交通事故

1 交通事故による損害賠償請求事件の相談をするにあたって、準備すべき書類はどのようなものでしょうか

                                 文責  弁護士 松田達志

 交通事故当時の状況を言葉だけで正確に説明することは極めて困難です。そこで、法律相談を受ける際にはできる限りの客観的資料を持参することが有効です。
 このような資料としては、①交通事故証明書、②事故の状況を示す資料(警察の実況見分調書等)、③現場や被害状況の写真、④相手方の情報(住所、氏名、勤務先、電話番号、車種、車のナンバー、加入している自動車保険会社名、保険番号等)を記録したもの、⑤示談交渉をしていればその経過をまとめた資料、⑥診断書等が考えられます。
 ①の交通事故証明書は事故後直ちに警察に連絡しておかないと後で取得することが困難になります。
 ②の実況見分調書作成に当たっては、警察官に対して自分の主張を正確に伝えることが重要です。
 なお、実況見分の資料がない場合は自分で作成した図面等でも相談に役立ちます。
 また目撃者がいる場合はその供述を書面に残しておくか、少なくとも連絡先は聞いておくべきでしょう。
 ④の相手方の情報は、名刺等が入手できればよいのですが、そうでなくても相手からできる限りの情報を聞き出すようにすべきです。負傷している場合は速やかに病院で⑥診断書を作成してもらう必要があります。

2 交通事故損害賠償請求の示談を進める際に具体的に注意すべき点は何でしょうか

 まず、示談とは、事故の当事者同士が話し合って互いに譲歩して紛争を解決する方法です。
 示談は民法上の和解契約に該当しますが、いったん示談すると後で示談当時と異なる事実関係が判明しても原則として金額等の示談内容を争うことができなくなりますので注意が必要です。特に、加害者が刑事責任を問われているときに起訴猶予や略式手続を得るために低額の示談金で示談を急ごうとしている場合がありますので、慎重に対応する必要があります。
 また、示談は加害者の加入している保険会社の担当者が代行する場合が多いのですが、このときに保険会社の賠償基準にしたがった比較的低額の示談金が提示されることもあります。
 したがって、自分の判断で安易に示談に応じるのは危険ですので、加害者側から示談金額の提示があった場合でも法律相談を受けるべきでしょう。

3 示談交渉以外の交通事故紛争解決手段としてはどのようなものがありますか

 当事者間における示談交渉がまとまらない場合は、紛争処理機関を利用して解決していく必要がありますが、大きく分けて①裁判所外の紛争処理機関と②裁判所があります。
 ①としては、代表的なものとして、(財)日弁連交通事故相談センター、弁護士会仲裁センター、(財)交通事故紛争処理センター、(財)自賠責保険・共済紛争処理機関があります。いずれも専門家が関与して和解のあっせんや仲裁判断、裁定等による解決を目指すものですが、各機関にはそれぞれ特色がありますので、どの機関を利用するかについては、法律相談を受けて弁護士の助言を受けるべきでしょう。
 ②としては、調停と訴訟がありますが、調停は裁判所が関与するものの強制的に紛争を解決する手続ではありませんので、事故原因や過失割合、損害額や後遺症の程度等に関して大きな主張の違いがある場合には最終的に訴訟によって解決していくことになります。
 調停や訴訟においては弁護士を代理人として主張、立証を厳密に行っていく必要がありますので早めに法律相談を受けるべきでしょう。

4 損害賠償請求の相手方(損害賠償義務者)は誰でしょうか

 交通事故により他人に死傷等の損害を与えた者は、損害賠償義務者としてその損害を賠償しなくてはなりません。
 人的損害の場合は、①運転者、②使用者の外に、③運行供用者が損害賠償義務を負いますが、物的損害のみの場合は、①運転者と②使用者のみが賠償義務者となります。運転者とは、実際に事故を起こした車を運転していた者のことです。
 なお、運転者が未成年者の場合でも責任能力(一般的に12歳程度の知能に達している場合といわれています)があれば未成年者本人が運転者として責任を負います。この場合に、親権者等に過失があり、損害との因果関係が認められれば親権者等の責任を追及することもできます。
 使用者とは、運転者を被用者として使用していた者のことで、被用者が事業の執行について第三者に加えた損害につき、被用者とともに賠償責任を負います。
 運行供用者とは、自動車損害賠償保障法3条の「自己のために自動車を運行の用に供する者」のことで、人的損害に限り被害者保護の観点から特別に賠償責任を負います。
 具体的には、自動車の所有者、レンタカーの貸主、家族間で子ども名義の車の維持費等を負担している親、従業員が会社の車を無断で運転した場合の会社等が運行供用者として認められています。

