いびつな本棚

私の本棚にある本を、既読未読を問わず、一日一冊ずつ紹介します。死ぬまで続けます(予定)。なお、予告なくネタバレを書くことがあります。

カテゴリ: 文学

つげ義春大全別2
『つげ義春大全 別巻二』(2021年、講談社)

「つげ義春日記」(1983)
「貧困旅行記」(1991)

解題:『つげ義春日記』と『貧困旅行記』(高野慎三)

「つげ義春日記」は昭和50年から55年までの日記。今回初めて読んだ。面白かった。

> 横尾忠則の「私の夢日記」を買ってみたが、関心のない人の夢は面白くない。7それに状況説明が念入りすぎて、夢のリアリティが損なわれている。くどい書きこみは、あらかじめ完結性が期待される<物語>と<意味>が生じ、現実の約束ごと、道理から自在であるべき表現の究極の目的が薄められるものだ。そのへんがちょっとものがたないように思える。(P.178)

> (宮本常一「日本の宿」から「落し宿」の紹介のあと)八森で見た宿屋は、そういう類いの一般にはうかがい知ることのできぬ、世の中の裏側にある宿屋だったのかと、あとになって思った。
 そこまで極端ではなくとも、そういう貧しげな宿屋を見ると私はむやみに泊りたくなる。そして佗しい部屋でセンベイ布団に細々とくるまっていると、自分がいかにも零落して、世の中から見捨てられたような心持ちになり、なんともいえぬ安らぎを覚える。
 世の中の関係からはずれるということは、一時的であれ旅そのものがそうであり、ささやかな解放感を味わうことができるが、関係からはずれるということは、関係としての存在である自分からの解放を意味する。私は関係の持ちかたに何か歪みがあったのか、日々がうっとうしく息苦しく、そんな自分から脱がれるため旅に出、訳も解らぬまま、つかの間の安息が得られるボロ宿に惹かれていったが、それは、自分から解放されるには❝自己否定❞しかないことを漠然と感じていたからではないかと思える。貧しげな宿屋で、自分を零落者に擬そうとしていたのは、自分をどうしようもない落ちこぼれ、ダメな人間として否定しようとしていたのかもしれない。(P.358-359)

つげ義春大全別1
『つげ義春大全 別巻一』(2021年、講談社)

 随筆を中心に、夢日記、各種雑文を収めている。
つげ義春大全別巻一もくじ
目次。この目次のレイアウトがひどい。点線の上は、ページ順が左から右に横に並べられているのに対して、下は、上から下に、しかも行は左から右に流れていくので、混乱して読みにくいことはなはだしい。

解題:つげ義春の随筆に触れて(高野慎三)

 すでにあちこちで読んでいる文章が多かったが、今回それらも含めて全部を読んだ。そして、改めてつげ義春は文章もいいなあと思った。
 巻末の年譜もよくできている。

 いくらか抜き書きをしておく。

> そんなある日、夏の太陽の照りつける、かげろうのゆらめく道を、風采の上らぬ三十歳くらいの男が歩いていた。と、物かげからいきなり犬が男に吠えかかってきた。男は知らぬ素振りで歩いていたが、犬は何が気にくわないのか執拗に男に吠えかかった。道ゆく人は何事かという表情で、犬に吠えつかれている男を怪しい者を見るような目つきで見ていた。それは丁度、いつもぼくに向けられる視線と(実際にはぼくの思いすごしなのだが)同質のもののようにみえた。
 男は、自分はけっして怪しい者ではないという素振りを全身でしめすかのように、悠々とした足どりで歩いていたが、内心は理由のない屈辱に黒々とした凶暴性にかたまっていたに違いない。急に振り向くと、やにわに小石を拾って力まかせに犬に投げつけた。犬は不意の逆襲に逃げまどい、男は上衣を脱いでそれを風車のようにビュンビュン振り回しながら犬を追いまわした。上衣は何度も空振りをして、バサリバサリと地面にほこりを立てた。男は無茶苦茶になってしまった。道ゆく人は、急に無関心を装ったように急ぎ足で遠ざかってしまった。男はこぶし大の石をみつけると髪をふり乱して犬に投げつけた。石は後足に命中し、犬はその場に尻餅をついてしまった。男はその石を拾ってなおも犬をめった打ちにした。
(「犯罪・空腹・宗教」P.31)

