2011年10月31日

『ウィンターズ・ボーン』

ウィンターズ・ボーン閉塞感で心が病んだ人間関係が冬の冷たさ以上に骨身に染みる。
これはアメリカの現代を描いた作品。ゆえに全米で絶賛されたのもアメリカ人がこの話を身近に感じるからでしょう。我々日本人や幸せな生活を送っている人には眠気を誘うシーンは多々ありますが、でもこれが本当のアメリカを描いた映画。それを忘れてはならないと思いました。

同じくサンダンス映画祭でグランプリを受賞した『フローズン・リバー』と同様に、希望の持てない生活を送っている17歳の少女リー。
心を病んだ母親と幼い弟妹の世話、自宅を保釈金の担保にしたまま失踪したのせいで差し押さえの窮地に陥る自宅、そして父親を探そうにも誰も協力してくれない寒村の人々。

軍隊に入る夢さえも敵わない17歳の少女の周りにいるのは、希望を失っている寒村で生き延びることしか考えていない井の中の蛙たちばかり。ですから感情移入できる登場人物なんて、この映画には一人もいません。

でも決して絶望しないリーの、家族と自宅を守るためにひたすら父親の居場所を聞き回る姿を見ていると、いくら希望がなくても絶望しない限り人間は強く生きることができるんだなと思うんですよね。

というのも彼女は決して父親を見つけてどうこうするつもりは一切なし。何なら別に父親が死んでいても構わない。死んだ証拠さえあれば自宅が守れるのだからという、ある意味凄くドライな感情だけで動いているんですよね。
それは一見凄く冷たくも感じますが、同時に守りたいものがはっきりと限定されているからこそ下せる判断でもあると思うのです。

川底に沈んだ父親の腕を手に取り、チェーンソーで切断してもらう時でも彼女の表情には「家族としての父親に対する想い」は微塵も感じられず、ただ「人間の腕を切り落とす」ということに心を乱していただけ。

切断した父親の手首を「THANK YOU」「HAVE A NICE DAY」とプリントされた袋に入れているというのも、本来なら生きて家族を守るべき親が死ぬことで家族を結果的に守るという、現代アメリカの歪な社会構造に対する皮肉だと思うのです。

劇中、リーを面談した軍曹との会話を思い出しても、本来入隊志願者に必要な動機は「家族を守りたい」という強い思いであり、それは何も入隊する時だけに必要なものではなく、普段の生活でも必要なもの。
つまり家族を守れない者は国家も守れない。国家の安全は家庭の安全に帰する。ならば、歪な家族構造の現代は安全とはいえない時代。
だからこそ17歳にして家族を必死に守っているリーは軍曹も認めるほど立派な戦士なんですよね。

そんなリーと同じ「家族を守りたい」という想いで何かと彼女を助ける叔父のティアドロップ。昔を知る彼はある意味崩壊しつつあるアメリカの家族像を必死に食い止めようとする存在なのかも知れません。

ラストで父親の残した楽器を弾くリーやティアドロップ。音楽は希望の調べと言いますが、この家族に再び希望の光が差し込むまでにそれほど時間は掛からないはず。
人間には守るものがある限り、希望が失われることは決してないのでしょうね。

深夜らじお@の映画館も人生に希望が見えなかった時も絶望だけは決してしませんでした。

※お知らせとお願い
【元町映画館】に行こう!

