2011年07月29日

『彼女が消えた浜辺』

彼女が消えた浜辺無責任な7人の嘘、責任転嫁、自分勝手な推測、互いに罵倒。その全てが世界中の現代人に通じる。
第59回ベルリン国際映画祭でアスガー・ファルハディ監督が銀熊賞を受賞したこのイラン映画は、宗教や国境を越えた人間の器の小ささと無責任さを巧く描き出した秀作。この映画を見ると無責任がいかに格好悪く、そして残酷であるかが分かると思います。

終始ハンディカメラで撮った映像を中心にすることで、あたかも観客がこの8人の旅行者と一緒にいるような感覚にしているこの映画。
特に旅行の2日目、大人たちが溺れた子供を救出する一連のシーンはその演出の効果を凄く感じることができると思います。

1人目の子供が助けを求めに来ても大人たちのバレーを楽しむ緩い雰囲気が変わらず。2人目の子供が涙ながらに助けを求めに来た時点で事態の深刻さに気付いた大人たちの緊張感が一気に頂点に達するリアルさ。
さらにまるでこの現場にいるような感覚になった観客が、子供を助ける7人の大人を時に浜辺から、時に海の中に入って見ているような映像の連続。これがBGMなしでも十二分に緊迫感ある映像になる面白さがとにかく素晴らしいこと。

また2日目の朝に帰りたがっていたエリがこの溺れた子供を助けに海に入ったまま溺れてしまったのか、それとも何も言わずに帰ってしまったのかで悩む7人の大人の無様さを見事に描いた後半も、現場にいるような雰囲気を観客に味あわせることで、同時にこの無責任な7人に怒りを覚えさせるリアルさも実に巧いこと。

考えてみれば、こんな事件が起きた場合は誰かがまとめ役として動けば、7人ともこれほど悩むことはないんですよね。
でもこの7人の中には自らまとめ役を買って出る者もいなければ、そのまとめ役の必要性を感じる者もいない。この7人がしていることは責任転嫁と互いの罵倒だけ。心配しているのはエリの安否よりも自分たちの保身ばかり。

そんな無責任で無様な7人に対して、観客は監督の思惑通りに、さも現場にいるような演出のおかげで怒りを覚えてしまうと同時に、現実世界でもこの無責任で無様な大人はどこにでもいることを痛感してしまうんですよね。
そう、今まで何人のこんな無責任な人間に出会ってきたことだろうと。

エリのことを何も知らないから自分勝手な推測でエリの名誉も平気で傷つける、エリを旅行に誘ったセピデー以外の6人。
そのセピデーもエリに婚約者がいることを黙っていたり、最後の最後でエリの婚約者に対してもエリが自分に婚約者がいる話をしていたという事実を伝えなかったりと、とにかく自分の保身のために自分勝手な推測で他人の名誉を傷つけ、嘘に嘘を重ねて責任逃れをしようとするこの無責任な7人。

「死人にクチなし」ではなく「現場にいない者にクチなし」はまさにイジメの原点。
「現場にいない者にこそ憂慮を」が大人が取るべき行動のはず。

エリの失踪を巡る7人の心理的ミステリーでありながら、ミステリーでもないようにも見ることのできるこの秀作。
やはり責任感のない大人ほど無様な生き物はこの世にはいないことを改めて痛感しましたよ。

深夜らじお@の映画館は無責任集団には属したくないです。

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acideigakan at 18:30│Comments(4)clip!映画レビュー【か行】 

この記事へのトラックバック

1. 彼女が消えた浜辺  [ LOVE Cinemas 調布 ]   2011年07月29日 23:06
2009年ベルリン国際映画祭で銀熊賞(監督賞)を受賞した作品。リゾート地の浜辺にきた男女8人、そのうちの一人が突然失踪する。残された人間だちが繰り広げる人間模様を描いたヒューマンミステリーだ。監督は本作が日本で初公開作品となるアスガー・ファルハディ。メイ
2. 「彼女が消えた浜辺」感想  [ ポコアポコヤ 映画倉庫 ]   2013年08月25日 17:09
「別離」で見た方役者さん数人が、こちらにも^^

この記事へのコメント

1. Posted by KLY   2011年07月29日 23:09
この無責任さが妙に我々に似ているなと感じました。我々というか欧米文化の中に生きる人間たちとというか。
それはイランでもそうなのかという驚きでもありました。
私はこの作品でちょっとイランという国を観る目が変わった感じがします。
2. Posted by にゃむばなな   2011年07月30日 20:14
KLYさんへ

そうでしょうね。欧米文化に毒されてしまった現代人に通じるものがこの映画には溢れていますよね。
イランという国も古き慣習を守ってばかりの国ではないということなんでしょうね。
3. Posted by latifa   2013年08月25日 17:08
にゃむばななさん、こんにちは!
今日は久しぶりに雨で、少しほっとしています。
関西の方も結構雨が降ったようですね。
豪雨は困りますが、しっとりした雨は大歓迎です。

で、この映画。
無責任な人、私も嫌いです。
でも、結構いますよね・・・。
やっぱり10人集まれば1人くらいは・・・。
4. Posted by にゃむばなな   2013年08月26日 22:48
latifaさんへ

関西は最近週末になるたびに雨ですわ。

さてこの映画ですが、ほんと10人いれば1人くらいはと考えてしまいますよね。
でもそれだけ集団になった時のことを考えられるのは、ある意味個人社会ではない日本ならではかも知れませんね。

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