スウェーデンの新型コロナ対策は、ロックダウンなどの強い規制を行わなわず、「集団免疫」獲得を目指すような方針をとってきました。しかし、ここへきて急激に感染者数が増加してきたため、スウェーデン王立歌劇場は、12月31日まで劇場を一時閉鎖すると発表しました。集団免疫獲得以前に、医療崩壊の危機が迫っているとの判断だと思われます。
 ただ、これまでまったく規制がなかったわけではなく、パンデミック初期の3月中旬から50人を超える集会が禁止されており、以来、コンサートの聴衆は50人に限られたままでした。王立歌劇場は一次閉鎖されましたが、同じストックホルムを拠点とするロイヤル・ストックホルム・フィルは、その制約下で活動を続けてきました。

ロイヤル・ストックホルム・フィルwebpage

 同楽団は、ストックホルム・コンサートホールをレジデントホールとし、歴代のシェフにはターリッヒやシュミット=イッセルシュテットが務めた歴史があり、現在は、アラン・ギルバートの後をサカリ・オラモが引き継いでいます。ノーベル賞の授賞式での演奏を担当してきたことでもわかるように、スウェーデンを代表する名門です。
 コンサートは、ホールに行けない人たちのために無料でオンデマンド配信されているので、遠く離れたわが国でも演奏を聴くことができます。最近公開されたのは、当代きってのワーグナー歌手の一人、ニーナ・シュテンメ(Nina Stemme)が登場したワーグナーとR.シュトラウスの演奏会で、指揮は、近年注目されている若手の女性指揮者カリーナ・カネラキスが担当しています。
 ストックホルム出身のシュテンメは、ワーグナーの歌唱はこうあるべきとでも言わんばかりに豊かな声量で「殿堂のアリア」を堂々と歌い上げ、「イゾルデの愛の死」では、情感豊かに、しかしこれもまた威風堂々とした歌唱で圧倒します。のびのびとした高域は衰えを知らず、安定した音程を保ち、アンコールで歌ったR.シュトラウスの《ツェツィーリエに》では、一転して、眩いばかりの世界感を描き出しました。シュテンメの歌唱は、そのドラマティックな点において、同じスウェーデン出身で、往年のワーグナー歌手のビルギット・ニルソンの系譜です。


989761130
◇ ワーグナー&R.シュトラウス: ニーナ・シュテンメ()、カリーナ・カネラキス/ロイヤル・ストックホルム・フィル(画像をクリックすると動画ページに移動)


ワーグナー:
     歌劇《タンホイザー》序曲
     歌劇《タンホイザー》から「殿堂のアリア」
     歌劇《タンホイザー》から「全能の聖母」
     楽劇《トリスタンとイゾルデ》から「前奏曲と愛の死」
R.シュトラウス: 《ツェツィーリエに》(アンコール)

 ̄ ̄ ̄
R.シュトラウス: 組曲《町人貴族》

 指揮のカネラキスは、シュテンメの伝統的なワーグナー歌唱に対して、オーケストラから瑞々しい現代的な音色を引き出していて、それが歌唱を見事に際立たせていました。伝統的なワーグナー歌手と新進気鋭の指揮者が互いを主張した、見事なコラボレーションといえるでしょう。カネラキスは、後半の《町人貴族》でも、クリアな音色をオーケストラから引き出し、R.シュトラウスの優美な音響を具現していました。


 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
ニーナ・シュテンメ

ワーグナー : 女声のための5つの詩 (ヴェーゼンドンク歌曲集) 他 [SACD Hybrid] [輸入盤]
ニーナ・シュテンメ (S), トーマス・ダウスゴー/スウェーデン室内管弦楽団

ワーグナー: 楽劇《トリスタンとイゾルデ》
ペーター・ザイフェルト (T), ニーナ・シュテンメ (S),
フランツ・ウェルザー=メスト/ウィーン国立歌劇場管弦楽団 形式: CD /div>
AD by amazon