構成。なんとなく内容も文体もオーソドックスだった印象がある。信頼できるがインパクトには乏しいかも知れない。さらっと学ぶには良いと思う。
 私が新しいジャンルに入門しようと思うとき、この手の入門書を数冊読んでいくことが多い。その中の一冊としてありがたい本だった。例えば、後藤雅洋『ジャズの名演・名盤』(1990年、講談社現代新書)では無視されているデューク・エリントンがここでは取り上げられている。

 はじめに
 1 ジャズ・ジャイアンツの輝く個性
  豊かな個性がジャズを創った
  いつも時代をリードするマイルス・デイヴィス
  口が大きくてサッチモとあだ名されたルイ・アームストロング
  ジャズ理論の先駆者デューク・エリントン
  革命児パーカーは鳥のように歌う
  酒とドラッグに倒されたバド・パウエル
  心やさしき孤高のピアニスト=セロニアス・モンク
  けんかが大好きチャールス・ミンガス
  サキソフォン・コロッサス=ソニー・ロリンズ
  天に召されたジョン・コルトレーン
 2 ジャズはどこで生まれたか
  天然の良港ニューオリンズ
  歓楽街ストーリーヴィル
  ジャズはミシシッピを北上する
  シカゴでジャズはジャズになった
  シカゴからカンサスシティへ
  スウィングしなけりゃ意味がない
  スウィングの王様
  ベニー・グッドマンの革新
  KCジャズの担い手カウント・ベイシー
  自己のスタイルを貫きとおしたレスター・ヤング
 3 モダン・ジャズの時代──一九四〇年代
  ミントン・ハウス
  ジャム・セッション
  ビッグ・バンドの崩壊
  ビ・バップの誕生
  新しいリズム──アフタービート
  ビ・バップはミュージシャンの裏ワザ
  心でジャズを聴く時代
  即興演奏と譜面
  インプロヴィゼイションを楽しむ
  ビ・バップを支えたガレスピー
 4 咲き乱れるモダン・ジャズの花──一九五〇年代
  ビ・バップから育った子供たち
  クール・ジャズの誕生
  マイルスの試行
  洗練と躍動のハード・バップ
  トランペットの技巧
  彗星クリフォード・ブラウン
  頭を冷やせ
  クールとホットの揺れ動き
  マイナー・レーベル続出のニューヨーク
  ファンキー・ジャズの熱狂
  フランス映画とジャズ
  真夏の夜のジャズ
 5 円熟(モード)から拡散(フリー)へ──一九六〇年代
  教会旋法の採用
  六〇年世代の萌芽
  コルトレーンを目覚めさせたもの
  モード奏法の完成
  マイルス開化への模索
  ショーター=マイルスのモード奏法
  ふたりのエヴァンス、ギルとビル
  ブラジル音楽との融合(フュージョン)
  ビ・バップから過激に脱出
  しゃべっているような演奏
  フリー・ジャズはジャズじゃない?
  フリー・ジャズの収束
 6 エレクトロニクスがジャズを変えた──一九七〇年代から八〇年代へ
  ビッチェズ・ブリューがジャズを変えた!
  エレクトリック楽器の導入
  マイルス・スクールの優等生たち
  天気予報という名のニュー・グループ
  「永遠への回帰」
  マイルス・スクールの総代ハービー・ハンコック
  伝統を伝え続ける"新主流派"
  マイルス・スクールの首席
  ジャンプするメロディ・ライン
  フュージョンの流れ
  ショーターの"より美しい音"
  クルセイダーズの独自の世界
  ジャズは4ビート
  変拍子のテイク・ファイブ
  8ビートのジャズ・ロック
  ニュー・グループ"スタッフ"
  フュージョンの隆盛
  フュージョン界の仕事師
  そして未来へ
 7 聴いておきたい名盤50

20170722_16
後藤雅洋『ジャズの名演・名盤』(1990年、講談社現代新書)

 私の読んだ最初のジャズ本じゃなかったかな(山下洋輔のエッセイは別として)。私のジャズ入門書の一つである。ジャズの名盤を勧める体で書かれているが、目次を見てもらえばわかるように、ディスクごとの配列ではなく演奏家ごとの配列になっていて、その演奏家の概要を紹介する中でお薦めの盤を挙げている。このアプローチが入門書として良いと思う。

