千と千尋の経済学のblog

今まで、『千と千尋の経済学』シリーズをキンドル(電子書籍)で出版したり、YouTubeで動画を作成してきました。 このブログでは、もう少し自分の好きなように金融や経済の意見や解説を書きたいと思います。 特にアメリカの株式市場の動向とオプション取引について、役に立つ情報を発信していくつもりです。 ちなみに私の投資手法:Be contrarian and be lucky than good d(^_^o).

今年もふるさと納税の時期が来ました。今回の地震や台風の影響を受けた大阪(関空)を応援するため、「ふるさと納税」成功しすぎで総務省は許せない?制度見しの真意とは(「らぽーる・マガジン」Blogos, 921日)にも書かれている「野田聖子総務大臣が名指しで批判した泉佐野市」にふるさと納税しました。また昨年に続き、息子が働いている宮崎県や子供の時にお世話になった新潟県の市町村にふるさと納税して、お米やお肉などの返礼品をいただいています。

さて、ふるさと納税を始めた去年のブログでは、「ふるさと納税はお金持ち優遇か?」(20170821日)と言うテーマで「金持ちが優遇される逆進的寄付金控除措置」の批判についてデータを使って検証しました。結論として、この制度は特に金持ちだけが優遇されているわけではなく、「人気の高いお礼品を提供する地方の市町村は地方自治を進める新規財源を確保でき、地元企業はお礼品需要によって成長することができます。こう考えると、ふるさと納税は経済合理的な税控除制度と言えそうです。」と書きました。

ところが911日に総務省の野田大臣が、ふるさと納税の返礼品に関して総務省の意に背く自治体の資料を使って記者会見を行うと、垣田達哉氏(消費者問題研究所代表)の「「もうダマされない」ふるさと納税制度は、高額所得者ほど高額な返礼品を得られる「金持ち優遇策」である」(ビジネスジャーナル、922日)とか、日経新聞による「ふるさと納税反対キャンペーン」記事が出続けています:「返礼見直しバカを見る? ふるさと納税曲がり角」(723日)、「ふるさと納税、制度見直し検討 高額返礼品の対策強化」(95日)、「ふるさと納税 高額な返礼品は税優遇除外も 総務省検討」(96日)、「ふるさと納税は原点に戻れ」(920日)などなど(^^;)

このようなマスコミのふるさと納税反対の論調の中、920日『Diamond online』に、野口悠紀雄氏「ふるさと納税は日本人の崇高な「寄付精神」を破壊する」と、高橋洋一氏「ふるさと納税が時代に逆行する「規制強化」された理由」の非常に異なる二つの見解が発表されました。

そこで今回のブログでは、野口氏と高橋氏の前提や主張を表にして比較しながら、もう一度「ふるさと納税」を考える素材にしてみたいと思います。ただし私はふるさと納税賛成派なので、野口氏の議論を批判することになりますが、できる限り客観的に判断したいと思います。

まず表の1が、野口氏と高橋氏のテーマと最初の見解・意見になります。野口氏は、ふるさと納税は納税先を振り替えるだけの著しく優遇された制度だと言います。その一方、高橋氏は、今回の野田総務大臣の対応は政治的な要因が大きいと主張しています。
ふるさと納税1
 次に野口氏は、ふるさと納税は納税者にはお得な制度で、自治体にとっても税収増と地元産業の振興になると、ふるさと納税のメリットを認めています。高橋氏はふるさと納税の制度創設に携わった経験から、ふるさと納税の画期的な特徴は国民が税の使い方を選ぶことができる点であり、そのため総務省の官僚が猛反対したと言います。
ふるさと納税2
 次に表3で野口氏は、
2018年度のふるさと納税額3482億円のうち、住民税控除額2448億円が東京をはじめとする大都市圏の税収減になっており、大都市圏の待機児童対策や高齢者問題の施策に悪影響が出るのは問題だと主張します。しかし高橋氏によると、ふるさと納税の目的は「都市部への極端な税収の偏在を是正する」ことにあるわけで、これは望ましい結果であると言います。
ふるさと納税3

しかし野口氏と同様、ふるさと納税による大都市圏からの税収流出に批判的な記事1位は川崎市、ふるさと納税「実質流出」の実態 年間40億円超、学校の建て替え費用に匹敵東洋経済online, 2018923日)では「727日に総務省が公表した統計資料によれば、2017年度に最も住民税控除額が大きかった市区町村は103.7億円の横浜市。以下、名古屋市、大阪市など大都市が並ぶ。だが、これらの市は前述の補填が受けられるため、実質の流出額はその4分の1になる。」と断りながらも、「横浜市をはじめ多くの自治体が補塡を受ける一方、独自の税収で財政運営ができる東京23区や川崎市などはそもそも交付税を受けておらず、ふるさと納税で多額の住民税が流出しても補塡がない。」ことは問題であり、「本来の制度趣旨に立ち戻る時かもしれない」と結論しています。

