横浜美術館で、企画展「ヌード NUDE -英国テート・コレクションより」が始まりました。ロダンの代表作《接吻》が初来日することで話題の展覧会で、テートが所蔵するヌードを題材とした絵画、彫刻、写真等が展示されています。

ヌード NUDE -英国テート・コレクションより

 テートは、角砂糖の事業で成功したサー・ヘンリー・テートが収集した同時代アートを展示するナショナル・ギャラリーの分館として19世紀末に発足しました。当初は、パリのリュクサンブール美術館を意識した同時代アートの展示をメインにしていましたが、ナショナル・ギャラリーから独立した現在では、むしろ、パリのポンピドゥーセンターのようなモダン・アートの美術館となっています。コレクションの増加と共に分館を増やしてきて、現在では、テート・ブリテン、テート・モダン、テート・リバプール、テート・セント・アイヴスの四つの美術館を統合する組織が「テート」と称され、所蔵品は、各館を定期的に巡回しています。

 展覧会の構成は、以下となっています。絵画だけでなく、ロダンをはじめ、かなりの量の彫像作品も展示されていて、広大なスペースを有する横浜美術館ならではのゆったりとした展示空間に、近代アートの彫刻がさりげなく展示されています。

1. 物語とヌード
2. 親密な眼差し
3. モダン・ヌード
4. エロティック・ヌード
5. レアリスムとシュルレアリスム
6. 肉体を捉える筆触
7. 身体の政治性
8. 儚き身体


 今回来日しているロダンの《接吻》は、アメリカ人の美術コレクター、エドワード・ウォレンから受注したエディションで、1898年のサロン・ド・パリに、最高傑作と言われる《バルザック記念像》と共に出品されたものとは異なります。ダンテの「神曲」のパオロとフランチェスカの悲恋を題材にしたこの彫刻は、当初からエロティック過ぎると評価されていたこともあり、「エロティック・ヌード」のコーナーに展示されています。ただ、個人的な感想を書かせてもらえば、むしろ神聖さすら感じさせる美しい作品です。ブロンズではなくて大理石であるところが、ギリシャ彫刻を想起させ、そう感じさせる一因となっているようです。
 

ロダン 接吻
◇ ロダン 接吻 

 絵画では、「物語とヌード」のコーナーに展示されているミレイの《ナイト・エラント(遍歴の騎士)》も、注目の作品です。物語と言っても詳細は判りませんが、ミレイは、この画の主人公を、「未亡人と孤児を守り、乙女たちを苦境から救うよう任命された遍歴の騎士(ナイト・エラント)」としています。発表当時は、囚われの女性が衣服を身に着けておらず、その描き方もあまりに迫真であると批判されました。しかし、筆者に言わせれば、金属の甲冑を纏ったナイトのスタイリッシュな剛健さと一糸纏わぬ女性の滑らかな肌との対比がこの作品のポイントであり、それによってこの美女の美しさが一層際立つ傑作です。近年のX線調査で、当初、この女性はナイトの方を向いて目を合わせていたのに、後になって向こうに顔を背けた表情に描き直したことが分かっています。確かに、ここで目を合わせてしまうと、全体の雰囲気が神話的になってしまい、奥深さが無くなってしまうと思われます。この場面では、ナイトの救済に感謝を表すより、そもそも裸体を曝しているのだから、顔を背けた恥辱の表情の方が現実的であるし、その横顔の表情こそが、この女性をより美しく昇華させています。ナイト・エラントがタイトルになっていますが、主役はこの囚われの女性の方であることは明らかです。


ミレイ ナイト・エラント
◇ ミレイ ナイト・エラント(辺連記の騎士) 1870年 油彩、カンヴァス 184.1×135.3 cm (220×170.8×16 cm w/picture frame)

 日本画家の下村観山は渡英した際にこの画に出会い、模写を試みていて、今日では、それが横浜美術館のコレクションになっており、今回同時に開催されているコレクション展にて観ることができます。


下村観山 ナイト・エラント
◇ 下村観山 ナイト・エラント(ミレイの模写) 1904年 



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ジョン・エヴァレット・ミレイ

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