クラシック音楽とアート

クラシック音楽やアートについて語るブログです

野々村仁清: 色絵鶴香合|尾形乾山: 白泥染付金彩薄文蓋物|蒔絵と焼き物|日本美術の裏の裏

 サントリー美術館で開催中のリニューアル記念展「日本美術の裏の裏」第2章は、「小をめでる」と題して、日本のミニチュア文化をめぐります。日本人には、小さいものを「かわいい」とする感性があるといい、江戸時代の後期に上野の不忍池近くにあった七澤屋という雛人形を得意とする人形店のミニチュア雛道具が展示されています。その特徴は精緻な金蒔絵で、虫眼鏡で拡大しないと紋様が見えないほどで、実物と並んで展示されています。


鈴虫蒔絵銚子と牡丹唐草文蒔絵銚子
◇ 鈴虫蒔絵銚子|長澤屋・雛道具のうち 牡丹唐草文蒔絵銚子

 漆工以外にも、織部の焼き物のミニチュアもあります。

織部鷺文輪花皿と織部写千鳥文四方皿
◇ 織部鷺文輪花皿|長澤屋・雛道具のうち 織部写千鳥文四方皿

 また、同展ではサントリー美術館が所蔵する焼き物も展示されており、第4章「景色をさがす」と第5章「和歌でわかる」でそれらを楽しむことができます。

  第4章のテーマは、立体作品を見る位置でその表情が変わることをテーマとしていて、例えば《擂座花入》は、どこを正面にするかでそれぞれ異なる形状に見えます。以下の角度から見ると、なにかの顔が隠れているような感覚にとらわれるシュールな作品です。


擂座花入 信楽
◇ 擂座花入(信楽)

 一方、動物の香合は顔を正面にするのが基本だそうですが、微妙に首を曲げた丹頂鶴は、仁清の技が冴え、どの角度から見ても優美です。


野々村仁清 色絵鶴香合
◇ 野々村仁清: 色絵鶴香合

 第5章では、美術品のイメージ・ソースであった和歌との関連がテーマです。
 「古今和歌集」で、桜が「雲」、紅葉が「錦」に見立てられていることから、桜と楓の取り合わせを「雲錦模様」といい、それが器の紋様のモチーフとなりました。仁阿弥道八((1783- 1855年)の《色絵桜楓文透鉢》は、その典型です。


仁阿弥道八 色絵桜楓文透鉢
◇ 仁阿弥道八: 色絵桜楓文透鉢

 琳派の巨匠、尾形光琳の弟の乾山は、光琳のデザインセンスのDNAを感じさせる粋な陶器で知られます。《白泥染付金彩薄文蓋物》でも、その感性がいかんなく発揮されていて、外側はシャープな薄の葉が生い茂りますが、内側は一転して藍一色の織物紋様になっていて、内と外で異なるデザインを対比させています。先日の《武蔵野図屏風》でも記した歌に見られるように、昔は、武蔵野と言えば薄、薄と言えば武蔵野というイメージが定着していたといい、京を拠点とした乾山が東国の武蔵野をイメージして造ったものだと思われます。

武蔵野は 月の入るべき 山もなし
草より出でて 草にこそ入れ


尾形乾山 白泥染付金彩薄文蓋物
◇ 尾形乾山: 白泥染付金彩薄文蓋物 (重文)


画像出典: 筆者撮影

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尾形乾山

乾山 KENZAN―琳派からモダンまで 大型本 – 2015/10/1
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ワーグナー&R.シュトラウス |ニーナ・シュテンメ×カリーナ・カネラキス/ロイヤル・ストックホルム・フィル

 スウェーデンの新型コロナ対策は、ロックダウンなどの強い規制を行わなわず、「集団免疫」獲得を目指すような方針をとってきました。しかし、ここへきて急激に感染者数が増加してきたため、スウェーデン王立歌劇場は、12月31日まで劇場を一時閉鎖すると発表しました。集団免疫獲得以前に、医療崩壊の危機が迫っているとの判断だと思われます。
 ただ、これまでまったく規制がなかったわけではなく、パンデミック初期の3月中旬から50人を超える集会が禁止されており、以来、コンサートの聴衆は50人に限られたままでした。王立歌劇場は一次閉鎖されましたが、同じストックホルムを拠点とするロイヤル・ストックホルム・フィルは、その制約下で活動を続けてきました。

