2010年10月04日

『瞳の奥の秘密』

瞳の奥の秘密瞳の奥に秘められたのは愛が隠した正義という名の狂気か、それとも正義を貫けなかった後悔が隠した真実の愛なのか。
第82回アカデミー外国語映画賞に輝いたこのアルゼンチン映画。静かで上質な大人のサスペンスドラマが最後に辿り着く2つの秘密に、まるでビターコーヒーを楽しんでいるかのような深い味わいを感じました。

25年前に未解決となってしまった、最愛の妻を殺されたモラレスの瞳の奥に真実の愛を見た刑事裁判所職員エスポシトと彼の相棒で酔いどれの天才職員パブロの執念、そして彼らの上司イレーネの機転で解決に導くことができたはずのとある殺人事件。
その事件をモチーフに小説を書き始めようとする、今は刑事裁判所を定年退職したエスポシト。

映画はエスポシトが小説を書き始めた現代と彼が事件解決に勤しんでいた25年前とを交互にシンクロさせながら描いていくのですが、この蓋をしていた過去をゆっくりと思い出す適度な重みのある現代とパブロのコミカルさやサッカー場でのハンディカメラで見せる緊張感のある追跡劇で構成された過去の対比が本当に素晴らしいこと。

特にこの2年後に軍事政権に移行したアルゼンチン政情の影響か、超法規的措置により釈放されたゴメスがエスポシトやイレーネをエレベーターの中で無言で脅迫するシーンなどは、エスポシトたちが生きている現代が既に描かれているにも関わらず恐怖すら感じるほど。

でもこの映画が本当の意味で素晴らしいと思えるのは、エスポシトたちの命が狙われ始めてから徐々に見えてくる巧妙に張られた伏線の数々でしょう。

例えばエスポシトが自分の代わりに命を落としたパブロのように正義を貫けなかったことに対する後悔が既に現代シーンの中で女性職員に「天使さん」と呼び掛ける形で描かれていたり、エスポシトの身の危険を感じたイレーネの計らいで地方に身を隠すことができたものの、それにより真実の愛を貫けなかったことへの後悔が老いた2人の男女としての距離間で既に描かれていたりと、何気ないセリフや行動が全てこの後半への伏線となっているんですよね。

さらに完成した作品を読んでもらうべく探したモラレスの瞳の奥に秘められた秘密にも「死刑ではなく終身刑を望む」や「あの事件を忘れるべきだ」といった伏線が既に張られており、同時にそれは今もなおモラレスが真実の愛を貫いている証拠でもあるということが分かった時の衝撃は、まさに大人の上質な映画だけが味合わせてくれるビターなテイスト。

そしてエスポシトが走り書きした「TEMO(怖い)」というメモと、Aが打てないタイプライターが伏線となって辿り着くもう一つの秘密も甘味よりも渋味を味あわせてくれる大人のテイスト。
小説を書いたことで改めて彼の瞳に映った、真実の愛を貫いているモラレスと正義を貫こうとしたパブロの姿。その2人がエスポシトのイレーネに対する真実の愛と自分自身に対する正義を貫く覚悟を持った「簡単ではない」けれど心から「TE AMO(愛してる)」と言える、彼の瞳の奥に25年間秘められていた思いを呼び起こしたまま静かにEDロールを迎えた時、人生の美しさをまざまざと感じましたよ。

まさにビターコーヒーの味が分かるようになった大人の静かで上質なサスペンスドラマの傑作。たとえネスカフェゴールドブレンドの味が分からなくても、この映画の良さが分かれば十分違いの分かる人になれるような気がしましたよ。

深夜らじお@の映画館も違いの分かる人を目指します。

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この記事へのコメント

1. Posted by アイマック   2010年10月04日 22:16
にゃむばななさん、こんばんは!
サスペンスとロマンスがうまく絡み合った映画でしたねー。
私が見たときは夏だったので(笑)
今が旬、オススメだね。
2. Posted by KLY   2010年10月04日 22:23
この恋愛と事件の伏線が、普通に観ていると1度は回収されたように感じるんですよ。しかし実はその時点では私たちは真実が見えてなかった、そして本当の結末。さすがに「うはぁ…」と言うしかなかったです。
3. Posted by にゃむばなな   2010年10月04日 22:30
アイマックさんへ

この映画は本当に秋に見るのが一番旬なのかも知れませんね。
これぞ芸術を感じる映画でしたよ。
4. Posted by にゃむばなな   2010年10月04日 22:33
KLYさんへ

そうそう、特に「TEMO」という走り書きメモなんて完全に忘れてましたからね。
それを最後にあんな形で回収するとは…。
いやはや、参りましたよ。
5. Posted by mezzotint   2010年10月05日 00:19
今晩は☆彡
TB&コメントありがとうございます!あらいつのまにか、ブログ名が
変わりましたね。実は前半、だるくて
困りましたが(笑)後半の展開が
なかなか面白かったので、良かったです。ところで、本作の主役を演じられ
たリカルト・ダリンの最新作を昨日
鑑賞しました。これかなりお薦めです!
「カランチョ」という作品なのですが、
リカルトさん、まったく違った役どころ
で出ていますので、ぜひ機会がありまし
たら、観て下さい。
6. Posted by YUKKO   2010年10月05日 00:38
「TEAMO」はひーーーと思いました。スペイン語が解ったら、すぐに気がついたのかなあ。同じ俳優さんたちが25年間演じたのに、違和感なく受け入れられました。最後が大好きです。
7. Posted by にゃむばなな   2010年10月05日 16:27
mezzotintさんへ

