大学で担当している「経済学と株式投資」のテーマの中で、株式の「買い(long)」に比べて株式の「売り(short)」の概念と具体例(成功例)を教えるのはとても難しいものです。

その理由は、買いポジションと売りポジションは対称ではないからです。

まず買いポジションの最大投資損失は0円ですが、空売りの最大損失は無限大でリスク管理がたいへんです。

次に売りポジションを取るためには、対象企業の詳細な研究と撤退のタイミングを図ることが必要になり、時間も情報も乏しい個人投資家には向いていません。

しかし株式市場は常に右肩上がりの上昇相場とは限らず、利益の出ている株式のヘッジや下降相場で利益を出すためには、株式の売りは必要不可欠になります。

そこで今回のブログでは、具体的に売りポジションの事例を考えてみたいと思います。

そのために、私が参加しているK-zone主催のバーチャル株投資ゲーム「トレダビ」を使います。

トレダビの現在のポートフォリオは、アベノミクスによる円安を前提に、パナソニックやデンソー、HOYAなどの輸出関連銘柄が主力になっています。

そのため円安になると利益が大幅に上昇してトレダビ大会順位が5000番台になり、その逆に円高の112日は27,761 位と急降下します(^^;)

従ってこの為替変動をヘッジするために、輸出関連銘柄で空売りの対象となる会社を見つける必要があります。

この目的のために、空売り銘柄ランキングのホームページを参考にさせてもらいました。

「空売り銘柄ランキング」

http://karauri.net/ranking/

このホームページの空売り比率ランキングによると、6767ミツミ電機や6952カシオ計算機が空売りの対象になりそうです。

今回は誰でも知っているカシオ計算機を空売りの対象とします。

データによると、カシオ計算機の空売り比率は6.83%から8.58%と増加傾向にあります。

カシオ計算機空売り比率
次に20173月期の決算短信を見ると、「連結業績予想などの将来予測情報に関する説明」2016112日)の中で、予想為替水準を1US$103円、1ユーロ=114円として、「急激な円高の影響と・・・生産・販売調整等」のため20173月期の通期連結業績予想を、売上高は400億円、営業利益は175億円、経常利益は205億円、純利益は150億円に減額修正しています。

決算発表で社長が「急激な円高」とか「調整」と言った言葉を頻繁に使うときは、だいたい「失敗しました、すみません」の言い訳として捉えることができます(^^;)

http://disclose.ifis.co.jp/data/disclose/9a/20160907/140120160907490322.pdf

そこでこれから空売りが可能かどうか、次にカシオ計算機の株価チャートを見ることにします。
カシオ計算機チャート
チャートから判断して、フィボナッチ・リトレースメントの38.2%が抵抗線になっていることと、OBVOn Balance Volume)が決算短信後にマイナス方向になっていることから、1800円を上限(撤退価格)にして空売りを行う判断をしました。

トレダビでは取りあえず、成行で800株(約160万円)の信用売りのオーダーを出しました。

さて、このように株式を対象にしたヘッジはなかなか難しいですし、一番の問題は損失額を限定することができないと言う問題があります。

しかしオプション取引の場合、売りポジションは、プットオプションを使うことで安全・簡単に行うことができます。

具体的に、前のブログでも失敗した事例として書いたBMYBristol-Myers Squibb)のオプション取引を紹介します。

年末から利益の出ていたBMY Jan20'17 60 Callを少しでも高めに売ろうと「欲を出した」ため、またまた大失敗してしまいました(^^;)

それは、トランプ次期大統領が111日の記者会見で次のような発言をしたからです。

Our drug industry has been disastrous; they're leaving left and right. They supply our drugs but they don't make them here, to a large extent….

And the other thing we have to do is create new bidding procedures for the drug industry, because they're getting away with murder(^^;)

まあトランプの表現方法の可否は別にして、オバマケア(アメリカの医療保険制度改革)の変更・撤回とともに、薬価の引き下げも行うと言っているわけです。

その結果、BioPharma系のETFが大量に売られ、ただでさえBMYの競争相手のMerckcancer immunotherapy(癌の免疫療法薬)のKeytrudaBMYの先を行きそうな状態だったため、BMY5%以上暴落したのでした。

実はトランプの発言内容に対しては私も反対ではないのですが、BMYを売った後にしてくれたら良かったのになぁ~とか愚痴ったのでした(あはは・・・

さてこのような想定外のイベントが起こったとき、BMYの株式を持っていたら悲惨なことになります。

例えば、150ドルで買ったBMY60ドルに値上がっているとき、トランプの発言で4ドル下落しましたから100株保有していたら1000ドルの利益のうち400ドルが消えてしまいます。

そして更に株価の下落が予想されるので、通常の株式の場合は、数日様子を見てから売ろうとかできません。

ところがオプションの場合はレバレッジがかかっていて損失の割合は株式よりもっと高くなりますが、パニック売りを避ける方法がいくつかあります。

私の場合は、今まで持っていたBMY Callの保険のプットオプションやコール売りを処分して損失の一部を相殺し、新規に短期のプットオプションBMY Jan27'17 56 Putを売りました。

プットオプションの売りとは、BMYの株価が上がる方に賭けた取引になります。またオプションは短期の場合、時間価値が急速に小さくなります(time decay)。

つまり私の対処法は、トランプショックのような一過性のショックで跳ね上がった満期の近いオプション価格は、高い確率で低下すること前提にしています。

いずれにしてもオプションがない日本株式のリスクヘッジは、日経平均などの先物を売るか、日経平均やTOPIXのベアETFを買うくらいしか方法がないように思われます。