2010年12月18日

『最後の忠臣蔵』

最後の忠臣蔵想いを押し殺す。無二の親友を失いかけようとも、かつての仲間から卑怯者と罵られようとも、大石内蔵助の忘れ形見・可音が幸せに嫁がれるまではどんな想いとて押し殺す。それが瀬尾孫左衛門の使命。
我々が知る赤穂忠臣蔵の裏に隠された、もう一つの物語。48人目の赤穂藩士が47人目の武士として自刃するまでを描いたこの物語に、私はこの冬一番熱い涙を流させてもらいました。

赤穂四十七士たった一人の生き残り寺坂吉右衛門に託された使命。それは討ち入りの真実を志士たちの遺族に伝えること。そんな彼が偶然見かけた、討ち入り前夜に突如姿を消した無二の親友・瀬尾孫左衛門という男。

映画は中盤まで可音を育てる瀬尾孫左衛門と進藤長保宅に世話になっている寺坂吉右衛門を直接会わせようとしないのですが、これが逆に両者の心内、特に孫左衛門の心内を凄く丁寧に描いているんですよね。

お世話になっている夕霧にも全てを話せず、全て一人で悩み苦しみ、時にかつての同志から蹴り倒されたり、無二の親友だった吉右衛門にも刃を向けなければならないその苦しみ。可音が嫁いだ後には自分には何も残らない状態になることを承知の上で、それでもなお橋の下で親友の落胆の言葉を聞かなければならない孫左衛門のあの苦悩の表情は見るに偲び難いほど。真実を言えば自分は楽になるのに、使命がゆえにそれができない。いや自らしない孫左衛門の想いを押し殺す苦しみはまさに辛苦。

しかもこの孫左衛門の苦悩を人形浄瑠璃という、いわば日本古来のミュージカルを挟むことで『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』などと同じように間接的に表現しているのが巧いこと。

でも想いを押し殺していたのは決して孫左衛門だけじゃないんですよね。自分の出生の秘密を知った可音もまた同じ。
自分の想いを孫左衛門にぶつければ自分は幸せになるかも知れないが、それでは大好きな孫左衛門を使命から解放してあげることができない。孫左のことが大好きだからこそ自分で着物を仕立てることで想いを押し殺す。孫左が自分が嫁いだ後に武士として自刃するかも知れないと心のどこかで分かっていても、それでも孫左を使命という重荷から解放してあげたいがために想いを押し殺す。これがボディブローのように心にゆっくりとじっくりと響いてくるんです。

そんな孫左衛門と可音の押し殺した想いで思わず号泣してしまったのはやはり可音の嫁入り道中。吉右衛門を始めとして元赤穂藩士が次々とその道中に加わるその姿に、16年に及ぶ孫左衛門の辛苦が報われると同時に顔を見ることもなかった亡き大石内蔵助の人柄が見えてくるんです。孫左衛門が可音に注いできた愛情と元藩士たちの道中のお供を懇願する表情に可音の亡き父親の優しさが見えてくるんです。

そして夕霧の生きてほしいという願いを断ってでも孫左衛門が選んだ武士としての最後もまた号泣でした。
本来なら自分の娘のように思って育ててきた可音の婚儀の席には出席したかったはず。可音が生む子供の顔も見たかったはず。でもそれは自分の使命ではない。可音が嫁いだらそこで自分はやっと武士としての道を選ぶことができる。

だから孫左衛門が選んだ「介錯無用」という最後。暗闇にただ孫左衛門の顔が映り、走馬灯にように思い返される可音との幸せだった日々に熱い涙を流せないはずがありませんでしたよ。
自分の想いを押し殺し、武士としての最後を選んだ孫左衛門。
彼こそ48人目の赤穂浪士、47人目の自刃した赤穂藩士。

「生きろ」と命じられた瀬尾孫左衛門と、「死ぬな」と命じられた寺坂吉右衛門。
この2人の人生が交差する時に生まれたこの「死んでいった赤穂浪士より生き残らされた武士の方が背負うべきものが大きかった」物語に真の忠義を見させてもらいましたよ。
本当に素晴らしい映画。そして役所広司さんの渾身の演技に涙する映画でした。