> 私はなぜだか古ぼけて貧しげなものが好きである。
(「クロという喫茶店」P.212)

> みすぼらしくて侘しげな部屋にいる自分が何故かふさわしいように思え、自分は「本当はここにこうしていたのかもしれない」というような、そんな気分になるのだ。
(「上州湯宿温泉の旅」P.222)

> 旅の秘訣は本当に一人旅に限るようです。一人だと緊張して神経もとんがり、何気ないことでも強く感受され、急に詩人になれるのです。そして印象をその場で語り合える相手もいないと、語ろうとした言葉はそのまま自分の中に残り、発散されないままその分かえって強く残ってしまい、それが何の役に立つものではありませんが、心ゆたかにしてくれるのは確かです。
(「湯宿温泉のことなど」P.246)

> 鍾乳洞付近の荒々しい景色に圧倒される。威圧的な景色は見る者に感想を与えず、無心にさせてしまう力があるのが理解され、大自然の前では、自分が虫ケラのような存在、限りなく微小になり、消え失せて無になってしまいそうな感覚を味わう。
(「旅年譜」P.294)

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平野嘉彦『マゾッホという思想』(2004年、青土社)

 ザッヘル=マゾッホについての論考。マゾッホは歴史を書こうとした。

 プログノーゼ
  出自――「残虐な女」のイマーゴ
 一 増殖する言説
 第一章 作品
  肖像写真――肖像画――複製技術
 第二章 手紙
  誘惑者のレトリック――商品としてのテクスト・商品としての毛皮――鞭をめぐるディスクール
 第三章 契約書
  三通の契約書――第一の契約書――第二の契約書――第三の契約書
 第四章 法
  法の倒錯――権力と暴力――「女帝」と「共和国」のファンタジー
 二 人類の自然史
 第五章 狩猟
  狩猟の神話――謎と化する自然――悪の刻印
 第六章 農耕
  カインの相貌――「農本共産主義の夢」(一)――「農本共産主義の夢」(二)――農耕の神話化
 第七章 標本
  自然誌・博物学・自然史――猿になった百科全書家――死物の蒐集
 第八章 フェティシズム
  「シベリアの寒気」――クラフト=エービングのフェティシズム解釈――フロイトのフェティシズム解釈
 三 啓蒙の彼方へ
 第九章 ダーウィンもしくは淘汰
  擬人主義の書法――ダーウィンの宇宙――バッハオーフェンの母権論
 第十章 ショーペンハウアーもしくは涅槃
  ヘーゲルを読みながら居眠りをする――ショーペンハウアーの宇宙――救済としての涅槃
 第十一章 フロイトもしくは死への衝動
  二葉のポートレート――フロイトのマゾヒズム解釈――ドゥルーズのマゾヒズム解釈
 第十二章 カフカもしくは父権制
  背筋をのばしている者たちお図像――ベンヤミンと父権制――書字されるマゾヒズム
 エピクリーゼ
  フロイトと父権制――書く人としての父親
 註
 文献目録
 あとがき

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ジル・ドゥルーズ『マゾッホとサド』(蓮實重彦訳、1998年、晶文社)

 原著は1967年刊。

 翻訳についてのノート
 はしがき
 サド、マゾッホ、そして二人の言語
 描写の役割
 サドとマゾッホの相互補足性の限界
 マゾッホと三人の女性
 父親と母親
 マゾッホの小説技法の要素
 法、ユーモア、そしてイロニー
 契約から儀式へ
 精神分析学
 死の本能とは何か?
 サディスムの超自我とマゾヒズムの自我
 付録
 原註・訳註
 解説:問題・遭遇・倒錯(蓮實重彦)
 訳者あとがき

