2010年01月02日

『戦場でワルツを』

戦場でワルツをもしこの映画を実写化したら、恐らく世界各国で上映禁止になっていたのではないか。そう思えるほど、ショッキングな映画でした。
アカデミー外国語映画賞にノミネートされながらも日本ではそれほど高い評価を受けていないみたいですが、個人的にはアニメーションという手法を取ることで戦争の、特にあまり報道されない最前線の恐ろしさを観客の想像力をも使って描いた秀作だと思います。

人間の脳には、特に悲惨な経験に関して無意識レベルで自分自身を守るため、どこかで想像力にストップを掛ける作用があると聞いたことがあります。
ですからもしこの映画を実写で撮っていたら、いくら監督自身が悲惨な最前線を経験していても、無意識レベルで「あの悲惨な光景を見たくない」とか「自分はあの場にいかなかった」という心理的作用「解離」が働き、結果的には「よくできた反戦映画」止まりになっていたと思います。
そして観客もどんなに現実に近い映像を見せられても、無意識レベルで自分を守るために「戦争はやっぱりダメ」とかいう感想で済ましてしまうと思います。

でもアニメーションという手法には実写とは違う世界、現実味のない世界という無意識レベルの勝手な心理的安心感があるおかげで、逆により現実に近いものが描ける手法でもあると思うのです。
そして観客もまた無意識レベルで、実写映像を見る時よりもさらに「これは違う世界のこと」と受け取ると思うのです。

つまりこの映画は人間の脳が実写に関しては現実味があるように思い、アニメーションに関しては非現実的なものだと勝手に思うところがあるという無意識レベルの心理的作用を逆利用し、「現実味のない世界」だと思わせるアニメーションを散々見せたあとに「現実味のある世界」だと思わせる実写映像を見せることで、観客の脳から無意識に自分を守るプロテクトを外し、「戦争はダメ」というきれいごとな感想を観客からもらうのではなく、逆に観客から言葉を失わせるくらいのショックを与えることで、本当の意味での「反戦」を描いているんだと思のです。

もっと砕けて言うなら、無意識のうちに人間の脳に掛かるプロテクトを外すことで観客に戦争の本当の恐ろしさをもっと想像させようとしている映画ではないでしょうか。

ただそうは言っても主人公が戦友たちを訪ねては彼らの話を映像で見せるだけを繰り返す映画ですから、多少睡魔との格闘もあります。
でも実写なら多分わざわざ映像化しなかったであろう、戦車に砲弾を受けたにも関わらずに戦いもせず戦車から必死に走って逃げたあのハゲチャビンさんのくだりを見ると、この映画で描かれていることがホンモノであるかどうかは全て観客の想像力に任されているうような気がするんです。

本当に悲惨な経験は実写でもアニメーションでも映像化はできない。つまり悲惨な経験は体験していない人にいくら訴えても通じない。それが人間社会の悲しい現実。
だからこそ「この映画で描かれていることがもし本当のことなら」と観客に想像させることで、本当の意味での「反戦」を描く。
戦場でワルツを踊るように機関銃を撃っていた戦友のくだりをタイトルにし、しかもあえて「ワルツ」という表現を用いたのも監督からの最大限の平和社会に対する皮肉だと思いました。

