クラシック音楽とアート

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クラシック音楽とアート・コンテンツ一覧
最新記事は二番目のコラムから

音楽関連の記事


美術関連の記事 












ザールブリュッケン・カイザースラウテルン・ドイツ放送フィルがインキネンとの契約を延長

 ザールブリュッケン・カイザースラウテルン・ドイツ放送フィルハーモニー管弦楽団(DRP; Deutsche Radio Philharmonie Saarbrücken Kaiserslautern)は、現在首席指揮者を務めるピエタリ・インキネンとの契約を2025年まで延長しました。

DRP webpage: Pietari Inkinen bleibt Chefdirigent bis 2025

 同楽団は、ドイツのザールブリュッケン市を本拠地とするザールブリュッケン放送交響楽団とカイザースラウテルン市を本拠地とするザールブリュッケン放送交響楽団が合併して2007年に設立され、ザールラント放送協会と南西ドイツ放送協会が共同運営しています。ドイツのオーケストラらしくブルックナーの交響曲全集をスクロヴァチェフスキの指揮でCD化しているので、ブルックナー好きには馴染みのあるオーケストラです。


◇ ブルックナー交響曲全集 スクロヴァチェフスキ指揮(Amazon's ad)

 インキネン(Pietari Inkinen, 1980年-)は、フィンランド生まれの40歳で、ヴァイオリン奏者出身。2016年から日本フィルハーモニー交響楽団の首席を務めていて、日本でもお馴染みの指揮者です。今年のバイロイト音楽祭では、新制作の《指輪》の指揮者に抜擢されて一躍注目を浴びました。自国の作曲家シベリウスやドヴォルザークといった民族色の濃い音楽を得意とするほかに、純ドイツ音楽のブルックナーやワーグナーにも造詣が深く、DRPも、これらの作曲家の楽曲演奏に期待するとしています。

 インキネンの演奏は、微妙なニュアンスをつけた細かい演出を随所にちりばめつつも、全体の流れはオーソドックスで、せせこましさを感じさせることはありません。以下のラフマニノフでも、繊細な表情をつけて色彩豊かな音色を繰り出し、溌溂とした舞踊と、しっとりとした抒情を歌い分けています。DRPは、ドイツのオーケストラらしい、きっちりとした正確さを誇り、弦は弱音でも粗が目立たない繊細な音色が見事です。



◇ ラフマニノフ: 交響的舞曲 インキネン/DRP


 今年のバイロイトは新型コロナ禍の影響を受けて早々に中止となってしまいましたが、2022年に延期された《指輪》のプレミエは、おそらくインキネンが振るだろうし、DRPでも《指輪》の演奏会形式での演奏を予定しているようなので、今後、目が離せません。一方で、日本フィルは債務超過の危機的な状況下にありますが、2020/2021シーズンでの活動再開に向けて準備を進めているものと思われ、もしコンサート開催が可能になればインキネンの集客力に期待したいところです。


参考記事: バイロイト音楽祭が今年の開催中止を決定


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インキネン

シベリウス:交響曲全集[4CDs] インキネン/日フィル

ドヴォルザーク:交響曲 第2番 他 インキネン/DRP
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川瀬巴水: 東京十二題 夜の新川|川瀬巴水展

 緊急事態宣言の解除を受けて、神奈川県内の美術館は、解除前に再開したMOA美術館以外にも6月中に再開するところが出てきました。
 平塚市美術館は、6月20日から開催しますが、本来なら、同美術館で開催されているはずだった川瀬巴水展は中止となっています。絶滅寸前だった浮世絵の再興を目指して新版画の流れを起こした巴水の作品400点を展示する大回顧展でした。実際にどのような作品が展示されるはずだったのかは知る由もありませんが、真夏も近くなってくる次期なので、東京十二題の中から夏の情景を描いた《夜の新川》あたりは、間違いなく展示されたことでしょう。


