たぶん三年ぐらい前に放映されたのを今ごろなって見た。

 宮城道雄は明治27年(1894)〜昭和31年(1956)。今では一般に、日本の伝統音楽の代表者と思われているが、当時の邦楽界では最前衛を走っていた人の一人。西洋音楽を積極的に取り入れて新しい地平を切り拓こうとしていた。

 ただし、宮城の中では、「伝統」と対立していたのではなく、積極的に時代に合わせて変えていくことこそが「伝統」だと思っていた。そういう意味では「伝統的な」という形容詞は間違ってはいない。むしろ「伝統」という語の意味内容が知らず知らずのうちに変化してきているのだ。

 というわけで、宮城の箏曲を三曲。いずれも名曲とされて演奏頻度の高い曲だ。

「水の変態」砂崎知子・深海さとみ
 とても素敵な演奏だった。今回の三曲の中では最も好きな演奏。さまざまな水の描写に宮城の前衛精神が光る。

「春の海」安島瑶山(尺八)ほか
 子どもたちによる演奏。中学から高校ぐらいか。皆さんプロの卵と思しくお上手です。
 余談だが、この曲はフルートとピアノで演奏されることもある。こちらの完全に西洋的な演奏スタイルの中での私のベストは、高橋理恵子さんによるトラヴェルソによる演奏だ。モダンフルートよりもトラヴェルソに合うと思う。

「春の賦」宮城合奏団
 筝のソロに、三群の筝、一群の三味線、フルート、笙、二本の尺八、太鼓。積極的に西洋音楽との融合を考えていた宮城道雄らしい曲。フルートの音色は全体に明るい輝きを与えて全く違和感がないし、いつどこで演奏しても聴衆に受ける曲だろう。

 西洋楽器を採り入れた宮城道雄の手法は、意味のあることだったと思う。けれども、五線で完全に記述できるような音楽は、私にはあまり魅力的ではない。例えば「春の賦」は、滅法楽しいけれどもそれ以上の深みは感じない。