2020年01月21日

『ジョジョ・ラビット』

ジョジョ・ラビット10歳の気弱な少年ジョジョ、愛は最強説を知る。
子供には見せてはいけない世界がある。戦争はまさにその最たる例だ。だからこそ、空想上の友人アドルフ・ヒトラーに支えてもらいながら狭い世界を生きる少年の目から見たナチスドイツの姿は滑稽であり、哀れでもある。
でも自由を得たらまずは踊ることを子供には是非教えねば!

言葉は勇敢だがビビりで、訓練中にウサギが殺せずに「ジョジョ・ラビット」とあだ名をつけられるも、心の友でもあるアドルフ・ヒトラーに勇気づけられれば手榴弾だって教官の手から奪い取って見事に投げてみせますよ!のはずが見事に失敗しちゃう、ナチスに傾倒しているのになぜかどこまでも憎めない可愛さに溢れた、内弁慶に外地蔵な性格のジョジョ少年。

戦地に行ったらしい父親のいない家では、何かと「愛は最強」を教え込んでくる強気な母親に靴紐を結んでもらう幼稚さも見せる一方で、片目のキャプテンKから与えられた仕事には真面目に取り組む頑張り屋なところもあれば、亡くなった姉の部屋の壁向こうに隠れ住むユダヤ人少女エルサには何かとビビりながらも、彼女が悲しめば架空のラブレターも頑張って作っちゃうなど、その一挙手一投足はどれも心優しさに満ちている。

そんな彼の周りにいる大人は、ナチスにマインドコントロールされた人々ばかりだが、自らも中年太りなアドルフ・ヒトラーを演じるタイカ・ワイティティ監督は随所にナチスの愚行をブラックコメディに仕立てては、戦争の無意味さを語り掛けてくる。特にサム・ロックウェル演じるキャプテンKがナチスが嫌って収容所送りにもした同性愛者としてそれとなく描かれているところなど、まさにナチスやアドルフ・ヒトラーをコケにしていると言っても過言ではないだろう。

けれどそれは歴史を学び、戦争の恐ろしさだけでなく、ナチスの恐怖も知った大人だからこそ笑い飛ばせるものばかり。世間を知らず、世界を知らず、自分が正しいと思った情報だけに頼り、自分自身で考えもせずに他人の意見に傾倒してしまう「精神的な」子供には、これらが意味するものさえ理解出来ない。それが本当は恐ろしいことも。

戦争だけでなく、現代社会で例えるならSNSもまた「精神的な」子供に、小さな世界でのヒーローを目指させてしまう危険性を有していると言えるだろう。同じ立場で同じ考えを持つ者同士の小さな世界よりも、自分が知らない世界で様々な人と交流を持つ方が実は勇気がいるし、実はそちらの方が何万倍も楽しいということも。

でもマインドコントロールされた人々が支配する世界は、心の自由のない世界。見た目では見分けることの出来ないユダヤ人を侮蔑する無能なナチス信奉者の言葉に、ジョジョの姉としてドイツ人を演じ続けたエルサの悔しさとそれを押し殺さなければ自分が殺される恐怖。

そんな姿を見たジョジョが徐々に自分の考えを改めていく様は、彼が決して自分やナチスを否定したりはせず、ただただ恋心を抱いた女の子を元気付けたいという純真無垢な行動に徹しているが故に、映画としても見易く、また素直にジョジョを応援しながらも、子供に愛を伝える術が実は無限にあることも気付かせてくれる。

自分をユダヤ人だとして突き放しては捕虜収容所から逃がしてキャプテンKが示した不器用な愛も、処刑された母親に寄り添いながら心の中で静かに思い出した母親の「愛は最強」説も、大人が子供に示すべき愛の姿。

そんな大人を見て、ジョジョは「2番目の親友」ヨーキーと共に互いの無事を喜び、ネイサンの名を語ってエルサを外の世界に連れ出したいと画策する。だからこそ、玄関前でビンタの後に気まずくなったジョジョとエルサが静かに踊り出す姿は、まさに自由になったら、戦争が終わったら踊ると話していたロージーの想いを2人が受け継いだ姿でもある。

戦争を否定する反戦映画が多いなか、戦争なんてアホらしいとこき下ろす映画が誕生した。ドイツを舞台にしながら英語で会話し、OPからいきなりドイツ語版のビートルズ「抱きしめたい」を流すだけでなく、最後は10歳半の少年がアドルフ・ヒトラーを家から文字通り蹴り出す。そんな可愛らしい映画が誕生した。

