クラシック音楽とアート

クラシック音楽やアートについて語るブログです

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クラシック音楽とアート・コンテンツ一覧
最新記事は二番目のコラムから

音楽関連の記事


美術関連の記事 












ラインガウ音楽祭2022・オープニング|アラン・アルティノグリュ/フランクフルト放送交響楽団 

 ドイツ・ヘッセン州、ワインの名産地ラインガウで、同地のエーバーバッハ修道院をメイン会場にして行われる夏の音楽祭、ラインガウ音楽祭2022は、6月25日から9月3日にかけて開催されています。今年は、没後175年を迎える作曲家フェリックス・メンデルスゾーンにスポットを当てたプログラムを中心に開催され、ヘルベルト・ブロムシュテット(Cond)(*)、アンネ=ゾフィー・ムター(Vn)、ヨナス・カウフマン(T)、アヴィ・アヴィタル(Mand)、ダニール・トリフォノフ(Pf)、ガブリエラ・モンテーロ(Pf)、クリストフ・エッシェンバッハ(Cond,Pf)らの名手が登場します。(*: ブロムシュテットは、怪我で入院後、リハビリが必要とのことで活動休止中だが、エーバーバッハ修道院の大聖堂でブルックナーの交響曲第7番を指揮する8月27日には、不死鳥の如く復帰していると期待(確信)する。)

参考記事: ブロムシュテットにラインガウ音楽賞

 音楽祭のオープニングを務めたのは、首席指揮者のアラン・アルティノグリュ率いるフランクフルト放送交響楽団(RSOF, hr交響楽団)で、メンデルスゾーンの交響曲第2番《讃歌》を演奏しました。



◇ ラインガウ音楽祭2022・オープニングコンサート|アラン・アルティノグリュ/フランクフルト放送交響楽団(8月1日まで視聴可能)


ドヴォルザーク: 交響詩《黄金の紡ぎ車》
メンデルスゾーン: 交響曲第2番《讃歌》 変ロ長調 Op.52*

カタリーナ コンラーディ(S)*
ミリアム・アルバーノ(Ms)*
チャールズ・カストロノーヴォ(T)*

MDR放送合唱団*
フランクフルト放送交響楽団
アラン・アルティノグリュ(Cond)
(2022年6月25日@ラインガウ・エーバーバッハ修道院)


 この交響曲は、マルティン・ルターによるドイツ語の旧約聖書を用いた神への賛美が歌われる、独唱及び合唱付きの交響曲で、全二部構成10曲からなる大曲です。三つの楽章から成る第一部がシンフォニアであり、第二部がカンタータとなっており、三楽章の交響曲とカンタータが合体したようなもので、実際、メンデルスゾーンは、当初、第一部だけを交響曲として構想していたといいます。


Note
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ドヴォルザーク

  アルティノグリュは、最初のドヴォルザークで、RSOFの木管陣からしんみりと美しい音色を引き出し、しっとりとした弦を絡めて郷愁を歌い、オープニングらしい初々しい雰囲気を作り出した。


メンデルスゾーン

 第一部(第一曲)は、トロンボーンのモティーフで始まる厳かで祝典的な第一楽章で、RSOFらしい鮮度の高い音響が鮮やかに鳴り響く。そして、クラリネットのしんみりとした独奏で場面転換し、アタッカで第二楽章に入り、ピチカートのリズムに乗って、木管と金管がコラール風のモチーフを奏でゆく。ここでは、RSOFの木管陣が、見事なヴィルトゥオジティを堪能させてくれる。第三楽章は、弦楽が奏でる穏やかなアダージョで始まり、クラリネットが絡むロマンティックな展開を経て、再び木管陣の出番となる。優しく柔らかな弦と木管が、交互に旋律を奏でる。
 そして、冒頭のトロンボーンのモチーフが再度現れると、合唱が入る第二部へと突入する。荘厳な第二曲「すべて息づく者は主を称えよ」に続き、テノール独唱の第三曲「汝ら主に贖われし者は言え」にいたると、もはや完全にオラトリオの展開となる。第四曲の「汝ら主に贖われし者は言え」を経て、第五曲の「我は主を待ち焦がれ」では、ソプラノとメゾ・ソプラノの二重唱が入る。カタリーナ コンラーディ(S)とミリアム・アルバーノ(Ms)のリリックな声質は楽曲との相性が良く、清らかな美しさを有する。一方、チャールズ・カストロノーヴォ(T)も、品のよい滑らかな歌唱で、第六曲「死の絆は我らを囲み」を滔々と語る。そして、ソプラノの合図によって、第七曲「夜は過ぎ去れり」の晴れやかな合唱となり、次いで、第八曲「いまこそ皆、神に感謝せよ」の讃美歌を、合唱団が静粛な合唱で彩る。その後、聖書には無い詩によるソプラノとテノールの二重唱、第九曲の「我ゆえに我が歌をもて」が挿入され、締めくくりの終末合唱「汝ら民よ、主に栄光と権力とを帰せよ!」(第十曲)に入ると、トゥッティによる輝かしいコーダへと突き進んでゆく。