 I サックス
  チャーリー・パーカー
  デクスター・ゴードン
  ソニー・スティット
  アート・ペッパー
  ズート・シムズ
  ジョン・コルトレーン
  スタン・ゲッツ
  ジェリー・マリガン
  リー・コニッツ
  ジョニー・グリフィン
  エリック・ドルフィー
  キャノンボール・アダレイ
  ソニー・ロリンズ
  オーネット・コールマン
  ハンク・モブレー
  フィル・ウッズ
  ジャッキー・マクリーン
  ウエイン・ショーター
 II トランペット
  ケニー・ドーハム
  マイルス・デイビス
  アート・ファーマー
  チェット・ベイカー
  クリフォード・ブラウン
  リー・モーガン
  フレディ・ハバード
 III ピアノ
  セロニアス・モンク
  バド・パウエル
  オスカー・ピーターソン
  ケニー・ドリュー
  ビル・エバンス
  トミー・フラナガン
  ソニー・クラーク
  ウィントン・ケリー
  レイ・ブライアント
  ハービー・ハンコック
  チック・コリア
  キース・ジャレット
  ミシェル・ペトルチアーニ
 IV ギター・ヴァイブ
  ミルト・ジャクソン
  ウエス・モンゴメリー
 V OTHERS
  アート・ブレイキー
  チャールズ・ミンガス
  モダン・ジャズ・カルテット
 VI ボーカル
  ビリー・ホリデイ
  エラ・フィッツジェラルド
  サラ・ボーン
  カーメン・マクレエ
  アニタ・オデイ
  クリス・コナー
 NEW STARS
 あとがき
 演奏者別名盤リスト

 今この本を読み返したら「入門書としてとても良い」と思うかどうかはわからない。第一に、ここには理論や分析がほとんどない。いわば印象評で良いとか悪いとか言っているのだ。ジャズ評論の多くがそういうもののような気もするが、それはどうなのか…。第二に、ここに取り上げられていないジャズは少なくない。例えば、ビッグバンドが入っていないし、日本のジャズも無視されている。

 ところで、この手の「名盤案内」は、当然のことながら「アルバム単位」である。とりわけここに多く取り上げられているような歴史的な録音は、元がLPレコードというものが多い。しかし、自分のことを振り返ってみると、最近は歴史的録音の聞き方が変わって来た。世間ではCDからダウンロードに比重が移って来ているが、私はダウンロードは利用していないので、これは関係ない。それよりも、ジャズのレコード音源が価格破壊を起こして、例えば10枚組で2000円そこそこという値段で売られたりしているのだ。この中にはかつてのアルバム15~20枚分の音源が収められている。したがって「アルバム単位」での推薦がリアリティを感じにくくなっている。

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青島広志『作曲家の発想術』(2004年、講談社現代新書)

 この本は面白かった。作曲家の生態がかなりリアルに伝わってくる。もっとも著者は、クラシック系の作曲家としては営業的にも成功している稀有な人なので、ここに書かれている作曲家像が典型なのかどうかはわからない。

