中東の窓

長年、日本の外交官として中東に深く関与。中東から見た国際関係を日々発信するブログ。

イスラエル

ロシア軍のイスラエル再非難(ラタキア事件)

短期間の間に何が起きたのでしょうか?

ラタキア沖でロシアの偵察機IL20が撃墜された事件で、ロシア国防省はイスラエル戦闘機がロシア機の後ろに隠れるような行動をしたので、ロシア機は撃墜されたとして、事件にはイスラエルに責任があるとの立場をとりました。

これに対してプーチン大統領は、事件はいくつかの悲劇的なシークエンスの産物であるとして、ロシア機を撃墜したのはシリアの防空部隊であるとして、事態を鎮静化させようとしたと受け取られる発言をしていました

その後イスラエルは空軍司令官を長とする使節団をモスクワに送り、イスラエル側の情報を提供したとのことですが、この使節団にはプーチンは会いませんでした。

ところが、ロシア国防省は23日、同省報道官の記者会見で、イスラエル側の情報は信憑性にかけ、事件はイスラエル側の重大な過誤かロシアとの従来の合意の軽視から生じたもので、事件の責任は100%イスラエルにあると非難したとのことです。

アラビア語及びイスラエル・メディアはいずれもこの経緯をかなり詳しく報じているところ、取りまとめてみるとロシアの主張は、

  • イスラエルはラタキア地域の空爆に関して、ロシアに不正確な情報を伝達してきたので、ロシアとしてはIL20機を安全な空域へ避難させることができなかった。
  • イスラエル戦闘機は、ロシア機を盾として利用した。
  • イスラエルが主張するロシア機撃墜の時には、イスラエル戦闘機は作戦を終了して、当該空域に居なかったという主張は具体的な証拠からして、虚偽の主張である。
  • いずれにしても両国間合意に従って、これまでロシアがその作戦に関し、310回もイスラエルに通告したのに対し、200回以上作戦を行ってきたイスラエルは25回しかロシアに連絡しなかった。
これは極めて不誠実な非友好的態度である。

取りあえずのところは以上で、どうにも不可思議な事件ではありますが、明日以降さらに詳しい動きや新しい情報も出てくるかもしれません。

然し、今から考えてみれば、プーチンがイスラエル使節団と合わなかったのも、ロシア国防省が反対したためという可能性もあったかと思います。

いずれにしてもイスラエル国防相は、このような事件はあったが、イスラエルとしては今後ともシリアにおけるイランのプレゼンスを攻撃することは止めないと語ったとのことです。
他方中道左派のhaaretz net は、プーチンはイスラエルの活動に歯止めをかける梃子を入手したとして、イスラエルは今後のシリアにおける(空軍の)活動を制約され、活動するにあたってはこれまで以上に精密な攻撃が必要になるだろうとコメントしています。

ロシア機の撃墜事件のその後

ロシア機の撃墜問題については、未だに謎が解けないところもある事件ですが、アラビア語メディから取りまとめ、その後の動き次の通り。

・イスラエルは空軍司令官を団長とする使節団をモスクワに派遣し、使節団はロシア空軍司令官等と会談し、イスラエル側の調査の第1次結果を説明した。
使節団に関し、ロシア大統領府報道官は20日、プーチンが彼らと会談することはないであろうと表明した。
プーチンが彼らと会わない理由に関する説明はない。
(プーチンが会談しない理由とすれば、調査結果の信憑性や精度に問題があり、大統領が合う必要もないと判断されたか、調査結果がロシアにとって不都合なものであったか等が考えられます)

・(上記の点とも関連するが、先にこの事件に関しては陰謀説とも言えそうな情報が飛び交っている、として若干の報道を紹介しましたが、その極めつき、とも言える情報として)
al jazeera net は、「ロシアは自分の手で撃墜したか?」と題する記事を掲げているが、同記事は(多分)仏のルヌーベルオバザートウルとか言う名前の雑誌(アラビア文字から元の文字を正確に推測できなかったので、カタカナで書いておく)を引用して、次のような記事を書いている。

