サントリー美術館で開催中の「日本美術の裏の裏」、第一章の「空間をつくる」では、《武蔵野図屛風》という作者不明の屏風が展示されています。


武蔵野図屛風 右隻

武蔵野図屛風 左隻
◇ 武蔵野図屛風(上から右隻、左隻) 六曲一双 江戸時代 17世紀 各155.2×362.6 cm

前回記事: 狩野永納: 春夏花鳥図屛風|日本美術の裏の裏|サントリー美術館リニューアル記念

 江戸時代の武蔵野は、現在の東京都中西部から埼玉県南部周辺の地域にあたり、今の武蔵野市のあたりを中心として原野が広がっていたものと思われます。屏風には、今と違って高い建物も無く、遮るものが何もない草原の風景が描かれています。金の下地に秋の薄野が生い茂り、右隻には、その草の向こうの地平線の近くに満月が描かれ、左隻には、この地方のシンボルでもある富士がそびえます。富士を覆う雲は、霊峰の威容だけでなく手前の薄の繊細な縦のラインを際立たせ、全体として優美な空間を形成しています。

 古い和歌に、武蔵野を歌ったものがあり、それらは、この屏風に描かれているような草が生い茂る原野の情景を表しています。


武蔵野は 月の入るべき 山もなし
草より出でて 草にこそ入れ

武蔵野は 月の入るべき 嶺もなし
尾花が末に かかる白雲
(続古今和歌集より)


 この《武蔵野図屏風》は、現在藤美術館で開催中の企画展「THIS IS JAPAN IN TOKYO 〜永遠の日本美術の名宝〜」でも同じタイトルの屏風が展示されており、構図も描かれているモチーフも似通っていて、おそらく同じ作者によるものと思われます。



◇ 武蔵野図屏風  on 富士美術館webpage

画像出典: 筆者撮影

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