しかしこの東洋経済の記者が作成した「年40億円超の流出も-ふるさと納税における実質住民税流出額(2017年度)-」の表を次のように直してみました。すると表より明らかなように、大都市圏の一人当寄付金額は港区や渋谷区の10万円越えがあり、横浜市や名古屋市、大阪市でも補填前の一人当寄付金額は6万円以上になります。その一方、私が寄付している宮崎県の寄付人数の合計は豊島区より少ない約1.1万人、住民税控除額は約4.6億円ですので、一人当金額は42千円にしかなりません。つまり大都市圏の高所得者がふるさと納税の恩恵を被っていると言う批判が昨年のマスコミの論調でしたが、今年は一転して大都市圏からの税収流出は問題だと主張していることがわかります。

ふるさと納税4
 そしてふるさと納税反対派は、豪華な返礼品を目当てにした寄付行為はふるさと納税制度の「本来の趣旨」を損ねていると主張し、総務省の通達に従った自治体と従わない自治体の間の「不公平感」や「正直者は馬鹿を見る」と言った関係者の発言を引用しています。しかし高橋氏の政治的視点から言えば、自主財源が少ない自治体は総務省の意向に逆らえないにも関わらず、泉佐野市のように自助努力で頑張っている自治体を脅迫するような大臣とは、誰のための政治を行っているのでしょうか。
 次の表の4は、野口氏が地方自治の原則の視点から、高橋氏が税金の再配分の政治的視点から意見を述べています。野口氏は応益原則を前提とする住民税の納付先を変えるのは「行政サービスのただ乗り」を許すと主張します。高橋氏は、政治的な現実を前提にすれば、税金の合理的な再配分は期待できず、ふるさと納税による住民の選択の方が有効だと考えています。

ふるさと納税4

 次の表5において野口氏は地方税や地方自治体の自助努力の重要性を強調しますが、地方交付税を担当する総務省の意向に背くことができない地方自治体の現実をどのように考えたら良いのでしょうか。また日本では、「足による投票」はほとんど機能していません。例えば高齢者の多い地域の若い住民、若い住民の多い地区に住む高齢者にとって応益原則は必ず利害相反します。だからといって、サラリーマンが地元の政治活動に参加したり別の場所に引っ越しすることは簡単ではありません。従って高橋氏の言う方が現実を反映しており、ふるさと納税は「足による投票」を補完する「住民の自由意志を反映した制度」だと思います。
ふるさと納税5

 野口氏は表6で地方税の問題を認めていますが、ふるさと納税のような仕組みで地方自治の理念を破壊してはいけないと主張します。しかし残念ながら、長年の政治と官僚主導の政策を見ていると、野口氏の理想論はまず実現しないでしょう。野口氏の言うように、いつ実現するかわからない税制度の変更を待って何もしなければ、地元経済の衰退と税収が減り続けている地方や自治体は破綻するばかりです。
 更に高橋氏が言うように、ふるさと納税による住民税の控除額は「住民税収額12兆8179億円の2%にも満たない」金額です。野口氏が危惧する「地方自治の理念の破壊」につながるような金額でないことは確かです。
ふるさと納税6
 次に表7で野口氏は、継続性のないふるさと納税を期待して無駄な施策や過剰な支出を行う地方自治体が出るのではないかと心配します。しかし高橋氏が指摘するように、「寄付を受ける自治体が持ち出しまでして高額な返礼品を出しているわけでない」し、寄付する側は、寄付金の使い道を相手方の自治体に指定することができます。私は日本の農業は成長産業だと思っているので、必ず地元の農業振興施策や教育施策に使うようお願いしています。更に、ふるさと納税を巡る自治体間の競争は、交付税や補助金頼みから自立して、自治体の経営力やマーケティング戦略を鍛えることにもなると思います。
ふるさと納税7

 表の8は、野口氏の価値観と高橋氏の「本来の趣旨」の解釈です。他人の価値観に意見を述べることはできませんが、経済学者として、寄付をする(させる)ことによる経済的なインセンティブを考慮することに違和感はありません。アメリカのお金持ちの研究からも、寄付と税制は表裏の関係にあります。
ふるさと納税8

