2008年10月07日

『ヒトラーの贋札』

ヒトラーの贋札本年度アカデミー外国語映画賞を受賞したこのオーストリア映画。『白バラの祈り』のようにナチスに対抗した知られざる英雄を描いた作品ということで重い雰囲気の映画かと思っていましたが、いざ見てみると贋札造りに関与させられたユダヤ人技師たちの苦悩を中心にした実録風の人間ドラマということもあって、意外と見やすい作品でした。

国家ぐるみで贋札を造るという『カリオストロの城』か昨今の北朝鮮の黒い噂以外では聞いたことのないことをまさかナチスがやっていたとはという本当に驚きでした。私も歴史好きとはいえ、このベルンハルト作戦は初耳。まだまだ勉強不足です。
さらにこの作品は実際にこの作戦に関わらざるを得なかったユダヤ人技師アドルフ・ブルガー氏の助言のもと製作されているとあって、話が展開する舞台も贋札造りの工房でのみ。歴史作品としては物足りなさも感じるかも知れませんが、実録モノとしては体験者のみにしか語れない世界とあって、ナチス将校が訪れた時の緊張や仲間の命が助かった時の緩和などの演出の巧さは見事でした。

そして何よりもこの映画が素晴らしいのは贋札造り師のソロヴィッチを英雄として描かずに、仲間を想う良き兄貴分として描いているところ。
ポンド紙幣偽造により次はドル紙幣と憎むべきナチスドイツにいい様に使われてしまう苦悩を噛み殺すように抑えつつ、結核を患った仲間のために薬の調達に奔走したり、ドル紙幣の印刷を拒むブルガーや彼の行動に反発を覚える仲間を救うために必死になる一方で、ナチス将校に屈辱を受けたあと洗面所で一人悔しがるあの姿。

贋札造りはナチスを助けることであり、同胞のユダヤ人を裏切ることになると分かっていても、まずは自分の命と目の前にある仲間の命を最優先する。正義云々で言えば彼の行動はズルいのかも知れませんが、それでも正義のためという大義名分で、動かないブルガーも結核を患ったコーリャも見捨てればいい状況下でソロヴィッチが率先して取った行動はまさに兄貴分の行動だと思います。

終始淡々とした調子で進む地味な映画ではありますが、こういう人たちがいたことは決して忘れてはいけない。それが平和な時代に生きる私たちの義務だとも感じた秀作でした。

深夜らじお@の映画館は贋札の見分け方が全く分かりません。


この記事へのトラックバック

1. ヒトラーの贋札  [ ☆彡映画鑑賞日記☆彡 ]   2008年10月07日 18:17
 『完璧な贋札。 それは俺たちの命を救うのか。 それとも奪うのか──』  コチラの「ヒトラーの贋札」は、1/19公開となった"ナチス・ドイツが行った国家による史上最大の紙幣贋造事件。この驚くべき歴史的事実に隠された、ユダヤ人技術者たちの正義をかけた闘いの物語...
2. ヒトラーの贋札  [ 晴れたらいいね〜 ]   2008年10月07日 19:49
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3. 映画「ヒトラーの贋札」  [ 茸茶の想い ∞ 〜祇園精舎の鐘の声 諸行無常の響きあり〜 ]   2009年02月08日 15:59
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この記事へのコメント

1. Posted by miyu   2008年10月07日 20:20
そうなんですよね〜。
こうゆう戦争があったこと、
こうゆう人達がいたこと、
忘れてはいけないんですよね。
ドイツは本当こうゆう映画を作るのが
上手いですよね〜。
ちゃんとメッセージ性もあるんだけど、
おっしゃるように演出の巧さも光る作品でしたね。
2. Posted by にゃむばなな   2008年10月07日 21:23
miyuさんへ

