2010年10月23日

『グッバイ、レ−ニン!』

グッバイ、レーニン!約一年遅れでケルナー家に訪れた東西ドイツ統一に、心が温かくなる優しさと心が淋しくなる哀愁を感じました。
ベルリンの壁崩壊という歴史の大転換が起こっても、社会主義国であった東ドイツが消滅しても変わらないものもある、変わってほしくないものもある。そんな歴史の転換期にベルリンで生きた人たちの素直な想いを描いた静かな秀作でした。

ベルリンの壁崩壊。それは東西冷戦の終結を意味すると同時に、社会主義の東ドイツが資本主義の西ドイツに吸収された形で東西ドイツが統一されたことをも意味するもの。

資本主義の国に住む我々からずれば東西統一により東ドイツは社会主義から解放されたと見てしまいがちですが、でも東ドイツでの生活だって決して捨てたもんじゃなかったはずです。
例えば母親クリスティアーネが好きなピクルスに代表されるように東ドイツにもいいものはたくさんあったはずですし、また逆に統一によって姉アリアネの恋人のように西ドイツから自由と一緒に無責任が流れてきたこともあったでしょう。

さらにはアレックスの友人で映画マニアのデニスと東ドイツのニュース番組を擬似製作するくだりも、東とか西とか関係なく同じドイツ人として協力すれば何だってできるというメタファーであるかのよう。
特にデニスがこの擬似番組製作に熱狂していく様は好きなことに没頭できる「資本主義の自由」と誰かのために頑張るという「社会主義の責任」の両方を表現しているかのようで、まさに彼こそある意味東西ドイツの象徴的存在なのかも知れませんね。

なので夫が西ドイツに亡命により熱烈な社会主義者になった母親が心臓発作で倒れてから8ヵ月後の統一されたドイツで目覚めたにも関わらず、アレックスが母親にショックを与えないために東ドイツだった頃をあれこれと再現し続けるのも、アレックス自身がまだ東ドイツでの生活から抜け出せない一方で、西ドイツから押し寄せてくる波にもまだ戸惑っている自分自身に対して、母親のためにという大義名分で懐古主義に浸っているようにも見えてくるんです。

つまり当時東ドイツに住んでいた方にとってはベルリンの壁崩壊が「母国の統一」よりも「母国の消滅」を意味するくらい衝撃的だったのかも知れないと思うと、アレックスが母親のために奔走する姿にはより優しさと同時に哀愁も感じるんですよね。

ですから彼が母親の「夫に続いて亡命できなかった」という告白を聞き、かつて自分にとっての英雄だった今はタクシードライバーをしている宇宙飛行士に出会い、幼い頃に別れた父親に再会し、1年遅れで母親に東西ドイツ統一を見せるのも、彼なりのゆっくりとした成長なんでしょう。

レーニンを安易に社会主義や東ドイツを象徴するだけの存在にせず、過去のトラウマや成長できずに止まっているアレックス自身に置き換え、しかもレーニンの母国ソ連から来た看護学生のララと資本主義国になったドイツで未来を歩もうという皮肉も効いたこの映画。
本当に社会主義の東ドイツと資本主義の西ドイツを統一したように、優しさと哀愁を見事に融合させた素晴らしい作品でしたよ。

深夜らじお@の映画館は東西ドイツ統一のニュースを今でもはっきりと憶えています。

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acideigakan at 19:58│Comments(6)clip!映画レビュー【か行】 

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この記事へのコメント

1. Posted by あき   2010年10月24日 19:41
こんばんは。はじめまして。
勝手におじゃましてしまいすみません。
この映画良いですよね。

>母親のためにという大義名分で懐古主義に浸っている
上手いこといわれるなあ、と思いました。

ピクルスが印象的ですよね。
2. Posted by にゃむばなな   2010年10月24日 21:09
あきさんへ

はじめまして。これからもよろしくお願いします。

あのピクルスは印象的でしたね。
私も経験あるのですが、やはり急激な変化の中に身を置くと、どうしても懐古主義になるのが人間の素直な状態なんでしょうね。
この映画を見ながら、ふとそんなことを思いましたよ。
3. Posted by YUKKO   2010年10月26日 00:04
途中のバタバタぶりに笑って笑って、でも母親を思う息子の気持ちにほろりとしました。しかし、8か月の間にコロリと世界が変わるのですから、考えてみれば柔軟性のない人は、病気でなくても、ついていけない経験なのでしょうか?
主役を演じたダニエル・ブリュールその後「ラヴェンダーの咲く庭で」と「青い刺」の両作品でも物凄い良い演技してました。特に「ラヴェンダー〜」は私のお気に入りです。
4. Posted by にゃむばなな   2010年10月26日 01:37
YUKKOさんへ

そうですよね。たった8ヶ月で何もかも変わっちゃうんですもんね。
環境の変化に付いていけない云々ではない人も少なからずいらっしゃったことでしょう。

それからオススメいただいた2作品もチェックしてみます。
5. Posted by ディープインパクト   2010年10月26日 21:07
 お久しぶりです。この映画はヒューマンコメディの傑作だと思います。
 子供の母親に対する愛情には感動しました。
 この主演の息子さんはイングロリアル・バスターズでナチスの宣伝映画で狙撃兵としてショシャナに恋する兵士(最後は撃ち合っていましたが)だと知っていました。
 最近はヨーロッパの俳優さんもハリウッド映画にたくさん出演しているので、見つけるのが楽しいです。
6. Posted by にゃむばなな   2010年10月26日 21:16
ディープインパクトさんへ

あぁ〜、あの恋するナチス兵を演じた俳優さんだったんですね。
全くイメージが違っていたので気付きませんでしたよ。

それにしても、この作品がヒューマンコメディの傑作というのは凄くよく分かります。
これぞヨーロッパ映画!という魅力もたっぷりのいい映画でしたから。

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