2007年07月11日

“ウニ、危機一髪!”

 僕の仕事部屋で、デスクの下に潜り込んだウニは、何やらゴソゴソやっていました。
 この古びた巨きなデスクは、五年ほど前から本来の任務をパソコン・デスクに奪われて、今では雑然と資料が積み上げられている、古紙の夢の島になっているのです。
 久し振りに仕事部屋に入ることを許されたウニは、いつもは入れない所ですから、たちまちマゼランやバスコ・ダ・ガマ、あるいはリビングストンみたいな冒険猫になって、未知の土地の探検に熱中するのでした。
ウニ1 ウニだけではなく、ほとんどの猫は、探検猫と冒険猫なんです。初めて見た物は、全て匂いを嗅いで、怪しい物は舐めるか噛んでみなければ、一人前の探検・冒険猫とは言えません。
 女房殿は猫と一緒に住むのが初めてですから、埃だらけになってデスクの下から顔を出したウニに、「危ない中国製の食べ物やアルカイダの爆弾とか、噛みつき亀なんて、何処にもいないから、貴方がいちいち噛んで確かめなくてもいいのよ」なんて言いました。
 ウニは髭の先につけた埃を、一度ブルンと振るわせると、「ママが安全だというのは、ヒトがでしょ?僕は自分が安全だと納得するまで、トコトンやらないと、グッスリ眠るわけにはいかないんです」なんて言うと、またデスクの下に、埃だらけの五キロのモグラみたいに潜り込んだのです。
 綺麗好きが高じると清潔症という病気になるのですが、本人は知りませんが僕は、女房殿が三度の清潔症だと、密かに診断しています。
 清潔症が三度だと、中国の主な都市、北京だとか上海には行けなくなって、四度になると香港も駄目になって五度まで進むと、もう横浜と神戸の中華街にも行けなくなるんです。世界中に綺麗好きなヒトは珍しくありませんが、汚いのが好きな「キタナズキ」は、中国人だけです。

 清潔症三度の女房殿は、ウェットティッシュを右手に持って、埃だらけのウニがデスクの下から這い出て来るのを、手ぐすねを引いて待っていました。
 その時、「グオンッ」という鈍い破裂音がして、デスクの下からウニが弾き跳ばされたのです。その途端に受信中だったファクシミリが、止まりました。
ウニ2 1.5メートルほど弾け跳んで、女房殿の足下に落ちたウニは、目を一杯に広げ、口は半開きにして虚脱していました。尻尾も太くはなっていなかったし、背中の毛も逆立ってはいません。だから、恐怖で虚脱したのではなく、ただびっくり仰天したのでしょう。
 ウニにしてみれば、デスクの下で突然、遭遇した事態は、一年二ヵ月の人生で初めてのことでしたから、弾き跳ばされても、一体、何が起こったのか理解できるわけはありません。
 これは異常事態ですから、足下に落ちたウニを、キレイキレイするどころではありません。握っていたウェットティッシュを床に置くと、女房殿はデスクの下に潜り込んで、すぐ千切れたコードを持って出て来ました。
 引っ張ったら、止まったファクシミリが揺れたのです。
 ウニがコードの匂いを嗅いで、怪しいとみて噛んだのに違いありません。きっとその前に慎重に舐めたのでしょう。
 「ウニは平気?感電したんじゃない?」女房殿が声を潜めて言いました。本当に心配な時には清潔症の患者は、大声で叫んだりはしないのです。
ウニには前科がありました。この一年二ヶ月の間に二度、女房殿のノートパソコンの細いマウスケーブルを噛み千切りました。ちょっと目を離した隙にやったようで、さぁ、パソコンを使おうと立ち上げてみると、マウスが使えなくなっていたのです。でも、犯行現場を目撃したのは初めてでした。
張本人のウニは、声が嗄れてしばらく動きが緩慢でしたが、それもせいぜい数時間のことで、すぐそれまで通り、可愛くて元気な猫になりました。
 僕は本来、内科か産婦人科の医師ですが、今は身過ぎ世過ぎで作家をしてますから、ファクシミリは聴診器みたいなもので、これがなければ仕事になりません。
 「うちの仔猫がコードを噛み千切って……」と僕が電話したら、すぐメーカーの修理のおじさんが来てくれました。おじさんは、こういう事はたまにあって、子犬が感電死してしまうこともあるんです、と言いました。
ウニ3 脳に百ボルトの電流が流れたお陰で、ウニは少しお利口になったと僕が言ったら、女房殿はキッと睨みました。
 ウニは感電しても不死身な、凄いスーパーキャットだということだけは確かです。

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この記事へのコメント

1. Posted by 優〜♪   2007年07月11日 20:50
5
ウニちゃんは凄い!最強ですね!
飼い主に似るんだな・・
でも本当に良かった。
ほっとしましたね。

おだいじに!


2. Posted by いちご大福   2007年07月12日 18:13
きゃあ〜、ウニちゃん、なんてことを〜!!
前科もあったなんて・・・
そんな大胆なことをする冒険猫だったのですね。

大事に至らずよかったです。

それにしても、三枚とも全く違う顔と姿のウニちゃん、
百面相&百面態猫のナイスショット!!!!
3. Posted by newgascooker   2007年07月13日 12:02
5 ウニちゃんが無事で何よりです。
弾き飛ばされたのが幸いしましたね。
コードを噛んだままで固まっていたら、死んじゃってたかもしれません。

仕事で何度か感電しましたが、痛いです。
狭い所に手を突っ込んで配電盤の中のブレーカーを上げようとした時は、手の甲が剥き出しの端子に触れて丸く焦げ跡が付きました。腕の毛が逆立っていたのが可笑しかったです。
仕事以外でも、バイクのスパークプラグを点検する時に感電しました。コイルで昇圧してあるので、腕にズドンときました。

猫に限らず、ネズミもケーブルを齧るのが好きなのだそうで、オフィスビルでは停電の被害が結構出ているそうです。
どこかの電力会社は、不味いケーブルを開発して被害を減らしたとか。どんな味なんでしょうか。
4. Posted by 青(せい)   2007年07月20日 15:40
はじめまして。
先日、読売新聞に連載されていたウニちゃんを見て、「うちのブランシュにすごく似ている」と思っておりました。ブランシュも小さい頃はほとんど白だったので、その名前をつけたのですが成長するにつれ、徐々に茶色っぽくなってきました。兄弟(茶、茶白)と新参者の子猫(推定3か月)と住んでいます。
写真のアドレス(あまり写りが良いのがないですが)のせてますのでお暇なときにのぞいてみてください。


それにしてもウニちゃん大事に至らないでよかった。
ところでウニちゃんの名前の意味ですが、唯一無二だからUniなんですよね?

5. Posted by ねこだま   2007年07月27日 10:55
5 はじめまして
今朝の毎日新聞に掲載されている記事を見て家族でびっくり!ウニちゃんに会いたくてさっそくお邪魔いたしました次第です。
それにしてもウニちゃん、危なかったですね。怪我がなくてよかった。
写真拝見しましたが、ホントに瓜二つで再びびっくり・・・足の裏の色とか、額のM字とか。しかもうちのは「ウキ」といいます。写真をお見せできないのが残念です〜

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