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 第一部と第二部で異なる曲調の大規模な楽曲ですが、アルティノグリュは、RSOFの機能美を活かして、第一部を鮮明に描き出し、第二部は、合唱を活かして荘厳に仕上げました。モネ劇場の音楽監督を務めた豊かな経験が、声楽曲でも活かされた好演でした。


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メンデルスゾーン

メンデルスゾーン:交響曲全集
クラウディオ・アバド/ロンドン交響楽団 形式: CD

メンデルスゾーン:交響曲第2番「賛歌」
サヴァリッシュ/ベルリン・フィル 白井光子 (Ms), その他 形式: CD
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山本探川: 宇津の山図屏風|在原業平が詠った歌枕|@サントリー美術館

 サントリー美術館で開催中の「歌枕 あなたの知らない心の風景」は、和歌に詠われたことでイメージ付けられた土地、すなわち歌枕と日本美術との関りに焦点を当てた展覧会が開催されています。(筆者のように)和歌(の解読)が苦手でも、それとの関連から生まれた美術作品を観ることで、その心に触れることが出来ます。もちろん、美術館の展示なので、絵画だけを観て楽しむことも可能です。以下のPVで概観できるように、和歌だけでなく、大和絵や着物、同美術館自慢の尾形乾山の陶芸品なども展示されています。



◇ サントリー美術館「歌枕 あなたの知らない心の風景」


サントリー美術館webpage: 歌枕 あなたの知らない心の風景

第一章 歌枕の世界
第二章 歌枕の成立
第三章 描かれた歌枕 
第四章 旅と歌枕
第五章 暮らしに息づく歌枕


宇津の山図
◇ 山本探川: 宇津の山図屏風 1755-1769年 紙本着色 163.5×175.0 on 静岡県立美術館webpage

 第一章の「歌枕の世界」で展示されている「宇津の山図屏風」(上期展示:~8月1日)は、「伊勢物語」の第九段「東下り」に取材したものです。主人公・在原業平が東下りの際に通った駿河の国(現在の静岡県の一部)にある宇津の山が、歌枕となっています。業平は、そこで、以前都で知り合った修行者と出会い、「駿河なる宇津の山辺のうつつにも夢にも人に逢はぬなりけり」という歌を都にのこしてきた恋人に届けてくれるように託しました。この歌は、「駿河の宇津の山に来ていますが、夢でも現実にも会うことはありませんよ。」と言っていて、当時は、女性が夢に出てこないということは、その人が自分を思っていないと考えられていたそうで、「貴女は、私のことを忘れてしまったのですね。」という悲嘆を表しています。で、この屏風を観ると、二曲一隻の正方形に近い画面に、上から俯瞰した宇津の山が描かれていて、その険しさと暗い緑色の彩色も相まって、業平の寂寞とした心の内が表されています。
 「東下り」を題材にした絵は、中世までは山の険しさだけが主題でしたが、俵屋宗達が《蔦細道図屏風》を描くなど、琳派の絵師が、蔦を主題に描くようになったといいます。作者の山本探川(やまもとたんせん、1721-1780年)は、狩野派の画系につながる山本家の五代目の絵師で、その画業の詳細は不明だそうですが、この屏風の平面的な構図や、山麓に散りばめられている蔦の装飾性、色彩感覚には、琳派からの影響が色濃く表れています。

参考記事: 俵屋宗達: 蔦細道図屏風|琳派と印象派展・後期展示

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勢物語

小説伊勢物語 業平 単行本 – 2020/5/12
髙樹 のぶ子 (著)

絵で読む伊勢物語 (古典を楽しむ) 単行本 – 2016/6/10
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クラウス・マケラ/パリ管弦楽団来日公演|10月に東京・大阪・名古屋・岡山

