2011年06月01日

『マイ・バック・ページ』

マイ・バック・ページ学生運動が世の中を変えられると信じられていた時代の息遣いが聞こえてくる。東大安田講堂陥落をリアルタイムでは知らない世代が作っているのに、そんな感じがする映画でした。
山下敦弘監督が渾身の想いを込めて、一見退屈に感じてしまうかも知れない世界観を見事に「あの時代の話」として見せ切った、切なさと力強さが同居した映画だと思います。

学生運動が下火になり始めた1971年。リアリズムよりもセンチメンタリズムな文章で世の中に一石を投じたいと思う記者・沢田と、自分の思想を手前勝手に推し進めていこうとする革命家まがいの片桐こと偽名・梅山。

まず現代の感覚で見ると片桐は本当にダメな最低野郎です。
ディベートで論破されれば相手を敵扱い、沢田の上司を介して1万円をせびる、沢田には謝るどころか憧れの革命思想家・前園勇と会うために利用する、組織を辞めたがっている女子学生を言葉巧みに丸め込んだうえに抱く、他組織の人間をダマして手下にする。

そして自衛隊の武器奪還を仲間うちにさせておきながら、逮捕されれば自衛官を殺した責任を前園や沢田に押し付けると本当にダメな最低野郎なんですが、これが松山ケンイチが巧く演じているからでしょうか、それともアメリカン・ニューシネマ全盛期と同時期の話だと意識してしまうからでしょうか、こんなヤツでも信じてしまう沢田の気持ちも分からんでもないんですよね。

そもそも沢田は学生運動に賛同していながら自分は安全地帯で見ていたことを後悔している身。それが片桐に利用される一因にもなったのですが、世の中に不満を持っていながら何らかの行動に起こせなかった後悔というのはあの時代を生きていた人なら少なからず持っていた感情のはず。

海の向こうアメリカでは『真夜中のカーボーイ』を始めとした、世の中を変えようとする術が暴力から芸術へと代わっていった時代。沢田のように「自分も!」と意気込んでは具現化できずにもどかしい日々を送っていた若者にとっては、三島由紀夫を引き合いに出して熱く語る片桐という存在はどこか自分の果たせなかったことを実現してくれるような幻想的な魅力があったのでしょうね。

でも片桐がやっていたことはただの暴力であり、嘘を嘘で塗り固めただけのもの。
片桐が逮捕されたことで気持ちが高ぶり過ぎていた時には見えていなかった彼の本性を知りえても、倉田眞子が表紙モデルから女優として頑張っても21歳で他界してしまったり、雑誌より新聞の方がえらいと言い切る上司により情報源の守秘が軽んじられたあの時代を生きた沢田にとって、片桐は少しでも絶望の中に希望を垣間見れる存在であったのかも知れません。

しかし片桐もまた他の学生運動家と同じく、希望を絶望に変えただけの存在。何のために存在していたのか、何を信じて行動していたのか分からない存在。

ですから偶然入った居酒屋の店主がかつて一緒に夜店でウサギを売っていたタモツだったあのラストシーン。
沢田が思わず流した涙は、片桐と記者であったことを隠した弱い自分を悔いた涙なのか、それとも片桐が過激な運動をしようが倉田が若くして人生を終えようが関係なく世の中(居酒屋)は談笑という平和に満ち溢れている無情さに自分たちの存在意義を哀れんだ涙なのか。
きっとそれはあの時代を生きた人にしか分からない涙なのでしょう。

定点カメラによる長回しシーンを多様するなど、決して感情的になることなく淡々と、でも力強くあの時代を描いたこの映画。
この時代だからこそあの時代の息遣いが聞こえてくるのかも知れない。そんな気がする映画でもありました。

深夜らじお@の映画館は学生運動とは無縁の時代生まれです。

※お知らせとお願い
【元町映画館】に行こう!

