《Organ²/ASLSP》は、《4分33秒》(*1)で知られるジョン・ケージ(John Milton Cage Jr.; ジョン・ミルトン・ケージ・ジュニア、1912 - 1992年)が1987年に作曲したオルガン曲です。表題には出来るだけ遅くとありますが、演奏様式が奏者の裁量に委ねられている「オープン・フォーム」(*2)で書かれており、演奏時間は、ごく短くもできるし、無限にも拡張できるといいます。これまでに、以下のゲルト・ザッハーの演奏のように、常識の範囲内で収まる演奏もあれば、何十時間にも引き延ばすものもあるようです。



◇ ジョン・ケージ: Organ²/ASLSP ゲルト・ザッハー(Org)

 しかしながら、演奏時間の長さにおいて傑出しているのは、ドイツ、ハルバーシュタットの聖ブキャルディ教会で2001年からスタートしている演奏、「ハルバーシュタット・パフォーマンス」です。聖ブキャルディ教会内に設けた特殊なオルガンにより演奏しているもので、総演奏時間が639年にも及ぶ演奏です。そのオルガンのコードが、去る9月5日、約7年(2527日)ぶりに変更されました。上のような演奏を全体の長さが639年になるように引き延ばすとなれば、一音一音の変化が年単位になるので、2001年の開始以来、コード変更が行われるたびに人々が集まってその様子を見守ってきました。これまでの音は7年も変化がなかった長い一音だったので、久しぶりの変更で大勢の人が集まるはずでしたが、新型コロナのおかげで、聴衆の数は限定されていたといいます。


聖ブキャルディ教会のオルガン
◇ Organ²/ASLSP ハルバーシュタット・パフォーマンス用の特殊オルガン


◇ ジョン・ケージ: Organ²/ASLSP ハルバーシュタット・パフォーマンス 2020年9月5日

 パイプが追加されて、コード・チェンジが行われると拍手が沸き起こり、こうなると、曲を聴いているというよりは(現実として聴き続けることは不可能)、まるで何かの儀式のようでもあります。

 シェーンベルクに師事したケージは、師から、「和声の感覚を持たねば作曲は出来ない。」と言われたそうです。和声感覚の欠如が、後の《4分33秒》を生み出す源泉となったのか否かはわかりませんが、シュルレアリストのマックス・エルンストやオノ・ヨーコも参加していたフルクサスとも関わるなど、現代アートの思想にも近い作曲家です。また、ダダイストやシュルレアリストと盛んに交流したエリック・サティ(1866 - 1925年)の《ヴェクサシオン》を、指示通り840回繰り返して演奏したのもケージであり、長時間演奏に執着していたものと思われ、今回の「ハルバーシュタット・パフォーマンス」は、ケージのインテンションを真っ向からくみ取った演奏だと言えるでしょう。

 次回のコード変更は、2022年の2月5日に予定されています。


【脚注】
*1: ピアニストがピアノの前に座ったまま、4分33秒間音を出さない、3楽章から成る無音音楽。
*2: アメリカの作曲家アール・ブラウン(Earle Brown, 1926- 2002年)が提唱した。


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ジョン・ケージ

John Cage Shock Vol. 1 ジョン・ケージ・ショック Vol. 1
武満徹 (作曲)他、高橋悠治 (Pf)他 形式: CD

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