この記事へのトラックバック

1. ウィンターズ・ボーン/ WINTER'S BONE  [ 我想一個人映画美的女人blog ]   2011年11月01日 22:25
ランキングクリックしてね←please click サンダンス映画祭グランプリなど世界各地の映画祭で絶賛。 アカデミー賞作品賞ノミネートで一番最後の公開となった作品。 監督は、女性で長編第二作目のデブラ・グラニック。 主演は「あの日、欲望の...
2. *ウィンターズ・ボーン*  [ Cartouche ]   2011年11月01日 22:26
  ミズーリ州南部のオザーク山脈に住む17歳の少女リー(ジェニファー・ローレンス)は、年少の弟と妹をかいがいしく世話し、その日暮らしの生活をどう切り盛りするかで頭がいっぱいだ。ドラッグ・ディーラーの父ジェサップは長らく不在で、辛い現実に耐えかねて精神のバ
3. ウィンターズ・ボーン・・・・・評価額1650円  [ ノラネコの呑んで観るシネマ ]   2011年11月01日 23:22
音楽が繋ぐ、血脈の絆。 アメリカ中部、オザーク高地の村を舞台に、貧しく閉鎖的な社会に暮らす一人の少女の、孤独な戦いを描いたハードなヒューマンドラマ。 ダニエル・ウッドレルの原作小説を、これが長...
4. ウィンターズ・ボーン  [ ともやの映画大好きっ! ]   2011年11月02日 00:01
(原題:WINTER'S BONE) 【2010年・アメリカ】試写で鑑賞(★★★☆☆) 第27回サンダンス映画祭、グランプリ&脚本賞受賞。 第26回インディペンデント・スピリット賞、助演男優賞・助演女優賞受賞。作品賞・監督賞・主演女優賞・脚本賞・撮影賞ノミネート。 第83回アカ...
5. 映画レビュー「ウィンターズ・ボーン」  [ 映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評 ]   2011年11月02日 00:16
ウィンターズ・ボーン◆プチレビュー◆父を探す少女の過酷な旅を描く秀作。ジェニファー・ローレンスが圧倒的に素晴らしい。 【85点】 ミズーリ州の貧しい山村に住む少女リーは ...
6. ウィンターズ・ボーン  [ LOVE Cinemas 調布 ]   2011年11月03日 00:11
アメリカ中西部の寒村を舞台に、失踪した父親を捜す少女とその少女を取巻く厳しい環境を描いた人間ドラマ。サンダンス映画祭でグランプリを受賞し、第83回アカデミー賞では主演のジェニファー・ローレンスが主演女優賞にノミネートされた。共演には『アメリカン・ギャング
7. 【TIFF 2010】『ウィンターズ・ボーン』 (2010) / アメリカ  [ Nice One!! @goo ]   2011年11月03日 06:07
原題:Winter's Bone 監督/脚色:デブラ・グラニック 原作:ダニエル・ウッドレル 出演:ジェニファー・ローレンス ジョン・ホークス ケヴィン・ブレズナハン デイル・ディッキー ギャレット・ディラハント シェリル・リー ローレン・スイーツァー...
8. ウィンターズ・ボーン  [ 心のままに映画の風景 ]   2011年11月04日 03:15
アメリカ中西部ミズーリ州のオザーク高原。 17歳のリー(ジェニファー・ローレンス)は、心を病んだ母と幼い弟と妹の世話に励み、その日暮らしの生活を切り盛りしていた。 ドラッグの売人をしていた父親...
9. 「ウインターズ・ボーン」過酷な人生  [ ノルウェー暮らし・イン・原宿 ]   2011年11月04日 13:36
葉の落ちた冬の森はどこか物哀しい。 だけど同じ冬の森でも、ノルウェーで体験した森は寒くてもどこかあったかい。 どうしようもなく殺伐としたかんじがするのは、そこがアメリカの闇だからなのか・・・
10. 『ウィンターズ・ボーン』・・・ ※ネタバレ有  [ 〜青いそよ風が吹く街角〜 ]   2011年11月05日 19:37
