中東の窓

長年、日本の外交官として中東に深く関与。中東から見た国際関係を日々発信するブログ。

ロシア

イドリブ問題(イランの立場?)

イドリブではどうやら、トルコとロシアの合意に従って、戦闘や空爆は下火になっていて、停戦が守られている模様ですが、al arabiya net は「どうやってロシアとトルコが、イドリブ合意からイランを除け者にしたか」という記事を載せています。

記事自体には特段の興味深い情報はなく、そもそもこのネットはサウディ系のものですから、反イランの色彩をぬぐえないのですが、それはともかく、先のテヘラン会議で、イドリブでの総攻撃を支持するイランとロシアが、これに反対するトルコと対立したばかりであったのに、そのトルコとロシアが手のひらを反して、イラン抜きで、このような合意を結んだ背景は何か?、誰もが疑問に感じるところでした。

何しろ彼ら3ヵ国、特にロシアなどという情報統制、操作国家のことですから、とてもまともな情報などなかろうと思い、あまり深く詮索もしませんでしたが、考えてみれば、これまでイスラエル機がシリア内で、特にイラン関係の武器弾薬や拠点を景気よく?空爆してきたのに、これを阻止する能力を現地に保持しているはずのロシアは、動こうともしていませんでした。

今回ロシア機が撃墜されたことで、若干ロシアとイスラエルの確執は見られますが、ロシア国防省に比べたら、プーチンの融和的姿勢が目立ちます。

イドリブを巡る両国の姿勢の違いには、おそらくその背景に、これまでも指摘されてきたロシアとイランのシリアにおける戦略的な立場の違いがあるのだろうと思われます。

ということで、特に具体的な情報を含んでいる訳ではないが、問題提起という観点からal arabiya net の記事の要点のみ次の通り。

・イドリブの総攻撃中止と非武装地帯設置に関するトルコ・ロシア合意は、イランにとって突然の不意打ちであった
イランとしては、シリアに凝る最後の反政府拠点を壊滅し、アサドのシリアの安定とイランのプレゼンスの確保を期待していたが、この期待は裏切られた。

・イラン政府は、ザリーフ外相の談話等で、いやいやながら、イドリブ合意に対する支持を表明したが、イランのメディアはこの合意を非難し、それがイランのシリアにおける周辺化をもたらしたと論じている。

・特に外交、軍事、情報等の面で退職した者たちは活発な議論をしているが、中には米国の経済制裁でイランが苦境にある時に、トルコとロシアがそれを利用して、イランの周辺化を図ったというものも居る。
イランの立場は現在極めて弱いという。

・中には、アサドとアラウィ派を支持して、シリアに拠点を築くとのイランの政策は、アラブ諸国のみならず、シリア国内の反対もあり、失敗したというものも居る。

・中には巨額な資金を使い、多くの革命防衛隊、民兵その他イラン人の血を流したにもかかわらず、ロシアは今でもイランをロシアの手駒として扱っているというものも居る。
彼等はロシアはイランがシリアから手を引くことを狙っているともいう。

・彼らは、イドリブ合意はイラン政権の新たな打撃であり、その縦深戦略の失敗であるという。

ロシア機の撃墜事件のその後

ロシア機の撃墜問題については、未だに謎が解けないところもある事件ですが、アラビア語メディから取りまとめ、その後の動き次の通り。

・イスラエルは空軍司令官を団長とする使節団をモスクワに派遣し、使節団はロシア空軍司令官等と会談し、イスラエル側の調査の第1次結果を説明した。
使節団に関し、ロシア大統領府報道官は20日、プーチンが彼らと会談することはないであろうと表明した。
プーチンが彼らと会わない理由に関する説明はない。
(プーチンが会談しない理由とすれば、調査結果の信憑性や精度に問題があり、大統領が合う必要もないと判断されたか、調査結果がロシアにとって不都合なものであったか等が考えられます)

・(上記の点とも関連するが、先にこの事件に関しては陰謀説とも言えそうな情報が飛び交っている、として若干の報道を紹介しましたが、その極めつき、とも言える情報として)
al jazeera net は、「ロシアは自分の手で撃墜したか?」と題する記事を掲げているが、同記事は(多分)仏のルヌーベルオバザートウルとか言う名前の雑誌(アラビア文字から元の文字を正確に推測できなかったので、カタカナで書いておく)を引用して、次のような記事を書いている。

     ロシアが多くのシリア地域で防空に大きな責任を負っている。
     ということは今回の政府軍のミサイル発射にロシアが関係している可能性があるということである。
     シリアの防空システムは、地上における地対空ミサイルに加え、ロシア艦艇の海上からの防衛からなる防空地帯で構成されている。これらの地域は長距離レーダーで監視され、その結果が中央管制に集中され、その結果に基づき、地上の固定局または海上からのミサイルで迎撃することとなっている。
     この集中的システムをロシアのhameemeem基地に設けられた、合同司令部で統制することになっているが、一般的にロシアがこのシステムを監督している。
     ということはこの事件にロシアも関与していた可能性が出てくるということのようである。
 
・他方、アラビア語メディアは、インターファックス通信が、ロシアが東地中海の一部地域の海域及び空域を閉鎖したと報じていると伝えています。
これはロシア海空軍が、同地域で演習を行うためで、演習ではミサイル等も使用するためとのこと。
具体的な地域としては、キプロス島からシリアにかけての海空域及びダマス上空等の由。
またこの閉鎖を報じるイディオノット・アハロノート紙は、同じような演習はごく最近ロシア海軍が行っており、ロシア機撃墜後の今回の演習は、イスラエル機が当該地域を自由に航空することを防ぐためであると、報じている由。