 はじめに
 第1章 作曲家への階段──わたしの場合、あなたの場合
  作曲家であることの証明
  誰もが認める作曲家
  クラシック音楽家になるには
  経済力と幼時の環境
  まずピアノのレッスンを
  音楽理論の勉強
  音大入試に向けて
  大作曲家への師事
  音楽教育にかかる費用
  ポピュラー音楽の場合
  音大で学べること、学べないこと
  オーケストラ体験で得たもの
  デビュー作となった卒業作品
  大学院への進学
  原作者からの上演停止命令
  自ら指揮棒を振る
  チケット代金盗難事件
  テレビの初仕事
  「ゆかいなコンサート」
  一つの仕事にしがみつくな
  生徒をめぐるトラブル
  マネージャーの功罪
  桃太郎伝説のミュージカル
  改竄された作品
  名曲への新しいアプローチ
 第2章 名曲はこう作られた?──10の異なる曲種への考察
  1 オーケストラ曲
   「最高の音楽」とされる理由
   今日の編成になるまで
   はじめての自作オーケストラ曲
   イソップ物語を題材に
   『その後のピーターと狼』
   ベートーヴェンの交響曲
   『運命』はどのように作られたか
  2 吹奏楽曲
   レパートリーの少なさが難点
   大音量と移調の問題
   作曲家と指揮者の困惑
   行進曲王スーザ
   『星条旗よ永遠なれ』と『ワシントン・ポスト』
   『戦場にかける橋』のテーマ曲
  3 協奏曲・独奏曲
   ソナタの影響力
   『四季』春の章
   メンデルスゾーン『メンコン』
   協奏曲の形式
   ヴァイオリン協奏曲『ツィゴイネルワイゼン』
  4 室内楽曲
   家庭的な演奏形態
   対等の立場で演奏を楽しむ
   室内楽の第一人者ハイドン
   『トスト四重奏曲』から
   聞きやすさの裏に職人技あり
   ドヴォルザーク『ドクムキー』
   繰り返される「緩」と「急」
  5 ピアノ曲
   最も多くの曲数を誇る
   ピアノとピアノ曲の歴史
   『泰西名画集』
   ピアノの詩人ショパン
   『幻想即興曲』演奏の壁
   初心者向けの『ブルクミュラー二十五番』
  6 歌曲
   始まりは古典派から
   二十世紀日本での目覚ましい発展
   筆者未完の大作
   歌曲王シューベルト
   『冬の旅』全二十四曲
   山田耕筰『この道』
   サルビアは赤い花だわ!
  7 合唱曲
   盛んな日本の合唱活動
   わが国初の合唱曲は
   不変の人気『水のいのち』
   楽譜出版のランクづけ
   西洋合唱曲の起源
   『愛の歌』の特殊な成立事情
   合唱曲と編曲
  8 オペラ
   膨大な音符と作業手数
   オペラ作曲の向き不向き
   超娯楽大作『火の鳥ヤマト編』
   『魔笛』のストーリー変更
   ヴェルディ『椿姫』
   筆者にとっての楽しめるオペラ
   ワーグナーの「楽劇」
   童話オペラ『ヘンゼルとグレーテル』
  9 舞曲
   芸術性より娯楽性
   鍵盤楽器のための組曲を例に
   ワルツの誕生
   バレエは舞曲の総合芸術
   『くるみ割り人形』上演
   『火の鳥』プロジェクト
  10 編曲
   編曲の三つの段階
   著作権料と印税
   編曲するなら民謡かポピュラー
 第3章 作曲なんてこわくない!──ひとつの旋律からオーケストラ曲まで
  最も安上がりな趣味
  結婚式の歌を依頼されたら
  輪唱で切り抜ける
  メロディーとイントネーション
  さらに曲らしく
  童謡作曲の決め手は詩
  調と拍子を決める
  歌ってみて違和感があれば
  ピアノ伴奏を付ける
  和声楽上の禁足
  前奏・間奏・後奏
  二部合唱に編曲
  下のパートを作る
  弦楽四重奏に編曲
  オーケストラ伴奏は夢か
  「きらきら星」に似せて変奏曲を作る
  バロック時代の変奏法
  必ず演奏する機会を作ろう
  音楽界開催の心得
  アマチュアからプロへ
  コンクールはあてにならない
  作曲家の真の姿とは
  親が死んでも仕事は休めない
  筆者の仕事=生活
  別の世界をのぞく
 おわりに

 この本については「芸の不思議、人の不思議」で二度触れたことがある。

●和声を学ぼう(2010.1.7)

●本棚05:銃後でねえやは夜目に行き ~歌詞とメロディのビミョーな関係~ (2012.12.17)

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岩城宏之『楽譜の風景』(1983年、岩波新書)

 岩城宏之による楽譜を題材にしたエッセイ。面白い。

  1
 永遠の「未完成」
 「第九」の謎
 写譜の音
 作曲家の筆跡
  2
 記譜法のディレッタンティズム
 記譜法の現代病
 イタリア語の中間搾取
 メトロノームへの不信
  3
 網膜へのフォトコピー
 頭の中のめくりそこない
  4
 パート譜、パート、譜面
 総譜書き込み過多症
 「未完成」──読譜事始

 二つほど引用紹介しよう。
 ウィーン・フィルを振ったときのこと、楽団員にこう言われたという。

> 「昨日はとてもよかった。幻想交響曲はあんたの縄張りだから言うことはない。ハイドンのテンポもぴったりだったが、ハイドンについてはオレたちの方があんたより専門だ。昨日は客の層が若いし、空気も乾燥していたからあのテンポがちょうど良かった。しかし今日は午後四時だし、雨がジトジト降っている。それに客にはジイさんバアさんが多い。第一と第四楽章のテンポを、大幅に落としてごらん」(P.117)

 そしてその通りにやってうまくいったという。音楽は、クラシック音楽といえども、その時その場で成立しているわけだ。同じことは、リリンクのバッハ演奏旅行に参加した茂木大輔も書いていた。リリンクは常にその場の状況に合わせてテンポや表情を変えていたと。

 暗譜のやり方をアルトゥール・ルービンシュタインに尋ねた。

> 彼は曲を覚えるのに、頭を使ってはいけない、と変なことを言った。頭は当てにならない。(略)耳を使うのもよくない。(略)指先に覚えさせ、時々の記憶の中断を、オートマティックに、機械的に救う方法もあるが、あまり音楽的だとは言いかねる。一番大事で安全な方法は、目で覚えることだ。目の中にフォトコピーさせれば、いつも目の前の空間に楽譜が現れているのだから、確実である。この目を使うのを主にして、他の手段も全部併用して、自分はやっている、と語ってくれた。(P.138)

 岩城自身も同じやり方をしていたという。これには異論のある演奏家も少なくないのではないか、と想像する。

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