トラックバックURL

この記事へのトラックバック

1. マイ・バック・ページ/妻夫木聡、松山ケンイチ  [ カノンな日々 ]   2011年06月01日 21:24
私の大好きな『リンダ リンダ リンダ』その他いろいろの山下敦弘監督が実話ベースの社会派作品を手がけたというだけでもちょっと驚きでしたけど、その主演が妻夫木くんに松山ケン ...
2. 『マイ・バック・ページ』  [ ラムの大通り ]   2011年06月01日 22:32
※ネタバレ注:ラストに触れています。 ----これは、フォーンも一緒に観た映画。 えいが、とても観たがっていたし、 じゃあ、付き合ってみようかと…。 でも、ニャんだか複雑な顔してたね。 「うん。 これって、原作が川本三郎氏。 彼の実体験に基づいた話だよね。 観てい.
3. マイ・バック・ページ  [ LOVE Cinemas 調布 ]   2011年06月01日 23:05
作家・評論家の川本三郎が自らの体験を綴った同名の回想録を映画化。1969年から72年と言う学生運動が終わりに近付いた時期を舞台に、雑誌記者と活動家の出会いから破滅までを描く。主演は『悪人』の妻夫木聡と『ノルウェイの森』の松山ケンイチ。共演に忽那汐里、中村
4. マイ・バック・ページ・・・・・評価額1650円  [ ノラネコの呑んで観るシネマ ]   2011年06月02日 00:05
1971年、自衛隊朝霧駐屯地で、一人の自衛官が殺害された。 事件の背後にいたのは、新左翼の過激派青年と理想に燃える雑誌記者。 なぜ、それは起こったのか?彼らは何を目指そうとじていたのか? 「マイ・バ...
5. マイ・バック・ページ  [ 象のロケット ]   2011年06月02日 03:12
日本全国で学生運動が過激化し、その象徴的事件となった東大安田講堂での攻防戦から2年後の1971年。 新聞社系週刊誌の記者・沢田と先輩記者・中平は、革命を目指す青年・梅山から接触を受ける。 意気揚々と「武器を奪取し行動を起こす」と語る梅山に、沢田は不思議な親近感
「マイ・バック・ページ」は1970年前後に盛んだった全共闘運動時代にジャーナリストを目指した新聞記者がある男と出会い、その行動に共感してしまいある事件の引き金になる事 ...
7. *マイ・バック・ページ*  [ Cartouche ]   2011年06月02日 14:56
  1969年。理想に燃えながら新聞社で週刊誌記者として働く沢田雅巳(妻夫木聡)は、激動する“今”と葛藤しながら、日々活動家たちを追いかけていた。それから2年、取材を続ける沢田は、先輩記者・中平武弘(古舘寛治)とともに梅山(松山ケンイチ)と名乗る男からの接触を
8. [映画『マイ・バック・ページ』を観た(短信)]  [ 『甘噛み^^ 天才バカ板!』 byミッドナイト・蘭 ]   2011年06月02日 23:58
☆この映画、面白い!  二時間半の長尺だが、夢中になってみた。  内容は、東大安田講堂事件以後の、輝きを失いつつある全共闘運動を背景にした、とある、運動家か、運動家に憧れる者か、正体判別つからざる「運動家」と、遅れてきた運動同調派・新米左翼ジャーナリス...
9. 「若さ」という熱病〜『マイ・バック・ページ』  [ 真紅のthinkingdays ]   2011年06月03日 15:05
 東大を卒業し、念願のジャーナリストになるべく東都新聞に入社、雑誌記者と して働く沢田(妻夫木聡)。1971年、彼は梅山と名乗る学生運動の活動家(松山 ケンイチ)と接触し、ある事件に巻き込まれる。...
10. 映画『マイ・バック・ページ』  [ よくばりアンテナ ]   2011年06月03日 22:45
ちょうど40年くらい前の、 よく、団塊の世代の方々の青春時代、「全共闘時代」の頃。 『ノルウェイの森』や『TAROの塔』や『ゲゲゲの女房』にも描かれていた、 何か新しい時代の幕開けを予感させるような...
11. 勘違い男の暴走。『マイ・バック・ページ』  [ 水曜日のシネマ日記 ]   2011年06月04日 09:50
1969年から1972年を舞台に左翼思想の学生と雑誌記者の関係を描いた作品です。
12. 映画「マイ・バック・ページ」感想  [ タナウツネット雑記ブログ ]   2011年06月06日 01:24
映画「マイ・バック・ページ」観に行ってきました。 学生紛争の末期となる1969年から1972年の日本を舞台に、雑誌記者と自称革命家との出会いから破滅までを描く、妻夫木聡と松山ケンイチ主演の作品です。 この映画は、1971年8月21日の夜に実際に起こった「
13. 『マイ・バック・ページ』 若者に足りないものは?  [ 映画のブログ ]   2011年06月07日 00:09
 【ネタバレ注意】  誰が云ったか知らないが、よく持ち出される言葉にこんなものがある。[*]  「20歳までに左翼に傾倒しない者は情熱が足りない。20歳を過ぎて左翼に傾倒している者は知能が足りない...
14. 山下敦弘・監督『マイ・バック・ページ』Have You Ever Seen The Rain?  [ 映画雑記・COLOR of CINEMA ]   2011年06月11日 01:13
注・内容、台詞に触れています。川本三郎がジャーナリスト時代の経験を記したノンフィクション『マイ・バック・ページ』を『リンダ リンダ リンダ』『松ヶ根乱射事件』『天然コケッコー』の山下敦弘監督が映画化。
15. マイ・バック・ページ  [ 花ごよみ ]   2011年06月13日 11:07
監督は山下敦弘。 川本三郎のノンフィクションの映画化。 キャストは妻夫木聡 、松山ケンイチ、忽那汐里、 石橋杏奈、中村蒼、あがた森魚、三浦友和… あるジャーナリストの、 衝撃的な過去の出来事を描いています。 1969年、沢田(妻夫木聡)と関わった 活動家、梅山..
16. 『マイ・バック・ページ』  [ 京の昼寝〜♪ ]   2011年06月17日 12:14
□作品オフィシャルサイト 「マイ・バック・ページ」□監督 山下敦弘 □脚本 向井康介□原作 川本三郎 □キャスト 妻夫木 聡、松山ケンイチ、忽那汐里、中村 蒼、韓 英恵、長塚圭史、あがた森魚、三浦友和■鑑賞日 6月5日(日)■劇場 チネチッタ■cyazの満足
17. マイ・バック・ページ  [ 映画的・絵画的・音楽的 ]   2011年06月18日 06:25
 『マイ・バック・ページ』を吉祥寺バウスシアターで見ました。 (1)こうした40年ほども昔の、それも学生闘争という特殊な事柄を扱った映画なら、入りがかなり悪いのではと思っていたところ、日曜日に見たせいかもしれませんが、吉祥寺の映画館でもかなり観客が入ってい...
18. 「マイ・バック・ページ」  [ お楽しみはココからだ〜 映画をもっと楽しむ方法 ]   2011年06月20日 01:02
2011年・日本/配給:アスミック・エース監督:山下敦弘プロデューサー:青木竹彦、根岸洋之、定井勇二原作:川本三郎脚本:向井康介 元・朝日新聞社記者の川本三郎による同名のノンフィクションを、「リンダリ
19. 『マイ・バック・ページ』  2011年52本目 チネ・ラヴィータ  [ 映画とJ-POPの日々 ]   2011年08月14日 16:28
赤衛軍事件/朝霞自衛官殺害事件:1971年8月21日午後8時45分。歩哨中の陸士長が何者かに刺殺された事件。殺害現場に「赤衛軍」と書かれたヘルメットとビラがまかれており、当時過激さ ...