ロイヤル・ストックホルム・フィルwebpage

 同楽団は、ストックホルム・コンサートホールをレジデントホールとし、歴代のシェフにはターリッヒやシュミット=イッセルシュテットが務めた歴史があり、現在は、アラン・ギルバートの後をサカリ・オラモが引き継いでいます。ノーベル賞の授賞式での演奏を担当してきたことでもわかるように、スウェーデンを代表する名門です。
 コンサートは、ホールに行けない人たちのために無料でオンデマンド配信されているので、遠く離れたわが国でも演奏を聴くことができます。最近公開されたのは、当代きってのワーグナー歌手の一人、ニーナ・シュテンメ(Nina Stemme)が登場したワーグナーとR.シュトラウスの演奏会で、指揮は、近年注目されている若手の女性指揮者カリーナ・カネラキスが担当しています。
 ストックホルム出身のシュテンメは、ワーグナーの歌唱はこうあるべきとでも言わんばかりに豊かな声量で「殿堂のアリア」を堂々と歌い上げ、「イゾルデの愛の死」では、情感豊かに、しかしこれもまた威風堂々とした歌唱で圧倒します。のびのびとした高域は衰えを知らず、安定した音程を保ち、アンコールで歌ったR.シュトラウスの《ツェツィーリエに》では、一転して、眩いばかりの世界感を描き出しました。シュテンメの歌唱は、そのドラマティックな点において、同じスウェーデン出身で、往年のワーグナー歌手のビルギット・ニルソンの系譜です。


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◇ ワーグナー&R.シュトラウス: ニーナ・シュテンメ()、カリーナ・カネラキス/ロイヤル・ストックホルム・フィル(画像をクリックすると動画ページに移動)


ワーグナー:
     歌劇《タンホイザー》序曲
     歌劇《タンホイザー》から「殿堂のアリア」
     歌劇《タンホイザー》から「全能の聖母」
     楽劇《トリスタンとイゾルデ》から「前奏曲と愛の死」
R.シュトラウス: 《ツェツィーリエに》(アンコール)

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R.シュトラウス: 組曲《町人貴族》

 指揮のカネラキスは、シュテンメの伝統的なワーグナー歌唱に対して、オーケストラから瑞々しい現代的な音色を引き出していて、それが歌唱を見事に際立たせていました。伝統的なワーグナー歌手と新進気鋭の指揮者が互いを主張した、見事なコラボレーションといえるでしょう。カネラキスは、後半の《町人貴族》でも、クリアな音色をオーケストラから引き出し、R.シュトラウスの優美な音響を具現していました。


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ニーナ・シュテンメ

ニーナ・シュテンメ:ワーグナーを歌う ウィーン国立歌劇場ライヴ 2003-2013年

ドキュメンタリー 『 ビルギット・ニルソン ~ A League of her own / Birgit Nilsson 』
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武蔵野図屛風 |日本美術の裏の裏|サントリー美術館リニューアル記念

 サントリー美術館で開催中の「日本美術の裏の裏」、第一章の「空間をつくる」では、《武蔵野図屛風》という作者不明の屏風が展示されています。


武蔵野図屛風 右隻

武蔵野図屛風 左隻
◇ 武蔵野図屛風(上から右隻、左隻) 六曲一双 江戸時代 17世紀 各155.2×362.6 cm

前回記事: 狩野永納: 春夏花鳥図屛風|日本美術の裏の裏|サントリー美術館リニューアル記念

 江戸時代の武蔵野は、現在の東京都中西部から埼玉県南部周辺の地域にあたり、今の武蔵野市のあたりを中心として原野が広がっていたものと思われます。屏風には、今と違って高い建物も無く、遮るものが何もない草原の風景が描かれています。金の下地に秋の薄野が生い茂り、右隻には、その草の向こうの地平線の近くに満月が描かれ、左隻には、この地方のシンボルでもある富士がそびえます。富士を覆う雲は、霊峰の威容だけでなく手前の薄の繊細な縦のラインを際立たせ、全体として優美な空間を形成しています。

 古い和歌に、武蔵野を歌ったものがあり、それらは、この屏風に描かれているような草が生い茂る原野の情景を表しています。


武蔵野は 月の入るべき 山もなし
草より出でて 草にこそ入れ

武蔵野は 月の入るべき 嶺もなし
尾花が末に かかる白雲
(続古今和歌集より)


