中東の窓

長年、日本の外交官として中東に深く関与。中東から見た国際関係を日々発信するブログ。

2012年08月

ムルシー大統領のスピーチ(ペルシャ語への通訳問題)

ムルシー大統領の非同盟首脳会議でのスピーチに対する反響については、先ほど書きましたが、イランではもち路のこと非常に異なる反応があった模様です。
30日のal arabiya net 及び31日付のy net news は、イラン国内向けのtv及びラジオ放送のペルシャ語への同時通訳が、ムルシーのスピーチの肝心のところを捻じ曲げて報じた、前代未聞の出来事であると報じている。
要するにムルシー大統領のスピーチが、あまりにイラン政府の公式見解と異なるので、国内向けには偽の通訳を聞かせたという訳です。
それによると、ムルシーがアサド政権は正当性がないと指弾したにもかかわらず、同時通訳はこれらの攻撃を通訳せず、逆に「我々はシリアの正当政府を支持しなければならないと嘘の通訳をしていて、またムルシーがアラブの春と表現したところをバハレンの春とこれまた嘘の通訳をしたとのことです(バハレンでのシーア派の抵抗運動がイランの支持・・バハレン政府は支援を受けていると非難しているが・・を受けていることは周知の事実で、アラブをバハレンと取り換えた理由はそこにあると思われるが、放送を聞いたイラン人は、ムルシーはバハレンという言葉を3回も使ったと言っていた由)
さらに(これはスンニ派とシーア派の協議争いに関心のない私などにはよく理解できないところだが)彼のスピーチから正統カリフ(預言者の死後イスラム共同体が選んだ最初のカリフ・・後継者・・アブ・バクル、オマール、オスマン、アリの4名を正統カリフと呼んでいるが)の名前をスピーチから削ったとのことです。

取り敢えずの記事の要点は以上で、この問題はイラン以外では問題にもならないような、いわゆるエピソードの類と思われるが、イラン当局がここまでえげつない措置をとったということは、表面を糊塗したやり方にも拘らず、ムルシー大統領のスピーチが(特にイランで行われたという点で)イランにとっては非常に問題な、ある意味では歴史的なものであったことを物語っていると思われます。
http://www.alarabiya.net/articles/2012/08/30/235169.html
http://www.ynetnews.com/articles/0,7340,L-4275363,00.html

ムルシー大統領のテヘラン訪問

ムルシー大統領がテヘランを訪問し、非同盟首脳会議でシリアに関して厳しく批判し、アサド大統領の退陣が必須とのスピーチをしたことは昨日お伝えしました。
ムルシーのテヘラン訪問について、al jazeera net は2の記事を掲げています。
一つはイランとの関係で、彼のイラン訪問はイラン革命後エジプト首脳として初のもので、2国関係に鑑みれば極めて勇気のある行為で、イランでも高く評価されているが、イランとの外交関係再開については、ムルシーは非同盟会議の開会式後アハマディネジャードと会談したきりで、帰国の途に就いたと報じていて、2国間外交関係」再開にまでは至らなかったと報じています。
但し、同放送の特派員はエジプト御随行員及びイラン関係者から、今回の訪問は非同盟の議長としてのものであったが、中東における 両国の重要性からも、今後両国関係が正常化することは当然のことで、今後徐々に関係改善が進むだろうととのコメントを得ている由。
もう一つの記事は、ムルシーのスピーチそのものに対する、エジプトマスコミ等の反応で、一般的に極めて好意的で、革命エジプトとしてシリア革命を支持し、アサドの退陣を求めるということをテヘランで発言したことは極めて勇気のある行為で、パレスチナに関する言及と合わせて、今後エジプトが地域問題についてイニシアティブをとっていく覚悟の表明で、従来みたいな受け身の外交ではなくなるだろうとのコメントを伝えています。

双方とも、まずは予想されたコメントで、極めて好意的なコメントですが、ついでに個人的なコメントも書いておきます。
個人的にも、今回のムルシーの外遊は、中国とイランを選んだ点で、従来のエジプト外交とは異なることを示したものといると思います。
特に非同盟の議長とはいえ、シリアへの支援、核開発問題で米国が最も敵視しているイランを訪問したことは、エジプトの独自性を強調したものと言えよう。
他方、シリアに関して極めて厳しいスピーチ(シリア代表は退席した)を、イランのアハマディネジャード大統領のまさに横で、行ったことは、ある意味では敵の巣窟に乗り込んでその最も嫌がる発言をした、ということで極めて勇気のある行為だと思われるが、それよりも大統領のイラン訪問と抱き合わせて考えると、絶妙なバランスのパフォーマンスと思われる。
おまけに、訪問直前にシリア問題について、イラン、トルコ、サウディ、エジプトからなる地域勢力会議を開催することを提案していることと合わせると、単なるパフォーマンスではなく、今後エジプトが何らかの具体的動きを示す予兆とも思われる。
いずれにしても、今回のムルシーの外遊は、ムスリム同胞団という国政の経験の全くない組織の大統領が行ったにしては、実に見事なバランスのとれた、それでいてインパクトの強い外交で、この外交一発でエジプト外交の今後に対する評価を大きく変えるくらいのものかと思われる。
あまり報道はされていないが、中国訪問に多数の実業家も伴い、多くの協定も結んだことは、今後エジプト経済の立て直しのためにIMF,サウディ、欧米等の支援を必要としているエジプトとして、ある意味で中国カードをつらつかせたともいえるかもしれない。
これほどインパクトの大きい首脳外遊はあまりないともいえるくらいかな、と言えば評価のしすぎでしょうか?
日本にもムルシーのような指導者が欲しいと言えば、それはあまりに言い過ぎということでしょうか?
http://www.aljazeera.net/news/pages/6e493abe-52c8-4a30-a2bf-e3c5c33c9fee?GoogleStatID=9
http://www.aljazeera.net/news/pages/c946a0ac-31b9-42be-89bd-4abf4595395e?GoogleStatID=1

