2011年04月13日

『息もできない』

息もできない大切な人を守れない自分がいる。その無力感が生み出す閉塞感で息もできない。
いったい韓国映画界にはどれほどの無名な逸材がまだ眠っているのか。そう思わざるを得ないこの淋しくも温かく、そして涙は流れないのに心に深く残る大傑作。またしても私は映画館で見るべき傑作を見逃していましたよ。

父親の暴力によって家族が崩壊したサンフンと精神的に病んだ父親と弟の暴力によって家族が崩壊しかけているヨニ。
まずこの2人の対比が素晴らしいこと。
同じように父親との関係に悩み、姉と弟という関係にも悩み、夢も希望もなく発狂したいくらい閉塞感だらけの毎日の中で必死にもがいている似た者同士なのに、その憤りのない感情を男女関係で満たすことなく、汚い言葉と暴力で深めていく絆。
そして自分たちの心内を具現化したような存在であるヒョンインの笑顔のために、新しい自分を見つけ出そうとまたもがき始める。

チンピラと女子高生という設定でありながら、この映画が描いているのは「互いを思いやる愛」ではなく「大切な人たちを守りたいと思う愛」。
ですからサンフンとヨニは決して「2人1組」ではなく「2人それぞれ」として描かれているんですよね。それが淋しくもあり温かくもあるんです。

『悪人』でもありましたが、人は閉塞感から抜け出そうとする時、必ず誰かの存在を必要とします。
でも環境が閉塞感を生み出した『悪人』とは違い、トラウマが生み出した閉塞感から抜け出すには「誰かに助けてもらいたい」ではなく「誰かのために抜け出したい」と思えないと抜け出せないもの。そしてそのためには自分が変わらなければならない。

憎き父親と暴力でしかコミュニケーションを取れなかった無力感に悩み、自殺未遂を図った父親のために輸血を申し出て暴れたサンフンがヨニの膝枕の上でが流した涙。
それは一緒にヤクザを辞めると言ってくれたマンシクの優しさを受け入れ、ファンギュの再婚を気に掛け、ヒョンインの学芸会に行ってあげたいと思えるようになったサンフンが初めて知った「大切な人たちを守りたいと思う愛」なのでしょう。

そんな彼が同じようにサンフンたちだけでなく父親や弟のためにも変わろうとしたヨニの弟ヨンジェによって撲殺されるのはまさに皮肉。

そしてマンシクの焼肉屋でファンギョたちと別れ、街中で破壊活動をするヨンジュの姿を見かけたヨニの「息もできない」と思えるような淋しげな表情で終わるこの映画のラスト。
その時ヨニはヨンジュを想いサンフンの姿を重ね合わせたのか、それともサンフンを想いヨンジュの姿を重ね合わせたのか。

深夜らじお@の映画館は韓国映画の素晴らしさに毎度感服してしまいます。

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この記事へのコメント

1. Posted by KLY   2011年04月13日 21:17
サンフンの運命は皮肉としか言いようが無いのですが、それでも彼は後戻りする気はなかっただろうし、ある意味の覚悟はあったのかも知れないと思うのです。
それにしても役者としても監督としてもいいですねぇ。
2. Posted by にゃむばなな   2011年04月13日 21:33
KLYさんへ

あれだけ皮肉な結末であるにも関わらず、観客を重い気持ちにさせないのは、仰るとおり、彼の後戻りする気のなさのおかげでしょうね。
そんなサンフンを生み出したこのヤン・イクチュン監督。本当に凄い方ですよ。
3. Posted by なな   2011年04月14日 00:13
こんばんは

>韓国映画界にはどれほどの無名な逸材がまだ眠っているのか。
きっと無尽蔵だと思いますよ。
監督も俳優さんも・・・・
これに限らず,「傑作」と銘打たれた韓国映画は
毎回その逸材たちに唸らされることが多いですね。

この作品のまさに「息ができない」ほどの閉塞感や痛々しさは
「感動した」などと軽々しく言えないくらいの
衝撃でありました。ずしんときましたね〜。

4. Posted by ちゃぴちゃぴ   2011年04月14日 00:14
見応えがありました。
暴力の生むものの根深さ・連鎖が、恐ろしいほどです。
そこから、抜け出したいともがくチンピラと女子高生のバランスも面白かったです。
ラストは、どうも救いがないような気もします。母親の店を襲った
もののなかには、サンフンも居たということに気がついたように思うから。
彼女の息ができない状況は、まだつづくのでしょうか…。
5. Posted by ジョニーA   2011年04月14日 05:41
二人が、お互いの境遇を知らぬまま、なぜか
心通わせあう、という設定がイイんですよ
ねぇ〜〜〜。
ヤン・イクチュン監督は、海外の映画祭で
『冷たい熱帯魚』の園子温監督と知り合い、
言葉も通じないのに意気投合して飲み明か
したんだそうです。この映画の二人と相通
ずるものを感じます。
6. Posted by にゃむばなな   2011年04月14日 08:13
ななさんへ