 26歳の若手指揮者、クラウス・マケラ率いるパリ管弦楽団の来日公演日程がアップされています。東京・大阪・名古屋・岡山を巡る日本ツアーは、二つのプログラムが用意されています。マケラは、来シーズンからパリ管の音楽監督に就任することが決まっていて、その後、2027年には、世界三大オーケストラの一角を占める、オランダのロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団の首席指揮者に就任すると発表されています。


クラウス・マケラ/パリ管弦楽団 来日ツアープログラム

プログラムA
ドビュッシー: 交響詩《海》
ラヴェル: ボレロ
ストラヴィンスキー: 春の祭典

プログラムB
ドビュッシー: 交響詩《海》
ラヴェル: ピアノ協奏曲ト長調
ストラヴィンスキー: 火の鳥(全曲)

avex classics webpage: クラウス・マケラ指揮 パリ管弦楽団


 両方とも、前半にドビュッシーとラヴェルの印象派音楽を据え、後半にストラヴィンスキーのバレエ音楽を持ってくるパリ所縁(火の鳥、春祭は共にパリで初演された)のプログラムは、パリ管就任の挨拶代わりとしても、かつ、誰でも聴きたいポピュラー曲という興行的視点からも、この指揮者のセンスの良さを感じさせます。さらに、人気ピアニストのアリス=紗良・オットとの協演も魅力満点です。近年、独自のアーティスティックなアプローチを展開する孤高のピアニストと、飛ぶ鳥を落とす勢いの天才肌の指揮者とのコラボには興味が尽きません。といっても、この二人の芸術的傾向からして、ばちばちと主張し合う危険な「競演」は考え難く、芳香で生命感溢れる「協演」が期待できそうです。



◇ ラヴェル: ボレロ クラウス・マケラ/トゥールーズ・キャピトル国立管弦楽団


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クラウス・マケラ

シベリウス:交響曲全集
クラウス・マケラ/オスロ・フィルハーモニー管弦楽団
このシベリウスは、マケラと専属契約を締結したデッカからのリリース第一弾である。デッカが指揮者と専属契約を締結するのは、リッカルド・シャイー以来40年ぶりだったといい、録音メディア不況の時代にありながら、専属契約で囲い込みたいほどの才能をデッカが証明した形である。
このアルバムは、早速、グラモフォン誌恒例のオーケストラ・オブ・ザ・イヤー2022にノミネートされている。【筆者記】
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ルノワール: オリーヴの園|自然と人のダイアローグ/空を流れる時間

 国立西洋美術館で開催中の「自然と人のダイアローグ」、第一章の「空を流れる時間」から、ルノワールの風景画です。

連載記事: 自然と人のダイアローグ


ルノワール オリーヴの園
◇ ルノワール: オリーヴの園 1910年頃 油彩/カンヴァス 32×48 cm (フォルクヴァング美術館)

 ルノワールは、晩年にリウマチを患ったため、気候の良い南仏プロヴァンスのカーニュ=シュル=メールに滞在するようになりました。

参考記事: ルノワール: 静物(プラム)|光陰礼讃―モネからはじまる住友洋画コレクション

 この《オリーヴの園》は、画題からしてもその地で描かれたのに間違いなく、暖色系を用いて陽光溢れる南仏のオリーヴを描います。晩年のルノワールは、印象派の画風から古典回帰の時期をを経て、柔らかい筆致で豊満な裸婦を描く画家独特の境地を見出しました。どの時代にあっても、「幸福の画家」との異名に相応しい作品を描き続けたルノワールは、この風景画でもその期待を裏切らず、明るい画面の木々の枝葉からは、まるで踊っているかのような生き生きとした生命力が放たれています。この絵の筆触は、かつての印象派のそれを用いており、人の肌を描くのには適さない筆触分割が、ここでは鮮やかな有効性を発揮しています。

画像出典: 筆者撮影
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ルノワール

西洋絵画の巨匠 (4) ルノワール 大型本 – 2006/5/15
賀川 恭子 (編集)

はじめてのルノワール (色彩飛行) – 2021/4/14
中川真貴 (著)
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ファビオ・ルイージのドイツ・オーストリア・プログラム|on クラシック音楽館

 昨夜のクラシック音楽館は、先週に続き、次期N響首席指揮者のファビオ・ルイージによる指揮で、モーツァルトとベートーヴェンのプログラムでした。ルイージの選曲はユニークで、モーツァルトの楽曲にしてはそう多くない、暗くドラマティックな曲調に二曲を並べておき、ベートーヴェンの交響曲の中では楽天的な8番を配しています。