川瀬巴水 東京十二題 夜の新川
◇ 東京十二題 夜の新川 1919年 木版/多色 36.4×24.2 cm

 巴水は、制作評に「板画の“藍”そのままの眼も冴ゆるばかりの澄んだ夏の夜、空には星が一つ二つ、ドッシリとした蔵と蔵の間を照らす瓦斯の火影。その当時、蔵といふものに一種の興味をもっていた私は、この“夜の新川”を得たのであります。」と記しています。現代ではあまり見かけなくなった「蔵」というものに対する巴水の江戸時代趣味というか慕情を感じさせますが、ここでは、単にそういった懐古趣味だけではない「造形」に対する作者の興味が存在するようです。「ドッシリとした」構えの蔵には余計な窓は無く、ガス灯の光が、その威容を効果的に浮き上がらせています。一方で、星印で描かれている夜空の星は、メルヘンチックであり、蔵との不釣り合いな対比が斬新です。夜空の深い「藍」は、多分、広重や北斎が用いたベロ藍(プルシャンブルー)のことでしょう。夜の静寂に浮き上がる蔵の威容をシュールに描き出した、巴水のアバンギャルドです。

前回記事: 川瀬巴水: 東京十二題 品川沖|川瀬巴水展

画像と制作評出典: wikimedia commons

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川瀬巴水

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巴水の日本憧憬 (日本語) ペーパーバック – 2017/3/28
林 望 (著)
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オーストリアで音楽芸術活動再開|ウィーン楽友協会でウィーン・フィル、ウィーン交響楽団のコンサート

 新型コロナ感染防止の制限緩和ロードマップが示されたオーストリアでは、ザルツブルク音楽祭が8月1日から30日に期間を短縮して開催にこぎつけました。販売済みのチケットは返金され、改変プログラムによるチケットの入手は元のチケット購入者が優先されるようです。

関連記事: 制限緩和のオーストリアでの音楽祭|ザルツブルクと佐渡裕登場のグラフェネックは開催の方向(オーストリアの制限緩和を記載)
ザルツブルク音楽祭webpage: Summer Festival

 一方、ウィーンのコンサートの中心で、クラシック音楽の殿堂とも言えるウィーン楽友協会の大ホール(ウィーン・ムジークフェラインザール)でも、閉鎖状態が解けて、6月からコンサートが開催される模様です。

楽友協会webpage: Konzerte im Juni 2020

 当初は上記「関連記事」に掲載したオーストリア政府の緩和条件に則り、観客は100人に制限されており、入場に際する注意事項が記されています。会場に用意されている手洗い用の消毒液を使用やマスクの着用が必要ですが、クロークが使用可能で、マスクも演奏中は外すことができるようです。図解表示によると、ソーシャル・ディスタンスは1mになっています。但し、密集を避けるため、コンサートは休憩無しで行われ、ビュッフェの営業はありません。我が国で議論されている条件よりは比較的緩めのように感じますが、チケットの入手はwebでの購入となり、その際に個人情報を入力することになっているので、一応、来場者の中から感染者が発生した場合への対策となっているようです。


ウィーン・ムジークフェライン感染対策
◇ 来場者の注意事項図解(楽友協会webpageより)

 イベント・スケジュールを見ると、ムジークフェラインザールでのウィーン・フィルやウィーン交響楽団の演奏会で開催されるものがあり、演奏活動の再開に向けて動き出しているのが実感として伝わってきます。ウィーン・フィルで先陣を切るのはバレンボイムで、モーツアルトの協奏曲第27番の弾き振りとベートーヴェン・イヤー(生誕250年)にちなんで《運命》を指揮します。続いて登場するムーティは、シューベルトの交響曲第4番とシュトラウス・ファミリーの管弦楽、その次のウェルザー・メストは、R.シュトラウスのオペラ《インテルメッツォ》に付随する《交響的間奏曲》とシューベルトの交響曲第3番のプログラムを振ります。オーケストラのソーシャル・ディスタンシングに関する記載は見当たりませんが、比較的小編成の楽曲による短時間のプログラムがチョイスされているようです。
 ウィーン交響楽団は、今シーズンで首席指揮者の任期を終えるフィリップ・ジョルダンのコンサートで、ベートーヴェンの《英雄》一曲のプログラムです。しかし、月末に登場するマンフレッド・ホーネックのプログラムはアグレッシブで、《運命の力》序曲に続いてチャイコフスキーの交響曲第5番を組んでいます。従来通りの編成であれば、多分、この月に行われる曲の中で、最も大編成のオーケストラになるものと思われます。
 その他、バレンボイムやブッフビンダーが、ベートーヴェンのピアノ曲を含むリサイタルを開催するなど、かなりの数のコンサートが予定されています。
 