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倉田卓次『続々 裁判官の戦後史――老法曹の思い出話』(2006年、悠々社)

 倉田卓次さんの自叙伝。
 最終章で『家畜人ヤプー』事件について記している(P.268-308)。

 第一部 『裁判官の戦後史』続編
 I 札幌高裁時代
  1 地方の民事裁判の感想――札幌高裁の二年間
   札幌着任
   「地方の民事裁判の感想」引用
  2 高裁長官・裁判長
   高裁長官列伝
    小野さん/角村さん/加納さん
   裁判長――川井さんと伊藤さん
   ある誤解
  3 研究会のこと
   札幌民事実務研究会
   ドイツ文献輪読会
  4 地裁所長、家裁所長、書記官
   地裁所長、家裁所長
   書記官諸君
   北海学園大学
  5 私生活
   雪とストーブ
   ルンペン・ストーブの思い出
   病気
   家族と共に
   戦友
   北海道の百人一首
   出張先――奥尻島、釧路
  6 札幌高裁最後の一年
   定期金賠償試論
   離任の頃――未済件数の減少
   飛行機利用について
   センチメンタル・ジャーニー
 II 東京地裁時代
  1 交通部以前
   交通部以前、最長不倒距離?
   民事一二部――初めての右陪席
  2 交通部(民事二七部)(1)
   民事交通部入り
   慰謝料請求権の相続?
   部総括代理
   『執務の手引き』
  3 交通部(2)
   和解中心主義
   新聞へのPR投書
   電卓機備付けの提案
   電子式卓上計算機の必要性
  4 交通部(3)
   専属調停委員の提案
   意見具申と根回し
   判例タイムズ特集号の編纂
  5 交通部(4)
   吉岡さん
   舟本君
  6 交通部(5)
   専門部としての試み
   思い出の事件
  7 交通部(6)
   交通事故判例集の編纂
   『判例交通事故損害賠償法』編纂決定の思い出
   部内環境
   部外活動
  8 交通部(7)
   私生活
   論文集
   理論的成長
  9 交通部(8)
   交通法学会の設立
   『証明責任論』邦訳
   輪読会
   交通部を去る
 第二部 老法曹の思い出話
 I 東京地裁通常部時代
  1 交通部(民事二七部)から通常部(民事一三部)へ
   はじめに
   三島の死
   長谷部所長退職送別
  2 研鑽判事補制時代の思い出の判決
   研鑽判事補制
   NHKタイピスト事件
  3 反論権広告事件
  4 学位授与
 Ⅱ 佐賀地方・家庭裁判所所長
  5 所長の仕事
   着任前後
   所長としての仕事
   所長会同
   全国会同
  6 余話
   酔っての失態
   リュウマチのこと
  7 地裁時代の思い出の補足
   判決原本の保存
   矢口さんの署名
 III 東京高裁第八民事部時代・一
  8 交通判決六件
  9 高山判事追悼
  10 人身保護事件・エホバの証人
   人身保護事件
   エホバの証人
 IV 最後の二年間(第八民事部・二)
  11 初めての宮仕え気分
   転任承諾書
   中国からの招待
   加藤交通法学会理事長の依頼状
   依頼状の無視
   公証人希望
   昭和五八年二月の東京高裁民事部
  12 家永訴訟との関わり
   教科書訴訟
   一夏捧げた記録読み
   無駄になった努力
  13 金老人事件
   金老人の事件
   結審まで
  14 入院手術・依願退職
   入院手術――腱鞘炎・右腎癌
   依願退職
    精神活動の衰弱/公証人へ/送別会
  15 金老人事件言渡
   結審・言渡日
   新聞報道の紹介
   退職後の言渡
 V 「家畜人ヤプー」事件
  16 事件の真相
   「奇譚クラブ」と匿名文通
   家畜人ヤプー
   Bとの文通打ち切り
   Bの暴露
   Bへの批判
   私の心境
  17 事件のあと
   友人への感謝
   部外の人々
   作家の自慰という見方
   右翼の反応
   高裁長官室へ
  18 世人の見方と『家畜人ヤプー』の将来
   世人一般の見方――積極説
   世人一般――消極説へ
   将来は?
 あとがき