     ロシアが多くのシリア地域で防空に大きな責任を負っている。
     ということは今回の政府軍のミサイル発射にロシアが関係している可能性があるということである。
     シリアの防空システムは、地上における地対空ミサイルに加え、ロシア艦艇の海上からの防衛からなる防空地帯で構成されている。これらの地域は長距離レーダーで監視され、その結果が中央管制に集中され、その結果に基づき、地上の固定局または海上からのミサイルで迎撃することとなっている。
     この集中的システムをロシアのhameemeem基地に設けられた、合同司令部で統制することになっているが、一般的にロシアがこのシステムを監督している。
     ということはこの事件にロシアも関与していた可能性が出てくるということのようである。
 
・他方、アラビア語メディアは、インターファックス通信が、ロシアが東地中海の一部地域の海域及び空域を閉鎖したと報じていると伝えています。
これはロシア海空軍が、同地域で演習を行うためで、演習ではミサイル等も使用するためとのこと。
具体的な地域としては、キプロス島からシリアにかけての海空域及びダマス上空等の由。
またこの閉鎖を報じるイディオノット・アハロノート紙は、同じような演習はごく最近ロシア海軍が行っており、ロシア機撃墜後の今回の演習は、イスラエル機が当該地域を自由に航空することを防ぐためであると、報じている由。

またマアレフ(こちらもイスラエル紙)も、イスラエルとしてはロシアとの関係の緊張を避けるために、当面シリア上空での活動を制限すると報じている由。

ロシア機の撃墜問題(余波)

ロシア機の撃墜問題は、未だ未だその余波が続いている模様で、アラビア語メディアから若干取りまとめたところ次の通りです。

とくにal qods al arabi net は、陰謀論の花盛りのような、種々の穂情報を集めていますが、仮にイスラエルがロシア側に対して、疑心暗鬼を抱かせることを目論んでいたとすれば、大成功というところなのかもしれません。

・イスラエル国防軍(IDF)は、空軍司令官を長とする使節団が、この事件に関するイスラエル側の調査結果をロシア側に提示するために、20日モスクワに向かうと発表した。
また声明は、使節団はロシアに対して、イランの継続的なシリアへの武器持ち込みの実態についても、説明することになるとしている。

・他方、「今日のロシア」によると、ロシア副首相は19日、シリアのロシア基地hmeemeem (空軍基地)とタルトゥス(海軍基地)は、そのその防空力を高めるために、最新型の電子監視システムが配置されることになったと語った由。
(確かこれらの基地には既にS400かS300地対空ミサイルが配置されているはず)

・一方で、al qods al arabiya net は、ラタキアのシリア防空軍がS200でロシア機を撃墜した余波が広がっているとして、次のような話を報じている。
どこまでが事実で、どこからが情報戦かは知らないが、興味深い話ではあります。
    シリア筋は、ロシア軍憲兵隊が19日朝、ラタキアの防空第44大隊に踏み込み、先日のS200の発射に関係した将校、下士官、兵士を逮捕し、hameemeem 基地に連行し、そこに牢獄で尋問していると語った。
この情報は反政府軍が確認したが、政権に近い軍事筋は完全に否定している。
    他のシリア政府に近い筋は、事件は錯誤の連鎖であったとしながら、もしかするとイランが背後でロシア機の撃墜を望んだかもしれないとしている。
    また別の退役軍人は「今日のロシア」に対して、事件はロシア軍内にプーチンやロシアに対してではなく、イスラエルに忠誠を誓う軍人グループがいて、軍内の高いレベルで、イスラエルのための情報操作があった可能性があるとしている。

ロシア機撃墜後のロシア・イスラエル関係

ラタキアに対するイスラエル機の攻撃と関連して、シリアの防空部隊が誤ってロシア機を撃墜したことから、今後のシリアを巡る両国の関係が注目されているところ、al qods al arabi net はイスラエル紙イディオノット・アハロノートの軍事評論家が、この問題について書いた評論を載せていると伝えています。