深夜らじお@の映画館は年明け一発目がこの映画でした。

この記事へのトラックバック

1. 戦場でワルツを  [ 戦場でワルツを: LOVE Cinemas 調布 ]   2010年01月02日 18:51
第81回アカデミー賞外国語映画賞ノミネート作品。『おくりびと』のおかげで惜しくも受賞は逃したが、下馬評ではコチラが大本命だった作品。イスラエル人のアリ・フォルマン監督が自らの戦争体験をアニメーションで綴ったドキュメンタリーだ。旧友との再会で失っていた自ら...
2. 『戦場でワルツを』(@「シネマのすき間」)  [ ラムの大通り ]   2010年01月02日 22:12
-----今日は、ここでは珍しいアニメ。 フォーンは、ちょっといや〜な予感。 だって、えいはアニメには詳しくないし、 これまでにもツッコまれて、困っているのを何度か観ているし…。 ところが、これは普通のアニメとは違うのだとか…。 いわゆるドキュ・アニメ(なんて言葉...
3. 戦場でワルツを・・・・・評価額1700円  [ ノラネコの呑んで観るシネマ ]   2010年01月02日 22:48
「戦場でワルツを」は、イスラエルの映画監督アリ・フォルマンによる、自身の記憶を巡る長編ドキュメンタリーアニメーションという異色作だ??..
4. 戦場でワルツを / VALS IM BASHIR/WALTZ WITH BASHIR  [ 我想一個人映画美的女人blog ]   2010年01月03日 00:35
{/hikari_blue/}{/heratss_blue/}ランキングクリックしてね{/heratss_blue/}{/hikari_blue/} ←please click 今年のアカデミー賞外国語映画賞で受賞した「おくりびと」の対抗馬で本命と思われていた作品{/atten/} 1982年にレバノン・ベイルートの難民キャンプで起きた、...
5. 戦場でワルツを  [ 5125年映画の旅 ]   2010年01月05日 08:52
2006年、アリ・フォルマンは兵役時代の友人と再会し、彼が当時の悪夢に悩まされている事を聞く。それからフォルマンは不思議な夢を見るようになり、19歳の時に参加したレバノン内戦の記憶がほとんどないことに気付く。フォルマンは当時の仲間達と再会する事で記憶を...
6. 戦場でワルツを  [ サムソン・マスラーオの映画ずんどこ村 ]   2010年01月09日 23:40
   = 『戦場でワルツを』  (2008) = 2006年冬、友人のボアズがアリに対して、毎夜みる悪夢に悩まされていると打ち明けた。 ボアズは、それがレバノン侵攻の後遺症だという。 しかし、アリの記憶からは、レバノンでの出来事が抜け落ちていた。 記憶から失...
7. 戦場でワルツを  [ 心のままに映画の風景 ]   2010年01月10日 02:48
久しぶりに旧友と再会したアリは、ある一時期の記憶がないということに気づく。 抜け落ちた過去の記憶を求めて、当時を知る知人たちのもと??.
8. 「戦場でワルツを」が「おくりびと」に負けた理由はよく判る  [ 映画と出会う・世界が変わる ]   2010年01月27日 21:02
「戦場でワルツを」と「おくりびと」とはアカデミー外国語映画賞を争った作品である。結果としては「おくりびと」が受賞したのであるが、私はそれは納得である。「おくりびと」が優れていると言っているのではない。映画としては断然に「戦場でワルツを」が内容もテーマも...
9. 戦場でワルツを/アリ・フォルマン  [ カノンな日々 ]   2010年05月22日 23:17
第66回ゴールデングローブ賞で外国語映画賞を受賞し2009年の第81回アカデミー賞の外国語映画賞にノミネートされて『おくりびと』とオスカーを競ったイスラエルのアニメーション作品です。 +++ちょいあらすじ
10. 【戦場でワルツを】『おくりびと』と争った名作  [ ジョニー暴れん坊デップの部屋 ]   2010年06月10日 00:57
[[attached(1,center)]] {{{[http://eiga.com/movie/54408/ eiga.com 作品情報 『戦場でワルツを』]}}} {{{: 原題: Waltz with Bashir 監督・脚本・製作: アリ・フォルマン プロデューサー: セルジュ・ラルー、ヤエル・ナフリエリ、ゲルハルト・メイクスナー、ロ...
11. 「ハート・ロッカー」「戦場でワルツを」感想  [ ポコアポコヤ 映画倉庫 ]   2010年11月13日 21:12
両方とも、アカデミー賞などを受賞した戦争映画。2つとも夏に家で見ました。 おそれながら・・・私は、両方とも、それほど・・・。特に好きとか、、ガツンと来る映画ではありませんでした。
12. 戦場でワルツを  [ 晴れたらいいね〜 ]   2011年02月06日 22:20
観たいと思いながら、やっとこさという感があります。おくりびとが、アカデミー賞外国語映画賞をとったとき、この映画も非常に高く評価されていました。おくりびとより、こっちの ...
13. 戦場でワルツを  [ 悠雅的生活 ]   2011年02月20日 17:21
海上の幻影。夜の海水浴。自己防衛本能。
14. 【映画】戦場でワルツを…私の記憶からは大川興業のネタぐらいしか出てこない  [ ピロEK脱オタ宣言!…ただし長期計画 ]   2011年04月19日 22:31
まずは近況報告。 先週は夜勤だったのですが、お仕事は暇でした…ずっと忙しめだったので少し休めて良かった感じですが。そんな暇な週なのに2011年4月16日(土曜日)は夕方からお仕事。 2011年4月17日(日曜日)は、ほとんど寝て過ごしました 最近こんな週末が多いです…..

この記事へのコメント

1. Posted by KLY   2010年01月02日 19:02
「サブラ・シャティーラの虐殺事件」が起こったのが今から20年前。実はこの作品の後、この前年のアカデミー賞外国語映画賞ノミネート作品の『カティンの森』を観たんですね。それは1939年に起こった、ナチスによるポーランド人将校の虐殺事件を描いた話でした。結局70年前も20年前も50年間人間は何も学んでこなかったのかと暗澹たる気持ちになりました。

確かに高々映画を観ただけで、その虐殺に関して解ったなどとはとても言えないです。ただ、それでもやっぱり経験した方々には事実を伝えて欲しいですし、それをしっかり受け止める義務が私たちにはあると思います。これらの作品が上映されていなければ、両方の事実を私は知らないまま生活していた訳ですから。
2. Posted by にゃむばなな   2010年01月02日 21:07
KLYさんへ

負の史実を描くことの大切さ。
それが戦争を実際に経験した方の使命なんでしょうね。
そしてそれらを知ることが現代に生きる我々の使命。
意義のある映画とはこういう映画のことを言うんでしょうね。
3. Posted by えい   2010年01月02日 22:49
あけましておめでとうございます。