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倉田卓次『続 裁判官の戦後史』(1993年、悠々社)

 倉田卓次さんの自叙伝。
 『奇譚クラブ』と関係があったことについて記されている(P.46-47)。

 I 長野家地裁飯田支部判事補時代
  1 リンゴ並木の町
  2 甲号支部というところ
   初印象
   初法廷――辰野事件
   役所の人々
  3 思い出す事件
   会社取締役は公権か――思い出の事件(1)
   なめた沢事件――思い出の事件(2)
   死刑判決――思い出の事件(3)
   無罪判決――思い出の事件(4)
  4 裁判以外の思い出
   少年事件
   全国会同
   裁判官会議
   奥田さん
  5 地方都市での生活
   家計のつましさ
   娯楽
   四季おりおり
   子供の学校
   ある税務署長との交際
   勤務の余暇
  6 視察に来た人々
   安倍さん
   藤田さん
  7 飯田離任
   一つの岐路
   単身の一箇月
   準故郷
 II 最高裁判所調査官時代(1)――調査官室
  8 調査官室入り
  9 調査官の仕事
   報告書と審議
   判例解説について
   舞台裏の見方ということ――真野さんと小林さん
  10 第一小法廷の方々
   斎藤さん
   下飯坂さん
   入江さん
  11 第二小法廷の方々
   藤田さん
   河村さん
  12 第三小法廷の方々
   高橋さん
  13 調査官増員の前と後
   井口君
   鈴木君
   安部正三さん
   高津環さん
   枡田文郎さん
   右田君
  14 書研の民事演習
   岩野さん
   六法全書の貸与について
  15 課外の勉強会
   河原ゼミ
   BEWEILAST輪読会
   『判例タイムズ』の研究会
   畔上研究会
  16 部外の友人
   失敗談
   牧野武夫氏
   渡辺潔氏
   小林孝輔教授
   裁判集への寄与
  17 私生活回顧
   肉体の老いと心の稚さと
   松戸の官舎
 III 最高裁判所調査官時代(2)――外務省研修所・ドイツ留学
  18 外務省研修所(上)
   シンチンゲル先生
   大賀先生
   ワイタ先生
   シュミットさん
  19 外務省研修所(下)
   研修旅行
   行政官僚
   公平委員会
  20 ドイツ留学(上)
   ハンブルグ
   田中耕太郎さん
   ボンで会った人々
  21 ドイツ留学(中)
   ミュンヘンのクライン家
   MEIN KOLLEGE!
   日本からの人々
   ローゼンベルク先生訪問
  22 ドイツ留学(下)
   周遊旅行
   入院始末
   留学生刃傷事件
   クライン家余談
   追記
 あとがき

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倉田卓次『裁判官の戦後史』(1987年、筑摩書房)

