千と千尋の経済学のblog

今まで、『千と千尋の経済学』シリーズをキンドル(電子書籍)で出版したり、YouTubeで動画を作成してきました。 このブログでは、もう少し自分の好きなように金融や経済の意見や解説を書きたいと思います。 特にアメリカの株式市場の動向とオプション取引について、役に立つ情報を発信していくつもりです。 ちなみに私の投資手法:Be contrarian and be lucky than good d(^_^o).

来週から四半期決算の季節が始まり、私としてはJPMBACの決算に注目しています。

銀行株はとにかく売られ続けており、ショートサイドの「最後の砦」状態です(^^;)

前のブログ記事でも書きましたが、彼らの「銀行株はCheckmate!」のロジックは以下の通りです。

1.Fedが金利を上げるドル高原油・資源安原油関連のジャンク債の焦げ付き銀行の損失拡大株価下げ

2.Fedが金利を上げない⇒超短期金利のyield curve(利回りカーブ)がフラットになって、銀行の収益率(net interest margin)の低下⇒株価下げ 

つまり、Fedが金利を上げようが上げまいが、銀行株は下げる!と言うことになります。

さて、私たちはロボットではないので、少し人間の頭脳を使いたいと思います。

まず1のロジックに対しては、最近のドル安と原油安は、本来、資源系会社の債務不履行のリスクを下げるので銀行の貸倒引当金の増加圧力を緩和するはずです。でも銀行株は売られ続けています。

次に2のロジックに対しては、Fedは金利を上げないと「信じる根拠」は、アメリカの良好な国内経済を考えるとほとんどありません。

そのためショートサイドは、EUが日本が中国が「たいへんだ~」と騒ぎます。また、フラットなyield curveにより銀行の収益率は上がらないと前提していますが、その分、銀行はコストカットと手数料の値上げなど、様々な対応をしています。

更に規制も強化されているため、アメリカの銀行の財務状況は非常に良いようですし、デリバティブのようなリスク資産への投資も控えています。また裁判費用も大幅に低下しました。

まあ、敢えてBACの気がかりと言えば、これから始まるComprehensive Capital Analysis and ReviewCCAR)でドジを踏むことくらいでしょうか。でもそのときは、Moynihan100%クビでしょうけど(^^;)

CCARについては、http://www.federalreserve.gov/bankinforeg/ccar.htmを参考にしてください。

つまり、金融危機の時の株価と現在の株価が同じ、または低いという方が異常だと思います。

それから長期金利が上昇しないのは、EUや日本がマイナス金利をつけている時に、相対的に高いプラスの長期金利を維持している米国債が購入されるからです。これはショートが考えている1と2のロジックとは無関係です。

と言うことで、もし来週のJPMから始まる決算が予想より良い数字が出ると、ショートの最後の砦が崩れ、アメリカの株式は大幅に上昇することになるでしょう。

かみさんの今年のNISA用に、Pfizer(誰でも知っている製薬会社のファイザー)を買っていたのですが、最近、とても大きな事件が発生しましたので報告します。

Pfizerは昨年の1120日に、女性ならよく知っている「顔のしわ取り薬ボトックス (^^;)」のAllergan(アラガン)を買収(111.3の株式交換=金額にすると約17兆円!)すると発表しました。

理由はPfizerが新薬のパイプライン(ラインナップ)を必要としたことと、Allerganの本社が税金の安いアイルランドにあるため節税効果も期待できたからです。

ここで注目して欲しいのが、図にあるように、1120日から開き始めたPfizer (PFE)Allergan (AGN)の価格差です。これは「arbitrage spread」と呼ぶもので、買収(merger)が完了した時点で株式交換が起こったとき、どのくらいのarbitrage(裁定取引・かさや取り)の利益があるかを見ることができます。
PFEAGN1
 

例えば、Pfizer30ドルでAllergan300ドルだとすると、Allerganの株所有者は買収完了後にPfizerの株を26ドル55セント(=300/11.3)で受け取ることができ、30ドルに比べて11.5%(=(30-26.55)/30)の割引になりますd(^_^o)

また、多くのヘッジファンドはPfizerをショート、Allerganをロングするポジションも取るみたいで、Pfizerの株価はなかなか上がりません。ただまあPfizerの配当金は4%くらいあり、かみさんのNISA用には良いかと思っていました。

ところが、「やらない、できない、議会の仕事」と言っていた財務省長官のJack Lew4月の初めに、「やっぱりtax inversion(本社移転による租税回避)はできないようにしてやる~」と、オバマの選挙対策なのか、前言を撤回しました。