楽友協会webpage: Event schedule

 オーストリアの動きは、今後、日本での演奏会再開に向けての参考になると思われ、大ホールを抱える東京都などには動向を注視してもらいたいところです。


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Appendix



◇ ブラームス: 交響曲第2番 カルロス・クライバー/ウィーン・フィル 1992年@ウィーン・ムジークフェラインザール

 空前絶後の天才指揮者、カルロス・クライバーは、まるでダンスをしているような流麗華美な所作から超絶的なバトン・テクニックを駆使し、第一楽章の颯爽とした緊張感、第二楽章の熱いロマンティシズム、第三楽章の楽園性を描き出し、そして終楽章では、快速なテンポを基調に、緩急強弱の変化を用いて、多彩で生き生きとした表情を盛り込み、最後はめくるめく疾走で締めくくります。このクライバーの稀有な芸術性は、ウィーン・フィルだからこその相乗効果によって喚起されるものです。
 現代においてはクライバーのような指揮者は望めないまでも、コロナ禍を脱して、大編成オーケストラでこのような演奏が聴ける状況に戻って欲しいものです。


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ウィーン・フィル

こうして管楽器はつくられる【開発編】 ~ウィーン・フィルを支えた管楽器開発の舞台裏
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ドイツを拠点に活動するピアニスト古畑祥子|10月に日本ツアー

 ドイツを拠点に活動するピアニストの古畑祥子さんが、10月に日本ツアーを行います。日本ではあまり知られていませんが、モーツァルト、ベートーヴェン、シューマン、ショパン、ブラームスなど、ドイツの古典からロマン派にかけての音楽を得意とし、近年、欧米では一定の評価を得ているようです。日本では、2012年にサントリーホールでリサイタル・デビューしていますが、今回は、オール・ショパン・プログラムによる名古屋、大阪、東京、福島を巡るリサイタル・ツアーが組まれています。

チケットぴあ: ショパンピアノコンサート カーネギーホールを総立ちにした古畑祥子


古畑祥子オール・ショパン・プログラム

ノクターン 嬰ハ短調 遺作
ノクターン 変二長調 Op.27-2
ノクターン ハ短調  Op.48-1
幻想即興曲 嬰ハ短調 Op.66
スケルツォ 2番 変ロ短調 Op.31
練習曲 Op.25-7
練習曲 Op.10-3 《別れ》
練習曲 Op.10-4
練習曲 Op.10-12 《革命》
ワルツ ロ短調 Op.69-2
ワルツ 嬰ハ短調 Op.64-2
ポロネ-ズ 第6番 Op.53 《英雄》

 ベートーヴェンとシューマンに傾倒し、それが高じて武蔵野音楽大学卒業後にドイツに渡り、デトモルト音楽大学とデュッセルドルフ音楽大学の大学院で学び、現在にいたるまでドイツで活動を展開しています。今回の日本ツアーは、ベートーヴェンもシューマンもプログラムには組まれていませんが、古畑さんがリリースしているCDでは、《月光》や《交響的練習曲》が収録されています。筆者は、まず最初に、以下に添付したシューマンの遺作-Var.5を聴いて、たちまち、その独創的なロマンティシズムに魅せられました。これ以上あり得ないと思えるほどのスローテンポをベースに、緩急強弱を織り交ぜた煌びやかなアーティキュレーションによって、夢見心地の甘美な世界へと、聴く者を誘います。
 


◇ シューマン: 《交響的練習曲》より 遺作-第5変奏 古畑祥子(Pf)