 倉田卓次さんの自叙伝。『判例タイムズ』に連載された。
 全三巻で、続編、続々編は悠々社から発行。正編も1993年に新装版として悠々社から発行されている。

 はしがき
 I 司法部へ辿りつくまで
  1 我妻先生宅訪問
   繰り上げ卒業と学部選択
   我妻さんの話
  2 鉄道隊時代
   軍隊生活の教育的効果
   台湾時代
   違法裁判の被害者体験
  3 法律相談所時代
   東大法律相談所
   第一回模擬裁判
   荒川判事宅訪問
   司法科試験
  4 国会図書館時代
   ライブラリアンの修業
   司法部への転進
 II 司法修習生として
 (一)研修所講義
  5 司研三期生
  6 教官群像
   毛利野さん
   安村さん
   松永さん
   稲本さん
   高木さん
   村松さん
  7 判例研究会
  8 列車試乗
  9 教養科目
   前沢さん
  10 特別講義
   新村さん
   三淵さん
   岩松さん
 (二)実務修習期
  11 刑事裁判修習
   刑事四部
   東さん
   横川ゼミ
  12 検察修習
   指導教官
   ある挫折
   宿直の一夜
   安田君
  13 弁護士会修習
   岩城法律事務所
   渡辺さん
   岩城さん
   合同修習
   ある小咄への対応
  14 民事裁判修習
   新村さん
   「新村流」判決
   起案を通じての対話
   西村さん
   兼子『判例民事訴訟法』
   近藤さんとの初対面
   火鉢割り始末
  15 二回試験
   筆記試験
   面接試験
  16 裁判官志望
   任官への道
   ためらい
   断ずるに怯
   〝心疚しき法律家こそ……〟
   余談。岡垣君との一夕話
  17 任官まで
   採用面接
   石田さんの記憶力
   三期会雑誌
   採用決定通知
  18 修習生生活補遺
   見学と旅行の思い出
   信書検閲のあった時代
   Sとの再会その他
 III 東京地裁判事補として
 (一)東京家裁勤務の一箇月
  19 東京家裁での経験
   名刺の肩書
   現地家事調停の経験
 (二)民事六部の三箇年
  20 民事六部に入る
   東京地裁へ
   渡辺さんのこと
   初めての法服
   初めての判決
  21 近藤裁判長
   「先生」という二人称
   ある作家の法廷印象記
   合議事件が多かったこと
   判決起案の添削
   合議の雰囲気
   証言メモのことなど
   近藤さんの審理
   一本取った話
   片言隻句
  22 和田さん
   近藤さんと和田さん
   和田さんの思い出
  23 本の話など
   雑談あれこれ
   本の話
   岩野判事のこと
  24 西久保所長のこと
   訴訟記録紛失事件
  25 判事補生活
   判事補の家計
   宅調、アヴィザンダム
   文献が少なかったこと
   雑誌と判例集
  26 その頃の地裁民事部
   三三年前の民事部配属表
   部長という呼び掛け
  27 友人・研究会
   友人たち
   ジンツハイマー輪読会
   民事実務研究会
   フランス語クラス
  28 修習生指導官補佐
   田辺判事の思い出
   修習生指導官補佐
   後進の友あれこれ
  29 判事補という存在
   裁判官会議での経験
   親睦団体としての判事補会
   判事補の仕事、填補のこと
  30 判事補研修
   浅沼さん
   真野さん
   吉田さん
   松田さん
   小沢さん
   新しい友人たち
  31 父の臥床と転居
   父の臥床と高利貸
   父の死と引越しと
   強制執行の立会い
  32 三鷹の官舎
   三鷹の官舎に入るまで
   三鷹の官舎
   日比谷公園
  33 民事六部後期
   山本判事、判決の読み合わせ
   事件出張の思い出
  34 荒川さん、仁分さんの思い出
   荒川さん
   仁分さん
 (三)民事九部の一箇年
  35 保全部に入る
   保全部の諸先輩
   裁判長起案のこと
   所長あての言渡催促
  36 思い出の事件
   東京瓦斯断行仮処分
   『広辞苑』出版秘話
   謝罪広告の訴額
  37 転任
   鈴木人事局長の講演
   転任交渉
   転任準備
   東京を去る

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倉田卓次『元裁判官の書斎』(2007年、判例タイムズ社)