 この《武蔵野図屏風》は、現在藤美術館で開催中の企画展「THIS IS JAPAN IN TOKYO 〜永遠の日本美術の名宝〜」でも同じタイトルの屏風が展示されており、構図も描かれているモチーフも似通っていて、おそらく同じ作者によるものと思われます。



◇ 武蔵野図屏風  on 富士美術館webpage

画像出典: 筆者撮影

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やまと絵

中世やまと絵史論 – 2020/2/25
〓岸 輝 (著)

やまと絵 (別冊太陽 日本のこころ) ムック – 2012/9/22
村重 寧 (監修)
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ドレスデン・フィルがマレク・ヤノフスキとの契約を延長

 ドレスデン・フィルは、現在首席指揮者を務めるマレク・ヤノフスキ(Marek Janowski, 1939年-)の契約を1年延長したもようです。ヤノフスキは、2000年から2004年にも首席を務めていましたが、2019年にミヒャエル・ザンデルリングの後を継いで首席にカムバックしていました。ポーランド生まれですが、母親がドイツ人で、教育もキャリアのドイツを拠点としてきたためにドイツの指揮者とみなされます。ケルン大学でウォルフガンク・サヴァリッシュに師事し、フライブルクやドルトムントの歌劇場で音楽監督を務め、その後、ウィーン国立歌劇場やシュターツカペレ・ドレスデン等、欧州の主要オペラハウスで指揮をしてきました。2016年と17年にはバイロイトに登場して、《指輪》と《パルジファル》を指揮し、2016年の10月には、ウィーン国立歌劇場の日本公演で《ナクソス島のアリアドネ》を振っています。歌劇以外では、欧州各地のオーケストラに客演をしてきており、日本でもN響定期に登場するなど(東京・春・音楽祭では《指輪》の演奏会形式でもN響を振っている)、良く知られた指揮者です。今回の契約によって、ドレスデン・フィルでの任期は、2022/2023年シーズンまでとなります。この契約延長は、ヤノフスキからの申し出によるもので、楽団員の圧倒的支持を得てのものだと伝えられます。
 ドレスデン・フィルは、2022/2023年シーズンにワーグナーの《指輪》のコンサート形式の上演を予定しているほか、日本へのツアーも計画されているようで、それらの指揮をヤノフスキが担当すると思われ、生粋のドイツ系指揮者によるドイツ音楽の演奏に期待が集まりそうです。

 ヤノフスキのワーグナーはどろどろした音響とは一線を隔し、例えば、以下の《ラインの黄金》の最終場「神々のワルハラへの入城」では、バイロイトの管弦楽団の渋みのある伝統的な音色を保ちつつ、きびきびとしたテンポを取り、余計なものを疎ぎ落としたシャープな音響を繰り出しています。



◇ ワーグナー: 楽劇《ラインの黄金》 ヤノフスキ/バイロイト祝祭管弦楽団


Source: Janowski verlängert bei Dresdner Philharmonie

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マレク・ヤノフスキ

ベートーヴェン : 交響曲全集 マレク・ヤノフスキ/ケルンWDR交響楽団
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パウル・ヒンデミット : ウェーバーの主題による交響的変容
マレク・ヤノフスキ/ケルンWDR交響楽団
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狩野永納: 春夏花鳥図屛風|日本美術の裏の裏|サントリー美術館リニューアル記念

 サントリー美術館リニューアル記念展「日本美術の裏の裏」の第一章は、「空間をつくる」です。
 以下は展覧会入り口の様子で、歩を進めると、前回記した本展のメイン・ビジュアルとなる円山応挙の《青楓瀑布図》がいきなり現れ、滝と水の流れをダイナミックに描いた応挙の空間表現力を目の当たりにします。


日本美術裏の裏
◇ 展覧会入り口

前回記事: 円山応挙: 青楓瀑布図|日本美術の裏の裏|サントリー美術館リニューアル記念

 この応挙の傑作は、大きな掛け軸上で空間をつくっていますが、日本画の大画面と言えば、襖や屏風。そこに風景を描くとき、日本画ではしばしば、春夏秋冬が順に描かれる形をとり、部屋に飾れば、実際には一度に観ることのできない景色を観者に提供します。これも、時間を含めた「空間をつくる」という絵に他ならない、というのがこの展示の主張でしょう。


