2009年08月04日

『羅生門』

羅生門黒澤明監督が世界に認められるきっかけともなったこのヴェネチア国際映画祭金獅子賞受賞作品。芥川龍之介の「藪の中」をメインに「羅生門」を加味して作られたこの映画は、もはや現代では再現不可能とも言えるような空気を漂わせた傑作でした。白黒映画とはいえ、まさに時代が変わっても色褪せない映画とはまさにこの作品のことなんでしょうね。

「真実がうやむやになる」という言い回しである「藪の中」の語源にもなった芥川龍之介の名作「藪の中」。原作では真犯人は不明のままだそうですが、この映画もある意味真犯人は不明のまま。というよりも真犯人が誰かなんて描き方をこの映画はしていないんですよね。

要は女を奪うため決闘の末に侍を殺したという盗賊・多襄丸の証言、夫であった侍に侮蔑の目で見られたために怒りから侍を殺したという貴族の女性の証言、盗賊に媚びる情けない妻を選んだ自分を哀れみ自害したという巫女に憑依した侍の証言、そして最後に羅生門で雨宿りしていた男が明かす、女がそそのかして盗賊と侍を戦わて侍が盗賊に殺されたという証言のどれもが嘘か本当か分からないという構成。

これが本当に見事で、それゆえにラストで法師が6人の子供がいると言った男を信じて赤子を託す姿は感動さえ覚えるほど。
他人を信じれない時代は本当に悲しいものですが、それでも他人を信じれない自分を恥じることで他人を信じようと努力するその心はやはり美しく見えるもの。嘘か本当かよりも大事なもの、それが信じるということ。これを羅生門に雨宿りにきて、話を聞いた後に着物だけを奪って立ち去っていく下人だけが正直者に見えるというふうに描いているところも秀逸でした。

また荒廃した羅生門のセットも本当にお見事。さらに盗賊と侍が戦うシーンも決まりきった殺陣のないリアルな戦いを思わせる間も見事でしたし、何よりも多襄丸や貴族の女性の汗。これが水しぶきをかけたような作り物の汗ではなく、本当に暑い中でかいている生身の汗というのがよりリアルさと緊張感を生んでくれるところも見事。
ついでに言うならばOPのスタッフロールも今では皆無となった筆書き。これさえも作品の味となっているんですから、やはり名作はワインのように年数が経つにつれ、さらに深い味わいを持つようになるんだなぁ〜と思いましたよ。

深夜らじお@の映画館は芥川龍之介作品は結構好きです。

acideigakan at 20:52│Comments(6)clip!映画レビュー【ら行】 

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1. 羅生門  [ 悠雅的生活 ]   2009年08月06日 22:01
すべては、藪の中。
2. 羅生門  [ ☆彡映画鑑賞日記☆彡 ]   2009年09月29日 20:32
 コチラの「羅生門」は、「TAJOMARU」と同じく、芥川龍之介の短編「藪の中」を原作とした映画で、ヴェネチア国際映画祭で金獅子賞を獲得したサスペンス時代劇です。監督は黒澤明監督。主演は三船敏郎。  お話としては、やはり同じく「藪の中」を原作とした「MISTY」を観...
3. 社会を嘲笑いたい時に 16 「羅生門」  [ ミカエル晴雨堂の晴耕雨読な映画処方箋 ]   2009年10月30日 11:51
「羅生門」  欧米にウケたディスカッション劇の傑作。     【公開年】1950年  【制作国】日本  【時間】88分  【監督】黒殮.

この記事へのコメント

1. Posted by 悠雅   2009年08月06日 22:11
先日の深夜放送をご覧になっていたんですね。
浜村淳さんが解説で登場されてて、
10〜20代前半、深夜ラジオで映画の話をしょっちゅう聞いていた頃を思い出しました。

こんな作品に対しておこがましいけれど、
何度観ても強い印象が残り続ける、いろんな意味で面白い作品です。
今回、相当しばらくぶりに見直したら、
以前から残っていた印象が少し変わりました。
不朽の名作は時を経ても変わらずにそこにありますが、
観る側の年齢や環境が変わると、また違うものを与えてくれるのが面白いです。
何度でも観たくなるもの、つい観てしまうものというのは、
それだけの力のある作品だということなのでしょうね。
改めて見直してよかったです。
2. Posted by にゃむばなな   2009年08月06日 22:15
悠雅さんへ

時代がどんなに変わっても色褪せない名作って本当にあうんだなと感じましたよね。
ほんと、不朽の名作とはこの映画のためにあるようなものですよ。
3. Posted by miyu   2009年09月29日 20:33
なるほどぉ〜!ワインですかぁ〜。
でも、様々な時代を経て、それでもなお語り継がれるというのは
それだけ観る側に余韻と深みを与える熟成された
作品へと確かになっていくものかもしれませんね。
4. Posted by にゃむばなな   2009年09月29日 20:41
miyuさんへ

世界で黒澤作品が今もなお語り継がれている理由が本当によく分かる映画でしたよ。

単に素晴らしい作品ではなく、仰るとおり熟成された巧さがあるからなんでしょうね〜。
5. Posted by 晴雨堂ミカエル   2009年10月30日 11:52
こんにちは、晴雨堂です。
 
 黒澤監督の描写で、何気ない演出なんですが他の監督はあまりやらない事に、汗の描写がありますね。

 黒澤監督が戦後間もない頃に発表した「我が青春に悔いなし」で原節子がブラウス姿で畑仕事をする場面があるのですが、汗でブラウスが濡れて背中に張り付いているんです。
 日常生活で当たり前の事ですし、簡単な演出のはずなんですが、映画やドラマではそんな描写は何故かしません。俳優のイメージとか、撮影の段取りの都合なのかよくわかりませんが。
 しかし黒澤監督はきちんと描写します。
 
 カツラにもこだわっていますね。一般の時代劇では歌舞伎由来のヅラなので生え際が人工的で、子供まで太い揉み上げを生やすしまつですが、黒澤監督作についてはメイク臭さを無くす努力がなされています。
 
 「隠し砦の三悪人」にしても、室町時代の庶民の汗と体臭が漂う描写なのに、樋口監督のリメイクでは見事に悪い意味で綺麗な映像にしてしまいました。
 
 リアリティのある映像だから、迫ってくるものがあります。
6. Posted by にゃむばなな   2009年10月30日 19:49
晴雨堂ミカエルさんへ

黒澤監督の汗の演出は見事ですよね。
セリフやアクションがなくても緊迫感が自然と生まれるんですもん。

現代の映画監督たちもこういった地味な演出をもっと心掛けてほしいですよね。

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