(文・絵:三芳悌吉 1976/福音館書店)
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(※ネタバレあります、ご注意下さい)
"生き物関係の自然科学絵本"を集めていた頃、出会った「生き物を描く」作家の中で特にお気に入りだったのがこの三芳悌吉氏による「おおさんしょううお」。すでに亡くなられている方だけれども、昔の画家ならではの基礎のしっかりした、そして対象となる(氏が嗜好する)生き物に対する愛情が指先から絵筆に流れ伝わる素晴らしい描写力。その実直な技術をバックに、この作品で展開されるのは…おおさんしょううおが瑞々しく生息する環境風景と、かつての時代の日本の田舎の暮らしと自然。柔らかいタッチに、時にシックにさえ感じるやや渋みを持つ絶妙な色彩。
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(天然記念物指定であっても)一見、グロテスクな風貌にも見えるおおさんしょううおは、淡々と生の営みを遂行する。やがて時代が変わり川の水も汚れて暮らしにくくなったらもっと上流まで登っていって穏やかな環境を見つける。その姿が何とも慎ましく見えてしまう。勝手に人間が環境を変化させているだけでそこに暮らす様々な生き物たちは文句も反抗もせず、ただただ(死んでいくものもいれば)もっと暮らしやすい所を求めて生き延びていく。この絵本で描かれる昔の日本の田園風景と川の生き物たちの絵を見ているだけで自分の遠い子供の頃の記憶を浮き上がらせる普遍的な郷愁がある。ずっとやさしい文体にも心が染みる。
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