そのため、図にあるようにAllerganの株価は236ドルまで暴落し、裁定取引から解放されたPfizerの株価は昨年の1120日の32ドル近くまで上昇しました。実に株価は合理的に反応します。
ALG
 

しかしもちろん問題は、PfizerAllergan合併は実現すると思ってAllerganを高値で購入していたヘッジファンドや個人投資家は、ワシントン(政治)の介入によってご破算になった損失を被ることになります。大統領選挙の年は非合理な政治的要因が多く起こるのですが、この事件もそうです。

その一方、ここまで下落してくれたAllerganを買いたい投資家も出てくるわけで、これからAllerganの株価も上昇するでしょう。

 

前回のブログ記事で、ベア・スターンズ破綻のキッカケとなった情報提供者がKyle Bassだったということを書きました。

今回は、リーマン・ブラザーズの最後のCFOだったErin Callan(エリン・キャラン)について少し紹介します。

リーマン・ブラザーズの破綻の原因については、『千と千尋の経済学:資本主義の「化け物語」』の「講義5 Richard Fuldリーマン社長と楚の項羽大将軍の謎解き」で、「貪・瞋・癡」に犯されたファルドの乱心を中心に説明しています。このファルドの長年の友人でCOOだったJoseph GregoryCFOに抜擢したのがErin Callanです。

Too Big to Fail(『リーマン・ショック コンフィデンシャル』上)では、このキャランについて次のように書かれています。

「グレゴリーが任命した人物の中でもっとも物議を醸したのは、エリン・キャランだった。・・・20079月、グレゴリーがこの41歳のキャランをCFOに選んだときには、リーマン関係者は呆気にとられた。たしかにキャランは優秀だが、リーマンの財務運用についてはほとんど何も知らず、会計の背景知識もゼロだった。」(45頁)

フォーチュン・マガジンの当時の記事「The fall of a Wall Street highflier (March 8, 2010)には、「When Erin Callan talked, people listened. Such was the case at least on the March 2008 weekend after Bear Stearns collapsed… For a moment Erin Callan was the most powerful woman on Wall Street.」とあります。

http://archive.fortune.com/2010/03/05/news/companies/erin_callan_lehman_full.fortune/index.htm

ここで登場するのがDavid Einhornという著名なヘッジファンドマネージャー(Greenlight Capital)です。彼は、大量のデリバティブ(CDO)を抱えながら不透明な会計処理をしていたリーマンに対して、大きなショートポジションを取ります。このEinhornを説得する役目を負ったのがキャランでした。

『リーマン・ショック コンフィデンシャル』では、そのやりとりが次のように書かれています。

「・・・2008318日、アインホーンはリーマンの収益報告を真剣に聞き、エリン・キャランの相変わらずの強気の予測に当惑した。キャランがしゃしゃり出て会社を擁護しはじめたことで、彼の思考が活発に働くようになったと言ってもよかった。財務の経験もなく、CFOになってたった6ヶ月の税務弁護士が、この複雑きわまる査定をどうして理解できるというのだ。いったい何を根拠に、会社の資産を正当に評価しているとあれほどまで確信しているのだ」・・・

さて、今回のブログを書こうと思った理由は、このリーマン最後のCFOだったキャランが最近、長年の沈黙を破って本を出版(Full Circle)して、マスコミへのインタビューに答えたからです。

Ex-Lehman CFO takes on personal, financial crises:  Erin Callan Montella criticizes bosses, dishes frankly and illustrates her struggles through the bank’s collapse.」(CNBC, March 30, 2016)では、彼女のインタビューに答える様子を見ることができます。

http://www.cnbc.com/2016/03/30/ex-lehman-cfo-takes-on-personal-financial-crises.html

また「Wall Street’s Former Top Woman Tells Her Side of Lehman’s Collapse: Former Lehman Brothers CFO Erin Montella’s new memoir offers a unique perspective of the events that led to the financial crisis」(The Wall Street Journal, March 21, 2016)も参考にしてください。

http://www.wsj.com/articles/wall-streets-former-top-woman-tells-her-side-of-lehmans-collapse-1458600283

世界経済を破綻の危機に陥れた当事者の評価をするのは難しいですが、エリン・キャランはファルドやその他大勢の「化け物語」の主役達よりはるかに誠実で、人生の意味について深く考えているように思えました。ただし彼女のインタビューを見た人たちのコメントには、当然ながら、非常に厳しいものがありました。

↑このページのトップヘ