 倉田卓次さんのエッセイ集第五弾。前著から12年経過しての刊行。出版社も変わっている。拾遺ともいうべき内容となっている。

 はしがき――解説的に
 主要著作目録
 一章 裁判官生活・ことばの周辺
  一 二〇年前の佐賀
  二 命の値段と男女格差
  三 ふりがな復活を
  四 マル特無期懲役
  五 裁判官の欠勤
  六 ろうそく火事の報道に
  七 近ごろの裁判所
  八 青色LED訴訟の和解額
  九 ロータリー会員の法律的地位
  一〇 「ももんが」誌の終刊
  一一 ネクタイの締め方
  一二 信州人の理屈好き
  一三 失鵠裁判所
  一四 慰謝料昔話
  一五 国立公文書館法と情報公開法
 二章 死をめぐる法律論
  一 はじめに
  二 話題の限定
  三 刑事法上の死
  四 死の認定
  五 死の効果
  六 死への対策
  七 おわりに
  〔講演レジュメ〕
 三章 書評
  フリチョフ・ハフト『正義の女神の秤から』
  二木雄策『交通死――命はあがなえるか』
  畑郁夫『文化としての法と人間――一裁判官の随想』
  中村稔『私の昭和史』
  三ケ月章『一法学徒の歩み』
  和田仁考『民事紛争交渉過程論』
  渡辺良夫監修/新美郁文=鈴木篤=鈴木利広=内藤雅義=安原幸彦編集『判例評釈 医療事故と患者の権利』
  サイモン・シン『暗号解読』
 四章 本の話
  中野貞一郎先生古稀祝賀『判例民事訴訟法の理論(上)(下)』序文
  近藤完爾『乱帙録』あとがき
  「エンコウへの謝意」遠藤浩先生傘寿記念『現代民法法学の理論と課題』
  石川義夫『思い出すまま』――この「はしがき」の由来
  長谷川朝暮『留盃夜兎衍義』について
  十八史略と世説新語の「殷浩」
  「葉隠」の理解甲乙
  雑誌「なかった」の発行に寄せて――私の視力が衰えないうつであることを
  加除式出版物とその追録
  判例タイムズ一〇〇〇号の歩みの回顧――一法曹読者として
  『裁判官の書斎(正編)』自著自薦
 五章 弔辞三編
  坂井芳雄さん
  勝見嘉美さん
  井上精一さん
 初出一覧

20200913_052700
倉田卓次『続々々 裁判官の書斎』(1995年、勁草書房)

 倉田卓次さんのエッセイ集第四弾。

 出版時倉田さんは73歳。あとがきに「残りの余命でもう一冊分まとまることはまずあるまい。つまり書斎シリーズはこれで打ち止めである。」と記している。しかし、実際には2007年(なんと12年後)にもう一冊出されることになる。

 「死刑廃止の条件」で倉田さんは、「絶対終身刑」(絶対に恩赦も仮出獄もない無期懲役)を認めない限り死刑は廃止できない(逆に考えると、絶対終身刑を認めるなら死刑廃止を認めてもよいということ)と述べている。私も賛成である。

