2023年06月04日

『怪物』

怪物みんな、怪物。
モンスターペアレント、体罰教師、問題児、事なかれ主義の学校、いじめっ子、毒親、ブタの脳を移植されたと思い込む少年。怪物、誰だ?
いつの時代も子供は怪物だ。でもそれは大人から見た視点。子供から見れば、大人も十分怪物だ。ではそもそも子供を怪物にしたのは誰だ?その答えがここにある。

雑居ビルの大火事を眺める母子家庭の麦野早織が、息子の湊が担任教師の保利から暴力や暴言を受けたと学校にクレームを入れる。ただ棒読み対応と棒読み謝罪しかしない伏見校長を始めとする学校関係者は、人間味ある対応をしてくれない。それが続いたためか、早織は湊から聞いた話を裏取りもせず、それが真実であると押し通し始める。その姿は、まさに怪物のような親。

ではその保利もまた怪物のような問題教師なのかといえば、そうではない。真逆の生徒想いの教師だ。問題行動を起こす湊からの証言で暴力教師とレッテルを貼られ、湊が同級生の星川依里をイジメているのではないかと疑いを持っているのに、事なかれ主義の学校により人身御供にされようとしている、見た目が怖いだけで不運と不幸に見舞われている教師だ。

そう、この第76回カンヌ国際映画祭で脚本賞を受賞したこの作品は、『羅生門』形式で描かれている。親から見た視点と教師から見た視点では、事実は異なるのだ。

だからこそ気になるのは、3つ目の視点として描かれる湊の視点。これが事実ではなく真実であることを知った時、改めて怪物が誰であるのかが分かってくる。

是枝裕和監督はこの作品を「LGBTQをテーマにしたのではなく、少年の揺れる心を描いた」と仰っていたように、この湊の視点で描かれる事実と真実は、友達以上に大事に想えてきた同級生を助けたいのに助けられない、自分の無力さに悩み、苦しむ湊の、怪物とは真逆の優しき心だ。

性同一性障害らしい依里はクラスでもイジメられ、父親からも心理的虐待をされ、居場所がないのにそれをずっとひた隠してきた。それを知った湊が助けたいけど、どうすれば分からないから教室で暴れていたのが問題行動とみなされた。

早織が知らないところに、保利の知る事実があり、この保利さえ知らないところに、湊や依里が知る真実がある構図は、湊の片方しかないスニーカーの意味を知った時に思わず涙がこぼれてしまう。これが今の湊に出来る精一杯の優しさなのだから。

それを知ると、湊が怪物でないことが分かる。依里も雑居ビルに放火した疑いはあれど、その置かれた歪んだ環境を考えると、こちらもまた怪物とは言い難い。そんな2人が廃線となった場所に佇む車両の中で過ごす時間は、とても温かだ。友情から愛情の一線を越えようとしてしまったことに戸惑う姿も、友達の後ろ姿に罪悪感を感じる姿も、とてもピュアな姿だ。

むしろ孫娘を轢いておきながら夫に身代わりとなってもらった伏見校長を始め、依里を病気だと決め付ける父親、感情先行により事実誤認をしている早織、自分の無実を証明せずに負のスパイラルに落ちていく保利など、大人たちが怪物に見えてくる。そんな大人たちによって、子供たちが新たな怪物として育て上げられていくことに悲しみさえ覚える。

台風による大雨が降るなか、湊たちを探しに行く早織と保利や、自分のしたことに苦悩する伏見校長とは違い、雨上がりの晴れた草むらのなかを楽しそうに湊と依里が走るラストシーン。未来ある子供が太陽の下で行き止まりの先へと走っていく、大人は雨の中で辿り着きたい所に辿り着けない。

怪物は子供たちではない。私たち大人だ。そんな私たち大人がこのまま子供たちを怪物に育て上げてもいいのだろうか。いや、むしろ逆にそれを阻止することこそが大人としての務め。

男の「大丈夫」と女の「また今度」は信用してはいけないということ以外にも、大人が子供たちに教えるべきことはたくさんあることを、まずは私たち大人が自認しなければならない。