ドイツはナチスを長らく「触れてはいけないもの」として扱ってきたそうですが、最近は歴史を見直すことも含めてアンタッチャブルなものという鎖を解いたそうです。
日本もなんだかんだ言う前にこういう映画を作れるようになればいいのですが。
3. Posted by ちゃぴちゃぴ   2008年10月08日 00:01
にゃむばななさん、こんばんは
この映画は、外国語映画賞をとっていたので、即レンタルしました。
前年の「善きソナ」がよかったですから。
ナチの題材では、まだ観やすい方と思いますが、伝わるものは充分あったと思います。原作者のブルガーの視点ではなく、ソロビッチの視点というのが、またよかったですねぇ。
地味ではあるけれど、イイ映画だと思います。
4. Posted by にゃむばなな   2008年10月08日 00:43
ちゃぴちゃぴさんへ

私も原作者の視点から描いていないところがこの映画のミソだと思いましたよ。
決して美化せずに、かつ真実をできるだけ正確に描こうとしているところ。
何度振り返っても素晴らしいと思いました。
5. Posted by なな   2008年10月11日 11:44
こんにちは!
最近ライブドアへのTBがまた届かなくなりましたので(泣)
コメントだけでごめんなさいね〜
一応TBもしてみましたがダメみたい・・・
これは面白かったですね。
あの状況でのソロヴィッチの判断や行動,彼の中での「優先順位」は,人間らしく正しいと思いました。ほんとに「兄貴分」的な存在でしたよね。
6. Posted by にゃむばなな   2008年10月11日 13:47
ななさんへ

ソロヴィッチの行動は正義云々というよりも凄く人間らしかったですよね。
だからこそ憎めない兄貴分にも見えたのだと思います。

それとTBですが、また機会があれば是非お願いします。
7. Posted by アイマック   2009年03月01日 16:48
こんにちは!
そう『白バラの祈り』は重かった、、
こちらはナチスドイツものといっても、残酷描写もあまりなく
趣がちがってみやすかったですね。
生と死のはざまで揺れる人間模様、演出もよかったです。

それからこちらのブログ、リンクさせていただきました。
これからもどうぞよろしくお願いいたします〜!
8. Posted by にゃむばなな   2009年03月01日 21:26
アイマックさんへ

ナチスとの戦いというよりは男のプライドを掛けた戦いにも見えたところが見やすかったのかも知れませんね。
本当にこういう史実があったこと自体が驚きでしたよ。

それとリンクの件、ありがとうございます。
こちらも喜んでリンクさせていただきますので、今後もよろしくお願いします。
9. Posted by KLY   2010年01月05日 23:06
同じくです。
こんなことまであったとは。我々はまだまだ不勉強なのだなと痛感します。
誰が正解かなんて答えは出せないし、この場合それはあまり問題じゃないんでしょう。やはりこの事実を世に知らしめることそのことに価値がある作品かと思います。
10. Posted by にゃむばなな   2010年01月06日 20:25
KLYさんへ

『白バラの祈り』もそうなんですが、有名な史実に埋もれてしまう史実をこうやって描いてくれることは素晴らしいことですよね。
戦争の無意味さを訴えるには、先人の努力と苦悩をまず私たちが知るべきだと改めて思いましたよ。
11. Posted by ノルウェーまだ〜む   2010年11月11日 08:48
にゃむばななさん、こんばんは☆
この映画を見てから、アウシュビッツへ旅してきました。
彼らがいかに厚待遇であったか、
正義を振りかざすなどという問題は、後回しになるのは当然の、壁一枚向こうの地獄を目の当たりにして、心に重くのしかかるものがありました。
映画だけではまだまだ伝わらないのだなーと、しみじみ感じましたね・・・
12. Posted by にゃむばなな   2010年11月11日 21:48
ノルウェーまだ〜むさんへ

技術があるから厚待遇だっただけで、彼らもまたその厚待遇に悩んでいたんでしょうね。
それは多分アウシュビッツに訪れることによって、さらに強く感じられることなんでしょう。そういう旅をされていることが羨ましく思えますよ。

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