この記事へのコメント

1. Posted by えい   2011年06月01日 22:34
こんばんは。

>片桐が過激な運動をしようが倉田が若くして人生を終えようが関係なく
世の中(居酒屋)は談笑という平和に満ち溢れている無情さに自分たちの存在意義を哀れんだ涙なのか。

この映画の肝はあのラストの涙ですね。
ぼくもいろいろ考えたのですが、
それ以外に、
なるほど、こういう解釈もあったのか…と
頷かされました。
このラストの解釈だけで、
一冊の本ができそうな感じです。
2. Posted by KLY   2011年06月02日 00:07
マイ・バック・ページはあくまでバックなんだろうなぁと。自らが押し隠してきた裏の自分を体現する片桐に引っ張られて表の自分を見失っていた、そんな想いが去来した涙だったのかなと、私はそんな風に解釈してみました。
当然ながら学生運動そのものや、運動をする人の気持ちは私にはちょっと解らないですが、にゃむばななさんの仰るとおり、それを知らない私達でもあの時代の息遣いが身近に感じられる作品でしたよね。
3. Posted by ノラネコ   2011年06月02日 00:09
梅山も沢田も、こういう人いるなあというリアリティがありました。
オウムの麻原とか、こういうタイプなんじゃないでしょうかね。
ラストの涙の解釈がこの映画のカギなんでしょうけど、観た人のもっているものによってかなり変わってくるでしょうね。
4. Posted by にゃむばなな   2011年06月02日 20:36
えいさんへ

確かにあのラストに関してはみなさんの感じ方は千差万別ですよね。
一冊の本ができるというのも納得ですよ。
5. Posted by にゃむばなな   2011年06月02日 20:39
KLYさんへ

この時代を生きた人間にしか分からない感情というのが、あの最後の沢田の涙なんでしょうね。
それをあの時代を知らない人間がどう受け止めるか。
そこにあの時代を経た今の時代が反映されているのかも知れませんね。
6. Posted by にゃむばなな   2011年06月02日 20:42
ノラネコさんへ

あぁ〜、多分そうなんでしょうね。
麻原氏を始めとして宗教の教祖は、みんなこんな感じなんでしょうね。
ですからあの最後の涙の意味を考えるのは、自分自身の意見を持っている証拠。
正しい答えがないからこそ、いろんな考え方が見えてくるのでしょうね。
7. Posted by たいむ   2011年06月08日 22:21
沢田の涙はあの時代と背景があっての涙と思うけれど、あのような感じで野泣きっぷりはなんだか分かり気がします。

あの涙を考えるってことは自分を考えることなのかもですねw
8. Posted by にゃむばなな   2011年06月10日 18:01
たいむさんへ

そうですね。あの涙をどう捉えるかにその人の人生が、考え方が現れるのかも知れませんね。
時代が変わっても人間は変わらずなのかも。
9. Posted by kajio   2011年06月15日 12:51
写真を渡した瞬間から、お前は社会部を批判できなくなる

この台詞に、当時の紙媒体のメディアに携わる人たちの熱さが詰まっていたかの様な気がします…

10. Posted by にゃむばなな   2011年06月15日 20:06
kajioさんへ

そうですね。ネットがなかった時代だけに、一番の情報源の雑誌世界の確執もいろいろあったのでしょうね。
原作者もその辺りをしっかりと描きたかったのでしょう。

この記事にコメントする

名前:
URL:
  情報を記憶: 評価: 顔   
 
 
 
昨日の訪問者数
  • 今日:
  • 昨日:
  • 累計:

※オススメです♪※
『KANO~1931海の向こうの甲子園〜』主題歌
ぷろふぃ〜る
Twitter始めますた
nyamu_bananaをフォローしましょう
livedoor 天気
ちょいとした広告掲載