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2020年01月20日

『リチャード・ジュエル』

リチャード・ジュエル英雄か、容疑者か。
人は見た目で判断される。例えそれが多くの人々を救った英雄であっても、正義感に溢れた一般市民であっても、疑われる十分な証拠がなくても。
それでも尊厳を失わなかった男がいた。多くの命を救った英雄が、自らの尊厳も守り抜いた姿を見て、フェイクニュースが溢れる現代に改めて英雄の意義を考える。

1996年アトランタオリンピックにて起きた記念公園での爆破事件を巡り、人々を避難させた爆弾の第一発見者でありながらFBIやメディアから容疑者として苦境に立たされた警備員リチャード・ジュエル。正義感に溢れた心優しき巨体の持ち主だが、バカ正直という言葉が似合うほどのお人好しでもあるので、これだけ疑われてなぜに怒りの感情を表さない?怒るという感情を知らんのか?と思わざるシーンがとにかく多いこと。

そんな彼にツッコミを入れるが如く接するのが、彼の細やかな気配りと人間性に惹かれ、友人として弁護士として何かと彼の代わりに無能なFBIや無責任なメディアに怒りをぶつけるワトソン・ブライアント。有能な弁護士というよりは、心優しき友人の名誉と尊厳を守るために静かに熱い闘志を燃やすその信念は、OPからBGMもなしに静かに始まるこの映画において、最も一般的な視点だ。

だが事件が起こらなそうな公園担当に任されたFBIのショウ捜査官やネタ探しに行き詰っていたキャシー記者もまた特別な存在ではない。もちろん両者ともプロ根性に欠けたプライドの高い捜査官とロクな検証もせずに同性の同僚から嫌われている記者ではあるが、彼らがリチャード・ジュエルに向ける視線は「人は見た目が9割」と言われている現代社会において、誰もが陥る姿でもある。

つまり英雄は屈強な男前であってほしい、犯罪者は孤独な非モテ男であってほしいという願望がフェイクニュースを作り上げてしまう。そして人々はそこに固執してしまう。真犯人が見つからない焦りや恐怖だけでなく、自分の仕事が上手くいかない理由を転嫁するために。
だから英雄願望に取り憑かれた孤独な中年男に共犯者がいるなんて仮説は、もはやロジックが完全に崩壊している。にも関わらず、それに気付かない背景にはやはり「人は見た目が9割」に取り憑かれた哀れな姿だ。

でもそれは疑われた当事者には迷惑以外の何物でもない。特に英雄と称賛された息子を誇らしく思っていた母親ボビからすれば、追い詰められていく息子を守れない自分自身をも責めてしまう心境に追い込まれるのだから、迷惑を通り越して敵視すべき存在でしかない。

だからこそ、リチャード・ジュエルはワトソン・ブライアントや母親ボビと共に反撃に出る。自分の無実を証明するためというよりも、メディアに英雄から奪い取った平穏な日常を返せと、FBIに自分を疑う証拠を示せと訴えかける。

それは何も特別なことではない。人として当然の権利。見た目だけで疑われるなんて理不尽だ。そんな理由で尊厳を踏み躙られてたまるか。そんな怒りを静かにショウ捜査官にぶつけるリチャード・ジュエル。面談前に備品補充係の仕事ぶりを覗く姿からも、誇りとプロ根性を持って仕事に臨んできた男が自身の尊厳を守り抜いた姿はあまりにも格好いい。

けれどそんな彼も英雄である前に一人の人間。ショウ捜査官から捜査対象にならないという通知を受けた彼が堰を切ったように涙を流す姿は、彼が88日に渡って疑いの眼差しを向けられ続けた日々に耐え続けた証拠。弱い自分を奮い立たせてきた男の姿だ。その姿に思わず涙を流してしまう。

自分に続く英雄が出て来ない状況を作ってはいけない。そう願っていた男は夢を叶えて警官になった。弁護士である友人が誇らしい眼差しで嬉しそうに話しかけるほど。でも彼はその3年後に心臓の病でこの世を去っているが、世界には今もなお彼に続く英雄が現れ続けているはずだ。

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2020年01月17日

阪神大震災から25年

1995年1月17日午前5時46分から今年で25年。四半世紀が経ってしまいましたが、今でもあの震災を経験された方にはこの25年は長いようで短い時間だったのではないでしょうか。