最後に表9で野口氏は、ふるさと納税のような制度は「日本人の崇高な寄付の精神を踏みにじる」と言っています。これが表1の彼のタイトルにつながる部分です。私と家族はふるさと納税をする以前から、国境なき医師団やユニセフなど、税額控除がある団体に寄付をしてきました。しかしその際、どのように使われるのかわからない私の所得税や住民税の一部を寄付することで税額控除を受けることが、「日本人の崇高な精神を破壊する」行為になるなどとは考えてもみませんでした。
ふるさと納税9

最後に表9の高橋氏の政治的主旨を私なりに再解釈すると、江戸時代の小作人が地主様(政府や役人)に「納める」年貢米(税金)ではあるまいし、私たちは「税を納める」のではなく「税を払う」立場です。「納」と言う漢字は「織物を貢ぎ物として蔵に入れること」を指します。しかし私たちは政治家や役人に、一生懸命働いた所得から税金を「貢ぎ物」として差し出しているわけではありません。税金を「払う」とは、リンゴや洋服を「買う」ときと同じように、必ず「対価」を計算して行う経済的行為です。市場の欠陥商品は消費者の選択によって改善・淘汰されますが、国民が買う「税金と言う商品(公共財)」の欠陥に関して私たちはどれだけの権限を持っているのでしょうか?

 また高橋氏が指摘するように、政治家や官僚にとって「税金=他人のカネ⇒自分たちが自由に差配できるカネ」と考えがちになることも否定できません。誰でも「自分のカネ」は大事に使いますが、現状では政治家や官僚に「他人のカネ」を大事にさせるインセンティブシステムが無いからです。

と言うことで、これからも「ふるさと納税」の興隆を願っています。

 

 

 

前回のブログでは、トランプ大統領の対中国貿易戦争の概要についてまとめました。今回のブログでは、トランプの当該政策の本質を考えてみます。

前回のブログでも見たように、トランプの貿易政策の概要は次のようにまとめることができます。前回は、アメリカの利益を優先した①不公正貿易の是正の視点で考えましたが、トランプの対中国貿易戦争のより重要な理由は②知的財産権の保護にあると思われます。

トランプの貿易政策
  この米知的財産保護が対中国経済制裁の中核となる理由は、次の事実から判断できます。この表は825日のマーケットアナライズと言うテレビ番組で、ゲストの矢嶋さんが使っていたデータです。表より明らかなように、昨年の国際出願された特許件数は中国が日本を抜いて第2位、そして企業別では華為技術と中興通訊が世界の1位と2位を占めています。そして華為技術と中興通訊は次世代5G通信技術と半導体関連の企業です。また米企業のクアルコム(Qualcomm)も、スマートフォンのチップ技術などを華為技術にライセンスしている会社です。つまりトランプは、アメリカの最先端技術の覇権が中国に奪われることを危惧しているわけです。

特許出願

  次に華為技術のスマフォを使っている人は、その利用規約を読まれると、私たちのデータが国家レベルで収集されていることがわかります。また中興通訊は中国政府の意向を受けて政治的な行動を取るようで、アメリカの制裁対象企業となっています。更に最近になってFBIは、自動運転技術をアップル社から盗んだとして中国人技術者7月に逮捕8月にはゼネラル・エレクトリック(GE)から重要技術情報を盗んだとして中国国籍技術者逮捕しています。

知的財産保護

実は、中国政府の「中国製造2025による自主創新」は、スマート技術・基盤技術・ハイエンド技術の強化を目指して、アメリカの最先端IT技術の覇権に挑戦するものと考えることができます。そのためアメリカの通商法301報告は、多国籍企業に対する強制的な技術移転の強要が中国の国家戦略によって行われていることを非難する内容になっています。つまりトランプが憂慮しているのは、従来の先端技術の移転と異なり、最先端のIT技術(高速通信を可能にする5G通信技術、自動運転などを可能にする半導体技術と人工知能など)が国家安全保障にも強く関連するため、中国にそのような技術の漏洩を阻止しようとしているわけです。

通商法301条

 もちろん中国政府はトランプが主張する知的財産権の侵害に対しては反論しており、例えば2017年の知的財産権のロイヤルティーの支払額は286億ドルにも達していることを指摘します。また技術移転の強要も、政府が企業に対して要求したことはないと否定しています。

しかし20176月から運用が始まった中国政府サイバーセキュリティは、上述した華為技術のスマフォの利用規約からも明らかなように、中国政府が国内外の企業・ユーザー情報を収集することができることを可能にしています。もちろん中国以外でも多くの国の政府は個人情報の収集を行っていますし、アマゾンやグーグル、フェイスブックなど、私たちの個人情報は確実に集められています。従って問題は、私たちの個人情報や技術情報を扱う主体(国家権力や企業)の信用度(Credibility)であることがわかります。