深夜らじお@の映画館は忠臣蔵が大好きです。

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この記事へのコメント

1. Posted by BROOK   2010年12月18日 20:57
私も思わず落涙してしまいました。
こんなにも素晴らしい作品に出会えるとは・・・。

キャスト陣も素晴らしいですし、
ストーリー展開も秀逸でした。
そして、あのラスト・・・思い出しただけでも、涙が出ます。
2. Posted by KLY   2010年12月19日 00:26
これは素晴らしい作品でした。
日本人の心の機微をしっかり掴んでる。もう一つの忠臣蔵とは正にその通りで、これは後々残る名作だと思いました。
それにしても桜庭ななみちゃんをちょっと甘く見てたです。役所さんが「どんどん女優になっていった」と仰ってましたが、その通りだと。
3. Posted by にゃむばなな   2010年12月19日 01:41
BROOKさんへ

あのラストは私も思い出すだけで涙が出そうになりますよ。
本当に素晴らしい作品に出会えましたよね。
4. Posted by にゃむばなな   2010年12月19日 01:44
KLYさんへ

確かに桜庭さんは役所さんや佐藤さんといった名優たちに引けをとらない演技をされてましたよね。
素晴らしい役者陣と素晴らしい作品。
素晴らしい映画はこう作られるんだと教えられたような映画でしたね。
5. Posted by SOAR   2010年12月19日 19:43
わずか16の少女が背負った運命。孫左衛門への想いで揺れる可音の心に胸を打たれました。
迷わず刀に手をかけた吉右衛門とそれを制止する孫左衛門の「介錯無用」。ここもたまりません。
嫁入りの行列に続々加わる元藩士たちのシーンにも泣かされましたね〜。
6. Posted by にゃむばなな   2010年12月19日 22:35
SOARさんへ

あの行列のシーンは泣けますよね。
孫左衛門の忠義が報われた瞬間でしたよ。
7. Posted by kajio   2010年12月21日 21:41
来年度の、邦画の主要な賞の最優秀・主演男優部門は決まりですかね…
8. Posted by にゃむばなな   2010年12月22日 16:00
kajioさんへ

そうであってほしいですよね。
日本アカデミーもいい映画をきちんと評価できればいいのですが…。
9. Posted by ノラネコ   2010年12月29日 00:21
滅私すること、侍であることとは、何とも厳しいものですね。
この映画、色々な微妙な感情のアンサンブルで、一言で言い表すのがとても難しいのですが、地の繋がらない父娘の、ある種のラブストーリーだと思っています。
劇中劇の曽根崎心中が象徴的で、孫左衛門の最後は忠義の証であると同時に、可音との精神的な心中に思えました。
10. Posted by にゃむばなな   2010年12月29日 15:13
ノラネコさんへ

可音との精神的心中とはなかなか奥深い読みですね。
でもそれは凄くよく分かります。
あれだけ長い時間一緒に過ごしたのですから。
11. Posted by miyu   2010年12月30日 18:04
そうですね。
浄瑠璃のシーンが非常に良かったです。
そして、あの可音が見染められるシーンもまた
あの劇場でってのが、良かったですねぇ。
12. Posted by にゃむばなな   2010年12月30日 21:50
miyuさんへ

浄瑠璃という人の心の声だけをきれいに切り取って描く日本古来の文芸を巧く使ってましたよね。
監督のセンスの素晴らしさを感じましたよ。
13. Posted by オリーブリー   2010年12月31日 01:44
こんばんは。

可音の覚悟にも涙が溢れました。
そうですよね、彼女は孫左衛門が自害すると分かっていたと思います。
美しく熱い思いが伝わる作品でした。



14. Posted by にゃむばなな   2010年12月31日 13:08
オリーブリーさんへ

可音も孫左衛門を一人の武士として送り出したいからこそ、あの縁談を受け入れたというのもあるんでしょうね。
侍の世界は男女共に美しい世界ですよ。

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