N響第1957回定期公演

モーツァルト: 歌劇《ドン・ジョヴァンニ》序曲
モーツァルト: ピアノ協奏曲第20番 ニ短調 K.466*
ベートーヴェン: 交響曲第8番 ヘ長調 Op.93

アレクサンドル・メルニコフ(Pf)*
NHK交響楽団
ファビオ・ルイージ(Cond)
(2022年5月20日@東京芸術劇場)


Note
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ドン・ジョヴァンニ

 物語の始まりに相応しい、緊張感と高揚感をきっちりと詰め込んだ堅固な表情は、オペラハウスでの経験が豊富なルイージならではの演奏である。


ピアノ協奏曲第20番

 フォルテ・ピアノを用いたピリオド・アプローチがモーツァルトには最適だと語るメルニコフだが、一方で、同時に、ホールに合わせることの重要性も主張。この日は、東京芸術劇場に合わせてモダンなスタインウェイで、部分的に、ピリオド風のアーティキュレーションを感じさせつつも、全体的には豊かな響きを聴かせる。ルイージ/N響は、この曲にはさほど顕著ではない楽園性をことさらに強調することはなく、かといってピリオド風味の神経質な音響とは異なるドラマティックを描き出す。姉のカティア・チェムベルジによるカデンツァも、モダンな嫋やかさをたたえている。


交響曲第8番
 
 ベートーヴェンでのルイージは、N響本来の厚みのある重厚な音響を尊重しつつも、第一楽章のはじけるようなアーティキュレーションは、古楽的な響きを感じさせる。第二楽章の、きびきびとして速度の速い展開も、古典的な色合いを有し、瞬く間に走り抜ける。第三楽章もしかり、軽快なスピードで始まったか・・・と思いきや、インタヴューで語っていた第二楽章で用いるべきでないアゴーギク(リテヌート)でテンポを揺さぶる。あっさりとした第二楽章とは対照的に、極めて個性的な展開である。そして、第四楽章では、終楽章に相応しい転結をイメージさせる堅固なアーティキュレーションに転じ、N響の機能美を生かした生命力に溢れる瑞々しい音響を引き出し、鮮やかに締めくくる。

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 ルイージのベートーヴェン第8は、かなり独創的な解釈でした。特に、中間の二つの楽章については、例えば、第二楽章は、「もう少し穏やかに可愛らしく」とか、第三楽章は、「舞曲(メヌエット)の域を超えている」などと言われるかもしれない、賛否の分かれるところかもしれません。しかし、第七と第九に挟まれて地味な存在のこの曲が持つ潜在的なポテンシャルを示した事には違いなく、個人的には受容できる演奏でした。


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ファビオ・ルイージ

R.シュトラウス:アルプス交響曲、4つの最後の歌*
アニヤ・ハルテロス(S)*
ファビオ・ルイージ/シュターツカペレ・ドレスデン 形式: CD
荘厳な自然を描き出した《アルプス交響曲》と。R.シュトラウスの死生観を歌う《4つの最後の歌》の組み合わせの妙。アニヤ・ハルテロスの歌唱も魅力の名盤である【筆者記】

Schumann: Symphonies Nos. 1-4 & Concertstück in F Major, Op. 86
ファビオ・ルイージ/ウィーン交響楽団
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カミーユ・コロー: ナポリの浜の思い出|自然と人のダイアローグ/空を流れる時間

 国立西洋美術館の「自然と人のダイアローグ」、第一章の「空を流れる時間」では、ブーダン、マネ、モネの展示の後に、時代がが逆戻りして、印象派に影響を与えたバルビゾン派の画家、ジャン=バティスト・カミーユ・コロー((Jean-Baptiste Camille Corot、1796-1875年)の作品が展示されています。


カミーユ・コロー  ナポリの浜の思い出
◇ カミーユ・コロー: ナポリの浜の思い出 1870-72年 油彩/カンヴァス 175×84 cm

 コローは生涯に三度イタリアに旅行したといい、中でもナポリが気に入ったらしく、ナポリを題材にした作品を何枚も描いています。この作品は、ナポリ旅行に想を得た作品としては最も後の晩年のものです。コローは、西洋の風景画としては珍しい縦長の画面をしばしば用いましたが、ここでも日本の掛け軸のような縦横比の大画面を用いた大作となっています。両脇に巨大な樹木を、そして遠方にはナポリの海岸を配置し、煙のような葉を有する樹は暗い色調で描き、海岸とその向こうの空の明るさとの対比によって、ナポリの輝かしい光を表しています。子供を抱いた女性と手を繋ぐもう一人の女性は、反対の手でタンバリンを掲げており、陽気なイタリアの浜の追憶に相応しい雰囲気をたたえています。