 最後に、以上のようなトランプの対中国貿易戦争に対して株式市場がどのような判断を下しているか見てみます。

 最初に消費関連の株価は以下の通りです。中国でiPhone製造のために数百万人単位で雇用を生み出しているアップルの株価は、トランプの対中国制裁にもかかわらず高値を更新して1兆ドル企業になっています。その一方、中国のどこにでも見かけるスターバックス、ケンタッキーフライドチキン、マクドナルドの株価は大きな影響を受けているように見えます。ただしそれぞれの企業に固有の要因も多いため、これら企業の株価低下がトランプの対中国貿易戦争によるものと断言することは難しいです。
アップル

 次にトランプが重要視する製造業の株価は次のようになっています。ハニィウェル・キャタピラ・ボーイング・エマソンなどは、みな中国市場で大きなビジネスを展開している多国籍企業です。ご覧の通り、一番大きな打撃を受けたキャタピラの株価も横ばいから上昇トレンドに乗る気配を見せています。従ってスターバックスやヤム・チャイナの株価が低迷しているのは、トランプの対中国貿易戦争によって中国の景気が腰折れし、消費が抑制されていることを示しているのかも知れません。
ボーイング
 また今はアメリカ経済の一人勝ちで、株価もそれを反映しています。次のグラフはS&P500と上海総合指数の一年間の比較ですが、米中貿易摩擦が顕在化してくる2018年の半ばから上海総合指数は低下の一途をたどっています。従って、中国政府が何らかの譲歩と妥協をしない限り、アメリカの株式市場への投資が一番リスクが小さいと考えることができます。
上海総合指数

今年に入ってからもアメリカ経済は絶好調なのでオプション取引もうまくいくはずですが、今年の1月に米株市場が最高値をつけて投資を増やしたとたん暴落して、かなり損失を被ってしまいました。その後もトランプ大統領の貿易戦争の仕掛けに翻弄されて、下手くそな売買をしています。まあ仕方ないですね(^^;)

そこで今回は、今後の投資戦略に関係するトランプの対中国貿易政策の影響を考えてみます。まずトランプの貿易政策の概要を次のようにまとめました。
 「アメリカファースト」を掲げて国内の経済成長と雇用を最優先⇒その目的のため、税制改革や規制緩和、多国籍企業への恫喝、
Fedの金利上げへの牽制、ドル安の演出⇒国内の労働市場・消費市場・住宅市場・株式市場などを活性化⇒強い国内の経済を背景に、アメリカの利益を優先した、①不公正貿易の是正、②知的財産権の保護、③国家安全保障の目的を達成。

トランプの貿易政策

 まず法人税減税に続けて、利益の国内還元(repatriation)の税控除政策は、次のグラフからも明らかなように成功しています。2018年第1四半期には3000億ドル以上が還元しており、Fedの予想では海外利益は1兆ドルと見積もっているようです。同時に株式の買い戻しも1兆ドルに達しているようなので、実際の海外利益は2.5兆ドルと推定しているアナリストもいるようです。つまりトランプが貿易戦争を声高にアピールしても米株市場が強いため、資産効果のおかげで消費者の信頼感指数(Consumer Confidence Index)は最高値を維持しています。また賃金上昇によるインフレ懸念されない完全雇用状態も達成されています。

repatriation

 次に米中貿易のデータをグラフにしました。グラフより、習近平の訪米やトランプの訪中にもかかわらず、アメリカの対中国貿易赤字が拡大していることがわかります。もちろんトランプが言うように貿易不均衡が是正されないのは、中国が不公正な貿易をしているからだという一方的な批判は経済学的にはナンセンスですが、政治的な思惑によるプロパガンダとしてはとても便利なデータになります。

またトランプが一手に悪役を引き受けていますが、実際は民主党の方が対中国に対しては強硬な姿勢を取っているようです。『千と千尋の経済学:デリバティブの「化け物語」』にも書きましたが、中間選挙を控えたアメリカの政治家はまったく信用できません。

米中貿易

 次に、貿易赤字の関税措置では輸入超過のアメリカが勝つに決まっていますので、中国に対して一方的な関税措置の脅迫を行います。それらを次の表にまとめました。このブログを書いているのは917日ですが、近日中にトランプ2000億ドル関税の追加制裁25から10発表するようです。

 次回のブログでは、「トランプ大統領の対中国貿易戦争2:本質」というタイトルで、上記②知的財産権の保護の視点から更にこの問題を考えてみたいと思います。

関税措置

 

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