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2023年05月31日

『aftersun/アフターサン』

アフターサン切なく、愛おしい、親の想い。
子供の頃には理解出来なかった親の想い。でも大人になって、あの頃の親と同じ年齢になって、初めて気付く。どういう想いで親は自分に話してくれたのかと。そして同時に理解する。その想いを確かめる時間がまだあることの愛おしさ。もう無くなってしまったことの切なさ。親を大切に出来る時間は無限ではないのだから。

細かなことは何も説明しない。でも観客の想像力で補完されていく物語。そんな作品に出逢うことは、素晴らしき映画体験。そしてこれこそ、映画の醍醐味。だから時間が経てば経つほど、作品の魅力に酔いしれていく時間もまた愛おしい。この映画もまたそんな作品の一つ。

時折挟まれる、互いを撮り合うビデオカメラの映像を交えながら、11歳の少女ソフィが31歳の実父カラムとトルコの避暑地で過ごす数日間が描かれる。それが途中で20年後、31歳の母親となったソフィの回想だと分かる。

少女の両親は離婚しているが、思春期の娘と、娘を子供扱いしない父親は、まるで仲のいい、歳の離れた兄妹のよう。娘は久しぶりに会えた父親との時間を思う存分に楽しむ。だが太極拳を欠かさない父親は、どこかこれが最後の時間かのように、大切に大切にこの時間を過ごす。

別にこの父親が病に侵されているという描写はない。何かしらのトラブルに巻き込まれているという描写もない。でも何かしらの問題を抱えており、心が潰されるほどの辛い時間を重ねてきたことだけは分かる。だから父親が抱える「その問題」は全て観客の想像に委ねられている。

でもそれは観客に自分の親との想い出を連想させる演出でもある。ソフィとカラムの「特定の親子」を描くのではなく、この親子を通して観客の親への想いを起こさせる。個別の「とある親子」の物語のようで、実は普遍的な「私たちの」物語。

だから父親が急に護身術を学ばせようとすることに娘が戸惑うシーンも、誰もが似た経験をしているはず。子供の視点では理解出来ないタイミングも、親の視点でなら理解出来るタイミング。そこにカラムの抱える問題が見え隠れすると、つい自分の親の「あの時の」気持ちも連想しようとしてしまう。

個人的には、この父親は自分の死期を悟ったうえで、この娘とのバカンスを過ごしていると思えた。ラストで父親が撮ったはずのカメラをソフィが無言で見るくだりからも、そしてバカンス最終日の娘の満面の笑みを強調するように見せる演出からも、そんな気がしてならない。

娘にとって、あのバカンスは父親と過ごした大切な時間であると同時に、大人の階段を少し昇ることの出来た時間だったかも知れない。同世代の少年とのキス、青春を謳歌するお兄さんお姉さん世代との交流。そして大人になって分かった、あの時の色んな人たちとの交流に父親は何も制約を課すようなことは一切しなかったこと。

娘のことを本当に愛して、そしてその将来を真剣に考えてくれたからこそ、伝えてくれたこと。黙っていてくれたこと。その親の深い深い愛に心が振るわされる。

もしあの時、自分が親の抱える問題を少しでも知ることが出来たなら、何かしら出来たのではないか。心に寄り添うことくらい出来たのではないか。そんな後悔を子供は大人になってから持つ。

でも親の立場なら、子供にそんな心配を掛けたいとは微塵も思わないだろう。自分よりも子供を優先するからこそ、あの時の親の気持ちも理解出来る。その愛おしさを感じた時、親に対する大いなる感謝以外の想いが見当たらなくなってしまう。

だからこそ娘の満面の笑みを撮れたことに少し喜びながら空港を去る父親の後ろ姿が切ない。彼はこのあと、人生を終えるその瞬間までこの娘の満面の笑みを何度繰り返し見たのだろうと思えると、切なくなると共に、自分の親にそんな想いをさせてしまったのだろうかという後悔と、まだ機会があるならそんな想いをさせないようにしなければと想いに駆られる。

幸運なことに、日本でこの映画が公開されて半月後には「父の日」がやってくる。今年は親への感謝の想いを持って、どこかに食事に行こうか。そんな温かな想いを持たせてくれたステキな作品に巡り会えた。

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2023年05月30日

6月戦線映画あり!