それによると、プーチンも撃墜したのはシリア軍であったことを認め、またネタニアフもロシア兵の死亡について残念の意を表明し、当時の状況についてプーチンに詳しく説明し、今回の事件の調査の結果はロシアにも連絡すると約束したことから、今回の事件はイスラエルのシリアに対する今後の攻撃には影響を与えないと思われるが、イスラエルはその軍事活動につき、ロシアとより密接に調整することとなろうとしている由。

さらにこの専門家は、今後の両国間の問題は、シリアの対空ミサイル近代化問題で、ネタニアフ首相はプーチンに対して、シリア軍にS300やS200の近代化されたミサイルを引き渡さないように、説得を続けることになろうとしています。

これまでもロシアのシリア軍へのS300供与は度々話題に上ったが、ネタニアフはトランプの協力も得て、これまではプーチンが供与しないように説得することに成功してきたとのことです。

http://www.aljazeera.net/news/arabic/2018/9/19/أنقذوا-الأطفال-المجاعة-تتهدد-5-ملايين-طفل-باليمن

ロシアの地対空(対ミサイルも含む)防衛システムについては、既にイランがS300を導入し、トルコがより新型で射程の長いS400の導入を進めようとしていて(米国が猛反対しているが、それにもかかわらず、エルドアンは2019年導入の方向で動いている模様)、更に、カタールもS400の導入に関心を示していると伝えられています。

そこにきて、さらにシリアに対するS300の供与問題が浮上してきている訳で、中東は正しくロシアのミサイルの重要な市場になりつつある感がしますね。

ロシア機撃墜の余波(プーチンの反応等)

ロシア機のラタキア沖における撃墜(シリアの防空網によるもの)については、ロシア国防省がイスラエルを非難し、何らかの報復を示唆する等、イスラエル・ロシア関係が緊張しましたが、プーチンの発言で、どうやらとりあえず問題は下火になった模様です。

アラビア語メディア及びhaaretz net 等は、プーチンが記者団に対して、この事件は悲劇的なものではあったが、撃墜したのはシリア防空網で、イスラエル機ではないと語ったとして、haaretz net はプーチンがイスラエルの責任を否定したと報じています。
またロシアがとるべき対応措置については報復の権利は維持するも、当面の措置としてはシリアのロシア軍の防空能力の強化であるとした由。

他方、ネタニアフは、プーチンに電話をして、ロシア兵15名の死亡に遺憾の意を示しつつも、ロシア機の撃墜はシリア防空軍によるもので、イスラエル機は関係しておらず、撃墜された当時はイスラエル機は本国に帰還する途中で、当該空域には居なかったとして、イスラエ機がロシア機を隠れ蓑として使ったとのロシアの説を否定した由。

また、ロシア空軍の元将軍等は、シリアの保有するS200地対空ミサイルは旧式で、更新が必要となっているが、問題はシリア軍の訓練で、彼らは味方と敵も区別できないと語った由。

更に、情報としてイスラエルからの事前通告の時間的余裕が十分であったか否かの問題はさておいて、事前通告は「1分前」よりはかなり前にされていたとした由。

また、ロシア国防省だったかが、仏のフリゲート艦が、艦対地ミサイルをラタキア向けに発射したとしたことに対しては、在米仏大使が完全な捏造であるとして、ロシアの非難を否定した由。

他方イスラエル機の目標については、シリア人権網は、弾薬庫であるとしているが、これが政府軍のものかヒズボッラー等イラン関係のものかは不明。
取りあえずは、これ以上イスラエル―ロシア関係の緊張は抑えられた模様ですが、今後の問題としてal jazeera net などはイスラエル機のシリア上空での活動は制約されざるをえまいとしています。

また上記の通り、ロシア空軍幹部の間にもシリア防空軍の訓練等にかなり大っぴらな批判があるようで、またS200が旧式で更新の必要があるとしたことから新型ミサイルの供与問題等も出てくべく、この問題は今後ともまだまだ尾を引くかと思われます。
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