千と千尋の経済学のblog

今まで、『千と千尋の経済学』シリーズをキンドル(電子書籍)で出版したり、YouTubeで動画を作成してきました。 このブログでは、もう少し自分の好きなように金融や経済の意見や解説を書きたいと思います。 特にアメリカの株式市場の動向とオプション取引について、役に立つ情報を発信していくつもりです。 ちなみに私の投資手法:Be contrarian and be lucky than good d(^_^o).

カテゴリ: VIX

前回211日「VIXショートのバブル崩壊と株式の大バーゲンセール(^^;)」の続きです。

米国株式市場は2月最初の週の暴落が嘘のように、28日以降は上昇を続け、DJI(ダウ平均株価)は24K弱を底にして215日は25.2Kまで戻しています。高値が26.5K位ですから、結局、あと5%上昇すれば新高値更新になります。

前回のブログでは今回の急落の要因を考えましたが、専門家が指摘する金利先高感インフレ懸念による債券市場の売りと株価暴落ではVIXの急騰が説明できそうにありません。その理由は、米国債の710年のETFIEF20年超のTLTを見ると、それぞれ価格は2016年の夏以降急速に低下(株式市場は絶好調)し、トランプが大統領選に勝利した118日以降は暴落しています。つまり今回の株価下落に債券市場の動向は関係ないと結論できます(たぶん)。またインフレ懸念や財政赤字を先読みするにしても、数日間の暴落からすぐに立ち直る株価との整合性は見当たりません。

TLT
そこでVIXショートのポジションをもう一度確認するために、クレディ・スイス・グループインバースVIXETNXIV(対VIX)のチャートを作成しました。チャートより明らかなように、VIXの急騰に不意を突かれたVIXショートのヘッジファンドや個人投資家がパニック売りを引き起こしたことが25日の売買高30.3Mに表れています。その後も7日まで売りの余波が継続しています。

VIXショート2
XIVの場合は1ヶ月100M位の売買高が4日間で100Mになっていますが、その他のVIXショートに使われたUVXIVXXTVIXETN)、SVIXなども売買高が急増しました。つまりこれら関係するETFが一斉に売られたとすれば、株式市場への大きな影響が納得できます。

前回のブログでは、損失を被ったヘッジファンドとして名前が上がっているのはLJMFunds Managementがあり、その損失は5億ドル」と書きましたが、その後のニュースで実に多くのヘッジファンドがXIVVIXYなどを使っています。また個人投資家もこれらETFETN内実を理解せず売買に参加していたようです。

いずれにしても、今回の株価の下落は「株式の大バーゲンセール」になりそうで、ベータの低いオプションを処分して損失を確定後、deep in the moneyのブルスプレッドの体制を整えていました。その結果、1週間で1月分の利益が消えましたが、また1週間で半分以上戻りました(^^;)。ゴールドマン・サックスも順調に利益が増えていますが、3月になる前には利益確定を急ぎたいと考えています。

 

米株市場は2月に入ってから暴落して1週間で2300ポイント(9%)以上下落しました。わたしのポートフォリオも1月分の利益がぜんぶ吹き飛んでしまいしました(^^;)

今回の暴落がどれくらいヒドイか理解するには、巨大石油会社のExxon MobilXOM)の株価チャートを見ると分かります。時価総額が3700億ドル前後の石油メジャーの株価が、わずか一週間で$89から$76まで15%も下落する売りが出ることは通常では考えられません。ボリンジャーバンドの広がりから、この暴落が確率的には1%以下の出来事だとわかります。

XOM1
マーケット全体の動きは次のDJIのチャートや表から分かるとおり、今回の暴落の特徴はまるで「フラッシュクラッシュ」が起きたかと思われるほどの取引時間中の株価の変動幅の大きさです。そのためいつものように先物がプラスだから寝る前にオプションを購入したりすると、朝起きたときに買ったばかりのオプションが大きなマイナスになります(プンプン)。

今回のブログでは、なんでこんなことになったのか考えてみます。

DJIチャート

DJI表
昨年5月のブログ記事「株価は上がりVIX10以下になりました(^^;)」(2017-05-13 )を参考に今の経済状況を比較してみると、現在の米国経済は懸案の税制改革も通りアメリカの企業業績(ISM)も消費者心理も絶好調です(Confidence Index)。

前回のブログ記事のポイントは、アメリカのマクロ経済データは強い、景気指数も順調、Fedの利上げも想定通り、トランプ大統領の経済政策は株式市場を強くサポート、EUに加えて新興国の経済は予想以上に成長、原油先物はサウジ・アラムコの1000億ドル規模の新規株式公開(IPO)が予定されているため60ドル以上に高値止まりで安定。 