数々の映画でもロケ地となった神戸市の須磨海浜水族園が5月31日をもって閉園。再整備事業で生まれ変わるとはいえ、地元で馴染もあり、映画の舞台ともなった場所がなくなるのは淋しい限り。でもそれもまた時代の流れ。また新しい場所で新しい映画が生まれ、新しい観光地として賑わってくれることを楽しみにしたいと思います。

てな訳でそんな6月の注目作品をピックアップです。

【6/2〜】
●『怪物』
本年度カンヌ国際映画祭脚本賞受賞。そして坂本龍一教授、最後の映画音楽。
●『ウーマン・トーキング 私たちの選択』
本年度アカデミー脚色賞受賞。
●『渇水』
生田斗真が水を止めるかで悩みます。

【6/9〜】
●『リトル・マーメイド』
ディズニー作品実写化シリーズ。
●『テノール!人生はハーモニー』
ラップ愛好家青年がオペラを目指します。

【6/16〜】
●『ザ・フラッシュ』
高速青年、ついに単独主演作品。
●『スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース』
様々な世界線からスパイダーマンたちが返ってくる。

【6/23〜】
●『プー あくまのくまさん』
くまのプーさんまでホラー映画化しますか。

【6/30〜】
●『インディ・ジョーンズと運命のダイヤル』
冒険家ではなく考古学者なんですよ、インディ・ジョーンズは。


てな訳で6月の注目作品は
『スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース』
『ウーマン・トーキング 私たちの選択』
『怪物』


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2023年05月26日

『クリード 過去の逆襲』

クリード3チャンプよ、己と戦え!
自分の過去と向き合い、自身と戦う。すなわち敵は己である。だからなのか、宿敵が強く見えない。自己と向き合う時間の比重が増えると、当然ボクシング映画としての盛り上がりにも欠ける。本当にそれで良かったのか?
ロッキーから独り立ちしたアドニスに流れるアポロの血とロッキーの魂をもっと見せてくれ。

フィラデルフィアからロサンゼルスに舞台を移し、プロデューサーとして前監督のライアン・クーグラーと共に名前を刻んでいるとはいえ、シルベスター・スタローン演じるロッキーが一切出てこないどころか、アドニスが個人的なロッキーの話をするシーンすらもないこの完結編。

『ロッキー』シリーズを踏襲して、主演俳優が監督を兼任するだけでなく、それで演出は大丈夫なの?という不安を見事に解決してくれていないところまで同じなのに、泥臭くても気合と執念で戦ってきたロッキーのアナログな見せ方は受け継がない。ちょっとスタイリッシュに見せるところは現代的なのだが、それが逆に物足りなさを生じさせているのは、やはり残念なところ。

さらに少年時代から兄弟のような絆で結ばれてきたデイムとの確執も薄っぺらいので、このデイムが宿敵としての存在感が凄く弱いこと。アドニスを心底恨んでいる訳でもなければ、アドニスも親友デイムに凄く酷いことをした訳でもない。少年時代の弱き心が生んだ「すれ違い」程度の揉め事。

それでデイムのデビュー戦がタイトルマ戦だの、アドニスの復帰戦もタイトルマ戦だのと、チャンプへの挑戦権を懸けて日々努力している他のボクサーに謝れ!と言わんばかりのタイトル戦への扱いの軽さは、そのまま映画の盛り上がりにも影響してしまう。

要するに、主人公にこの試合に絶対勝たなければならない!という執念がないのだ。宿敵にも恐ろしいまでの強さが全く感じられないのだ。もちろんアドニスもデイムもボクサーとしては歳を取りすぎているから、そんな2人の戦いをストリートファイトにしてしまったら、『ロッキー5』の悪夢再来になってしまうので、リングでの戦いにしたのだろう。

けれどジョージ・フォアマンやないねんから!な2人の戦いは、所詮私的な戦いであって、タイトル戦に相応しいものではない。コンランやドラゴまで登場させて見せるほどのものでもない。ロッキーに相談したら、もっとボクシングに敬意を払え!と怒られてしまうかも知れないレベルの私的な戦いだ。