狩野永納: 春夏花鳥図屛風
◇ 狩野永納: 春夏花鳥図屛風 六曲一双江戸時代 17世紀 各153.0×361.0 cm

 水辺に描かれた鳥や花は、伝統的な狩野派の花鳥画ですが、ただし、この花鳥図屏風は、春と夏しかない珍しいものです。右隻では、桜や牡丹に雉や鶯などの春の花鳥が、左隻では、藤の花や燕子花、百合、石榴の花に、三光鳥や白鷺などの夏の花鳥が描かれています。しかし、秋と冬が無いので物足りないということはなく、明るく優美な屏風です。


狩野永納: 春夏花鳥図屛風 左隻(部分1)

狩野永納: 春夏花鳥図屛風 左隻(部分2)
◇ 狩野永納: 春夏花鳥図屛風(左隻の部分拡大)

 例えば、冬の宴席で飾られたこの屏風を観た古の観者は、暖かい季節を思い出し、楽しい気分になったのではないでしょうか。

 これを描いた狩野永納(かのう えいのう、1631 -1697年)は、狩野探幽らが江戸に移った後も京に残った狩野山楽ら「京狩野」の系統の絵師です。


画像出典: 筆者撮影

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狩野派

京狩野三代生き残りの物語―山楽・山雪・永納と九条幸家 – 2012/11/1
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オーケストラでつなぐ希望のシンフォニー 第三夜|on クラシック音楽館

 昨夜のクラシック音楽館は、ベートーヴェン生誕250年を記念した国内の各地オーケストラによる交響曲ティクルスの第三夜で、山形交響楽団と大阪フィルの演奏会が放映されました。


ベートーヴェン:
交響曲第5番 ハ短調 Op.67
トルコ行進曲

山形交響楽団
阪哲朗(Cond)
(2020年9月24日@やまぎん県民ホール)


ベートーヴェン:
バレエ音楽《プロメテウスの創造物》序曲
交響曲第6番 ヘ長調 Op.68《「田園》

大阪フィルハーモニー交響楽団
尾高忠明
(2020年9月10日@NHK大阪ホール)


 バルブ以前のナチュラル・ブラスを導入しているという山形交響楽団ですが、阪哲朗のバトンのもとで繰り出される音色は、ピリオド・アプローチにありがちなものではなく、柔らかく重厚なものでした。比較的早めのテンポではあるものの、そこにピリオド風のせせこましさも、異様に鋭利なアーティキュレーションも無く、どっしりと構え、堂々とした風を吹き込ませます。同楽団の常任指揮者を務め阪哲朗は、1995年のブザンソン国際若手指揮者コンクールを制した指揮者で、奇をてらうことのない解釈と確かなバトンで、オーケストラから緻密かつ躍動感溢れる音響を引き出していました。

 次に登場したのは、ブルックナー演奏の大家だったレジェンドの朝比奈隆所縁の大フィル。最初に演奏した《プロメテウスの創造物》の冒頭からして、いかにも大フィルらしい重厚で壮大な音色でした。現音楽監督の尾高忠明の下でも、朝比奈当時の20世紀的な音色を残しています。
 続く《田園》は、交響曲でありながら表題性を有するベートーヴェンの柔軟な革新性が盛り込まれていて、指揮の尾高は、新型コロナ禍でふさぎがちな聴き手を癒してくれる力がこの曲にあることを示すかのように、楽園的な音色を引き出しました。第一楽章では、田舎の美味しい空気に触れた時の、晴れ晴れとした雰囲気を鮮やかに描き出し、第二楽章では、嫋やかな小川の流れが聴く者の心に染み入り、癒してくれます。一方で、楽し気な人々の集いの後の嵐の場面では、重量級の音響で自然の驚異を表します。そして、続く終曲の晴れ晴れとした息遣いに繋ぐと、生き生きとして芳醇な音色でメインモチーフの楽園的な幸福感を高らかに紡ぎ、晴れやかな感動を誘いました。


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 普段は聴くことのない山形交響楽団は、緻密なアンサンブルで外連味の無い《運命》を聴かせてくれました。
 対して、大フィルは、ややアンサンブルに甘さがあるものの、朝比奈時代からの伝統の音色を受け継いだ重厚かつ芳醇な響きをを保ちながら、コロナ禍の時代に見合った尾高のアプローチによって、明るく清々しい《田園》を奏でていました。