シリア情勢(安保理審議)

30日付al jazeera net は緊急報として、国連安保理が30日シリアに関する審議を始めたと報じています(昨日のブログで9月6日からと書いたのは、うっかり曜日を忘れていて・・山にこもっていると毎日が日曜日!・・昨日が木曜日であることを忘れていて、木曜日というのは来週のことか、と勘違いしたというお粗末さまでした。訂正します)。
記事によると、安保理ではシリア国内への(おそらくそのトルコとの国境地帯と思われるが)安全地帯の設置問題が提起されているとのことで、トルコの外相はシリア国民の苦難を救うために、シリア領内への安全地帯への設置が不可欠であるとしながら、トルコは既に8万人の難民を受け入れ、毎日4000人の難民が到着しつつあると苦境を訴えたが、トルコとしては今後も難民を受け入れる用意があるとした由。
他方英仏外相はシリアの人道問題に対処するためには、シリア領内への安全地帯の設置が不可欠であると強調した由
(この安保理は閣僚レベルとされているが、米、露、中国等も外相が出席しているか否かは不明)
他方、国連事務総長補は、安全地帯の設置には種々の問題があり、慎重に検討されるべき点が多いと指摘した由(アサド政権の反対の意向、ロシア、中国のネガティブな態度に鑑み、国連事務局としては慎重な検討を求めたものと思われる。もちろん安全地帯の性格等にもよるが、従来のロシア、中国の態度からすれば、そのような決議案が出てくれば、両国が拒否権を使うことになるのではないか?また、拒否権の対象にもならないような曖昧な妥協の産物の安全地帯が設置されれば、その実施で一番苦悩することになるのは事務局なので、自然慎重な立場を示したと思われる)
http://www.aljazeera.net/news/pages/fe65ca52-cff5-4860-988d-1d25f7065d45?GoogleStatID=1

シリア情勢(30日)

30日のシリア情勢につきアラビア語メディアのネットより取りまとめたところ次の通りです。

・30日、シリア各地で死亡したものの数は100名にぼるるが、その大部分はダラア、イドリブ、ダマスおよび近郊であった。
・政府軍はアレッポ、イドリブ、ホムス、ハマ、ダラア及びダマス近郊で政府軍は激しい砲撃を行っている。特にダマス近郊では攻撃ヘリが爆撃を加えている。
・イドリブ郊外の町arihaで政府軍は45名の新たな虐殺を行った。
http://www.aljazeera.net/news/pages/3e4cc878-b68f-437a-a394-c99f93cb0f88?GoogleStatID=1
http://www.alquds.co.uk/index.asp?fname=latest\data\2012-08-30-09-14-08.htm
・軍病院のAFPに対する発言では、抵抗運動開始以来、政府軍及び警察等治安関係者の死者は8000名を超えた。
http://www.alquds.co.uk/index.asp?fname=latest\data\2012-08-30-13-35-44.htm
・国際人権団体ヒューマンライツウオッチは、30日、少なくともアレッポで過去3週間のうちに、シリア軍がパン屋に対してまたはその近くを砲爆撃したと非難した。(パン屋に対する砲爆撃については既に報告済みです)
http://www.alquds.co.uk/index.asp?fname=latest\data\2012-08-30-13-48-07.htm
・先月離反した元国防相の息子のタラス准将は、最初のメディアとのインタビューで(ワシントンポスト)、アラウィ派の人々がアサド政権と一緒に自殺しないように説得活動を続けていると語った。
タラスはまた、自由シリア軍と政府軍にありながら離反する用意もある将兵との間に信頼の橋をかけることが必要で、それができなければシリアは混乱と内戦に陥るであろうと述べた。
タラスはまた彼の離反に関し、アサドが殺戮に加担し、シリアを有効に支配できないことが明らかになったからであると述べた。
http://www.alquds.co.uk/index.asp?fname=latest\data\2012-08-30-13-49-33.htm

ムルシー大統領のシリア非難(非同盟首脳会議)

非同盟首脳会議は30日よりテヘランで開催されていますが、その開会式で挨拶したムルシーエジプト大統領は(エジプトは現在の非同盟会議議長。今後イランが議長となる模様)、シリア政権について、専制主義で、正当性を喪失しているとして、自由な民主国家を求めるシリア国民の要求を支持することは、道徳的な義務であり、エジプトはその平和的解決のために、いかなる勢力とも協力の用意があるとの演説を行ったとのことです。
これに対してシリア代表が抗議のために退席したとのことです。

他方、ハメネイ最高指導者は開会式のあいさつで、シリアには触れず、イランに対する西側諸国の制裁を非難したとのことです。

以上 al arabiya net と aljazeera net  が報じるところですが、ムスリム同胞団出身のムルシー大統領として、シリアのアサドを非難することは論理的ではありますが(アサド父以来シリアのバース党とムスリム同胞団は不倶戴天の敵で、アサド父の時にハマを中心に反乱を起こした同胞団はアサドの弟の率いる特殊部隊のために徹底的に虐殺されたことがあった)、非同盟の議長という職務を利用して、アサドの最大の支持者のイランの首都で、アサドの退陣を呼びかけたムルシーはなかなかの役者だと思います。

http://www.alarabiya.net/
http://www.alarabiya.net/articles/2012/08/30/235116.html
livedoor プロフィール
最新コメント
記事検索
  • ライブドアブログ