後藤さんの消息は依然不明ですが、彼の無事釈放を祈りつつ、これまで感じていた人質事件と日本の反応に関する、完全な個人的意見を書いておきます。

このような個人的意見にどのような意味があるのか、若干疑問ですが、今後似たような日本人を対象にした事件が起こらないように、又起きた場合でも対処を誤らないように、との願いをこめたものです。

1、この事件はあらためて、如何に日本がテロに弱い国で、テロが起きた場合の反応が欧米のそれと違っているかを教えてくれたと思います。

2、このような人質事件が生じた場合の最重要なことは、国民、というよりはマスコミや野党等が、直接交渉している政府の背後に結束して、不用意な発言を慎み、ましてテロリストを利したり、交渉を妨げるような不必要な発言をしないことだが、その点で今回も日本は極めてテロに弱いことを見せつけたと思います。

3、TVや新聞等のマスコミの取り扱いに問題があることは、その一部について先日、私の違和感を書いたところですが、それよりも問題なのは一部国会議員の発言ではないでしょうか?
国家議員となれば、国民から選出され、国政を託された人物たちですが、そのような人物がテロリストと交渉している最中の政府の政策に反対を唱えたり、まして身代金の支払いなど言い出すようでは、交渉中の政府は背後から鉄砲を撃たれたようなものです。
その点で自分の党の議員の発言をたしなめた、共産党委員長の采配は、共産党ながら立派だったというか、当然の行動だったとおもいます。

4、当然イデオロギーが違ったり、利害が違えば、政府とは異なる、場合によっては反対の意見をもつことは当然ですが、そのような意見を披露するのは、このような時期ではなく、事件が無事解決した後で行うべき事です。
そのような意見が出てくることは、テロリストから見れば、まさしく思うつぼで、その政治的目的を達しつつあることとなり、彼らが計算を間違えば、要求を更に上乗せしたりして、折角の交渉を頓挫させかねません。
特にことが身代金の問題になれば、場合によっては折角何処かで折り合いがつきそうになっていたものを、先方が急に要求を上乗せして、交渉がとん挫して、人命にかかわることにもなりかねません。
もちろん、私にはどういう交渉、接触が行われていたのかいるのかは、一切判りませんが、いくら秘密保持の苦手な我が政府といえども、野党の議員やマスコミに手の内を見せているとは思われず、彼らも接触の中身を知らずに批判していることは間違いないと思います。
交渉している当時者は全責任を負って交渉いているので、交渉が失敗したときの責任を負うのも彼らですが、それを責任ももたない外野が、がやがや言いたてることは百害以外の何ものでもないと思います。
政府の中東政策や外交政策に異論があったり、交渉の方針及びやり方に文句があるのであれば、それは事件が無事解決した後で、厳しく追及すべき問題であって、現在のような最高に機微な時期に発言する問題ではありません。

5、マスコミの対応にも大きな問題があるように思われます。
TVでも新聞でも、大体いわゆる中東専門家と危機管理専門家と称する人たちから意見を聞いたり、発言させており、事件の性質からしたら、それは当然のことですが、彼らもまたマスコミからの期待に応えてか、その発言には問題のあるものが少なくないように思います。
中東専門家については、先日彼らが具体的な根拠もなしに中東と日本の関係について発言する問題について指摘しましたが、そりよりも問題なのが、彼らの中には危機管理問題、要するに交渉の中身等についてまで発言する者がいることです。
彼らはあくまでも中東についての専門家、研究家であって、切ったはったの危機管理に関係したこともなければ、その研究家でもないと思います(そのような人もいるのかもしれないが)。そのような人が、具体的交渉の中身などについて注文をつけることは、専門外のことについて口を出すというだけではなく、国民を惑わせたり、交渉にさえ悪影響を与えることになりかねないと思います。
また危機管理専門家と称する人たちの発言にも問題があるような気がします。
彼らが一番承知していることだと思いますが、こういう時期には交渉に予断を与えたり、テロリストを利する言動を慎むことが危機管理の要梯であることは言うまでもありません。
従って、彼らの役割は危機管理の心得や、一般的な危機管理についての説明が主となるべきで、現在行われている交渉については
  テロには屈しないという原則と人命第1の原則の中で最大限の努力をすべきこと
  政府の交渉が成功して人質は一日も早く解放されるべきであること
等の原則論にとどまり、交渉の中身を詮索したり、示唆したりすることではないはずです。
それは正しく交渉に悪影響を与えかねない内容です。

6、このような議論をすると、マスコミとしてはそれでは事情を知りたがっている国民の期待にこたえる事にはならないので、とにかく事情通からできる限りの情報を出してもらっている、という反論をするに決まっています。
しかし、交渉に悪影響を与えかねない議論を紹介しなくとも、現在日本のマスコミが(こういう時になると突然中東に関する知識と能力を示しだすが)やっているように、ISがなにをやってきたか、如何なる組織であるか等の情報や、世界中のテロの情報やら、シリア、イラク情勢から始まって、エジプト情勢、リビア情勢、イエメン情勢等等、国民の期待にこたえる情報提供はいくらでもできるし、事件に関しても、なにも交渉の内幕を詮索したり、その内容について示唆したり、主張したりするような非常識な報道をしなくとも、これまでも二人の軌跡や、彼らと関連した現地人のフォロー等、いくらでも重要な情報は提供できると思われます。
また、取材の経緯から、今回の事件には政府が相当の責任があるという結果になっているのであれば、それは事件解決後、いくらでも気のすむまで追求したら良いと思いますが、そのような議論は(自らしなくとも専門家に語らせる手法でやっても)現在展開すべき時期でないことは明らかでしょう。

7、今回の事件を通じても、ISが相当日本の体質を熟知しており、何処をつけば日本社会のやわさが出るのか知っていた上で、事件を起こした気がしてなりません。
また、彼らは国内で、例えば政府の中東政策に反対する議論を起こしたことで、既にかなりの成功を収めており、さらには、中東でこれまで日本と最も関係の深かった国の一つであるヨルダンとの関係にまでひび割れを起こさせ様としていると思います。
(そんなことはあり得なかったでしょうが)仮に日本が言われるままに,2億ドルもの身代金を支払っていたら、米国との間のひび割れの可能性もあったと思います。
後藤さんが無事釈放された後で、日本がなすべきことは、今回の事件を包括的に総括し、テロに弱くない国家になるにはどうすべきか、真剣に考えるべきではないかと思っています。
そうでないと、既に払った一人の人の命も無になる気がしてなりません。