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ベートーヴェン 交響曲

ベートーヴェン:交響曲全集(UHQCD)(MQA)
アンドリス・ネルソンスウィーン・フィルハーモニカー 形式: CD

ベートーヴェン:交響曲第5番「運命」&第7番
カルロス・クライバー/ウィーン・フィルハーモニカー 形式: CD
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ベルリン・ドイツ・オペラが、指揮者のドナルド・ラニクルズの契約を延長

 ベルリン・ドイツ・オペラは、現在音楽監督を務めるサー・ドナルド・ラニクルズ(Donald Runnicles,1954年 - )の契約を5年間延長すると発表しました。

ベルリン・ドイツ・オペラwebpage: Vertragsverlängerungen der Leitungsspitze der Deutschen Oper Berlin

 ラニクルズは、スコットランド出身の指揮者で、2009年に同歌劇場の音楽監督に就任しました。最初の5年契約が2022年まで延長されていましたが、このほどさらに延長されて2027年までの契約になります。左利きで、左手でタクトを振る珍しい指揮者で、これまで、BBCスコティッシュ交響楽団の首席(現名誉指揮者)やアトランタ交響楽団の首席客演指揮者の他に、米グランド・ティートン音楽祭の音楽監督も務めており、今年の10月には英国ナイトの称号(Sir)を授与されています。
 ベルリン・ドイツ・オペラは、ベルリンにある三大歌劇場の一つで、ベルリンの壁崩壊以前には西ベルリンで唯一の歌劇場でした。古くはブルーノ・ワルター、フェレンツ・フリッチャイらが音楽監督を務め、ロリン・マゼール、ヘスス・ロペス=コボス、ラファエル・フリューベック・デ・ブルゴス、クリティアン・ティーレマンらが引き継いできました。また、1963年の日生劇場のこけら落としに、マゼールとカール・ベームの指揮で来日引っ越し公演を行っています。この公演は、欧州歌劇場初の来日引っ越し公演という歴史に残るものです。さらに、1987年には、ヘスス・ロペス・コボスとハインリッヒ・ホルライザーの指揮で、《指輪》の全曲上演(東京文化会館、神奈川県民ホール)も実現しています。この時ジークフリートを歌ったのは、伝説のヘルデンテノール、ルネ・コロでした。近年の日本でドイツの歌劇場と言えば、バイエルン国立歌劇場やベルリン国立歌劇場が話題になりますが、ベルリン・ドイツ・オペラはワーグナーの楽劇上演で定評がある欧州有数の歌劇場です。以下の《ワルキューレ》のトレイラーでは、近年有数のワーグナー歌手と目されるニーナ・シュテンメ(Nina Stemme)を起用し、ラニクルズの指揮の下、これぞワーグナーと言わんばかりの重厚な音響を繰り出しています。



◇ 楽劇《ニーベルングの指輪》/《ワルキューレ》トレイラー ニーナ・シュテンメ(S; プリュンヒルデ) ドナルド・ラニクルズ/ベルリン・ドイツ・オペラ


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ベルリン・ドイツ・オペラ

ベルリン・ドイツ・オペラ 日生劇場 1963 ~ ワーグナー : 楽劇 「トリスタンとイゾルデ」(全曲)
[3CD] [Live Recording] [国内プレス] [日本語帯・解説付]
ロリン・マゼールベルリン・ドイツ・オペラ管弦楽団 他 形式: CD

ベルリン・ドイツ・オペラ 日生劇場 1963 ~ ベルク : 歌劇 「ヴォツェック」(全曲)
[2CD] [Live Recording] [国内プレス] [日本語帯・解説付]
ハインリッヒ・ホルライザー/ベルリン・ドイツ・オペラ管弦楽団 他 形式: CD
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ピンクボート|草間彌生のソフト・スカルプチュア|STARS展@森美術館

 草間彌生は、1962年にシューヨークのグリーン画廊のグループ展で初の立体作品を出品しました。詰め物をした布製の突起物を椅子などの家具に張り付けたその時の作品は、いわゆるソフト・スカルプチュア(石や木を彫ったり、金属を鋳造するなどして硬い材料でつくられた彫刻作品に対して、布や糸のような繊維や、ゴム、脂肪などの柔らかく可塑性のある素材を使用して制作された彫刻や立体作品)の最も早い例の一つとされます。そのグループ展では、アンディー・ウォーホルらポップ・アートの作家が参加していたことから、草間はポップ・アートでも名前が挙がることがあるといいます。
 しかし、細長い男根状のソフト・スカルプチュアを集積させて張り付ける作品は、それが立体であってもやはり「常同反復」であり、草間アートの根幹を脈々と流れるコンセプトと言えます。幼いころから男根への恐怖を抱いていた草間は、「常同反復」で無数のソフト・スカルプチュアを連ねる作品でそれを克服したといいます。