画像出典: 筆者撮影
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カミーユ・コロー

ジャン=バティスト・カミーユ・コロー『モルト・フォンテーヌの追憶』

ジャン=バティスト・カミーユ・コロー 額装アート作品
ブランド: アフロプリント
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ベルリン・フィルヨーロッパ・コンサート2022 in ラトビア|on BSプレミアムシアター

 先週BSプレミアムで放映されたベルリン・フィルヨーロッパ・コンサート2022は、本来はウクライナでの開催が予定されていましたが、プーチン戦争によって開催地がラトビアに変更されました。戦争を受けて、民族の自由と独立を訴えてきた作曲家の作品によるプログラムが組まれました。


ベルリン・フィルヨーロッパ・コンサート2022 in ラトビア

ヴァスクス: ムジカ・ドロローサ
シルヴェストロフ/カラビッツ: エレジー
ベリオ: フォーク・ソングズ
ヤナーチェク: タラス・ブーリバ 
シベリウス: 交響詩《フィンランディア》

エリーナ・ガランチャ(Ms)
ベルリン・フィルハーモニカー
キリル・ペトレンコ (Cond)
(2022年5月1日@グレート・アンバー・コンサートホール、ラトビア)


Note
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ムジカ・ドロローサ

 寂寞とした弱音から、強烈なピチカートのリズムが沸き起こり、不安な楽想がクレッシェンドしていく。不吉を煽るポルタメント、入り乱れるポリフォニー。やがて、チェロのソロが暗い不遇の時代が切実に語られ、ベルリン・フィルの精緻を尽くした音響が、聴くものの心の奥深くに染み入る。
 作曲者のペトリス・ヴァスクス(Pēteris Vasks, 1946年 - )は、現代ラトビアを代表する作曲家。ソ連圧政下にあっても民族の独立と自由を訴え続けてきた。曲が終わると、会場の客席で喝采を浴びていた。


エレジー

 悲壮感漂う弦の響き。ヴァイオリンとヴィオラ(清水さん)のソロが左右で反響し合い、やがて第二ヴァイオリン(伊藤さん)のソロも入り、森閑とした空気を漂わせる。
 ヴァレンティン・シルヴェストロフ(Valentin Silvestrov, 1937年- )は、ウクライナを代表する現代の作曲家で、プーチンの侵攻後、キーウからベルリンへ避難している。


フォーク・ソングズ
 
 イタリアのルチアーノ・ベリオ(Luciano Berio, 1925-2003年)による他国のものも含む民謡集。
 3曲目の「月は丘の向こうに昇る」が、情感をたたえる美しい曲である。ガランチャの力強い歌唱と豊かな表現力が、切々と訴えかけてくる。5曲目の「女ごころ」でのがランチャは、一転、迫力のシチリア女性を歌い、続く「理想の女性」ではイタリアの若者の恋心を表す。7曲目で、情熱的な「踊り」を聴かせたかと思うと、「悲しみのモテット」では哀愁に沈み、フランスらしいアイロニーとミレーの絵を思わせる牛飼いの歌を挟んで、最後(11曲)はアゼルバイジャンの楽し気で情熱的な恋歌で締めくくる。