『カランチョ』ですね。覚えておきます。そして調べてみます。

アルゼンチンの映画ってなかなか見る機会がないだけに、やっと見れた作品がこういう秀作であるのはうれしいかぎりでしたよ。
8. Posted by にゃむばなな   2010年10月05日 16:29
YUKKOさんへ

いや〜あれはスペイン語が分かっても、そう簡単には気付かないようにできていたと思いますよ。
あの巧さは素晴らしすぎますからね。
9. Posted by オリーブリー   2010年10月05日 19:47
こんばんは。
暫く忙しくしていたら、にゃむばななさんのブログタイトル変わったのですね。

アルゼンチンの映画はあまり観る機会がなかったけど、アカデミーって事で多くの人に観られたでしょうね。
現在と過去、ミステリーとラブ、上手く絡み合わせた大人の為の映画でした。


10. Posted by にゃむばなな   2010年10月05日 20:45
オリーブリーさんへ

はい、これからもよろしくお願いします。

こういう映画がアカデミーを撮ったことで世界中の人たちに見てもらえる機会ができたということは喜ばしいことですよね。
私もこの映画に出会えてよかったと思いましたよ。
11. Posted by ノラネコ   2010年10月05日 22:39
うん、確かにビターなコーヒーの様な大人の映画でした。
娯楽性と社会性を違和感無くミックスし、人間の様々な顔を見せてくれる傑作ですね。
オスカー受賞も納得でした。
12. Posted by rose_chocolat   2010年10月06日 03:03
ラテン映画にしてはとても落ち着いていて、
それでもしっかりとアルゼンチン社会の暗部を描き、恋愛も盛り込む。
うまく観客のツボを捉えた作品だとは思いますが、若干てんこ盛り?になったのが惜しいのかなと。
ですがこれを年間ベストに入れる方は多そうですね(笑)
13. Posted by にゃむばなな   2010年10月06日 11:53
ノラネコさんへ

そうそう、娯楽性と社会性の塩梅が巧いですよね。
こういう映画こそ、オスカーに相応しい作品でしたよ。
14. Posted by にゃむばなな   2010年10月06日 12:02
rose_chocolatさんへ

これは年間ベストに入れる方は絶対に多いと思います。
これだけ巧い伏線の張り方といい、恋愛とサスペンスのバランスの良さといい、映画的に非常に面白い構成でしたからね。
15. Posted by えい   2010年10月10日 22:15
なるほど。
ビターテイストですか。
「違いが分かる人の〜」
もし、コーヒーの国の映画だったら、
これ以上ない、決まり文句ですね。
この映画に張られた数々の伏線。
もういちど、ゆっくり味わってみたいです。
16. Posted by にゃむばなな   2010年10月11日 14:27
えいさんへ

そう、これがコーヒーの有名な産出国だったらと、レビューを書きながら思いましたよ。
でもこの映画に見事に張り巡らされた伏線の数々。これには参りましたよ。
17. Posted by latifa   2011年02月16日 21:09
こんにちは!にゃむばななさん。
子供の頃、ネスカフェゴールドブレンド(^▽^)大人の香り〜に憧れたものです。確かにこの映画、大人〜なムードが漂う映画でした。

>この蓋をしていた過去をゆっくりと思い出す適度な重みのある現代とパブロのコミカルさやサッカー場でのハンディカメラで見せる緊張感のある追跡劇で構成された過去の対比が本当に素晴らしい

確かにそうでしたね。サッカー場からのシーンでは、急にがらっと雰囲気が変わりました。

18. Posted by にゃむばなな   2011年02月16日 21:24
latifaさんへ

ゆっくりとした流れから一転、急に緊迫感のあるシーンになったりなど、この映画は終始大人の香りに溢れた映画でしたよ。
だからこそ「だばた〜♪」のあのCMが思い浮かんだのかも知れませんね。
19. Posted by ちゃぴちゃぴ   2011年02月18日 01:12
こんばんは。
違いのわかる大人のですね。
ふとした細かいところの伏線が、見事だったし、現在と過去も違和感を感じませんでした。
あのタイプライターのことー冒頭での走り書きが、終盤に実はというところが唸っちゃいました。見応えのある愛の映画ですよね。
20. Posted by にゃむばなな   2011年02月18日 20:35
ちゃぴちゃぴさんへ

伏線の張り方の見事さはここ数年では一番ではなかったでしょうか。
それくらいこの映画は技巧的でありながら、でも描いていることは真っ直ぐな愛なので余計に心に響くのかも知れませんね。
21. Posted by なな   2011年03月05日 00:01
こんばんは!

遅ればせながら今頃DVD鑑賞ですが
アカデミー賞受賞も納得の秀逸な作品でしたね。
重なり絡み合う登場人物たちの人生模様,
ぶれない主題とおっしゃるように見事な伏線。
まさに大人の味わいの作品ですね。
22. Posted by にゃむばなな   2011年03月05日 13:02
ななさんへ

こういう映画こそ大人の味わいが味わえる映画ですよね。
これぞ名作映画ですよ。

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