 このディスクは、Spotifyで試聴可能なので、早速、聴いてみると、緩徐楽章以外でのピアニズムが、これもまた独創的です。ベートーヴェンの《月光》の第3楽章を例にとると、プレスト・アジタートのこの楽章は、通常は物凄い速さで駆け抜けるように演奏するのですが、プレストにしては全体を通してやや遅めで、アゴーギクを織り交ぜた微妙な緩急を多用し、スフォルツァントの和音での強靭な打鍵も相まって、快速なリズムにブレーキをかけながら進むような表現が、一種独特の緊張感を生み出しています。アジタートが強調され、音の美しさや流れを追求する傾向の現代的なピアニズムとは一線を隔しているとも言え、人によっては好みが二分するかもしれませんが、個性的で聴きごたえ充分です。


◇ Beethoven & Schumann: Piano Works  Sachiko Furuhata-Kersting(Pf) ベートーヴェン《月光》、《32の変奏曲》、シューマン《交響的練習曲》

 コロナ禍が収まっていれば、日本ツアーで演奏するショパンでも、濃厚なロマンティシズムが聴けそうです。


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古畑祥子

Beethoven/Schumann: Piano Work CD, インポート
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緊急事態宣言解除後の都市部美術館状況|ロンドン・ナショナル・ギャラリー展

 緊急事態宣言が全国で解除されたことで、都市部でも臨時休館していた美術館で再開するところがでてきています。特に、首都圏より先に解除された大阪の美術館は、すでに再開しているところもあり、ようやく美術鑑賞ができる日常が戻ってきつつあります。そうは言っても、人気展で人があふれるような状況が危険なのは自明で、以前のような満員電車状態での美術鑑賞はあり得ないだろうから、美術館は何らかの混雑防止対策を練るものと思われます。そこで、一例として、6月2日から再開を予定している国立国際美術館のwebpageに掲載されている感染予防対策を参照してみると、常識的な範囲での事項が掲載されていますが、外国で実施されているような、個人情報の登録などはありません。

大阪・国立国際美術館
来客への注意事項
美術館の感染防止対策

 ここで、もし美術館に行くなら注意しなければならないのは、入場制限でしょう。東京では、屋内イヴェントの人数制限が当面100人になるので、混雑が予想される人気展でなくとも、この入場制限に達してしまうのは必定で、特に、臨時休館によって会期が短縮されてしまった展覧会では、来館者が殺到する懸念があり、入館は困難を極めるでしょう。例えば、東京の国立西洋美術館で開催予定だった、ロンドン・ナショナル・ギャラリー展などは、会期が6月7日までなので、もし、万一それ以前に展覧会が開幕しても、入館はマスクやアルコールの入手と同じくらい難しいでしょう。しかし、入場制限は、運よく入れれば、ゆったりと鑑賞できるというメリットもあります。「音楽の他に何をして過ごすか?」というような趣旨の質問に対して、その時、引退直前だった指揮者ベルナルト・ハイティンクは、「美術館に行ったりすることはあるが、大抵、人の頭を観に行くようなもので閉口させられる。」と述べていましたが、東京の美術館なども同じ状況なので、このパンデミックを機に、美術館が新しい美術鑑賞の在り方を提案する必要があるのではないでしょうか。そういう意味で、パンデミック時代に合わせた展示をリードしているのはアーティゾン美術館で、この春に、5年にも及ぶ休館期間を経てリニューアル・オープンすると、完全予約制を導入しています。予約制は自動的に入場制限をかけることができるので、アフター・コロナ後の美術鑑賞の在り方を先取りしています。ハイティンクが言うように、そもそも美術鑑賞は人込みの中でではなく、ゆったりと静かな環境が好ましく、アーティゾンのように混雑の無い展示環境を目指す新たな動きに期待したいところです。