その一方、昨年の5月の経済状況では想定しなかった次のような問題が発生しました。

     年度末から1月にかけて株価が急速に上昇して売り圧力が高まっていた。

     長期の米国債の利回りの急上昇:

a        トランプの税制改革や軍需・インフラ投資により財政赤字の拡大とインフレが懸念

b        アメリカ政府機関のシャットダウン

c        ムニューチン財務長官のドル安容認発言

d        中国政府による米国債の売り増加の懸念

e        イエレン議長が退任する22日にWells Fargoに懲罰的な命令を下す

f         25日にFedの議長に就任したパウエル議長の金融緩和政策の転換方針が不透明

g        年金基金の資産ポートフォリオの大幅な見直し

例えば中国政府だけでなくbドル安・円高は、日本の機関投資家にとっても米国債の購入を控えることになり米国債の利回りの上昇要因になります。ただしドルの全面安はアメリカの機関投資家の海外金融市場での投資の手じまいと、アメリカ多国籍企業の多額の海外利益を国内に還元(repatriation)させる大きな動機になるので、日本や中国の株式市場にはマイナスですが米市場にとってはプラスに働く可能性が高いと思われます。

さて上記のような要因でアメリカの債券市場のセンチメントが悪化している時に、低いVIXを前提に一方的にロングポジションを積み上げてきた投資家(投機家)をショートするヘッジファンド(ベア)が出てきても不思議ではありません。彼らによる先物やインデックス、ETFの売りが始まると、1月の急騰による利益を確定しようと他の機関投資家も株式の売却を開始します。こうなると自動的に機械アルゴリズムが大量のETFやインデックスを売却するため市場全体が簡単に暴落します。その結果、VIXが急騰しました。

VIX
すると、長期にわたる低ボラティリティを利用してVIXをショートするETFInverse Volatility ETFs)と株式買いを行っていたヘッジファンドがパニックを起こしました。

VIXショートと株ロングのヘッジファンドや個人投資家は、XIVUVXIVXXTVIXETN)、SVIXなどのETFETNを使うようです。しかし資産ではないVIXをショートする、しかもレバレッジ2倍のTVIXなどを使うと言うのは私には理解できません。

いずれにしても、VIXが急に暴騰したので、これらのETFは暴落しました。するとレバレッジによる投機家にはマージンコールが発生し、持っている資産(ETFや優良企業の株式)を強制的に売却させられます。そのためVIXとか国債利回りとか関係のない優良企業の株価が急落するというよくあるパターンが発生したと考えられます。

XIV2

SVXY2

具体的に損失を被ったヘッジファンドとして名前が上がっているのはLJMFunds Managementがあり、その損失は5億ドルとニュースにあります。しかしこのような金額がこの一週間の株式の暴落を誘発させることはできません。そこで実際のVIXショートのETFの売買高を見ると、これらのETFの多くが毎日100万株を超えていることがわかります。また自社株買いが収まる最後の30分くらいに大量の売買が発生(ETFリバランス)することから、投資に失敗したヘッジファンドや「懲りない」個人投資家のパニック状況が推察されます(^^;)

さて今回の株式市場の急落とボラティリティの上昇により、2月末までは年金基金などの機関投資家がリスクのリバランスを始めることになり、株式市場から資金を引き揚げることが予想されます。その一方で、今まで買いたくても買えなかった高PERの成長銘柄がとても魅力的に見えます。と言うことで、1月の失敗を反省して、これからのオプション投資は更にヘッジをかけた安全策で行いたいと思います。ただしこれから更にボラティリティが上昇し、またFedの金融政策がやや強めの引き締めに移った場合は、少し早すぎた買いのゴールドマン・サックス(GS)にダブルダウンしてみたいと考えていますd(^_^o)

VIXVolatility IndexS&P500のオプション取引のボラティリティを基に計算した指数)は5月に入って急激に低下し、58日にはとうとう1993年以来の一桁9.8になりました。

VIXが低いと言うことは、投資家は株価の先行きを楽観的に考えている(complacent)とよく言われます。そのため、著名な評論家ヘッジファンド証券アナリストは、現在の株価は高すぎる、大幅な下落起こると言い続けています。

ところが彼らの「予想」に反して株価は上がり続けてきました。

そこで今回のブログでは、なぜVIXがこのように低いのか、そしてなぜ株価は下がらないのか考えてみます。

1.       アメリカのマクロ経済デーは継続して強い指標を示しています。例えば最近の米雇用データは21万人以上の雇用増加になり、失業率も4.4%に低下しました。また生産者物価指数(Producers Price Index)は年次換算で2.5%のインフレになっています。