若さやパワーなど、主人公に不利な状況があるなかで、いかにしてハードな練習をこなし、作戦を立て、最後は気合と執念で勝利をもぎ取ってきた泥臭いロッキーに対し、年上でロングブランクのボクサー相手にさほど不利な状況もないなかで勝利を求めてきたスタイリッシュなアドニス。どちらがボクシング映画として面白いかと問われれば、答えは明白だろう。

ただ現代は女性もボクシングで活躍する時代だ。アドニスの娘アマーラもボクシングには興味津々だ。でも彼女は耳が聞こえないハンデがある。そんな不利な状況でも彼女がチャンプを目指す物語があるとするならば、それは是非見てみたい。EDロール後のボクシングなのか格闘技なのかよく分からないアニメを見せられるよりは、ずっとマシだから。

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2023年05月16日

『TAR/ター』

TAR/ターカリスマ、パワハラ、狂気、転落のマエストロ。
頂に立った者には頂に立った者にしか分からない世界がある。けれどそれを理由に他人を踏みにじることをこの世界は許してくれない。人のいる世界には人の道というものが存在し、そこに例外はないのだから。
それを知らなかった女性指揮者。ケイト・ブランシェットが見事に体現している恐ろしき作品。

映画が始まったはずなのに、暗いスクリーンに映し出されるのはEDでよく見かけるスタッフロール。その後ろでオーディションなのか、一人の女性が歌っている。音楽に対する大いなる愛を込めて。

だがそこから始まる本編は、一言で言うと退屈だ。もちろんクラシックなどの音楽的知識が理解出来ない、ベルリン・フィル初の女性指揮者となったリディア・ターへのインタビューばかりで一向に物語が進まない、場面転換も唐突としか思えないなどもあるが、何よりもこのリディア・ターというマエストロの人間性が全く好きになれないというのが一番の理由だろう。

我々の生活圏内でも、仕事に対する知識も熱量も豊富だが、人間性に問題のある方はどこにでもいる。「ちょっと仕事が出来るからって、いい気になっているヤツ」という人たちだ。そういう人は自分を特別だと思い込んでいる傾向が強いうえに、実際にそう勘違いしてしまうほどの努力もされてきたという事実も存在している。

でもだからといって、そういう人たちのパワハラやアカハラが許される場所などは、この世界には存在しない。リディア・ターもマエストロとしての仕事だけでなく、作曲や出版などで忙しいうえに、極度の重圧にも耐えている同性愛者の女性だが、そんなことは楽団員はおろか、ご近所さんにも関係ないこと。

そんな「一回、痛い目にあって目を覚ませばいいのに」と思われているタイプであるマエストロの姿が淡々と描かれ続けると、退屈であると同時にどこでどんな形で痛い目に遭うのかという興味も少しずつ湧いてくる。

同性愛者の娘をイジメる相手が女子小学生でも堂々と脅しを掛けるような大人。自分の考えに合わないなら、楽団員から人望のある者でも独断で追い出すマエストロ。自分の意見に歯向かう者を容赦なく罵倒し自殺に追い込む講師。それがリディア・ター。

一方でオーケストラの演奏には一切妥協しないマエストロ。恋人など大事な存在を必要以上に贔屓する女性。幻聴などが聞こえても精神崩壊はしない強い大人。それもまたリディア・ター。

そんな彼女がパワハラ動画をネットに流され、自殺した教え子の両親から告発を受けたことで、ベルリン・フィルでのマエストロの仕事を失う。でもそれに納得しない彼女が本番のオーケストラで代役の指揮者を跳ね飛ばし、殴り倒し、「これは私のスコアよ」と髪を大いに乱してまでマエストロの場所に拘る狂気たるや、さすがケイト・ブランシェット姐さん。トッド・フィールズ監督が脚本を当て書きした想いに存分以上に応えている素晴らしさに感服の一言。