草間彌生 ピンクボート
◇ ピンクボート 1992 年 詰め物入り縫製布、ボート、オール 90×350×180 cm
(奥: トラヴェリング・ライフ 1964年 彩色、綿布、綿、靴、木製脚立 248×82×151 cm)


これらの写真は「クリエイティブ・コモンズ表示 - 非営利 - 改変禁止 4.0 国際」ライセンスの下で許諾されています

 今回展示されているのは、1992年の《ピンクボート》と、初期の1964年に制作された《トラヴェリング・ライフ》で、年月を隔てても同じモチーフを用いる作品を創り続ける草間の特徴を見てとれます。作品自体も同じコンセプトを繰り返すということで、制作理念においても「常同反復」の芸術家と言えますが、しかし、それぞれが経年によって陳腐なものにならないところが草間の凄さです。


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草間彌生

草間彌生全版画 1979‐2017

アートパネル 草間彌生 アートポスター
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ウィーン国立歌劇場来日公演2021|元帥婦人にマルティナ・セラフィン|NBSが予定出演者を発表

 ウィーン・フィルは、新型コロナによるロックダウンにも臆せず、稀有なプロ意識を貫いて来日ツアーを敢行してくれました。そのウィーン・フィルの母体となるウィーン国立歌劇場が、来秋やってきます。

前回記事: 2021年の歌劇場・来日引っ越し公演|新体制のウィーン国立歌劇場が来日

 ワクチン開発のグッド・ニュースもありますが、来年のこの時期に今回のパンデミックがどうなっているか予断を許さない状況なので、引っ越し公演には、やや不確かなものがあると思っていました。しかし、今回ウィーン・フィルが見せたプロフェッショナリズムを目の当たりにしたので、来年もきっと来てくれるだろうとの確信が持てるようになりました。11月に入って、招聘元のNBSが、詳細日程と予定出演者を発表しています。

NBSwebpage: ウィーン国立歌劇場2021年来日公演

 演目は、モーツァルトの《コジ・ファン・トゥッテ》とR.シュトラウスの《ばらの騎士》。《コジ》は、リッカルド・ムーティ指揮で、愛娘のキアラ・ムーティの演出。そして《薔薇》は、今シーズンから音楽監督に就任したフィリップ・ジョルダンの指揮で、カルロス・クライバーの時代から続く伝統のオットー・シェンク (Otto Schenk、1930年 - )演出です。
 予定される歌手陣は、以下です。


コジ・ファン・トゥッテ

フィオルディリージ: マリアンジェラ・シチリア(S)
ドラベッラ: マリアンヌ・クレバッサ(Ms)
グリエルモ: アレッシオ・アルドゥイニ(Br)
フェルランド: ジョヴァンニ・サラ(T)
デスピーナ: ジュリー・フックス(S)
ドン・アルフォンソ: マルコ・フィリッポ・ロマーノ (Bs)


ばらの騎士

元帥夫人: マルティナ・セラフィン(S)
オックス男爵: アルベルト・ぺーゼンドルファー(Bs)
オクタヴィアン: クリスティーナ・ボック(Ms)
ゾフィー: ルイーズ・オールダー(S)


 作品としては《コジ》も良いのですが、個人的には、マリー・テレーズに黄昏時の人生観を投影した《ばら》に魅力を感じます。今回、その元帥夫人を役には、マルティナ・セラフィン(Martina Serafin; 1970年生まれ)が予定されています。ウィーン生まれで、ウィーン市立音楽院で学んだ生粋のウィーン育ちのソプラノは、グラーツ歌劇場でキャリアをスタートし、ボローニャ歌劇場、ハンブルク州立歌劇場、ウィーン国立歌劇場、ドレスデン・ゼンパー・オパー、ライプツィヒ歌劇場などで歌ってきました。レパートリーは、《フィガロの結婚》の伯爵夫人、《ばらの騎士》の元帥夫人、《ローエングリン》のエルザ、《タンホイザー》のエリーザベト、《指輪》のジークリンデなどのドイツ・オペラに加えて、《トスカ》などプッチーニのタイトルロールもこなします。
 以下は、セラフィンが歌うドレスデン・ゼンパー・オパーでの《ばら》で、やや力感に頼った表情に思えます。シュワルツコップのマリー・テレーズが基準の筆者としては、熟年の芳醇さの中に内在する理知的な諦念の味を出して欲しいところですが、はたしてジョルダンの下でどのような歌唱を聴かせてくれるでしょうか。



