中東の窓

長年、日本の外交官として中東に深く関与。中東から見た国際関係を日々発信するブログ。

アラブ

アラブ高校生の試験

大学も定期試験も終わり、採点という大仕事が待っていますが、今でも定期試験の時期になると想い出すのが、アラブにおける高校生の試験です。
と言っても高校生の試験に立ち会った訳ではなく、またアラブと言ってももせいぜいシリアとエジプトくらいですが、なぜそれほど印象深かったかと言うと、とにかくアラブでは高校生と言うと結構顔つきも言うことも大人です。
その高校生がこの時期になると、夜公園で教科書を片手にぶつぶつ呟きながら行ったり来たりを繰り返しています。どうしたのかと思って聞いてみたら、これが試験勉強で、要するに教科書を片手に持って、内容をぶつぶつ口の中で呟きながら、行ったり来たりして丸暗記するのだそうです。
どこかで聞いたことがあるが、丸暗記をするには口に出したほうが効率がよく、また歩きながら行ったり来たりも、特に夜の涼しい時には、効果があるのだそうです。
確か前にアラブ開発報告をご紹介しましたが、その第1回の衝撃的な報告がアラブの教育、文化の立ち遅れでしたが、その中でやり玉に挙げられていた教育の問題の一つが、高校生以上の中高等教育での暗記主義、詰め込み主義だったと思います。
要するにそのような教育方法が、自分で物事を考えたり、柔軟な思考をする大きな妨げになっていると言うことだったと思います。
さぞかし強い印象だったと思うのですが、何故か今でも、試験の採点をしながら、時々ふとアラブの高校生が暗い公園を教科書片手にうろうろする姿を思い浮かべることがあります。

アラブの再生

先ほど国連のアラブ人間開発報告に関するeconomist誌の記事を紹介しましたが、なぜこんな無味乾燥な記事を大きく取り上げたか、若干疑問に思う方もいると思うので、その背景を少し説明したいとおもいます。

要するに、これらの議論の背景は、その昔欧州が野蛮で毛皮を着て(と言うのは若干大げさか?)キリスト教のドグマに縛られて文化も科学も閉塞していた時に、文化の花を開かせたイスラム文化が、その後欧州文明に大きく後れを取ったのみならず、その差がますます開いて行っている。それをアラブ人は植民地主義にすべて責任を押し付けているが、独立を果たし、さらには石油ショックで大規模な資金を先進国から巻き上げた後も、むしろ格差は開く一方で、更には東アジアとかの新興地域にさえ差をつけられている、これはどうしたことかというのがそもそもの発想だったようです。

その昔、中東、アラブ諸国に居ると、よく聞かれた質問は、同じころに近代化を始めた日本と中東で(エジプトのムハンマッドアリ、オスマントルコの近代化努力その他)、日本は成功して見事先進国の仲間入りをしたのに対して、中東の国はどうして近代化できないのだろうか、というものでした。

その当時の問題であれば欧州帝国主義の犠牲として説明もできたかと思うが(事実自分を反省せず常に人に責任転嫁する中東の連中は今でもそう固く信じているが)、独立後時間もたち、そろそろ自分たちの内在的問題を真剣に研究すべき時と思うのに、そのような真摯な努力がはらわれた形跡はなく、その結果、いまだに中東諸国の問題は解決されるどころか、ますます悲惨になり、今やインドや中国にも置いて行かれつつあるという状況です。

その文化面での検証が第1回のUNDP報告で、そこではアラブ諸国の書籍の出版数、外国書籍の翻訳数、知的財産権、ノーベル賞の受賞者数等要するに文化、科学、教育の面で比較できる数字があげられ、どの面でもアラブ諸国が救いようもないほど遅れていて、21世紀の世界的な知的活動からはるかに置いて行かれつつある実態が浮き彫りにされていました。

そのためその報告書はアラブ諸国に大きな衝撃を与えた(だからと言って大きな改善があったとは全く思えない)のだが、今回はもう少し問題を絞り、問題はアラブ諸国の政府にあるということをかなり大胆に問題提起しています。