ぼくは、この映画は、
加害者(監督)が自己のトラウマを探求するという内的世界でいくら悩んでも、
現実として起こったできごとの前においては、
それはある意味、逃げであり、
被害者側から見れば、
何を言っているんだ…になっていると、
自己批判した映画という印象を受けました。


>人間の脳が実写に関しては現実味があるように思い、アニメーションに関しては非現実的なものだと勝手に思うところがあるという無意識レベルの心理的作用を逆利用

このくだりを読んで、
なるほどと思いました。

ことしも、よろしくお願いいたします。

4. Posted by ノラネコ   2010年01月02日 22:53
あけましておめでとうございます。
映画の中身はあんまりおめでたくないですけど(笑
アニメーションという表現技法を、ある意味で最大限効果的に使った力作でした。
しかし、映画のせいじゃないですが、日本の配給がちょっと公開まで引っ張り過ぎましたね。
「おくりびと」オスカー受賞の直後に公開していれば、もっとたくさんの人に届いたのにと思うとちょっと残念です。
今年もよろしくおねがいします。
5. Posted by mig   2010年01月03日 00:38
にゃむばななさんコメントありがとうです、
明けましておめでとうございます☆

>本当に悲惨な経験は実写でもアニメーションでも映像化はできない。つまり悲惨な経験は体験していない人にいくら訴えても通じない。それが人間社会の悲しい現実。

本当そうですね。
反戦映画はこれまでも沢山作られている中
アニメーションでみせて最後に実際の映像というのは画期的手法だったと思うし衝撃でもありますよね。

6. Posted by にゃむばなな   2010年01月03日 16:19
えいさんへ

あけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。

なるほど〜って思いました。
加害者が何を言っても、史実は史実。被害者にとっては加害者のトラウマも加害者が犯した罪も一緒ということなんでしょうね。
深いですよね〜。
7. Posted by にゃむばなな   2010年01月03日 16:21
ノラネコさんへ

あけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。

そうですよね。公開時期がもっと早ければ、もっと注目されていたのに。
ちょっと残念ですよね。
8. Posted by にゃむばなな   2010年01月03日 16:24
migさんへ

明けましておめでとうございます。

反戦映画として、どのようにすれば観客に「反戦」をより伝えられるか。
それをかなり考えた末に作られた映画でしたよね。
あのラストシーンには言葉を失いましたよ。
9. Posted by えめきん   2010年01月05日 08:54
遅れましたが、あけましておめでとうございます!
今年もどうぞよろしくお願いします!

衝撃的な作品でした。アニメーションであるにも関わらず、あの戦場に放り出されたかのようなリアルな印象を与えてくれました。 そしてアニメーションというフィルターが取り払われた時の衝撃。本当に恐ろしかったです。
10. Posted by にゃむばなな   2010年01月05日 20:22
えめきんさんへ

あけましておめでとうございます。
こちらこそ今年もよろしくお願いします。

>アニメーションというフィルターが取り払われた時の衝撃。

それまでのアニメーションのクオリティも決して低くない中での見せ方の巧さを散々味あわせたあとでの、あの衝撃。
これぞ反戦映画の真髄かも知れませんね。
11. Posted by ちゃぴちゃぴ   2011年02月06日 22:43
これも、兵士のPTSDから反戦がテーマですが、アニメでドキュメンタリーな手法で、最後にリアル実写というのが、巧かった。
私も「カティンの森」も観ました。日本軍のあれも、映像化されるということですが、何にせよ、もう戦争は…NO!。
12. Posted by にゃむばなな   2011年02月07日 17:09
ちゃぴちゃぴさんへ

最後の実写映像をより印象深く見せるために作られたアニメ映像。
戦場にいた人にしか作れない映画でしたよね。
13. Posted by 悠雅   2011年02月20日 17:27
中東情勢に全く詳しくないものだから、
人1人の記憶を封印させてしまうショックの大きさとはどんなものだったのか、と、
どちらかといえば、1人の兵士の心の旅につきあう感じで観ていたような気がします。
そして、仰るようにアニメーションで描かれたことの効果はいろんな意味で絶大でした。
だからこそ、あのラストには大きなショックを受けました。
14. Posted by にゃむばなな   2011年02月20日 17:31
悠雅さんへ

アニメーションと実写の効果の違いをしっかりと把握されている監督が実体験を冷静に見つめている感じがする映画でしたよね。
『おくりびと』とオスカーを争った映画なんですから、日本でも知名度がもっと上がればいいのですが。

この記事にコメントする

名前:
URL:
  情報を記憶: 評価: 顔   
 
 
 
昨日の訪問者数
  • 今日:
  • 昨日:
  • 累計:

※オススメです♪※
『KANO~1931海の向こうの甲子園〜』主題歌
ぷろふぃ〜る

にゃむばなな

Twitter始めますた
nyamu_bananaをフォローしましょう
livedoor 天気
ちょいとした広告掲載