元号が平成から令和に代わり、世の中は東京オリンピック・パラリンピック開催に向けて進んでいます。
私自身も今年ご縁あって結婚させていただくことになりましたが、守るべき存在が人生を歩むにつれ、時に減り、時に増えるなか、あの日経験したことを今後の人生にどう活かしていくべきかは悩ましいところ。

特に兵庫県南部には阪神大震災で動いた野島断層以外にも、姫路方面にもいつ動いてもおかしくない山崎断層もあり、仮にこの山崎断層が動いた場合、私が住む播磨地方の被害は甚大になる恐れが高いそうです。

加えてこの四半世紀という時間は、兵庫県に震災未経験者を多く増やしてきた25年でもあったのも事実。震災以降に生まれた世代も社会人になっておられる方も多い一方で、ご縁あって他の地域から兵庫県に引越しされた方も多くいらっしゃいます。

そういった方々にとっては次に経験する震災は、初めて経験する震災。歴史の勉強となりつつある阪神大震災の史実で得た知識がどこまで実体験で役に立つかも分からない。
ならば、そういう時こそあの震災を経験した者にも、いざという時に率先して動くべき責任も出てくるのではないだろうか。

最近ふとそんなことを思う日があります。

私たちにとっては「経験」。でも別の方にとっては「歴史」や「史実」。それを踏まえて自分には何ができるだろうか。

残り少ない独身生活で今一度考えてみたいと思います。

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2020年01月14日

第92回アカデミー賞ノミネート

世界中の映画ファンが注目する映画界最大のイベント、アカデミー賞。秀作揃いの第92回でオスカーを手にするのはどの作品なのか、どの俳優なのか。そのノミネートが発表されました。詳細はイカの通りでゲソ。

【作品賞】
『アイリッシュマン』
『1917 命をかけた伝令』
『ジョーカー』
『ジョジョ・ラビット』
『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』
『パラサイト 半地下の家族』
『フォードvsフェラーリ』
『マリッジ・ストーリー』
『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』

【監督賞】
マーティン・スコセッシン『アイリッシュマン』
サム・メンデス『1917 命をかけた伝令』
トッド・フィリップス『ジョーカー』
ポン・ジュノ『パラサイト 半地下の家族』
クエンティン・タランティーノ『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』

【主演男優賞】
アントニオ・バンデラス『Pain and Glory』
ホアキン・フェニックス『ジョーカー』
ジョナサン・プライス『2人のローマ教皇』
アダム・ドライバー『マリッジ・ストーリー』
レオナルド・ディカプリオ『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』

【主演女優賞】
レネー・ゼルヴィガー『ジュディ 虹の彼方に』
シャーリーズ・セロン『スキャンダル』
シアーシャ・ローナン『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』
シンシア・エリボ『ハリエット』
スカーレット・ヨハンソン『マリッジ・ストーリー』

【助演男優賞】
トム・ハンクス『A Beautiful Day in the Neighborhood』
アル・パチーノ『アイリッシュマン』
ジョー・ペシ『アイリッシュマン』
アンソニー・ホプキンス『2人のローマ教皇』
ブラッド・ピット『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』

【助演女優賞】
スカーレット・ヨハンソン『ジョジョ・ラビット』
マーゴット・ロビー『スキャンダル』
フローレンス・ピュー『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』
ローラ・ダーン『マリッジ・ストーリー』
キャシー・ベイツ『リチャード・ジュエル』

【脚本賞】
『1917 命をかけた伝令』
『ナイブズ・アウト/名探偵と刃の館の秘密』
『パラサイト 半地下の家族』
『マリッジ・ストーリー』
『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』

【脚色賞】
『アイリッシュマン』
『ジョーカー』
『ジョジョ・ラビット』
『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』
『2人のローマ教皇』

【撮影賞】
『アイリッシュマン』
『1917 命をかけた伝令』
『ジョーカー』
『The Lighthouse』
『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』

【編集賞】
『アイリッシュマン』
『ジョーカー』
『ジョジョ・ラビット』
『パラサイト 半地下の家族』
『フォードvsフェラーリ』

【録音賞】
『アド・アストラ』
『1917 命をかけた伝令』
『ジョーカー』
『フォードvsフェラーリ』
『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』

【美術賞】
『アイリッシュマン』
『1917 命をかけた伝令』
『ジョジョ・ラビット』
『パラサイト 半地下の家族』
『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』

【衣裳デザイン賞】
『アイリッシュマン』
『ジョーカー』
『ジョジョ・ラビット』
『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』
『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』