アーティゾン美術館webpage

 さて、東京では観れないだろうロンドン・ナショナル・ギャラリー展での展示に話を移すと、第三章「ヴァン・ダイクとイギリス肖像画」では、前回のゲインズバラに続き、肖像画家のトマス・ローレンス(Sir Thomas Lawrence, 1769-1830年)の作品が展示されています。ローレンスは、レノルズに認められてロイヤル・アカデミーで学び、レノルズが亡くなると、その代わりに国王ジョージ3世のお抱え画家となり、大陸に渡って、ドイツのアーヘンで王族の肖像画を描きました。かつて、大陸から英国に渡ったヴァン・ダイクとは逆転する動きを引き起こしたローレンスの肖像画は、アカデミーの流儀に則った古典主義と、対象となる人物を実物より美化して描くやりかたが功を奏し、大成功を収めて、最終的にはロイヤル・アカデミーの会長職に就き、サーの称号をも獲得しました。


トマス・ローレンス シャーロット王妃
◇ トマス・ローレンス: シャーロット王妃 1789年 油彩/カンヴァス 239.5×147 cm

 今回来日している《シャーロット王妃》も、アカデミックな描き方ですが、背景に描かれたゲインズバラ流の風景に見られる豊かな色彩や、王妃のドレスの透明感を表す筆触には、この画家の並みならぬ技量がうかがえます。

前回記事: ゲインズバラとレノルズが描いた女優、サラ・シドンズ|ロンドン・ナショナル・ギャラリー展


画像出典: wikimedia commons


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ロンドン・ナショナル・ギャラリー

カラー版 教養としてのロンドン・ナショナル・ギャラリー (宝島社新書)
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プロコフィエフVC.1&ラフマニノフSym.2|P.ヤルヴィのロシアン・プログラム|on クラシック音楽館

 昨晩のクラシック音楽館は、P.ヤルヴィのオール・ロシアン・プログラムでした。前半は、プロコフィエフのヴァイオリン協奏曲で、スペインのレティシア・モレノ(Leticia Moreno, 1985年生まれ) をソリストに迎え、後半は、今年のヨーロッパ・ツアーでも演奏したラフマニノフの交響曲第2番でした。

関連記事1: N響の次期指揮者は?|来年の欧州ツアーの意義とP.ヤルヴィの契約延長 (2019年12月27日)
関連記事2: N響ヨーロッパ公演終了|帰国後の演奏会は?(2020年3月7日)


N響第1934回定期公演

プロコフィエフ: ヴァイオリン協奏曲第1番 ニ長調 Op.19*
J.S.バッハ: 無伴奏ヴァイオリン・ソナタ 第1番 BWV1001から「アダージョ」(アンコール)*
ラフマニノフ: 交響曲第2番 ホ短調 Op.27

レティシア・モレノ(Vn)*
NHK交響楽団
パーヴォ・ヤルヴィ(Cond)
(2020年2月5日@サントリーホール)


Note
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プロコフィエフ

 この曲は、全曲を通して幻想と不思議なリズムが交錯するが、レティシア・モレノのヴァイオリンは、その二面性を自在に行き来する。第一楽章の神妙で霊感に満ちた音色に続き、第二楽章で、機械的なリズムから大胆な舞踏を引き出しつつ妖艶な歌謡をも歌うあたりは、いかにもスペイン的な乗りを感じさせる。そして、第三楽章の緩徐部では、N響のソフトな音色と程よく絡み、多彩な音色によってロマンティックで不思議なムードを醸す。