だが映画はマエストロの場所を追い出された彼女を描いて終わりはしない。そこからまだ少し物語が続く。指揮者の仕事が出来る場を提供してくれる新たなエージェントと契約し、訪れた先は東南アジアっぽい場所。そこで性格が多少は丸くなったマエストロがオーケストラの前に立つと、3つのスクリーンが登場する。そして何やら重々しいナレーションと、観客席にはコスプレをした人々。

なるほど、ベルリン・フィルとは格段落ちた場所での仕事であると理解すると同時に、頂に立った者としてのプライドを捨ててもまだこういう場で指揮棒を振れるということは、彼女の音楽に対する愛は本物であるということにも気付く。

その愛はOPのスタッフロールの後ろで流れていたあの歌声と同じ。優秀な能力だけで頂まで登り詰めたのではない、音楽に対する大いなる愛があってこそ登り詰めたマエストロは、嫌なヤツだったけれど、根はいい人ということなのだろう。

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2023年05月10日

『プロミシング・ヤング・ウーマン』

プロミシング・ヤング・ウーマン愛する人が被害者なら見方が違う。
何とも強烈なテーマを、何ともポップな色彩で描き、何ともコミカルな恋愛要素を入れ込んだかと思いきや、何とも言えぬ結末に驚かされる。このオリジナル脚本がオスカーに輝いたのも納得。と同時に男性諸君よ、女性には敬意を持って接しよ。そうすれば、こんな結末には至らぬから。

バーで泥酔した女性が一人いたら、男性なら誰しもが希望を持ってしまう。うまくやれば、この女性とチョメチョメ出来ると。もちろん双方の合意なき行為が犯罪になるのは承知しているが、行為の事実が証明出来なければ、合意なきという部分が立証出来なければ、疑わしきは罰せず。逃げ通せるのではないかとも考えてしまう。

医大を辞めてコーヒーショップで働くキャシーが夜な夜なバーなどで泥酔したフリをして、合意なき行為をしようとした男を追い詰めようとする姿は、どこかサイコ的で怖い。でもそれが徐々に亡き親友ニーナのための復讐だと分かってくると見方も変わってくるが、このままだと破滅的な結末を迎えることは頭では理解出来ても、視覚的印象からはそんな結末を予想させようとはしない。

それはキャシーを取り巻く環境の色彩があまりにもポップで、薄いピンクが可愛らしく見えるほど明るい世界で物語が進むと同時に、医学生時代の学友ライアンと再会から始まる恋愛により、彼女が復讐という執念から抜け出せると思わせてしまうからだろう。

けれど、それは現実を、いや被害女性の心情を理解していない外野の希望だと思い知らされる。なぜなら合意なき行為は、その場のノリであるとか、被害女性の服装とかを言い訳に出来るものではないということが、「愛する人(が被害者)なら見方が違う」というセリフで明確になるからだ。

外野や加害者は、自分に関係ないか、もしくは自分が大事かという理由で「被害者にも非がある」と言いたがるが、もしその被害者が自分の家族なら、親友なら同じことが言えるかといえば、それは全くないはずだ。ましてや、その被害者である親友が自殺したとなれば、加害者が罰せられずに今ものうのうと生きているとすれば、復讐を考えない者はこの世にはいないだろう。

だからこそ復讐対象だった同性の学友マディソンから提供された「あの日」の映像にライアンも映っていたという事実にもショックを受けたキャシーが最後に取る行動というのは、「医学部で優秀だった」彼女だからこその先の先まで読んだ、見事な復讐劇。

だが自分が殺されることも想定に入れての復讐劇はあまりにも残酷だからこそ、死人からのメールとばかりにライアンに送られてくるキャシーの言葉は、加害者アルを結婚式当日に破滅させるだけでなく、関係者を永遠に追い詰め続けていく恐ろしさを含んでいる。

そしてその執念、いや怨念ともいえる想いこそが被害者及び被害者関係者が心に負った傷そのもの。それを考えると、男性諸君はもうお分かりだろう。合意なき行為は完全にNG行為であり、そのためには普段から女性に敬意を持って接することで、そんな行為を起こそうとする差別的思想を我が身から追い出すしかないのだ。

約束された若い女性の未来が奪われる。それが近親者だったら、親しい友人だったらと考えれば、こんな虚しい復讐劇も生まれないはずだ。

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2023年05月03日

『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:VOLUME 3』

ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー3大事な家族がここにいる。
まさかこのシリーズで号泣してしまうなんて…。ロケット・ラグーンの過去にもう涙が止まらないからこそ、ピーターやグルート、ドラッグス、マンティス、ネビュラ、クラグリン、コスモの家族愛にも涙が止まらない。そしてガモーラよ、いつでもガーディアンズに戻ってきても、いや新たに参加してもいいんだよ!