  I
 <目耕余録>
 街角の法廷(高樹のぶ子)
 有翼日輪の謎――太陽磁気圏と古代日食(斎藤尚生)
 マルセルのお城(フランス映画)
 ナニワ金融道 1・2(コミック、青木雄二)
 アメリカ流法律士官教本(D・ロバート・ホワイト)
 モノ誕生「いまの生活」(水牛くらぶ編)
 束の間の幻影―銅版画家駒井哲郎の生涯―(中村稔)
 コンスタンティノープルの陥落(塩野七生)
 黒後家蜘蛛の会 1~5(アイザック・アシモフ)
 マリアンヌはなぜ撃ったか―法廷内復讐殺人事件―(山下丈)
 メロヴィング王朝史話 上・下(オーギュスタン・ティエリ)
 かわいそうなチェロ(三井哲夫)
 合理的な疑い 上・下(フィリップ・フリードマン)
 墨攻(酒見賢一)
 レ・ミゼラブル百六景―木版挿絵で読む名作の背景―(鹿島茂)
 封神演義 上・中・下(安能務 訳)
 短歌・俳句・川柳101年(1892~1992)(新潮臨時増刊)
 地の日本史(安部龍太郎)
 人麿の運命(古田武彦)
 マルクスの夢の行方(日高晋)
 裁判法の考え方(萩原金美)
 祖国はるかなれども―ニューギニア戦ブナ日記―(東山信彦)
 ヴィドック回想録(フランソワ・ヴィドック)
 お楽しみはこれからだ パート1~4(和田誠)
 訴えてやる!―ドイツ隣人間訴訟戦争―(トーマス・ベルクマン)
 宋名臣言行録[中国古典叢書](朱熹)
 『ユリシーズ』案内――丸谷才一・誤訳の研究――(北村富治)
  II
 <本棚>
 重耳 上・中・下(宮城谷昌光)
 裁判官の素顔(高野耕一)
 説得―エホバの証人と輸血拒否事件―(大泉実成)
 愛のうた[中華愛誦詩選](竹内実)
 「孫子」を読む(浅野裕一)
 菅茶山 上・下(富士川英郎)
 マークスの山(高村薫)
 中世の神判―火審・水審・決闘―(R・バートレット)
 狐の書評(狐)
  III
 辞書漫談
 恐竜の名前をめぐって
 通俗小説との付き合い
 老SFおたくの繰り言
 『事件』をめぐる文通
 『弁護士の目』を推す
  IV
 <リーガル・アイ>
 「悪魔」という名前
 母も父も確か
 悪魔ちゃん再論
 死刑廃止の条件
 規則とその運用
 タクシーと障害者
 民族としての押しの強さ
 夫婦別牲か創姓か
 ドイツ裁判官の解任
 元訟務検事の回避のケジメ
 ペトロニウス流の安楽死
 戸籍は不要か
  V
 玉乃世履
 異色の文化人石田五郎氏を偲ぶ
 宮脇幸彦名誉会員の逝去を悼む
  VI
 公正証書で尊厳死宣言
 新しい経験
 韓国の旅
 賠償医学会一〇周年を祝って
 逆説的コメント三点
 古本屋が消えていく
 フェーン現象とフェーン病
 よしの髄から
 晴焚雨読
 私の読書空間
 「幾何オタク」だった頃
   ※  ※  ※
 あとがき

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倉田卓次『続々 裁判官の書斎』(1992年、勁草書房)

 倉田卓次さんのエッセイ集第三弾。

  I
 <目耕余録>
 唐宋伝奇集
 日本語の作文技術
 情報の歴史
 ブリューゲル・さかさまの世界
 ささなみのおきな
 ディートリッヒのABC
 「甘え」と社会科学
 軽い機敏な仔猫何匹いるか
 基礎日本語辞典
 冠詞(全三巻)
 物理の散歩道(全五冊)
 随筆集 ピモダン館
 とらんぷ譚 真珠母の匣
 登記と法と社会生活 「法律風土」日米較差の根源 上巻
 書物の森を散歩する
  銀河にひそむモンスター(福江純)
  大いなる天上の河(グレゴリイ・ベンフォード)
  光の潮流(同)
  SF全短篇(藤子不二雄)
  南方マンダラ(南方熊楠)
  酉陽雑俎(段成式)
  聊斎志異(蒲松齢)
 ルビ文学
  一、ルビの功罪
  二、ルビの再評価
  三、柴田天馬訳『聊斎志異』
  四、竹内実訳『中華愛誦詩選』
  II
 交通遺児育英会二〇周年に想う
 地裁に医事訴訟専門部を
 裁判官という職業 ―若い女性からの合格通知を祝って―
 言葉直しと法廷口頭弁論の活性化
 民事裁判実務の昨今
 裁判官の公と私
  III
 二人称としての先生
 法曹四者の夢
 Notary Public から Notary へ
 Living Will(生前発効遺言)
  IV
 両佐吉先生の思い出
 落第
 十年前の明士会パーティ
 能遂其終
 弁護士・山田○之助
  V
 『乱帙録』あとがき
 『法服を脱いでから』序文
 『ことわざから科学へ』あとがき
  VI
 ことばの歳時記「法律と裁判のことば」(聞き手:角田明夫)
 対談・古代史学と証明責任(古田武彦・倉田卓次)
   ※  ※  ※
 あとがき

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