ラフマニノフ

 この曲のクライマックスは、緩徐楽章となる第3楽章であろうが、N響のヴィルトゥオジティは、第一楽章から、すでにラフマニノフが描いたロマンティシズムをとらえている。柔らかく、濃密な弦のサウンドと、それと交互に現れる木管の甘美な響きが絶品だ。金管は、それらとまろやかに絡み、ラフマニノフ・サウンドを美麗に奏でる。ここでのヤルヴィは、オーケストラを強引に鳴らそうという、いつものありがちな傾向は比較的希薄であり、それが、当然ながら、この楽章にとっては良い結果となって表れている。
 一方、スケルツォ楽章に相当する第2楽章では、ヤルヴィらしく派手に鳴らすが、中間部に一瞬現れる壮麗な響きは、N響ならではのものだ。強弱感級を織り交ぜつつ、色彩豊かな音色でロマンティシズムと劇的な激しさの間を自在に行き来する。
 クライマックスたる第三楽章冒頭は、弦楽の感傷的なメロディーに包まれながら奏でるクラリネットの甘美な音色が絶品だ。ヤルヴィがしばしば用いる木管のモチーフの強調が、この曲では妥当であり、しかも、N響の柔らかい音色の弦も充分に鳴っているので、情感豊かに絡み合う。N響のヴィルトゥオジティーがいかんなく発揮された美麗なる抒情の極みである。
 沈みゆく緩徐楽章の静寂から、楽天的に弾けるリズムではじまる終楽章への転換は、ヤルヴィらしい派手な歌いまわしだが、何故か、そこに諄さを感じさせないのは、この曲とヤルヴィとの相性の良さなのかもしれない。前の楽章のメインモチーフの変奏が現れる楽節での壮麗な音響も、いつものように大音響ではあるのだが、力づくを感じさせることはなく妥当性がある。そして、大音響で押しまくるコーダの高揚も感動的でさえある。


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 ラフマニノフは、ロマンティシズムの極みでした。この後、ヤルヴィとN響は、このラフマニノフの2番をひっさげて欧州ツアーに出かけたのですが、ぎりぎりのところで新型コロナ禍の影響を回避して全日程を無事こなして帰国できたのは幸運でした。ラフマニノフは、欧州でも高く評価されていましたが、実際に聴いてみると、なるほどと頷ける情感あふれる演奏でした。ヤルヴィ/N響の演奏歴の中でも屈指の名演奏に挙げられるでしょう。



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P.ヤルヴィ
20世紀傑作選②〜武満徹:管弦楽曲集
パーヴォ・ヤルヴィ/NHK交響楽団、諏訪内晶子(vn)
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ゲインズバラとレノルズが描いた女優、サラ・シドンズ|ロンドン・ナショナル・ギャラリー展

 本来なら、国立西洋美術館で開催中だったロンドン・ナショナル・ギャラリー展の第三章は、英国肖像画をテーマにしています。


ロンドドン・ナショナル・ギャラリー展

I イタリア・ルネサンス絵画の収集
II オランダ絵画の黄金時代
III ヴァン・ダイクとイギリス肖像画
IV グランド・ツアー
V スペイン絵画の発見
VI 風景画とピクチャレスク
VII イギリスにおけるフランス近代美術受容


前回記事: 馬の画家ジョージ・スタッブスとダービーの画家ジョセフ・ライトの肖像画|ロンドン・ナショナル・ギャラリー展

 英国の肖像画を語る時、ジョシュア・レノルズ(Sir Joshua Reynolds, 1723-1792年)は外せません。イタリアの古典に学び、アカデミックな画風で多くの肖像画を描いて、1768年創設されたロイヤル・アカデミーの初代会長に就任しました。今回は、レノルズの《レディ・コーバーンと3人の息子》という作品が来日しています。


レノルズ レディ・コーバーンと3人の息子
◇ レノルズ: レディ・コーバーンと3人の息子 1773年 油彩/カンヴァス 141.5×113 cm

 ただ、この作品を観てもわかるように、まるで女神とキューピットを描いたルネサンス絵画のようであり、保守的に過ぎるという評価もあるようです。

 一方、レノルズとほぼ同年代のトマス・ゲインズバラ (Thomas Gainsborough, 1727-1788年)も優れた英国人肖像画家として知られ、多くの肖像名画を残していますが、この画家の本当の興味は風景を描くことで、肖像画は生活のために描いていたといいます。そうは言っても、このゲインズバラの肖像画には傑作が多いと言われ、今回来日しているのは、その中でも最高傑作との呼び声が高い《シドンズ夫人》です。


