2011年01月11日

『蟻の兵隊』

蟻の兵隊日本軍中国山西省残留問題。
軍命により武装解除することなく中国国民党の一部として共産党との内戦を戦ったにも関わらず、未だ国家からは兵士たちが勝手な意思で残留したと見なされ、戦後補償を拒み続けられている悲しき問題。
この作品はそんな兵士の一人であった奥村和一さんが真相究明に奔走する姿を追った秀逸なドキュメンタリー映画です。

まずこの映画を見ていると、本当に奥村さんの怒りと悲しい想いがひしひしと伝わってきます。
奥村さんたちは戦争が終わったから早く帰国したいという気持ちがあったのに、「皇軍の復活のため」という軍命だと聞かされ仕方なく戦ったのに、それを未だ政府は自分たちの責任ではないと戦後補償を拒み続けている。
しかも国民党・閻錫山将軍と日本軍・澄田中将との間で密約された文書を奥村和一さんが中国に赴いてまで見つけ出しているにも関わらず、高裁では敗訴し、最高裁では上告を棄却されてしまう。

証言できる人間が年々少なくなっていく中で焦る気持ちと、戦地で蟻のように戦い散った約550名の戦友の無念さを思う気持ちを抑えながら当時のことに改めて向き合う奥村さんのやり場のない怒り。

もちろん日本政府からすれば、この残留問題を軍の責任と認めると全軍武装解除を約束したポツダム宣言に違反するので認めたくないのでしょうが、だからと言って残留兵の方々を「勝手に残った志願兵」として突き放すのはあまりにも酷すぎます。
しかも司法もあれだけ明確な文書が残っているにも関わらず、まるで当事者たちが死に絶えるのを待っているかのように判決をはぐらかす。これは見ていて本当に悲しいです。

でももっと悲しいのはこの国が戦後行ってきた「真実を教えない教育」がこれら過去の史実を歴史の闇に葬り去ろうとしていることではないでしょうか。
冒頭の靖国神社に誰が祭られているのかも知らずに初詣に来ていた女性がいたように、また同じくドキュメンタリー映画『ヒロシマナガサキ』でも1945年8月6日に何があったかを答えられない日本人が多くなっているように、この日本という国はGHQ主体でとはいえ世界に先駆けて平和憲法を制定していながら、過去の反省をしっかりと学ぶことをしてこなかったんですよね。

劇中で奥村さんが「戦争が終わっていなかったら、私は上官と同じように新卒兵に肝試しと称した殺人を強いていた、戦地で強姦を行っていた」と仰っていたように、教育は徹底的に人間性を殺す一方で、逆にそんな蛮行を二度と行わないように自制することもできる、非常に大切なもの。
にも関わらず、この国は当事者たちがまだご存命の「過去」を遠い昔の「歴史」のように扱おうとしている。真実を歴史の闇に葬り去り、史実を証言できる人たちが死に絶えるのをひたすら待ち続けている。私には現代の歴史教育がそんな風に思えて仕方ありませんでした。

考えて見れば、靖国神社で軍服を着て「天皇陛下万歳」と叫んでいる人たちの行動も「過去の事実」であっても「どこまでが真実」なのか分からないもの。どれだけデフォルメされているか分からないもの。

ラストで奥村さんがルパング島から帰還した小野田寛郎さんとほんの数秒だけ議論を交わすシーンがありましたが、同じように終戦後も戦闘を続けたにも関わらず一方は国家から補償され、一方は国家から補償を拒み続けられている事実。
いったい奥村さんの目には大東亜戦争を美化するような発言をしていた小野田さんはどう映っていたのでしょうか。
羨ましい存在、裏切り者、それともあなたこそ真実を話してほしい…。

過去が歴史になってしまうのも時間の問題です。

深夜らじお@の映画館は戦争が大嫌いです。

※お知らせとお願い
【元町映画館】に行こう!

acideigakan at 18:00│Comments(2)clip!映画レビュー【あ行】 

この記事へのトラックバック

1. 「蟻の兵隊」■戦争とは「人殺し」である  [ 映画と出会う・世界が変わる ]   2011年01月20日 10:13
2007年1月1日、映画「蟻の兵隊」を見る。戦争というものが人間をどのように変えていくのか。これはそのことを赤裸々に、正面から描いた作品である。軍隊というものは、あるいは国...

この記事へのコメント

1. Posted by latifa   2011年01月12日 18:03
にゃむばななさん、こんばんは!
私も戦争が大嫌いです。

ドキュメンタリー映画『ヒロシマナガサキ』は未見なのですが、小学生の中学年の殆どが、1945年8月6日とか、15日に何があったか?また、日本とアメリカが戦争をしていたということさえ、知らなかった(*_*)ということに愕然としたのでした・・・。
2. Posted by にゃむばなな   2011年01月12日 20:42
latifaさんへ

『ヒロシマナガサキ』を見ていただくと、小学生どころか大の大人がその日が何の日か分かっていないという実態が描かれています。
本当にこの国は過去から何を学んできたんでしょうね?

この記事にコメントする

名前:
URL:
  情報を記憶: 評価: 顔   
 
 
 
昨日の訪問者数
  • 今日:
  • 昨日:
  • 累計:

※オススメです♪※
『KANO~1931海の向こうの甲子園〜』主題歌
ぷろふぃ〜る

にゃむばなな

Twitter始めますた
nyamu_bananaをフォローしましょう
livedoor 天気
ちょいとした広告掲載