【メイクアップ賞】
『1917 命をかけた伝令』
『ジュディ 虹の彼方に』
『ジョーカー』
『スキャンダル』
『マレフィセント2』

【音響編集賞】
『1917 命をかけた伝令』
『ジョーカー』
『スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け』
『フォードvsフェラーリ』
『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』

【視覚効果賞】
『アイリッシュマン』
『アベンジャーズ/エンドゲーム』
『1917 命をかけた伝令』
『スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け』
『ライオン・キング』

【作曲賞】
『1917 命をかけた伝令』
『ジョーカー』
『スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け』
『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』
『マリッジ・ストーリー』

【主題歌賞】
『アナと雪の女王2』
『トイ・ストーリー4』
『ハリエット』
『Breakthrough』
『ロケットマン』

【アニメ作品賞】
『クロース』
『トイ・ストーリー4』
『失くした体』
『ヒックとドラゴン 聖地への冒険』
『Missing Link』

【長編ドキュメンタリー賞】
『アメリカン・ファクトリー』
『The Cave』
『Honeyland』
『ブラジル-消えゆく民主主義-』
『娘は戦場で生まれた』

【外国語映画賞】
『Corpus Christi』(ポーランド)
『Honeyland』(北マケドニア)
『パラサイト 半地下の家族』(韓国)
『Pain And Glory』(スペイン)
『レ・ミゼラブル』(フランス)

授賞式が日本時間の2020年2月10日に迫る第92回アカデミー賞。今回もNetflix作品が多くノミネートされている一方で、珍しくメイクアップ賞に5作品ノミネートされていたり、何気にスカーレット・ヨハンソンが主演と助演でノミネートされていたり、その主演女優賞にはゴールデングローブ賞のコメディ・ミュージカル部門に名を連ねた女優が誰一人としてノミネートされていなかったりと興味深いところが盛り沢山。

こりゃ当日は仕事を休むべきか?


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2020年01月13日

『フォードvsフェラーリ』

フォードvsフェラーリ何のために走るのか。挑むのか。
ル・マン24の絶対的王者フェラーリから勝利を捥ぎ取るべく、フォード・モーターから新車開発を命じられた元レーサーのエンジニアと型破りなイギリス人レーサーの漢臭い友情の実話。それは決してアメリカ万歳の映画ではない。意地とプライドを懸けた男たちを静かに称賛する映画だ。だからこの結末が物悲しい。

イタリアを代表するオシャレな自動車メーカーのフェラーリに対して、企業規模は大きいが古臭いアメリカ車の印象が拭えず苦戦を強いられていたアメリカを代表する自動車メーカーのフォード・モーターが、フェラーリ買収が無理なら罵倒された仕返しも兼ねてル・マン24時間耐久レースで勝利を目指した1966年。

唯一アメリカ人としてル・マン24を制した元レーサーで現エンジニアのキャロル・シェルビーが出逢った運転技術は一流だが性格に難があるケン・マイルズは、同じエンジニアとしてもレーサーとしても高度な意見交換が出来る有能なパートナー。

だからこそ一台の車を複数の顧客に売り込む詐欺師的能力にも長けるシェルビーは、企業イメージを損ねる心配のあるマイルズを使いたくないフォード上層部からの圧力にも、あの手この手を使って対抗する。プロのレーサーとして、エンジニアとして、フェラーリに勝てるレーシングカーを作れた上に運転まで出来るのはケン・マイルズしかいないと分かっていたから。

一方でアイスクリームが溶けることもお構いなくシェルビーと子供みたいに取っ組み合いの喧嘩をしてまで友情を深め合ったマイルズもまた、そんな友の影ながらの努力に応えるべく、遠慮なく改良を重ねていく。それはまるで同じ趣味を持つ男同士が自分達が納得出来るまで没頭するかのような、とても羨ましく思える時間。

しかしこれはあくまでもフォード・モーターがビジネス拡大を目的に挑むレース。ル・マン24を制することが最終目的ではなく、フェラーリに勝利してフォード・モーターの性能を世界に知らしめることが出来ればいい。それがフォード・モーター上層部の本音であり、そこにはエンジニアやレーサーが持つ意地やプライドといったものはない。

そんな一枚岩にはなれない状況下で挑むル・マン24は、どんなトラブルが襲ってこようがチームの機転とシェルビの詐欺師的才能とマイルズの実力で切り抜ける、疾走感溢れるカメラワークと共に思う存分楽しめる本当に漢臭いシーンの連続。特にフェラーリ陣営のストップウォッチをくすねたり、ナットを転がして整備ミスを疑わせたりと、正々堂々と勝負しているようでしていない人間臭さもまた面白いこと。