ゲインズバラ シドンズ夫人
◇ ゲインズバラ: シドンズ夫人 1785年 油彩/カンヴァス 126×99.5 cm

 女優のサラ・シドンズ(Sarah Siddons, 1755 - 1831年)を描いたもので、彼女が超絶美人であることだけでも見栄えのする作品ですが、ここでのゲインズバラは、レノルズのように古典趣味に過ぎることはなく、また、彼女が女優であることすらも明示しない、自然なポートレートになっています。身に着けている衣装は、華やかではあるものの、当時流行していたファッションだったと思われ、現実離れした絶世の美女でありながら、実生活に溶け込んだモダンな女性像として描かれています。サラ・シドンズは、市井の貧しい家庭出身ながら、その美貌と演技力でマクベス夫人が当たり役となり、その後、デズデモーナやオフィーリアなど悲劇的なヒロインを演じて、「悲劇のミューズ」として名を馳せました。ゲインズバラは、彼女のそういった社会的な地位をことさらに強調するのではなく、澄んだ瞳と気品あるれる口元に、努力と才能よって築いた確固とした自信を描き込んでいます。多くの画家たちが、こぞってこの人気女優を描いたといい、今回、来日してはいませんが、レノルズにも彼女を描いた《悲劇の女神を演じるシドンズ夫人》という作品があります。


レノルズ シドンズ夫人
◇ レノルズ: 悲劇の女神シドンズ夫人 1789年 油彩/カンヴァス 239.7×147.6cm(ダリッジ・ピクチャー・ギャラリー(英))

 劇場での一場面を演じているかのようなポーズと目線によって、「悲劇のミューズ」としての人物像が描かれており、ゲインズバラの肖像画とは対照的です。著名な女優としてのポートレートという意味では、この作品の方がわかりやすいのですが、一方で、ゲインズバラは、サラ・シドンズの素の美しさと人物の内面に迫っています。

画像出典: wikimedia commons

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ゲインズバラ

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フィンランドのラハティ交響楽団の首席指揮者にダリア・スタセフスカ

 ラハティ交響楽団は、2021/2022シーズンから、同国出身の女性指揮者、ダリア・スタセフスカ(Dalia Stasevska, 1984年生まれ)を首席指揮者に迎えると発表しました。ラハティ交響楽団といえば、オスモ・ヴァンスカ(Osmo Vänskä、1953年生まれ)がBISに録音したシベリウスの交響曲で知られるフィンランドの名門オーケストラです。また、同交響楽団は、2000年から「ラハティ国際シベリウスフェスティバル」を開催していて、スタセフスカは、同音楽祭の芸術監督にも就任するそうです。

ラハティ交響楽団webpage: Dalia Stasevska to become Chief Conductor of the Lahti Symphony Orchestra from 2021/22 season

 スタセフスカは、現在BBC交響楽団の首席客演指揮者を務めており、昨年、BBCプロムスで同楽団を指揮してデビューするなど、フィンランド期待の若手指揮者です。オペラに造詣が深く、クラシックへの最初のきっかけは《蝶々夫人》を観たことでオーケストラに興味を持ち、タンペレ音楽院とシベリウス・アカデミーで、ヴァイオリンや作曲、指揮法を学び、ヘルシンキ・フィルのヴィオラ奏者を経て、指揮者になりました。両親が画家で、幼いころからアートに触れる毎日であり、映画や兄妹と聴いたフォークソングにも親しんでいましたが、それらの体験、つまり、美術、音楽、歌の要素が全て入っているオペラに魅了されたといいます。御両親のコンテンポラリー・アートの影響からか、現代音楽にも積極的です。

 以下の動画では、アメリカの女性作曲家、ジュリア・ウルフ(Julia Wolfe, 1958年生まれ)の楽曲を振っています。



◇ ジュリア・ウルフ: 青春の泉 ダリア・スタセフスカ/デトロイト交響楽団

 また、以下のwebpageでは、スタセフスカが各オーケストラを振ったメンデルスゾーンからコダーイまでの演奏を聴くことができます。メンデルスゾーンの《イタリア》では、ダイナミックな身振りで、ヘルシンキ・フィルから鋭利な響きを引き出し、コダーイの《ガランタ舞曲》でも、名門エーテボリを自在に操り、メリハリの効いたデュナーミクで生き生きとした音楽を展開しています。



◇ ダリア・スタセフスカ/ヘルシンキ・フィル、エーテボリ交響楽団etc.

