2011年02月22日

『真夜中のカーボーイ』

真夜中のカーボーイ夢を描いて大都会に新天地を求めてやってきた若者が直面する冷たい現実。それがたまらなく切ない。
今なおアメリカ映画の最高傑作の1本に挙げられる方も大勢いる、このアメリカンニューシネマの代表作。
ラストのバスの中で見せるジョーとラッツオの表情が重く心に残る映画でした。

ハリー・ニルソンの軽快なカントリーソング「うわさの男」から始まるOPからはジョーが苦労しながらもNYで成功していく青春モノかと思っていましたが、やはりアメリカンニューシネマが描くのはそんな生易しいものではありませんでしたね。

皿洗いのバイトが嫌でテキサスからNYへ男娼として成功する夢を描いてやってきた少々世間知らずでナルシストなジョーと、そのジョーを自分が仲介役になって儲けさせてやると騙して20ドルをせしめたフロリダ出身で片足が不自由なラッツオ。
正直、この2人は本当に弱くて惨めで汚い存在です。世間のゴミ的存在だと言う人がいてもおかしくないくらいに、本当に弱くて惨めで汚い2人です。

でもこの2人には「それでも生きていくため」「新天地と思って夢描いたNYで生きていくため」、そして「一人では故郷に帰れない」という、人間として凄く理解できる様々な思いが根底にあるためか、どんなに弱くて惨めで汚い存在でも、不思議と彼らから目を離すことができないんですよね。

多分それは私も20歳前に大都会の厳しさを味わった経験があるからだと思うのです。
私の場合は明石から神戸や大阪にバイトでという程度なんですけど、それでも1人で初めて大都会の厳しさを知った時のあの自分の無力感と誰も助けてくれない淋しさは、やはり何年経っても心の奥底にひっそりと眠っています。

ですからそれがテキサスやフロリダから夢を持ってNYに出てきたジョーやラッツオなら、その無力感や淋しさは相当なものだったはず。
ましてやそこに日々衰えては階段から転げ落ちるラッツオの姿を目の当たりにしたなら、ジョーもラッツオのために稼いだ金で薬や栄養のある食べ物を買ってやりたいと思うのは当然のこと。
しかしジョーがラッツオのことを心配するのと同じように、またラッツオもジョーのことを心配しているからこそ、2人はぶつかり合うんですよね。それが何とも切ない。

こんな広く数え切れないほど人が行き交う大都会NYで、彼らを救ってくれる人が誰もいない。倒れた人がいても誰も介抱するどころか気にも留めないその大都会の冷たい現実が氷点下の気温となってラッツオの体を蝕み、ラッツオを心配するジョーの心を痛める。

そんな2人がラッツオの故郷でもあるフロリダに新天地を求め旅するバスの中でのラストもまた本当に切なかったです。
一人失禁してしまうラッツオ、そのラッツオのために新しい服をバスを降りて買いに行くジョー。もうそこには騙し騙されがきっかけで出逢った2人とは思えない確かな友情を感じるんですよ。

だからこそ、新天地フロリダに足を下ろすことなく眠りについたラッツオがどこかジョーが幸せになってくれることを祈るように笑顔にも見える表情とは対照的に、ラッツオにフロリダの地を踏ませてやりたかったと悔やむジョーの悲しい表情がまた切ない。

回想シーンをサイケデリックに挿入するなど、ちょっとアメリカンニューシネマに馴染みのない人には取っ付きにくい演出が気になる映画かも知れませんが、それでもこれはジョン・ヴォイドとダスティン・ホフマンの名演が若者を経験した人の心の奥底に眠っている「あの頃の感情」を静かに呼び覚ましてくれる名作だと思います。

深夜らじお@の映画館は大都会より地方都市でこれからも生きてゆきます。

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acideigakan at 21:25│Comments(8)clip!映画レビュー【ま行】 

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1. 「真夜中のカーボーイ」「帰郷」感想  [ ポコアポコヤ 映画倉庫 ]   2011年02月23日 16:32
アカデミー賞を受賞した映画2つ。両方に、アンジェリーナジョリーの父、ジョン・ヴォイトが主演してます。
2. 真夜中のカーボーイ  [ LOVE Cinemas 調布 ]   2011年04月30日 00:21
1969年のアカデミー賞で6部門ノミネートし、作品賞と監督賞・脚色賞の三冠を獲得したアメリカン・ニューシネマの代表作。テキサスの田舎からニューヨークに出てきた男と片足を引きずった小男の奇妙な友情と、2人が底辺から這い上がろうともがく姿を描く。主演はダステ
3. 真夜中のカーボーイ  [ ダイターンクラッシュ!! ]   2011年05月16日 02:24
2010年6月18日(金) 録画再生(BS h 6月14日15:00放送) 真夜中のカーボーイ (2枚組特別編) [DVD]出版社/メーカー: 20世紀フォックス・ホーム・エンターテイメント・ジャパンメディア: DVD 1970年頃のアメリカン・ニューシネマの1本。何故か少年の頃にテレビの吹替えで

この記事へのコメント

1. Posted by ジョニーA   2011年02月23日 00:39
「カーボーイ」という邦訳を考えたのは
今は亡き水野晴郎センセーでしたっけね。
ワチシも何だかんだで、この名作はまだ
観ておりませぬ。そのうちしっかりと鑑
賞しようと思います〜〜(#^v^#)
2. Posted by にゃむばなな   2011年02月23日 01:55
ジョニーAさんへ

確か「買うボーイ」にならないように「カーボーイ」になったと聞きました。
まぁ水野先生ですからね。
3. Posted by kajio   2011年02月23日 02:36
http://www.youtube.com/watch?v=uvUOCndEby8

オーケンが、歌詞の中で使ってましたね。

当時の、いなたい雰囲気がよっぽど好きやったんやろなぁ…
4. Posted by latifa   2011年02月23日 16:39
にゃむばななさん、こんにちは!
私もこの映画を昨日見たばっかりなんです^−^
有名な映画なのに今まで見た事がなくて、今回初見だったのですが、今見ても凄く面白くて、名作と言われるだけの事はあるなぁ〜って思いました。

>回想シーンをサイケデリックに挿入する
 今でこそ、こういう手法の映画はありますが、あの当時は珍しかったのでしょうか、私は好きでした。この映画、テンポや脚本が良く、間延びして感じる処が全然無かったです。
5. Posted by にゃむばなな   2011年02月23日 18:15
kajioさんへ

やっぱりオーケンもこういう世界観が好きなんでしょうね。
ある意味、それでこそオーケンですよ。
6. Posted by にゃむばなな   2011年02月23日 18:17
latifaさんへ

あの回想シーンは今でも分かりにくいという人はちょいちょいいるそうですね。
でもあのサイケデリックさがいいんですよね。
どこかトラウマのようにも見える感じのする奥深さが。
7. Posted by KLY   2011年04月30日 00:24
>どこかジョーが幸せになってくれることを祈るように笑顔

うん。そんな感じに見えましたよね。自分はもう駄目だけどお前は…って。
この頃のハリウッド映画は皆印象的なラストシーンが用意されていて好きです。あとは観客のご想像にお任せしますってのもいいのだけど、これだ!って作り手の意志を見せてくる強烈なラストシーンが少なくなったように感じます。
8. Posted by にゃむばなな   2011年04月30日 19:59
KLYさんへ

アメリカン・ニューシネマ全盛期だったこの頃の映画は本当に印象的なラストが多いですよね。
多分それだけ作り手の思いがこもっている証拠なんでしょうね。

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