タラス・ブーリバ

1. アンドレイの死
 オルガンによる穏やかなモチーフに続いて、やがて現れるオーボエの美しい旋律がチェロに引き継がれ、ヴァイオリンに展開していく。このヤナーチェクとは思えないロマンティックな展開は、チューブラー・ベルが打ち鳴らされるクライマックスを境に、勇壮な戦いの場面へと変容し、一旦、元の抒情に戻った直後に壮大なコーダとなる。
2. オスタップの死
 アクセント記号が付いた弦の強烈な音が響き渡り、ほぼ全曲が行進曲調に展開する。途中、明るい舞踊調のリズムが現れるが、最後は悲劇的な一撃で突如終わる。
3. タラス・ブーリバの予言と死
 標題とは裏腹にコミカルな調子ではじまるが、不安げな「予言」も挿入される。勇壮で舞踏的な楽想がクライマックスを形成するが、ティンパニの一閃で静まりかえる。やがて、トロンボーンに弦が絡むヤナーチェクらしい楽想が現れると、壮大なフィナーレへと突き進み、ティンパニが派手に打ち鳴らされるコーダとなる。
 K.ペトレンコは、ベルリン・フィルの機能美を活かして、色彩豊かで、かつ緊張感溢れるドラマティックを展開した。
 レオシュ・ヤナーチェク(Leoš Janáček, 1854-1928年は、古くからハプスブルク帝国やソ連からの圧力を受け続けてきたモラヴィア(現在のチェコ東部)出身である。


フィンランディア

 フィンランドの独立と自由を訴えたシベリウスの代表作で、フィンランドの第二の国家とされるこの曲を、ロシア出身のK.ペトレンコ/ベルリン・フィルが奏でる。金管が鳴り響き、澄み切った音色の弦が高らかに歌うフィンランディア賛歌が感動を沸き起こし、聴衆はスタンディングオベーションで讃えた。


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 この日は、第二ヴァイオリンとヴィオラのソロが入る珍しい展開の曲も含まれていて、それぞれの首席奏者であるマレーネ伊藤(伊藤真麗音)さんと、清水直子さんが、ヴィルトゥオジティを披露しました。この日のコンマスは、ノア・ベンディックス=バルグリーでしたが、同じ第一コンサートマスターの樫本大進が演奏すれば、世界最高峰のベルリン・フィルの首席癌額奏者全てを日本人奏者が占めることになります。


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ベルリン・フィル

キリル・ペトレンコ・ファースト・エディション
ベートーヴェン、チャイコフスキー、シュミット、シュテファン /
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

ベートーヴェン交響曲全曲連続演奏会
[5SACD Hybrid] [国内プレス] [日本語帯解説付]
ヘルベルト・フォン・カラヤン/ベルリン・フィルハーモニカー
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渡辺與平: ネルのきもの|光陰礼讃―モネからはじまる住友洋画コレクション

 東京六本木の泉屋博古館東京では、同館のリニューアル記念展として「光陰礼讃―モネからはじまる住友洋画コレクション」が開催されています。この企画展は、住友コレクションの洋画を中心に展示するものです。

光陰礼讃 ―モネからはじまる住友洋画コレクション (泉屋博古館東京webpage)

1. 光と陰の時代 ― 印象派と古典派
2. 関西美術院と太平洋画会の画家たち
3. 東京美術学校派と官展の画家
4. 岸田劉生とその周
5. 20世紀のパリと日本
彫刻(ホール)
【特集展示】住友建築と洋画―洋館には洋画がよく似合う

連載記事: 光陰礼讃―モネからはじまる住友洋画コレクション(住友コレクション)


 第2章の「関西美術院と太平洋画会の画家たち」に属する渡辺與平(わたなべよへい(与平)、1888-1912年)は、京都市立美術工芸学校絵画科で日本画を学ぶかたわら、1906年4月には、上京して吉田博らの太平洋画会研究所に入所し、洋画の研鑽を積みました。


渡辺與平 ルのきもの
◇ 渡辺與平: ネルのきもの 1910年 油彩/キャンバス 88.5×114.5 cm 

 この《ネルのきもの》は、與平の妻ふみ子をモデルに描いたもので、第4回文展で3等賞を受賞しました。着物を着た細身を椅子の背にもたれて座る女性の姿には、日本女性特有の嫋やかさを観ることができます。背景は、女性の向きと平行する細長い筆致の点描風に彩色されていて、着物姿のしなやかさを助長しています。しかし、その表情はどこを見ているのか視線が定まらず、どことなく憂いを帯びています。よく見ると、左右の瞳の視線の方向がずれていて、それが憂いをつくりだす一因かもしれません。
 このどちらともつかない表情は、竹久夢二が描く夢二式美人に通じるものがありますが、実は、與平は生計を立てるために新聞や雑誌のコマ絵や挿絵の仕事を始め、1906年にデビューして以来、流行作家となっていました。竹久夢二の「夢二式」に対して「ヨヘイ式」と呼ばれ、人気を二分したといいます。しかし、この《ネルのきもの》を描いてから2年後の1912年に、結核のために早世したために、今日では夢二のように広く知られていません。