5 損害賠償請求ができるのは被害者本人のほかにどのような人でしょうか

 傷害事故の場合は、まず被害者本人が損害賠償請求するのが原則です。
 ただし、本人が未成年者の場合は行為能力が制限されており単独で示談をすることができず、訴訟能力がありませんので訴訟手続をとることもできません。
 そこで、親権者等の法定代理人が未成年者に代わって請求手続等をすることになります。本人が成年被後見人等の場合も同様に成年後見人等が代わって請求することになります。
 なお、本人が死亡しなくても、重大な障害により死亡したのと同視できるような精神的苦痛を受けた一定の近親者(父母、配偶者及び子)は、慰謝料を請求できます。
 次に、死亡事故の場合は、原則として死亡者の相続人が請求権者となります。死亡による逸失利益(死亡により得ることができるはずだった利益が得られなくなった損害のことです。詳しくは第6問をご参照下さい)についても相続人に相続されるというのが判例の立場だからです。相続人以外では、死亡者に対して扶養請求権を有している者(内縁の妻等)、死亡者の葬儀費用等を負担した者(負担額のみ)も請求権者になります。
 なお、死亡による慰謝料請求権についても判例は相続を認めていますが、死亡者の父母、配偶者及び子は民法上独自の損害賠償請求権があります。

6 損害賠償請求できる損害の範囲はどこまででしょうか

 交通事故によって生ずる損害は、大きく分けて人的損害と物的損害がありますが、人的損害は、傷害によるもの、後遺障害によるもの、死亡によるものでそれぞれ請求できる損害費目が違ってきます。
 人的損害は、財産的損害(治療費、逸失利益等)と精神的損害(慰謝料)に分けられ、財産的損害の中で、治療費等実際に支出したものは積極損害、休業損害・逸失利益のように本来得られるべきものが得られなかったものを消極損害といいます。  
 以下、具体的な事故の種類ごとに、請求できる損害項目を概説します。
 まず、傷害事故の場合は、人的損害として、治療費、マッサージ等の費用、看護付添料、入院雑費、通院交通費、医師等への謝礼(以上は積極損害)、休業損害(消極損害)、慰謝料等が請求できます。
 さらに、後遺障害がある場合は、さらに、介護料(積極損害)、後遺障害による逸失利益(消極損害)、後遺症による慰謝料(傷害によるものとは別のものです)が請求できます。
 死亡事故の場合は、死亡による逸失利益(生存していた場合、将来得られたはずの収入から本人の生活費を差し引いて中間利息を控除した金額、消極損害)、葬儀費(積極損害)、死亡による慰謝料等が請求できます。
 物損事故の場合は、請求できる損害額は、車両全損の場合は事故時の時価、一部破損の場合は修理代が基本です。
 ただし、一部破損で修理代が車両時価より高い場合は例外的に時価が損害額になります。

7 被害者にも過失がある場合にはどのように扱われるのでしょうか

 交通事故による損害賠償請求事件は、法律的には民法の不法行為に基づくものですので、被害者の過失がある場合には、公平の観点から損害賠償額が減額されます。
 なお、この減額をするためには、被害者自身に事理弁識能力があることが前提になりますが、事理弁識能力がなくても親等の過失が考慮されて減額されることもあります。これを「過失相殺」といい、具体的には、例えば加害者の過失が7割、被害者側の過失が3割とすると、全体の損害額の3割に相当する金額が減額されることになります。
 過失相殺における一番の争点は、具体的な過失割合の認定をどのように行うかです。過失割合については、典型的な交通事故の類型ごとに過去の裁判例を基準としていくつかの認定基準が明らかにされています。
 代表的なものとしては、日弁連交通事故相談センター作成の過失相殺基準表、東京三弁護士会交通事故処理委員会作成の過失相殺基準表等がありますが、かかる基準によっても当事者間で過失割合について合意が得られない場合は、最終的には裁判において裁判官が合理的裁量により決定することになります。
 加害者が過失相殺を主張した場合、裁判において過失割合を立証する資料が重要になります。被害者側としては、当該交通事故の刑事記録に含まれている実況見分調書、現場見取図、加害者・被害者・目撃者の調書等が、自己の過失がなかったことや加害者の主張する過失相殺が認められないことを証明するための有効な証拠となります。