サノスとの戦いで愛するガモーラを失ったピーターが酒浸りのなか、黄金色の弾丸男ことアダム・ウォーロックの襲撃で命の危機に晒されたロケット。彼の心臓に埋め込まれた機械のパスキーを得るべく、ガーディアンズの仲間が狂気な科学者ハイ・エボリューショナリーのところへ侵入するのだが、ロケットというツッコミ役がいなくなったガーディアンズで新たなツッコミ役を担うのは、あの暴走殺し屋妹のネビュラ。

天才アライグマのロケットによって調整してもらったおかげで、元・暴走殺し屋となったネビュラがとにかくマトモに見えるんだから、改めてこのガーディアンズは「確かに銀河の落ちこぼれ」と言われても仕方ないなと思ってしまう。

そんな彼らが仲間以上に家族として大事に想っているロケットは、そもそもなぜ天才アライグマなのか。それが彼の過去として語られていくのだが、これがもう涙無くしては見れないほどに悲しく、そして切ないけれど、素晴らしき愛に満ちている。

全ての始まりは全生物を強制的に特殊生物に進化させようとしたハイ・エボリューショナリーの実験から。ロケットも初めは普通のアライグマ。それが実験台として知能と言葉を得て進化していくなかで、同じく実験台として檻の中で過ごしていたイタチのライラ、セイウチのチーフス、ウサギのフロアと仲良くなり、友情を育んでいく。そしていつか自由になったら名前がいるからという話題で彼が自分の名前として選んだのが、大空へと飛んでいく「ロケット」。

だがハイ・エボリューショナリーの実験がロケットの閃きも手伝って成功すると、用無しとなったロケットたちは処分されてしまう。それを阻止しようとする最中に、ライラたちが命を落としていく姿がもう号泣モノ。まさかあんな毒舌の裏にこんな悲しい過去があるなんてと思えば思うほど、ロケットが可哀想になる。でもそれと同時に今はロケットを家族として大事に想っている面々が、彼のために命を懸けているという事実にも涙が流れてしまう。

でもそんな悲しいお話の最中でも、やっぱりドラッグスはピーターの指示を無視するし、マンティスとネビュラは口喧嘩するし、過去からやってきたガモーラはピーターの愛を受け入れる気はないしと、相変わらずガーディアンズの足並みは乱れたままだが、いざとなれば活躍しまくりなのがこのガーディアンズの素晴らしき魅力。

ドラッグスはやっぱり善き父親だし、マンティスも謎の巨大生物と心を通わせるし、グル―トは燃料切れで黄金色でなくなったウォーロックを保護するし、ネビュラは振り回されながらも良きツッコミ役として存在感を発揮するし、亡きライラからまだ大空に来るのは早いと諭されて復活したロケットは大暴れするし、ガモーラも何だかんだで協力してくれるし、クラグリンは亡きヨンドゥの言葉で矢の扱いが急激に上達するし、コスモも「悪い犬」から「いい犬」になって念力を如何なく発揮するし、そしてピーターはロケットのために自分の命の危険も顧みずにiPodを取りに戻る。

けれど逃げの天才の悪運も最後には尽きてしまうのか、このシリーズはスター・ロードの死をもって終わってしまうのかと思っていたら、iPodの隣で興味津々にピーターを眺めるウォーロックが!あぁ、この男がまだいてくれましたがな!ナルニア国でリーピチープから騎士の何たるかを教わったウィル・ポールターが演じているからこそ、この新たなる仲間の加入がとても嬉しく思っちゃうこと。