またマアレフ(こちらもイスラエル紙)も、イスラエルとしてはロシアとの関係の緊張を避けるために、当面シリア上空での活動を制限すると報じている由。

イドリブ情勢

シリアのイドリブに関し、非武装地帯を設ける等で、プーチンとエルドアンが合意して以来、現地では基本的に静穏が続いている模様です。

尤も、反政府派は、これまでも政府軍は停戦等を守ったためしはなく、今回も方々で小規模の攻撃をかけているとしている模様ですが、少なくともロシア軍機は空爆を停止しているようで、また政府軍機の活動も報じられてはいない模様です。

このような状況を背景に、al jazeea net は「イドリブ合意は戦闘状態の終了に道を開くか?」などと言う、いささか気の早い記事を載せていますが、中身は、住民は反政府軍が、特に非武装地帯から重火器を撤去した後に、政府軍が入り込んでくるのでは?と危惧しているとか、これに対してトルコ外相が、イドリブ合意の結果は現地の線引きは変わらないと語ったとか、イドリブ合意はシリア国民の願った平和ではないとか、他方トルコは合意を実施させるだけの実力を維持しているとか、種々の「専門家」の見方を紹介しています。

まあ、取りあえずは様子見というところなのでしょうが、他方al arabiya net は、イドリブからトルコ国境方面とかに避難していた国内難民(国連等の推計では30,000名に上る由)のうち、シリア人権網によれば、イドリブ合意の署名後48時間以内に、既に7,000名が彼らの住所に戻ったとしていると報じています。

まあ頼りない情報ではありますが、現地住民の目から見ても、当面直ぐ大規模攻撃が行われることはなくなったということなのでしょうか?

ロシア機の撃墜問題(余波)

ロシア機の撃墜問題は、未だ未だその余波が続いている模様で、アラビア語メディアから若干取りまとめたところ次の通りです。

とくにal qods al arabi net は、陰謀論の花盛りのような、種々の穂情報を集めていますが、仮にイスラエルがロシア側に対して、疑心暗鬼を抱かせることを目論んでいたとすれば、大成功というところなのかもしれません。

・イスラエル国防軍(IDF)は、空軍司令官を長とする使節団が、この事件に関するイスラエル側の調査結果をロシア側に提示するために、20日モスクワに向かうと発表した。
また声明は、使節団はロシアに対して、イランの継続的なシリアへの武器持ち込みの実態についても、説明することになるとしている。

・他方、「今日のロシア」によると、ロシア副首相は19日、シリアのロシア基地hmeemeem (空軍基地)とタルトゥス(海軍基地)は、そのその防空力を高めるために、最新型の電子監視システムが配置されることになったと語った由。
(確かこれらの基地には既にS400かS300地対空ミサイルが配置されているはず)

・一方で、al qods al arabiya net は、ラタキアのシリア防空軍がS200でロシア機を撃墜した余波が広がっているとして、次のような話を報じている。
どこまでが事実で、どこからが情報戦かは知らないが、興味深い話ではあります。
    シリア筋は、ロシア軍憲兵隊が19日朝、ラタキアの防空第44大隊に踏み込み、先日のS200の発射に関係した将校、下士官、兵士を逮捕し、hameemeem 基地に連行し、そこに牢獄で尋問していると語った。
この情報は反政府軍が確認したが、政権に近い軍事筋は完全に否定している。
    他のシリア政府に近い筋は、事件は錯誤の連鎖であったとしながら、もしかするとイランが背後でロシア機の撃墜を望んだかもしれないとしている。
    また別の退役軍人は「今日のロシア」に対して、事件はロシア軍内にプーチンやロシアに対してではなく、イスラエルに忠誠を誓う軍人グループがいて、軍内の高いレベルで、イスラエルのための情報操作があった可能性があるとしている。

ロシア機撃墜後のロシア・イスラエル関係

ラタキアに対するイスラエル機の攻撃と関連して、シリアの防空部隊が誤ってロシア機を撃墜したことから、今後のシリアを巡る両国の関係が注目されているところ、al qods al arabi net はイスラエル紙イディオノット・アハロノートの軍事評論家が、この問題について書いた評論を載せていると伝えています。

それによると、プーチンも撃墜したのはシリア軍であったことを認め、またネタニアフもロシア兵の死亡について残念の意を表明し、当時の状況についてプーチンに詳しく説明し、今回の事件の調査の結果はロシアにも連絡すると約束したことから、今回の事件はイスラエルのシリアに対する今後の攻撃には影響を与えないと思われるが、イスラエルはその軍事活動につき、ロシアとより密接に調整することとなろうとしている由。

さらにこの専門家は、今後の両国間の問題は、シリアの対空ミサイル近代化問題で、ネタニアフ首相はプーチンに対して、シリア軍にS300やS200の近代化されたミサイルを引き渡さないように、説得を続けることになろうとしています。

これまでもロシアのシリア軍へのS300供与は度々話題に上ったが、ネタニアフはトランプの協力も得て、これまではプーチンが供与しないように説得することに成功してきたとのことです。

http://www.aljazeera.net/news/arabic/2018/9/19/أنقذوا-الأطفال-المجاعة-تتهدد-5-ملايين-طفل-باليمن

ロシアの地対空(対ミサイルも含む)防衛システムについては、既にイランがS300を導入し、トルコがより新型で射程の長いS400の導入を進めようとしていて(米国が猛反対しているが、それにもかかわらず、エルドアンは2019年導入の方向で動いている模様)、更に、カタールもS400の導入に関心を示していると伝えられています。

そこにきて、さらにシリアに対するS300の供与問題が浮上してきている訳で、中東は正しくロシアのミサイルの重要な市場になりつつある感がしますね。
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