8 交通事故損害賠償請求事件において使われる保険にはどのような種類のものがあるのでしょうか

 被害者が加害者に損害賠償請求権を行使して認められても、加害者に支払能力がないと被害者が保護されません。
 そこで、自動車損害賠償保障法という特別法により、傷害事故では120万円、後遺障害事故では4,000万円、死亡事故では3,000万円までは加害者の支払能力を保障し、被害者は損害賠償を受けることができるようになっています。これを自動車損害賠償責任保険(自賠責保険)といい、自動車の所有者はこの保険に加入することが法律上義務づけられています(強制保険といいます)。
 自賠責保険による賠償は、人身事故に限られており、自動車や建物等の物損事故には適用されません。請求の方法としては、加害者が被害者に損害賠償金を支払った後に、加害者から保険会社に保険金を請求する「加害者請求」と、加害者からの賠償金支払いが期待できない場合等に被害者から直接保険会社に請求する「被害者請求」の二種類があります。被害者が生活費や治療費に困っている場合は、保険会社に仮渡金の請求をすることもできます。人身事故の損害額が自賠責保険の限度を超えている場合や、物損事故の場合、被害者のみの過失の場合等は、自賠責保険では損害をカバーすることはできません。
 このような場合に備えて、車の所有者が自分の判断で保険会社と契約する保険を任意保険といいます。任意保険には、多くの種類がありますが、代表的なものとしては、賠償保険(対人賠償保険と対物賠償保険があります)、車両保険、搭乗者傷害保険、人身傷害補償保険等があります。
 なお、加害者が対人賠償保険に加入している場合には、この保険会社から、自賠責保険金を含め、一括して保険金が支払われる制度が導入されています。

9 損害賠償請求権はどのくらいの期間で時効により消滅してしまうのでしょうか

 加害者に対する損害賠償請求権は、損害と加害者の双方を知ったときから3年間のうちに権利を行使しないと民法上の消滅時効か完成し、相手が時効を援用すると請求が認められないことになります。
 損害及び加害者を知らなかった場合でも、交通事故発生時からから20年経過するとやはり損害賠償請求権は消滅するのが原則です。
 なお、自賠責保険による保険金を保険会社に請求できる権利に関しても、消滅時効の適用があり一定期間経過すると請求ができなくなります。
 具体的には、加害者請求の場合は被害者に賠償金を支払ったときから2年、被害者請求の場合は原則として事故発生時から時効中断事由がない限り2年経過すると請求できなくなります。時効の期日が迫っているときは、被害者としては時効中断手続をとる必要があります。時効中断事由としては、裁判上の請求(訴訟提起)や調停申立、加害者の債務承認等が法律上規定されています。単に内容証明郵便で支払を請求しても裁判上の請求としては認められませんので、6ヶ月以内に訴訟提起等をしないと時効が完成してしまいますので注意が必要です。
 また、(財)交通事故紛争処理センターへの和解あっせんの申立をしても法律上の時効中断事由には該当しません。

10 交通事故損害賠償請求事件にかかる弁護士費用はどのくらいでしょうか

 まず、弁護士費用には、事件に取りかかる際にお支払い頂く着手金と、事件解決時に成功の度合いによってお支払い頂く報酬金があります。
 交通事故による損害賠償請求事件では、相手に請求する具体的な賠償金額を経済的利益として、別表(「民事事件の着手金及び報酬金」)により算出した額が弁護士費用となるのが基本です。
 具体的な弁護士費用の算定については、詳しくは法律相談の際にご説明致します。
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