画像出典: 泉屋博古館Twitter
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クロード・モネ

モネ作品集 大型本 – 2019/3/12
安井 裕雄

クロード・モネ 「Seerosen. 1903.」 額装アート作品
ブランド: アフロプリント
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圧巻!アレクサンドル・カントロフ(Pf)|@タケミツ メモリアル

 2019年の第16回チャイコフスキー国際コンクールのピアノ部門の覇者、アレクサンドル・カントロフ(Alexandre Kantorow、1997年-、フランス)のリサイタルが、昨夜、東京オペラシティ・コンサートホール タケミツメモリアルで開催されました。プログラムは、リストを中心に据え、前半にシューマンのピアノソナタ、後半にはスクリャービンが挿入されていました。


アレクサンドル・カントロフ ピアノ・リサイタル

リスト: J.S.バッハのカ ンタータ「泣き、嘆き、悲しみ、おののき」BWV12による前奏曲 S.179
シューマン: ピアノ・ソナタ第1番 嬰へ短調 op.11

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リスト: 巡礼の年第2年《イタリア》から ペトラルカのソネット第104番
リスト: 別れ(ロシア民謡)
リスト: 悲しみのゴンドラ II
スクリャービン: 詩曲「焔に向かって」
リスト: 巡礼の年第2年《イタリア》から ソナタ風幻想曲「ダンテを読んで」

Encore
グルック(ズガンバーティ編): 精霊の踊り
ストラヴィンスキー(アゴスティ編): バレエ「火の鳥」から フィナーレ
ヴェチェイ(シフラ編): 悲しきワルツ
ブラームス: 4つのバラード Op.10-2
モンポウ: 歌と踊り Op.47-6
ブラームス: 4つのバラード Op.10-1
(2022年6月30日@東京オペラシティ・コンサートホール タケミツメモリアル)


 カントロフのピアニズムは、確かな技巧を土台に、たっぷりと鳴らす圧倒的な音響にあります。しかし、これ見よがしに技巧を披露するのではなく、理知的な構築性と情感溢れる抒情性も兼ね備えていました。
 前半のシューマンは、随所に技巧が盛り込まれていて全体的にはやや混沌とした難解さがあるのですが、技巧を披露しつつも発散せず、楽曲の全体像を損なうことなくソナタとしてまとめていました。
 しかし、クライマックスは休憩後の後半でした。リストの《巡礼の年》を両脇において、中間に、もの悲し気なリストの二曲とスクリャービンの神秘を配置する計算されつくしたプログラムです。一曲目の「ペトラルカのソネット第104番」を高らかに歌った後に、《別れ(ロシア民謡)》では、昔を懐かしむかのような哀愁に没入し、静寂へと導きます。そして、《悲しみのゴンドラⅡ》で、陰鬱に沈み込みますが、続くスクリャービンの色彩によって、神秘の光が射しこみます。それは、最後の《ソナタ風幻想曲》へと引き継がれ、徐々に煌めきを増してゆくと、圧倒的なデュナーミクでのクライマックスが訪れ、そして、右手が高域で閃光を放つフィナーレを迎えます。その卓越したピアニズムの千変万化に、ホールは感動の坩堝と化しました。
 
 しかし、それだけでも充分と思われたのに、この日のカントロフは聴衆の反応に気を良くしたのか、6曲ものアンコールを披露。圧巻は、ストラヴィンスキーでした。ピアノでそこまで表現し得るのかと感嘆させられる弱音からフォルティッシモへのデュナーミク、うなりを上げるグリッサンド・・・めくるめくフィナーレを締めくくると、パンデミック後に初めて聴く「ブラヴォー」が飛び交う有様。一部聴衆がスタンディング・オベーションで拍手喝采するなど、ホールは熱狂に包まれました。


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アレクサンドル・カントロフ

サン=サーンス : ピアノ協奏曲第3-5番
[SACD Hybrid] [Import] [日本語帯・解説付]
アレクサンドル・カントロフ(Pf)、ジャン=ジャック・カントロフ/タピオラ・シンフォニエッタ
サン=サーンスのピアノ協奏曲は、あまり演奏機会が多くはないが、名曲とされるラフマニノフやショパン、ブラームス等と比べても遜色のない聴き応えある楽曲である。それらを、カントロフの鮮やかな技巧で聴けるのはありがたい。指揮の・・・はカントロフの父親であり、親子の協演によるアルバムというのも興味深い。【筆者記】
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