ただマイルズを嫌うレオ・ビーブ副社長の提案をシェルビーはともかくマイルズが受け入れるというのが個人的には理解し難い。もちろん世話になった友人やスタッフのために3台同時ゴールを承諾するというのは理解出来なくもないが、しかしそれはある意味レースへの冒涜だろう。このレースで誰よりもマシンと共に長い時間を過ごしたマイルズが友情のためにレースを冒涜するだろうか。その辺りの心の機微が描き足りなかったのは残念だった。

それ故に優勝を逃したケン・マイルズが後に事故死するという史実は、この2人の友情をチームの一員のように見てきた観客にとっては、キャロル・シェルビーと同様にとても淋しく思えて仕方ない結末。アメリカ車ではフォードだけが、しかもフォードGTだけがル・マン24を制したという事実も、誇らしいというよりもどこか淋しく感じるのは私だけだろうか。

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2020年01月12日

『パラサイト 半地下の家族』

パラサイト高台と半地下。天国と地獄。
第72回カンヌ国際映画祭にて韓国映画として初めてパルムドールを受賞したポン・ジュノ監督が描く格差社会が行き着く先。ブラックな笑いと「臭い」が誘う結末は衝撃的というよりも、これが現実だと強烈に心に刻まれる恐ろしさを内包している。それ故にこれがどこか他人事に思えない私はこの先ネタバレ致しますのでご注意を。

黒澤明監督作品『天国と地獄』でも描かれていたように、裕福な家族は高台にオシャレな邸宅を構えるのに対し、貧しい家庭は人口密度だけが高い場所で、なおかつ半地下のような十分な日光が当たらない場所に家を構えるしかない。
しかもこの半地下の家族は全員失業中な上に、家の中で一番高い場所にあるのが剥き出しのトイレ。誰が好き好んでこんな家に住むのかと言わんばかりの、いかにもポン・ジュノ監督らしい設定だ。

そんな一家が長男ギウが友人から任された家庭教師の仕事を皮切りに、IT社長のパク一家に取り憑いていく。いや寄生していく。大学生と身分を偽った長男の紹介で、美大志望の妹ギジョンが心理学にも精通した美大生家庭教師として、温厚な父親ギテクがギジョンの策略により追い出された男の代わりの運転手として、元ハンマー投げの母親チュンスクが桃アレルギーを利用して追い出したムングァンの代わりの家政婦として、各々が他人のふりをしてパク一家に寄生していく。

さらにギウは教え子のダヘと両想いになる一方で、ギジョンは幽霊を見たというトラウマを抱えるダソンから絶大な信頼を得るために、ギテクやチュンスクも社長夫人ヨンギョから完全な信頼を得るために練った計画に沿って見事な演技をかましていくというブラックな面白さ。

ただパク一家が出掛けた大雨の日に、前家政婦ムングァンを人情で高台の邸宅に招き入れてから彼らの計画が狂い始める。まさかシェルター用の地下室にムングァンの夫が暮らしていただけでなく、この寄生夫婦に素性がバレてしまうわ、寄生家族同士で醜い争いを繰り広げるわ、パク一家が予定変更で帰ってきたことで脱出に手間取るわ、パク社長がギテクのことをどう思っていたかという本音も聞こえてしまうわと、事態は急展開。

けれどここで気付く。なぜ彼らはあの時ムングァンを招き入れたのか。それは無計画ではなく、無意識に同じシンパシーを感じたからだろう。
もし彼らが冷徹な詐欺師になれていたら、計画に何の狂いも生じなかった。でも同じ理由で貧しくなった者同士だからこそ、寄生夫婦の姿に無意識に自尊心を失っていた今の自分を重ね合わせてしまう。

そうなると一時の偽りの我が家から必死の思いで坂道を下った先にある本当の我が家が水没する様はあまりにも残酷だ。しかもそんな状況を知る由もないパク社長と社長夫人が放つ心無い言葉の数々に、これまで自分では大事にしてこなかったギテクの自尊心が他人の言葉によって傷つけられていく。

だから幽霊ダンナによる惨劇が発生した時、ギテクは偽りの身分を貫き通す運転手と瀕死の娘に寄り添う父親の狭間で心が揺れ動いていたはずなのに、パク社長の幽霊ダンナの「臭い」を毛嫌いする行動に、思わず一人の自尊心を傷つけられた人間としてパク社長の胸にナイフを刺してしまったのだろう。

