今、東京・六本木のサントリー美術館では、鈴木其一の大回顧展が開催されています。其一は、目立たないながらも、酒井抱一の優れた弟子として頭角を表し後継者となった絵師です。山種美術館でも其一を数多く所蔵しているので、かねてから目にすることは多かったのですが、今回のように其一のみに絞った展覧会を観るのは初めてでした。

サントリー美術館 Web page


 其一の生い立ちは、江戸の染物屋の生まれであったというのがこれまでの定説でしたが、近年では、武家の出身説も出現しており、その人物像を含めて、はっきりとした記録がないそうです。先に放映されたNHKの日曜美術館では、抱一の弟子として長年仕えるなかで、絵の手腕は抱一に劣らないほどのものを持っていたために鬱屈したものがあり、それが其一の絵の毒々しいとも言えるような色彩に現れているという説を紹介していました。今回の展覧会で中枢を成す作品の《夏秋渓流図屏風》では、確かに、その色彩は、それまでの琳派のものとは異なる大胆でどぎついまでの色彩が際立ちます。


鈴木其一 夏秋渓流図屏風
◇ 夏秋渓流図屏風 (六曲一双)

 遠見だと、森林の奥深くに流れる清流を含む大自然の荘厳さを感じさせ、近くで観ると、精細に描かれた様々なモチーフが織り成す小宇宙を形成しているかのように語りかけてきます。流水の表現は、円山応挙の《保津川図屏風》からの影響が指摘されていますが、その奔放な色彩は応挙の絵には無く、極めて独創的です。絵の中央に近寄って観ると、左右の渓流が自分に向かって流れてくるようなダイナミックな描写になっていることに気づきます。そのダイナミックで色彩豊かな描写は、従来の装飾性に富んだ琳派の絵に新しい躍動感をもたらしたと言えそうです。こういった躍動感は、鬱屈した心から生まれるのでは無く、健全な創作意欲から生まれてきたものだと、筆者は思います。近見での極彩色の桜の葉は秋を感じさせるし、濃い青で彩られた流水には、山奥深い渓流の清らかさを感じさせる味わい深いものです。


鈴木其一 夏秋渓流図屏風
◇ 夏秋渓流図屏風 部分

 観者を圧倒するもうひとつの絵は、メトロポリタン美術館から里帰りしている《朝顔図屏風》で、こちらも《夏秋渓流図屏風》に勝るとも劣らない壮観さです。金地を背景にして朝顔一点をモチーフとしていて、意匠化された花冠が濃い紫色で彩色されて際立ち、観る者の目を釘付けにします。朝顔は蔓性の植物なので、通常、垣根などに絡ませて育成するものですが、ここでは、そういったものも描かれておらず、俯瞰して観ると、空中でうねるように浮遊する生き物のようです。日曜美術館では、《風神雷神図屏風》のコンポジションとの関連性に言及していましたが、紫の花びらと金地という色彩の対比においては、尾形光琳の《燕子花図屏風》との関連も見受けられ、確かに、そこには俵屋宗達に始まって脈々と受け継がれた琳派の流れを感じさせるものがあります。


鈴木其一 朝顔図屏風
◇ 朝顔図屏風 (六曲一双)

 しかし、近くで見ると、花冠などは綿密な写実を基にしていることがわかり、紫色から白へのグラデーションが透明感をもたらして神秘性を感じさせ、俯瞰して観た場合と異なる雰囲気を漂わせます。


鈴木其一 朝顔図屏風
◇ 朝顔図屏風 部分

 鈴木其一によるこれらの大画面描写は、明確に琳派の伝統をひきつぎながらも、その色彩の語法において、ポール・セリュジエが、代表作《タリスマン》で用いた大胆で鮮明な色使いに通ずるものがあり、言わば、琳派における総合主義として、ゴーギャンらを先取りしていたと言えるのではないでしょうか。

参考記事: ナビ派の創設者:ポール・セリュジエの風景画|フランスの風景 ―樹をめぐる物語 第三章


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   鈴木其一



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