2010年10月22日

『第三の男』

第三の男映画の面白さが全て詰まった映画。シナリオ、カメラワーク、スコア、そしてライティング。
古典的名作として語り継がれているこの作品ですが、サスペンスなのに何度でも見たくなる不思議な魅力と白黒映像だから映える光と影の演出は、古典的名作というよりもむしろ名画の中の名画と賞賛されるべき素晴らしさでしたよ。

交通事故で死亡したというハリー・ライムは善き友人だったはず。なのにキャロウェイ少佐たちはなぜ彼を悪人と言うのか。
この謎を解くため、正義感の強いホリー・マーチンが第一次世界大戦後に分割統治されたウィーンでハリーが交通事故に遭った時にいたという「第三の男」を探るべく家主、オーストリア人、ルーマニア人、そしてハリーの恋人のアンナから真相を聞き出そうとする前半は、登場人物をアップに撮ったり斜めから撮ったりするカメラワークやサスペンスなのに陽気なスコア、ドイツ語で話されるシーンには英語字幕すらない演出のおかげか、黒澤明監督の『羅生門』の如く、誰もが胡散臭く感じること。

特に観客の謎解きに対する集中力を阻害するかのようなあの陽気なスコアやドイツ語の分からないホリーと同じように観客にも情報制限を強いるような演出は、まるで観客の不安や想像力さえも面白い映画を構成する要素として用いているかのよう。

さらにオーソン・ウェルズの顔が照らされるあの有名なシーンも、猫が懐いているということでハリーが生きていると分かっているにも関わらず、闇に光を当てた瞬間に明かされる真実に思わずドキッとしちゃうんですよね。

そしてそこからまるで主役が入れ替わったかのようにジョセフ・コットンよりもオーソン・ウェルズの存在感ばかりが際立つ後半もまた光と影の演出が物凄く巧いこと。
例えば囮になったホリーを遠くから監視していたキャロウェイ少佐たちが闇からヌッツと現れてはまた闇に消えていくシーンや大きく壁に映し出される風船売りの影が徐々に近づいてくるシーンはBGMがなくても緊張感は凄いものがありましたよ。

また下水溝に入ってからのシーンでも警察が分水溝から迫ってくる様を分水溝の闇と警察の怒号だけで見せるという演出でよりハリーが精神的にも追い詰められていく様子をものの見事に表現しているところも素晴らしいこと。
しかもこのシーンでもセリフはほとんどなく、ハリーの逃げ切りたいという執念やもはやこれまでと観念するシーンを全て彼の表情ではなく、格子状の溝蓋から出された彼の指だけで見せきるところも本当に見事。

で、これだけ緊張感ある演出で下水溝のシーンを見せておきながら、またあの陽気なスコアで正真正銘のハリー・ライムの葬式やホリーがアンナにフラれるシーンを見せたりする粋な演出も巧いこと。もう最初から最後まで無駄なシーンはない映画とはまさにこの映画のことだと改めて思いましたよ。

あと、この映画ではアメリカ人ホリー・マーチンを現地の事情などお構いなく自分が信じる正義だけで状況を引っ掻き回すアメリカと皮肉って描いてますが、これは1949年にこの映画が作られてから61年経った今でもその状況は特に変わっていないんですよね。それを考えるとこの映画の先見性って凄いことですよ。
ということはホリーが講演会を失敗したこともいつか世界がアメリカの話を聞かなくなるという警鐘なんでしょうか。いやはや、この映画はどこまでも凄いとしか言い様のない映画ですね。

深夜らじお@の映画館も何かと順番的に第三の男になることが多々あります。

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acideigakan at 20:53│Comments(2)clip!映画レビュー【た行】 

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1. 第三の男 【THE Third Man】  [ 映画と旅行、にゃんぱらりんな日々 ]   2011年09月15日 22:47
TOHOシネマズ。午前十時の映画祭。いいねこのシリーズ!! アメリカの小説家ホリイ・マーティンス(J.コットン)は、旧友ハリー・ライム(O.ウェルズ)からの仕事の依頼でウィーンを訪れる。だが、ライムは自動車事故で死亡したと知らされる。ライムの葬儀でイギリス軍のキ...

この記事へのコメント

1. Posted by にいな   2011年09月15日 22:45
いゃあ面白かった。
全てにおいてうならされました。あの絵画のようなラストシーンに含まれる意味合いといい、それまでもよかったのですが、ラストシーンで「見事!」といわずにはいられませんでしたよ。

オーソン・ウェルズの暗闇に浮かび上がる表情がなんとも言えません。

2. Posted by にゃむばなな   2011年09月16日 17:16
にいなさんへ

映画の面白さが全て詰まっていると聞いて私も見たクチなのですが、これは本当に面白いの一言。
特にあの闇夜に浮かび上がるオーソン・ウェルズの表情はたまりませんでしたよ。

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