職も自尊心も失えば、本当の貧しさから抜け出せなくなる。
だが自尊心さえ失わなければ、少なくとも心が貧しくなることはない。希望だけは残る。

高台の豪邸の地下室でモールス信号を送る父親と、半地下の我が家で家族再会を夢見る息子。

給料や職業だけでなく、心にも貧しさの格差が広がりつつある現代社会。
そんなテーマを扱った映画がヒットしている現状を無視してはいけない。

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2020年01月06日

第77回ゴールデングローブ賞

アカデミー最大の前哨戦と言われる、アメリカに住む外国人記者が選ぶ第77回ゴールデングローブ賞の受賞結果が発表されました。詳細はイカの通りでゲソ。

【作品賞ドラマ部門】
『1917 命をかけた伝令』

【作品賞ミュージカル・コメディ部門】
『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』

【監督賞】
サム・メンデス『1917 命をかけた伝令』

【主演男優賞ドラマ部門】
ホアキン・フェニックス『ジョーカー』

【主演女優賞ドラマ部門】
レネー・ゼルヴィガー『ジュディ 虹の彼方に』

【主演男優賞ミュージカル部門】
タロン・エガートン『ロケットマン』

【主演女優賞ミュージカル部門】
オークワフィナ『フェアウェル』

【助演男優賞】
ブラッド・ピット『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』

【助演女優賞】
ローラ・ダーン『マリッジ・ストーリー』

【脚本賞】
『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』

【作曲賞】
『ジョーカー』

【主題歌賞】
『ロケットマン』

【アニメ作品賞】
『ミッシング・リンク』

【外国語映画賞】
『パラサイト 半地下の家族』(韓国)

ついにブラッド・ピットがオスカー俳優になる日までのカウントダウンが始まりました!いやはや、これは素直に嬉しい!これで助演男優賞と助演女優賞の確実性に加え、そして大本命と言われる主演男優賞はホアキン・フェニックスで決まりと考えると興味がそそられるのは主演女優賞。レネー・ゼルヴィガーが助演女優賞に続き2度目の受賞か、それともアジア人女性として初めてゴールデングローブ賞で主演女優賞を授賞した、中国系アメリカ人と韓国系アメリカ人の両親を持ち、本業はラッパーだというオークワフィナか。

サム・メンデスとクエンティン・タランティーノの作品賞と監督賞の争いも興味津々。そのアカデミー賞ノミネート発表は1月13日、授賞式は2月9日(共に現地時間)です。

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2020年01月02日

1月戦線映画あり!

あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願い致します。
2020年といえば、やはり寝ても覚めても東京オリンピック・パラリンピック。もうこの時期は映画どころじゃない。プロ野球だってシーズンを中断しちゃうんだから、日本中が大変なことになりそう。
そう思うと映画は見れる時に見ておかないと。特に個人的なことではありますが、私は今年の秋あたりを目途にようやく結婚出来そうなので、時間を見つけては映画を楽しみたいと思います。

てな訳でそんな1月の注目作をピックアップです。

【1/10〜】
●『ダウントン・アビー』
イギリスの傑作ドラマの映画化。
●『パラサイト 半地下の家族』
ポン・ジュノ監督最新作にてパルムドール受賞作品!
●『フォードvsフェラーリ』
メカニックなことに挑む男たちはやはり格好いい!
●『マザーレス・ブルックリン』
エドワード・ノートン監督・主演作品。

【1/17〜】
●『ジョジョ・ラビット』
友達が空想上のヒトラー?
●『太陽の家』
長渕剛兄貴主演、しかも大工の棟梁役。
●『ラストレター』
岩井俊二監督最新作。ガラス細工のような映像が戻ってきた?
●『リチャード・ジュエル』
クリント・イーストウッド監督最新作。
●『イントゥ・ザ・スカイ 気球で未来を変えたふたり』
フェリシティ・ジョーンズ主演作品。
●『ペット・セメタリー』
原作スティーブン・キング。

【1/24〜】
●『キャッツ』
人間顔の猫はどこか妖艶に見えて仕方ありません!
●『his』
今泉力哉監督、最新作。

【1/25〜】
●『彼らは生きていた』
ピーター・ジャクソン監督が第1次世界大戦記録映像をカラーで修復したドキュメンタリー。

【1/31〜】
●『嘘八百 京町ロワイヤル』
誰がどう見ても『007』を意識しているでしょう!
●『AI崩壊』
何だか古臭い設定に見えてしまうのは私だけ?
●『バッドボーイズ フォー・ライフ』
マイアミ警察の暴れん坊たちが帰ってきた!
●『前田建設ファンタジー営業部』
これが実話なんですよね…。
●『ナイブズ・アウト/名探偵と刃の館の秘密』
本年度ゴールデングローブ賞作品賞ノミネート