2.       ISM ServicesInstitute for Supply Management)の最新サービスNMI数値57.5%と12年来の高い数値になっています。

3.       Fedの利上げに対する市場参加者の受け取り方が最近は逆転して、Fedが金利を上げるのはアメリカの経済が好調だからと考えるようになっています。

4.       毎度お騒がせのトランプ大統領ですが、彼を支える億万長者やゴールドマン・サックスグループからなる閣僚の顔ぶれは、明らかに経済界・産業界優先の政権です。そのため、株価に対して悪材料が出ても、オバマ政権の時よりましだし、減税や規制緩和に対する期待で株価はなかなか下がりません。

5.       投資家は株価の大幅な下落に備えてヘッジ用のプットオプション購入しますが、それが常に価値ゼロになり続けているのでヘッジのための保険料を払いたくなくなっているようです。

6.       日本にいるとあまり感じませんが、EUやアジア、ラテンアメリカの経済が予想以上に成長し始めているので、世界経済の先行き強くなっていると投資家は感じています。

例えば最近1ヶ月のリターンですが、EFA(アメリカ・カナダを除く先進国)やEEM(新興国)の投資リターンは非常に高いことがわかります。

ETFreturns

7.       原油(シェールガス)の供給過剰でエネルギー危機は起こりにくいので、原油価格が株価に大きな影響を与えないと考えられています。

8.       現代の株式投資は機関投資家による自動的(アルゴリズム)なETFやインデックス投資になっているのでボラティリティは低くなると言われています。

9.       今年の上場企業の決算が予想以上に良いことが投資家に安心感を与えています。またベンチャー企業だけでなく大企業もAIやソーシャル・モバイルの新しい技術を活用して企業体質の新陳代謝が進んでいます。

10.    VIXをショートするETFInverse Volatility ETFs)を使う投資家が多いのでVIXはなかなか上昇しません。

XIV

11.    Investment Company Instituteデータを使ったグラフから明らかなように、トランプ氏が大統領選挙に勝利してから数ヶ月は投資信託(Mutual Fund)やETF購入の長期資金が株式市場に入ってきましたが、それも長続きしていません。つまり債券市場から株式市場への資金の流入は依然として少ないのが実情です。

投資信託はいつも最高値で株を買うと「悪口」を言われていますので、もしそれが正しければ投資信託以外の投資家はまだ安心して株式市場に投資することができます(^^;)

MF&ETF

以上のような理由でVIXが上昇しないと考えることができます。

その結果、多くのベア評論家やアナリストが言うほどアメリカの株価水準が高すぎると言うことはなさそうです(たぶん)。

わたしの同僚のS先生は金融証券の専門家なので、いつもいろいろと教えてもらっています。
彼の論文にVXX(VIXのETN)の分析があるので、今回はその関係のお話しです。

それから忘れる前に書いておきますが、VIXとS&P500の逆相関が成り立たないときがあり、そういうときこそ要注意(ショートもロングも)だそうです。
また、昨日のS&Pも変な動きが交錯していました(大幅な下落時にショートスクイーズが起こったり(^^;)・・・

さてS先生の論文によると、 VIXとVIX先物指数(短期)の関係がおもしろくて、2008年のリーマンショックの恐怖の時期においても、VIXの第1限月価格が第2限月価格より高くなったのは45.8%しかなかったという指摘です。
2008年はデリバティブの存在が表に出てきて、金融市場がメルトダウンした非常に危険な時期でした。
わたしも『千と千尋の経済学:デリバティブの「化け物語」』を執筆しながら、本当に危なかったんだ~といまだに感じています。

ところが彼の論文からわかることは、ブラックスワンと言われた2008年を除けば、機関投資家は不確実性に対して長期にわたるリスクヘッジをしていないということになります。つまり「プロ」と言われる機関投資家は、ネガティブなニュースに反応して衝動的に売り浴びせますが、1四半期も過ぎればまた「お気楽なポジショニング」をとるということを示唆します。
このような機関投資家(ロボトレードも含む)のリスクヘッジの構造的な対応を考えると、Fedの金融政策の変化にもかかわらず、基本的には四半期ごとに「楽観主義」が復活する可能性が高く、今回の株価下落は良い買い場の可能性が高いと考えることができます(3ヶ月後のブログをお待ちください)。

一応、今日現在のVXXです↓。ほぼ昨年の高値に接近しています。
なお、昨夜のS&Pは1859、チャートの専門家によると、サポートは1832-38, 1847-57。それを抜けると、1350もありうるとか(あはは・・・)
もし1350までフリーフォールするなら、2008年の例外が起こることになります。まあ大統領選挙の年でもあるし、ちょっと不安ですけど(^^;)。


VXX2016Jan21

 

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