ほんと無尽蔵なんでしょうね。次から次へとまだまだこんな逸材が出てくると思うと、日本映画界は太刀打ちできない気がしますよ。

特にこの映画のような閉塞感を初監督作品から醸し出せる方はそうはいないでしょうからね。
7. Posted by にゃむばなな   2011年04月14日 08:15
ちゃぴちゃぴさんへ

ヨニの息もできない状況はどうでしょう。まだまだ続くのでしょうか。
あのラストの切ない表情を見る限り、その可能性がないとは言い切れないところが何とも淋しく感じますよね。
8. Posted by にゃむばなな   2011年04月14日 08:17
ジョニーAさんへ

あらま、園子温監督と言葉も通じないのに飲み明かすほど意気投合したんですか。
でもそれも分かりますわ。お互いに作品の質が奥深いところで似てますからね。
いずれは三池崇史監督も加わりそうな気もしますよ。
9. Posted by ノラネコ   2011年04月14日 14:01
超低予算映画を観に行って、これほど内的なスケールの大きな人間ドラマを観られるとは思いませんでした。
コレが新人の映画?何かの冗談でしょ、と思えるほどの完成度と鋭いテーマ性。
正に息も出来ないほどの衝撃でした。
10. Posted by にゃむばなな   2011年04月14日 20:10
ノラネコさんへ

ほんと、これが初監督作品なのか?と思わせる秀逸さでしたね。
『チェイサー』もそうですが、韓国の監督さんの底力は凄すぎます。
11. Posted by yukarin   2011年04月14日 21:57
こんばんは♪
初監督作品とは思えない出来ですね。
内容も衝撃的でしたけど引き込まれる作品でした。

もしかしてTB正常に戻りました?
12. Posted by えい   2011年04月14日 22:24
こんばんは。

なるほど、にゃむばななさんご指摘の通り、
これは

>その憤りのない感情を男女関係で満たすことなく、汚い言葉と暴力で深めていく絆。

そして

>この映画が描いているのは「互いを思いやる愛」ではなく「大切な人たちを守りたいと思う愛」。

そういうのは、日本映画では出てこないですね。
時代に、世間に自分たちがあわず、、
ふたりきりの世界にどんどん入っていき、
最後には破滅するというような話ばかり。

ただ、ラストの解釈はぼくはちょっと違っていて…。
でも、にゃむばななさんの解釈の方が素敵だし、
救われるので、黙っておきます(汗)。
13. Posted by にゃむばなな   2011年04月15日 17:49
yukarinさんへ

ほんと、これが初監督作品とは思えない出来でしたよね。
次回作も凄く楽しみです。

で、TBは正常になったみたいですね。
14. Posted by にゃむばなな   2011年04月15日 17:51
えいさんへ

こういう映画を撮れる監督は日本ではなかなか出てこないですよね。
監督にそういう人材がいないのか、プロデューサーが潰しているのかは分かりませんが、こういう映画を見ると韓国映画界の力強さを感じずにはいられませんでしたよ。
15. Posted by rose_chocolat   2011年04月16日 15:54
にゃむばななさん
いつもお世話になってます。

blog引っ越しました。
過去記事を楽天から引っ張らないといけないのでまだまだ工事中ですが、どうぞよろしくお願いします。
4月19日までは楽天にはTB入るそうです(→この日付って意味わかんないよね。笑)
16. Posted by にゃむばなな   2011年04月16日 21:29
rose_chocolatさんへ

楽天ブログはえらいこっちゃになってますね。
新しいgooでのブログでこれからもお世話になります。
ちなみにこの記事のTBは楽天の方に飛ばさせてもらってます。
17. Posted by latifa   2011年04月17日 09:11
にゃむばななさん、こんにちは!
>またしても私は映画館で見るべき傑作を見逃していましたよ。

私もです。
これは是非劇場で見たかったなあ・・・。
あ、「悪人」とこれと、共通する処がありますね。
両方私は大好きな映画です。
18. Posted by にゃむばなな   2011年04月17日 19:57
latifaさんへ

ほんと、これはムーブオーバーで上映してくれた元町映画館で見ておくべきだったと私は今更ながら後悔してますよ。
こういう映画はもっと拡大公開すべきだと思うんですけどね。

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