 今後、幅広いレパートリーをこなすマルチラテラルな指揮者として注目したい指揮者です。


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ラハティ交響楽団

シベリウス完全全集 その12 交響曲[日本語解説付] (5CD) CD, ボックスセット, インポート
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ペーザロ・ロッシーニ音楽祭は8月に日程を短縮して開催|ロッシーニ・オペラの殿堂

 オーストリアで、この夏の音楽祭の開催の模索が始まっているのに加えて、イタリアでもローマ歌劇場がボルゲーゼ公園で《リゴレット》の上演に向けて準備を始めるなど、音楽イヴェントの再開へ向けて始動しています。
 ロッシーニの生地、イタリアのペーザロで開催される「ペーザロ・ロッシーニ音楽祭」も、8月8日から20日までの日程での開催を検討しています。ペーザロは、古代都市ラベンナの南西(ボローニャの南西)に位置し、アドリア海に面する観光名所です。

ペーザロ・ロッシーニ音楽祭(ROF: Rossini Opera Festival Pesaro)webpage:Here is the ROF 2020
関連記事: ローマ歌劇場は7月にボルゲーゼ公園で再開を検討|ガッディ指揮の《リゴレット》(イタリア政府の感染防止対策指針について記載)

 1980年に創設されたこの音楽祭は、ロッシーの全39作にも及ぶ膨大なオペラ作品を紹介することを目的としており、毎年三作のオペラが上演されてきました。今年も、《婚約手形(La cambiale di matrimonio)》を含む三作(他は《モーゼとファラオ》と《イギリスの女王エリザベッタ》)が上演される予定でしたが、新型コロナ・パンデックを受けて、新制作の《婚約手形》のみが、上の日程で上演される見込みです。ロッシーニのオペラは、今日では上演されるものは少なく、《セビリアの理髪師》とか《ウィリアム・テル》、《アルジェのイタリア女》などは良く知られますが、《婚約手形》というオペラは、観たことも聴いたこともないので、興味深いものがあります。この上演は、最終日の模様が音楽祭webpageで無料配信されるようなので、時間があれば観たいところです。


ロッシーニ: 喜歌劇(ファルサ・コミカ)《婚約手形》

トビア・ミル: カルロ・レポーレ(Br)
ファニー: ディリアラ・イドリソヴァ(S)
エドアルド・ミルフォート: ダヴィデ・ジュスティ(T)
スルック: ユーリ・サモイロフ(Br)
ノートン: アレクサンドル・ウトキン(Bs)
クラリーナ: マルティニアーナ・アントニエ(Ms)
演出: ローレンス・デイル
 
ロッシーニ交響楽団(Orchestra Sinfonica G.Rossini)
ディミトリー・コルチャック(Cond)

 イタリア政府が発表している感染予防の指針を満たすために、上演方式は通常のものとは異なり、観客席にオーケストラを配置し、観客はボックス席のみとなるようです。会場となるロッシーニ劇場は、座席数が850の小ぶりな劇場で、多分、オーケストラピットだけでは楽団員のソーシャル・ディスタンスが確保できないため、観客席に展開するのでしょう。残るボックス席を疎の状態で埋めるだけで、イタリア政府が定める屋内イヴェント開催における上限人数の200人に達すると思われます(8月の時点で、制限が緩和されている可能性もありますが・・・)。昨年の同音楽祭では《セミラーミデ》が上演されましたが、今回は、このような盛況とは異なる景色になりそうです。



◇ ロッシーニ: 歌劇《セミラーミデ》 ミケーレ・マリオッティ/RAI国立交響楽団 ROF2019


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ロッシーニ

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Alex Del Piero

クラシック音楽とアート、サッカーが趣味。
好きな作曲家はワーグナー、ブルックナー、マーラー・・・
演奏家は、カラヤン、クライバー、クナッパーツブッシュ・・・
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