2009年06月24日

『アフター・ウェディング』

アフター・ウェディング誰が一番辛い思いをしたのだろうか?死期を目の前にヤコブに家族を託すと決めたヨルゲンか、ヨルゲンの命を掛けた頼みによりインドに帰れなくなったヤコブか、2人の父親を目の前にした新婦のアナか、それとも不意に家族を混乱させてしまう結果に至ったヘレネか。
誰を中心にして映画を見るかで大きく感じ方も変わってくる、スザンネ・ビア監督がデンマークが生んだ恐るべき才能と呼ばれているのも納得の、非常に技巧的な映画でした。

アカデミーの外国語映画賞候補にもなったこの映画で特筆すべきなのは目をアップで撮るという演出。目というのは人間の体の中で唯一嘘をつけない部位と言われており、それをアップで見せることで主人公たちの言葉にできない、もしくは言葉にしたくない思いや戸惑いが描いているように思えるんですよね。

例えばヨルゲンは愛する家族のために自分は何を遺せるかに悩み戸惑い、その結果時には泥酔し狼狽する。ヤコブは偶然再会した元恋人との間に生まれていた娘と過ごせる時間を嬉しく思える反面、デンマークでの生活とインドでの生活を照らし合わせては本物の家族について静かに自問自答。
ヘレネは愛する夫への想いとかつて愛した恋人への想いと娘への愛の間で揺れ動き、そしてアナはこの世を去る父親とこの地を去る父親への愛情で揺れる。
この4人の言葉では表現されていない思いや戸惑いは、ヨルゲンの秘密を念頭に置いてもう一度この映画を見直すと、実はあちこちに静かに描かれていたりするんですよね。

そして一番印象に残った、ヨルゲンがヤコブに家族を託したいと懇願するシーン。普通に考えたら嫉妬の対象でもあり、自分が築き上げてきた家族の絆を壊されるかも知れない存在のヤコブに家族を託そうだなんて思わないはず。

でも上杉謙信が武田信玄に塩を送った逸話のように、最大の好敵手は時に最高の友人にもなるもの。きっとヨルゲンもアナやヘレナとも縁があり、なおかつ孤児院建設活動などの実績からも「この男になら」と思っての苦渋の決断だったのではないでしょうか。
そのヨルゲンの辛い思いをヤコブも同じ父親として分かるからこそ、言葉にはせずに引き受けたのだと思うのです。最後にインドである男の子にデンマークに来ないかと誘うのも、きっとヨルゲンを見て自分も改めて家族を作ってみたいという思いの現われなんでしょう。

人の絆は辛い思いをして強くなるのではなく、誰かが辛い思いをしていると知るからこそ強くなるのだと思うのです。そう思うと本当に一番辛い思いをしたのはヨルゲンなのか、ヤコブなのか、アナなのか、ヘレナなのか。
人の痛みが分かるのが大人であるなら、この映画のタイトルはまだまだ幼いアナが結婚して一人前の大人になったという意味なんでしょうか。
深く考えれば考えるほど、いろんな感じ方ができるような気がした秀逸な作品でした。

深夜らじお@の映画館は嘘とついてもすぐにバレます。

この記事へのトラックバック

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「親子」の絆。

この記事へのコメント

1. Posted by miyu   2009年06月24日 20:22
サスガ!にゃむばななさんですね〜。
あたしはどうもこれ苦手だわ〜って思ってしまったんですよね〜。
その後「悲しみが乾くまで」を観て、なんとか
苦手は克服したのですが、
あまりハマれなかった映画でした。
2. Posted by にゃむばなな   2009年06月24日 20:41
miyuさんへ