ただ過去に向き合ったロケットを見て、ピーターもまた8歳で去った故郷の地球にいる祖父に逢いたくなる。いや改めて自分の過去と向き合おうとする。それはマンティスも同じ。だからこの2人がガーディアンズから去っていく。ガモーラもラベンジャーズへと帰っていく。

ロケットを新たなリーダーに、ウォーロックなど新しい仲間が増えた新生ガーディアンズの活躍はまだまだ続くだろうが、同時に我々は心の奥底で知っているはずだ。ピーターもマンティスもガモーラもまた帰ってきてくれることを。

なぜなら彼らは仲間を、家族を見捨てない。銀河を救うと同時に自分たちも救うのがクソガーディアンズ・オブ・ギャラクシーなのだから。

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2023年05月01日

5月戦線映画あり!

TOHOシネマズよ、6月からまた鑑賞料金の値上げだと!もう一般料金は2,000円になるって…。ちょい昔なら、まさにプレミアムシートのお値段ですよ。もうこの値上げの波はいつ収まるのやら。映画人口を取り戻すためにも、また1,800円にお値段が戻りますように。お願い!岸田首相じゃなくて、神様!

てな訳でそんな5月の注目作品をピックアップです。

【5/3〜】
●『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシーVOLUME3』
これを見ずして今年のGWが過ごせますか!

【5/5〜】
●『銀河鉄道の父』
宮沢賢治作品の裏にある家族愛。
●『EO/イーオーー』
ロバの視点で世界を見る。

【5/12〜】
●『TAR/ター』
本年度アカデミー作品賞ノミネート作品。
●『MEMORY/メモリー』
リーアム・ニーソンがまた暴れます。

【5/19〜】
●『最後まで行く』
藤井道人監督、岡田准一園長、綾野剛。
●『ワイルド・スピード/ファイヤーブース』
このシリーズを全然見てませぬわ。

【5/26〜】
●『aftersun/アフターサン』
大人になると理解出来る親の愛。
●『クリード 過去の逆襲』
主演俳優が監督も務めるのが吉と出るか凶と出るか。


てな訳で5月の注目作品は
『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシーVOLUME3』
『TAR/ター』
『クリード 過去の逆襲』


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acideigakan at 13:37|PermalinkComments(0)clip!映画予告編 

2023年04月17日

『ザ・ホエール』

ザ・ホエールどうすれば魂は救済されるのか。
人生は贖罪と救済の連続だ。自身の過ちを悔いては、例え自己満足と言われようとも贖罪により魂が救済されることを誰もが望んでいる。体重272圓竜雋礎砲人生の最後に望むのも、自身の人生での心残りでもある娘に対する贖罪とそれによる自身の救済だが、それは私たちの人生にも通ずるものではないだろうか。

2012年に初演を迎えた舞台劇の映画化ということもあって、物語の舞台となるのは巨漢男チャーリーが住む家のみ。時折、玄関先にカメラが移動することはあれど、ブラインドで外部との接触を断った暗い部屋で進む5日間に及ぶ会話劇は、映像的に見易いとは言い難い。

しかもこのチャーリーが心不全の発作を起こしても病院へ行くことをひたすら拒むだけでなく、初日の月曜日に玄関の鍵が開いていたおかげで、偶然にも新興宗教ニューライフの勧誘に訪れた若き宣教師トーマスに助けられるも、なぜか救急車を呼ぶよりも「とある」エッセイの朗読をお願いしたりと、どこか謎めいた行動も多い。

だがチャーリーの唯一の友人であり、看護師であり、そしてチャーリーの今は亡き同性愛の元恋人の妹であるリズとの会話で彼が過食症に陥った理由が見えてくると同時に、8年ぶりに連絡を取って訪ねてきた娘エリーとの会話で彼の謎めいた行動の理由も見えてくる。それがチャーリーにとって、人生における2つの大きな後悔だ。

一つ目は、元教え子でニューライフの宣教師だった恋人が、同性愛者ということで追いやられ拒食症になって命を落としたことで、自分が彼を愛さなければと後悔してしまったこと。
二つ目は、同性愛の恋人を選んだことで妻と娘という大事な家族を捨ててしまったこと。