てな訳で1月の注目作は
『パラサイト 半地下の家族』
『バッドボーイズ フォー・ライフ』
『ジョジョ・ラビット』
『ラストレター』
『フォードvsフェラーリ』

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acideigakan at 10:00|PermalinkComments(4)clip!映画予告編 

2019年12月31日

2019年のベスト10です。

「一年に一度じゃない。一生に一度だ。」と思いながら、この一年間に運命的に出会った様々な映画との思い出や感動を振り返るこの時期。もちろん興味が湧かず、文字通り「ノールックパス」してしまった作品も多くありましたが、それでも「にわかファン」が増えるほどヒットする映画がある現実もあれば、「笑わない男」がモテるのは映画の中だけだろうという概念をぶち壊す現実もある、まさにそんな2019年でした。

ただ世界の映画界は劇場鑑賞からNetflixに代表されるようなネット鑑賞へと移行しつつあり、「ONE TEAM」の如く、多くの観客と共に映画を楽しむという時代は廃れてしまうのでしょうか。そうなると誰も「ジャッカル」と聞いてリチャード・ギアとブルース・ウィリス共演作品も思い出してくれなくなるのでしょうね。ブルース・ウィリスが変装とはいえないほどの変装をして目的地に潜入出来るなんてバカ映画やん!とツッコミを入れていた日々が懐かしい…。

さてそんな2019年を振り返り、市原悦子や内田裕也、京マチ子、降旗康男監督、横山たかしお坊ちゃま、明日待子、ルトガー・ハウアー、ピーター・フォンダ、八千草薫、木内みどり、梅宮辰夫など様々な才能が旅立たれたことに敬意を表し、また新たな出逢いを楽しみにしながら、総決算として年末最後の恒例企画であるベスト10を発表したいと思います。


1位『THE GUILTY/ギルティ』
緊急オペレーションルームから一切出ないカメラワーク。それは電話で話す相手が一切スクリーンに映らないということ。主人公だけの一人芝居ということ。なのに、犯人は音の中に潜んでいる。そんな内容でなぜタイトルが「ギルティ」なのか。それがこの映画最大の面白さだ。

2位『アイネクライネナハトムジーク』
大切な人と出逢えた喜び。私生活と気持ちがリンクしたこともあってか、それぞれのエピソードがとても愛おしく思えるものばかり。出逢い方なんてどうだっていい。ボクシングでの枝折りも「お嬢様、私のことはご内密に」もステキじゃなイカ!

3位『バジュランギおじさんと、小さな迷子』
愛と優しさは国境を超える。ハルシャーリー・マルホートラちゃんの可愛さも国境を超える。宗教対立も政治対立も憎しみ合いも関係ない。小さな迷子がいれば、大人として何をすべきか。それを考えれば、優しさのリレーは自然と生まれるものなのだ!

4位『ジョーカー』
21世紀に出現した新たなるアメリカン・ニューシネマの大傑作。これはダーク・ヒーローを求めてしまうこの時代だからこそ、生まれてしまった大怪作。トラヴィスもジョーカーも特別な存在ではない。誰の心の奥底にもいる。そう、我々は全員がジョーカーの予備軍なのだ。

5位『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』
1969年8月9日の悲劇を描くことだけがQTではない。史実の悲劇として描かないのもQTだ。底抜けに明るい作風と容赦ない暴力シーンがあのラストでは最高のハッピーエンドに繋がる面白さ。サミュエル・L・ジャクソンが出演していない作品でQTは証明したのだ。映画監督は作品においてはどんな願いも叶える神様だと。

6位『グリーンブック』
ケンタッキーフライドチキンが繋いだ人種を超えた史実の友情。偏見や差別では何も解決しない。自分の弱さを認め、相手の素晴らしさを認める。そうすればきっと理解してくれる人がそっと耳元で囁いてくれるだろう。「手紙をありがとう」と。

7位『アベンジャーズ/エンドゲーム』
ありがとう、アベンジャーズ。2008年から22作品に渡り、世界を守ってくれて。「アッセンブル!」からの多くの仲間たちが駆けつけてくれる感動は忘れられない。そして女性ヒーローが全員集まっての大活躍。やっぱり世界は昔から女性で回っているのね!ありがとう、スタン・リー!