◇ R.シュトラウス: 歌劇《ばらの騎士》より マルティーナ・セラフィン(S) ミヒャエル・ボーダー/シュターツカペレ・ドレスデン


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Appendix


◇ R.シュトラウス: 《四つの最後の歌》より 9月 マルティーナ・セラフィン(S) ズービン・メータ/ウィーン・フィル

 こちらも力強さを感じさせる歌唱ですが、メータ/ウィーン・フィルの効果的な伴奏が、実に深い味わいを出しています。


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ばらの騎士

R.シュトラウス:楽劇「ばらの騎士」全曲
ヘルベルト・フォン・カラヤン/フィルハーモニア管弦楽団

R.シュトラウス:楽劇《ばらの騎士》 [DVD]
カルロス・クライバー/バイエルン国立歌劇場
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ルドン: 気球|1894 Visions ルドン、ロートレック展

 三菱一号館美術館で開催中の「1894 Visions ルドン、ロートレック展」の第二章は、「NOIR─ルドンの黒」です。

前回記事: エミール・ベルナール: ポンタヴェンの市場|1894 Visions ルドン、ロートレック展

 この展覧会は、三菱一号館美術館の開館十周年記念として、三菱一号館が竣工した1894年前後の美術にスポットを当てた展覧会で、同館のコレクションの中核を成すオディロン・ルドンとロートレックを中心とした展示になっています。ロートレックは、ポスト印象派あるいはアール・ヌーボーという大きな流れに属した画家として分類されますが、ルドンは、当時の新しい潮流だった印象派やポスト印象派とは一線を隔しました。印象派が光の移ろいや、筆触分割による鮮やかな色彩を追求したのに対し、ルドンは、当初その流れに敢えて逆行するかのように、モノトーンの作品を描きました。ところが、1890年代に一転して色彩を用いた作品を描くようになり、後半の画業では鮮やかなパステル画で知られます。今回の第二章では、色彩以前の黒(noir)のルドンに焦点を当てています。
 

ルドン気球_wiki
◇ 気球 1883年 50.0×35.0 cm 木炭、黒チョーク/紙

 この幻想的な絵画は、当時としては唯一といってよい空を飛ぶ手段だった気球を題材にしています。しかし、ルドンに手にかかると、単純に空を飛ぶ道具としての気球を超えた、幻想的な状況が描き出されます。気球の中に浮かぶ横顔を搭乗者と考えることもできますが、まるで電球のような気球自体が搭乗者の心の内面を表しているかのようにも見えてきます。
 ルドンは、空を飛ぶという気球がもたらす非日常性に着目していたものと思われ、よく知られる以下の作品では、気球を眼球に見立てた異様な状況をつくり出しています。


ルドン エドガー・ポーへ
◇ エドガー・ポーへ(奇妙な風船のように眼は無限に昇る)1882年 リトグラフ/紙 45.0×31.6 cm(ニューヨーク近代美術館、本展では展示されていません))

 ルドンのモノトーン作品の多くは、当時の文学作品から着想を得たものが多く、エドガー・アラン・ポーやギュスターヴ・フローベールなどの作家から大きな影響を受けました。これらの作品は、象徴主義の芸術家や文学者に評価されたため、象徴主義の画家として名声を得ることになったのです。


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ルドン

オディロン・ルドン―自作を語る画文集 夢のなかで – 2008/5/1

1894 Visions ルドン、ロートレック展 (日本語) – 2020/10/1
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プロフィール

Alex Del Piero

クラシック音楽とアート、サッカーが趣味。
好きな作曲家はワーグナー、ブルックナー、マーラー・・・
演奏家は、カラヤン、クライバー、クナッパーツブッシュ・・・
美術家は、ダリ、デ・キリコ、若冲、広重、会田誠・・・


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