今回も「馬の耳に念仏」にならなければいいと思うのですが、アラブの国については決して楽観してはいけない、というのが実経験から得た考えです。

眠りから覚める?アラブ世界  economist誌記事

本日のeconomist電子版はUNDPのアラブ人間開発報告5を引用しながら、アラブ諸国はその歴史的、文化的な伝統、石油資源等にかかわらず、如何に国民(市民)の安全、健康、経済、教育等の面で失敗してきたかを列挙して、その最大の原因はアラブ諸国が口先だけの民主主義にもかかわらず、圧政的で絶対権力を有する大統領(王様)が立法、司法を完全に無力にしていることが最大の原因であると論じています。

若干の指摘された点を列挙してみると、アラブ諸国の5人に2人は1日2ドルの生活(国連の貧困の定義。絶対貧困は1日1ドル)を余儀なくされ、失業者特に若年失業者が多く、2020年には新たに5000万の職を作りださねばならず、イランの悪名高い大統領選挙に比べても公正で自由な選挙をしているアラブの国はほとんどない、ムバラクは28年も大統領だしカッダーフィに至っては1969年以来その職にあるし、シリアはアサドからその息子に政権が渡り、多くの国では政党が全く認められておらず、治安機関は全能の組織になっているし、司法機関の独立は全く無視されている等々です。

要するにアラブ諸国が立ち直るためにはもう一度民主主義とは何かに立ち返り、アルカイダなどを口実として民主化をボイコットするのではなく、敢然とこれを進めるのが唯一の方向だという訳です。

実は冒頭にも書いた通り、このアラブ人間開発報告は最初と言う訳ではなく、確か7年ほど前に第1が出て、特に文化、教育、社会面におけるアラブ諸国の惨憺たる状況を正直にさらけ出し、それがアラブの学者も加わって国連機関の手になるものと言うことで大きな注目を浴びたものです。

今回の報告書はもう少し政治、経済面に焦点を当てたものですが、それらの面はある意味特にこれまでタブー誌されてきたところで、アラブ諸国が最も議論されるのを嫌がるところです。それを論じたという点で大いに意義があると思います。

多分アラブのルネッサンスのためには根本的な政治改革、民主化が不可欠であることは、殆どのアラブ人自身が認識しているのではないでしょうか。問題はそれを如何にして何処から始めるかです。

因みにこの報告書はUNDPのホームページに出ていて、簡単にダウンロードできますが、長文でもあり、冒頭のサマリイだけ読むだけでも意味があると思います。

UNDP(国際連合開発計画)(ウィキペディア)
UNDP | United Nations Development Programme

アラブ水戦略

いつも政治向きの話が多いので、本日は趣向を変えて環境問題など。
本日のal jazeerah 電子版によると、アラブ水大臣会議が終了して、アラブ水戦略が発表された由。
その水戦略によると、今後2025年までのアラブ水需要を考え、水の面におけるアラブ間協力(海水淡水化。使用済み水の再使用の研究等を含む)とそのための資金の手当、域内の非アラブ諸国からの水問題における権利侵害に対する共同対処等について合意したとのことです。
わが国のメディアも最近中東の水問題について時々報ずるようになりましたが、乾燥地帯に属するアラブ諸国にとって水問題は今後最も深刻な環境問題でしょう。
絶対の水供給量が限られている上に急増する人口の圧力で、その需要は上る一方、そのための環境破壊はすでに始まっています。
例えば、昔緑豊かなオアシスの町であったダマスカスは、急増した人口のため町中を滔々と流れていたバルダ川も干上がって今ではゴミ溜めになっているし、サウディは穀物生産のために(信じられないことだが最近までは小麦輸出国であった。その原因は高額の補助金だが)地下水のくみ上げが急増して、その水準が危険なまでに下がっている。
以上はほんの一例だが、どこの国でも事情は似たようなものかと思う。
しかしこと水が国際問題となると、主要な相手はトルコとイスラエルでどちらも一筋縄ではいきそうもない。
特にイスラエルはヨルダン、シリア等隣接国との国境を流れる川や湖の水を一方的に吸い上げ、そのためこれらの水源の水がほとんど枯渇していることは、先日NHKのドキュメントでも報じていました。
トルコもチグリス(またはユーフラティスのどちらかは忘れた)の上流に巨大なダムを築いて、このため下流のシリアへ流れる水が減ったとして、大問題になっていました。
どちらについても外交交渉で問題が解決したという話は聞いていないので、今後とも水から始まるきな臭い話はこの辺にありそうです。
環境問題とか言いながら結局政治問題になりましたが、要するにすべての問題は深刻になれば政治問題になるのです。
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