この2つの後悔により、彼は自分が許せずに過食症に陥り、歩行器なしにでは歩けないほどの巨漢になってしまっただけでなく、その自分の容姿を恥じては、オンライン授業でエッセイの書き方を教えるも、自分の姿は生徒には一切見せなかったり、ピザの配達員にもポストに置いた代金を回収してもらうなど、外部との接触を極力絶ってきた。

けれど自身の死期を悟った今、大事な娘との絆だけは取り戻したい。そう思えたからこそ、娘のために貯めたお金は使いたくない。例え自分の命を縮めようとも。また学校では問題児となった娘が持ってきた課題のエッセイの添削もやってあげたい。記憶力のいい彼女が良き人生を歩むために。

そしてその娘との会話で、冒頭に出てきた「とある」エッセイの作者がチャーリーではなく娘のエリーだということを知る。しかも彼女が8年前に書いたものであることも。

そのエッセイは「白鯨」の感想でもあるが、その内容は人生が上手くいかない時ほど、誰もがその要因を外部に作り、その要因を排除できれば人生は好転すると考えがちであるということ。つまりエリーにとってチャーリーがその排除すべき要因であるが、でも本当に実父を排除すれば娘の人生は好転するかといえば、そうではないはずだ。

人生が好転しない要因は、常に自身の中にある。逆に人生が好転する要因は、常に偶然でやってくる。窃盗を働いたがために故郷を離れた宣教師のトーマスが、偶然にも身の上話をしたエリーにその秘密を故郷の家族にバラされるも、そのことで親の真意と温かさを知って帰郷出来るようになったこともそうだろう。

だからエリーも8年前に書いた自身のエッセイをチャーリーの前で音読させられた時に気付く。このエッセイは「白鯨」を皮肉的に書いたようで、実はエリーだけでなく、私たち自身のことも書いたものであるということを。

そしてこのエッセイを誰よりも高く評価していた人物。それがチャーリーであり、人生の最後に娘の音読によってその素晴らしさを体感した彼が、このエッセイの意味を娘自身が理解したことを知った彼が「身体ごと」高揚する姿は感動的だ。まさにこれが親の愛なのではないだろうか。

過食症に陥る人は心が純粋な人だと聞いたことがある。そんなチャーリーだからこそ、好奇の目で自身の容姿を見られることに抵抗があったのだろうが、同時に誰よりも物事の本質について知っていたのかも知れない。

人の本質も、人生の好転機会も、常に見えないところにあるもの。その見えないものをいかに想像し、寛容になれるか。理解しようと努力するか。こういう時代だからこそ、自分自身にも問いただしたいことだ。

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2023年04月04日

4月戦線映画あり!

教授の愛称でお馴染みん坂本龍一さんが去る3月28日に71歳でお亡くなりになられたという悲報で始まってしまった4月。アカデミー作曲賞受賞の功績だけでなく、映画俳優としても活躍された記憶は映画ファンの中で永遠に残り続けることでしょう。「芸術は長し、人生は短し」というフレーズを愛された教授の音楽をこれからも我々は愛していきましょう!
てな訳でそんな4月の注目作品をピックアップです。

【4/7〜】
●『ザ・ホエール』
ブレンダン・フレイザー、祝!アカデミー主演男優賞受賞!
●『AIR/エア』
ベン・アフレック監督、主演マット・デイモンがついに実現。
●『ノック 終末の訪問者』
M・ナイト・シャマラン監督最新作。

【4/14〜】
●『search/#サーチ2』
まだ前作さえも見ていませんわ。
●『精緻には雲が巣を張る』
イランでは撮れないイラン映画現る。

【4/21〜】
●『ヴィレッジ』
藤井道人監督、主演横浜流星。
●『高速道路家族』
まるで是枝裕和監督作品のような社会派な作品?

【4/28〜】
●『聖闘士星矢The Beginning』
ついにあのアニメも実写化か!


てな訳で4月の注目作品は
『ザ・ホエール』

注目作、少なっ!

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『KANO~1931海の向こうの甲子園〜』主題歌
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