8位『ROMA/ローマ』
こんなにも優しい視線で描かれた映画があっただろうか。流れゆく時は環境を変え、重ねていく歳月は思い出をより深きものにする。そうして人は新しい時代を迎えていくということをNetflix作品で見せられるなんて、これも時代の流れなのね。

9位『スパイダーマン:スパイダーバース』
ヒーローを救うヒーロー映画、ついに現る!孤独に悩み苦しみ、それでも何度でも立ち上がるヒーローだって助けられる存在であってもいいじゃなイカ!困っているヒーローがいれば迷わずに助けに行くのが真のスーパーヒーローだ!

10位『劇場版シティーハンター<新宿プライベートアイズ>』
もっこり大好きリョウのいるところには暴走ハンマー娘のカオリもいる。これがTV放送終了から20年経っても、連載開始から30年経っても変わらない「シティーハンター」の世界。EDで「Get Wild」がフェードインしてくるのは、やっぱり何度聴いても見てもたまらんばい!


今年は本当に面白い映画が少ない一年でした。いや、それ以前に興味を惹かれる作品も少なかったのは残念。特に元号が令和になってからの少なさは異常でしょう。夏休み映画も正月映画も例年以上に話題作が少なかったのが逆に印象的でしたからね。
2020年はその反動をと期待したいところなんですけど、オリンピックシーズンは映画業界も注目作の公開は避けるでしょうね。どうなるんでしょ?

てな訳で今年も多くの方に支えていただき、本当にありがとうございました。来年は独身生活最後の年として悔いのない映画人生を送りたいと思います。

それではみなさん、良いお年を。


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acideigakan at 12:00|PermalinkComments(26)clip!シネマグランプリ 

2019年12月30日

2019年のワースト5です。

「後悔などあろうはずがございません」などと言えない映画に今年も出逢ってしまった2019年。長いスパンで考えれば駄作も「我が映画人生に一片の悔いはなし」と言える肥やしにはなるのですが、まぁ出来れば見終わった後にいい感想がずっと残る映画に出逢いたいものですよね。

てな訳ででそんな2019年を振り返り、毎年恒例となっております今年のベスト10を発表する前に今年のワースト10を発表したいのですが、今年は極力あまり興味の湧かない映画を見ないようにしていたため、ワースト作品が5作品しかございませんので、ワースト5でご勘弁を。

1位『X-MEN:ダーク・フェニックス』
これでシリーズが終わりと言われても釈然としない。2000年に公開された1作目を見てから足掛け20年の最後がこれでいい訳がない。世界観が変わってことで歴史も変わったとはいえ、ウルヴァリンが出演しないと、やっぱりこのシリーズは面白くないよ!

2位『ウトヤ島、7月22日』
実際に起きたテロ事件を一人の少女に密着することで、ワンカット72分で見せる企画は面白い。けれどその面白さを活かすためのカメラワークがこの作品には存在しない。いかにして惨劇の緊張感を72分間持続させながら観客に伝えるではなく体感させるか。それが全くなかったのは残念無念。

3位『蜘蛛の巣を払う女』
もうこれはリスベット・サランデルの物語ではない。「流れ星のちゅうえいさん」似の女性スパイの物語だ。「ミレニアム」シリーズの物語なのに、あの面白さが全く感じられないのは淋しいの一言。何もかもがインパクトの強いシリーズにあって、何もかもインパクトの弱い作品でした。

4位『ターミネーター:ニュー・フェイト』
ジェームズ・キャメロンが製作に加わった正式な続編と言われていた割には、あのテーマ曲も流れなければ迫力もない。しかもジョン・コナーがあういう風になってしまったらカイル・リースはどうなっちゃうのよ?という設定そのものの齟齬も放置状態。もうこのシリーズは終わりですな。

5位『アド・アストラ』
「人は孤独では生きていけない」というテーマに辿り着くために、わざわざ海王星にまで行かんでも。映像は美しいし、独特な雰囲気も見る人によっては素晴らしい作品なのだろうけども、個人的には退屈でした。


ワースト作品が少ないのは嬉しいことですが、いざワースト10が作れなくなると逆に淋しくなってしまうのは困ったもの。でも今年は全体的に興味が惹かれるような作品が少なかったので、仕方なしと諦めます。
まぁその分お金が浮いたと思えばね。人生、そんなものですよね。

てな訳で明日はベスト10を発表したいと思います。

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acideigakan at 16:54|PermalinkComments(8)clip!シネマグランプリ 
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