ヨーロッパ映画ってハリウッドと違って、感情をセリフで表現しないタイプが結構ありますからね。
私もたまにそういう映画に出会うと苦手だったりします。

でもこの映画に関しては、同じ男性としてヤコブやヨルゲンに共感できた部分もあったからかも知れませんね。
3. Posted by YUKKO   2009年06月25日 00:48
ここまでベタな題材を全く違った観点で描いた映画で、デンマーク人と日本人の感性の違いを感じました。
ただ、アナの旦那の浮気場面は必要ない気がしました。
4. Posted by とらねこ   2009年06月25日 07:30
にゃむばななさん、おはようございます。
>誰を中心にして映画を見るかで大きく感じ方も変わってくる
ある特定の一人ではなく、それぞれの登場人物の気持ちになって見ることができるような描き方が、とても秀逸な作品でした。
客観的に物事を判断することは出来ても、自分の身は自分の価値観でしか物事を見れない。そうしたことを痛感すると同時に、より深く考えを廻らせることができる物語でした。
5. Posted by にゃむばなな   2009年06月25日 12:46
YUKKOさんへ

> ただ、アナの旦那の浮気場面は必要ない気がしました。

確かにあのシーンはなくてもよかったかな?って思います。
というか結婚してすぐに浮気って、明らかに前から続いていたやろ!ですもんね。
あのダンナの存在感は本当に薄かったです。
6. Posted by にゃむばなな   2009年06月25日 13:00
とらねこさんへ

普通の映画なら特定の人物の視点から描くはずなのに、感情移入とかそういうレベルではなく、誰の視点から映画を見るかで感じ方が変わる。
客観的・主観的、様々なモノの見方でこんなにも面白く感じる映画は初めてでしたよ。
7. Posted by なな   2009年06月25日 22:44
登場人物がみんな善人で
互いを思いやっているのがとっても切ないお話でした。
みんな少しずつ辛い思いを分かち合って
そして「家族」となっていった物語のようにも思えました。
この監督さんの作品は総じて
こういった優しく人生の機微を語るものが多いです。
8. Posted by ミチ   2009年06月25日 23:11
そうなんですよ、どの人物に視点を置くかで感じ方が全く変わってくるのです。
男性と女性、親と子などでも感じ方は変わるでしょうね。
スサンネ・ビア監督、スゴイ才能を持っていると思います!
9. Posted by latifa   2009年06月26日 08:08
にゃむばななさん、こんにちは!
これ数回重ねて見ると、1回目では見えてこなかった処や、気がつかなかった部分とかが解る様な映画ですよね。
とはいえ、私はまだ1回しか見ていないのですが(^^ゞ 
この監督さんは人の感情のひだみたいのを見せるのが凄く深いというか上手いな〜と思います。
10. Posted by にゃむばなな   2009年06月26日 16:24
ななさんへ

私はこの監督の作品はこれが初めてだったので、他の作品にも凄く興味が沸きました。
ハリウッドや邦画にはない、凄く新しい感じがしましたよ。
11. Posted by にゃむばなな   2009年06月26日 16:29
ミチさんへ

この映画に関しては、例えば自分が親の立場になった時に改めて見直すとどんな感想を持つんだろう?とか、凄くいろんなことを考えれる映画でしたよ。
ほんと、このスサンネ・ビア監督は凄いです。
12. Posted by にゃむばなな   2009年06月26日 16:34
latifaさんへ

私もこの映画は1回しか見ていないのですが、いろんなシーンを思い出すと、あのシーンはこういう意味だったのかな?とかいろいろ考えてしまいますね。
ほんと、この監督さんの見せ方は巧いです。
13. Posted by 悠雅   2011年08月05日 22:16
それぞれの立場で考えると、全く違うお話が見える・・・
そんな描き方をする作品がとても好きですが、
それに加えて、目のアップを予想以上に長く写す手法は
物語全体をとても印象深いものにしますね。
これまで、特に注目していなかったけれど、
観た作品が好きなものがあることもわかったので、
未見の作品もこの機会に観てみようと思います。
14. Posted by にゃむばなな   2011年08月06日 20:41
悠雅さんへ

この監督さんの新作はアカデミー外国語映画賞受賞作品『未来を生きる君たちへ』ですからね。
この映画の素晴らしさを考えると新作も凄く楽しみですね。

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