2010年:アメリカ映画、デブラ・グラニック監督、ジェニファー・ローレンス、ジョン・ホークス、ケヴィン・ブレズナハン、デイル・ディッキー、ギャレット・ディラハント出演。
11. ウィンターズ・ボーン  [ 映画1ヵ月フリーパスポートもらうぞ〜 ]   2011年11月06日 11:07
評価:★★★☆【3,5点】(13) 私を州境に連れてって!とはどっち方面なのだろうか。
12. その先の森へ〜『ウィンターズ・ボーン』  [ 真紅のthinkingdays ]   2011年11月07日 20:02
 WINTER'S BONE  17歳のリー(ジェニファー・ローレンス)は、保釈中の父が失踪。心を病ん だ母を抱え、12歳の弟と6歳の妹の面倒を見ながら暮らしていた。保釈金 の担保になっている家と森...
13. ウィンターズ・ボーン  [ 映画的・絵画的・音楽的 ]   2011年11月09日 05:26
 『ウィンターズ・ボーン』をTOHOシネマズシャンテで見ました。 (1)予告編を見たのと、『あの日、欲望の大地で』で主人公の娘時代を演じたり、『X-MEN:ファースト・ジェネレーション』で女性ミュータントとして活躍したジェニファー・ローレンスが主役で出演するという...
14. ウィンターズ・ボーン/ジェニファー・ローレンス  [ カノンな日々 ]   2011年11月10日 21:45
サンダンス映画祭でグランプリと脚本賞の2冠を獲得しアカデミー賞でもノミネートされた話題作。予告編からして何やら重苦しそうな雰囲気で期待出来そうな予感がしました。家族を守 ...
15. 掟という現実  [ 笑う学生の生活 ]   2011年11月20日 11:38
11日のことですが、映画「ウィンターズ・ボーン」を鑑賞しました。 自宅と土地を担保に仮釈放し 失踪した父親 家、家族を守るため 少女は父親探しを始めるのだが・・・ フィクションとはいえ、まだアメリカにも このような現実があるという驚き 村の掟、血のつながり・...
16. ウィンターズ・ボーン  [ 映画、言いたい放題! ]   2011年11月28日 21:57
今月の映画を観る会の作品です。 私はピンと来なかったので、 映画館に行くまで正式タイトルが。。。( ^ _ ^; でもサンダンス映画祭でグランプリ&脚本賞の2冠に輝き、 アカデミー賞では作品賞、主演女優賞、助演男優賞、脚色賞の4部門で、 ノミネートされた作品だそ
17. 映画『ウィンターズ・ボーン』を観て  [ kintyre's Diary 新館 ]   2011年12月24日 18:52
11-70.ウィンターズ・ボーン■原題:Winter's Bone■製作年・国:2010年、アメリカ■上映時間:100分■字幕:杉田朋子■鑑賞日:11月13日、TOHOシネマズシャンテ(日比谷)■料金:1,800円□監督・脚本:デブラ・グラニック□製作・脚本:アン・ロッセリーニ
18. 『ウィンターズ・ボーン』'10・米  [ 虎党 団塊ジュニア の 日常 グルメ 映... ]   2012年01月06日 09:23
あらすじ父親が逮捕され、自宅と土地を保釈金の担保にしたまま失踪家を立ち退くまで残された期間は1週間、17歳のリーは父親を捜すが・・・。解説アカデミー賞作品賞主演女優賞助...
19. ウィンターズ・ボーン  [ あーうぃ だにぇっと ]   2012年02月04日 16:55
ウィンターズ・ボーン@ギンレイホール
20. ウィンターズ・ボーン  [ 銀幕大帝α ]   2012年04月09日 00:53
WINTER'S BONE/10年/米/100分/犯罪サスペンス・ドラマ/PG12/劇場公開(2011/10/29) −監督− デブラ・グラニック −脚本− デブラ・グラニック −出演− ◆ジェニファー・ローレンス…リー・ドリー 主な出演作:『X-MEN:ファースト・ジェネレーション』 ◆
21. ウィンターズ・ボーン  [ いやいやえん ]   2012年09月13日 09:28
人々が閉鎖的に暮らすにもほどがある荒涼とした山村が舞台。17歳の少女リーは、幼い弟妹と心を病んだ母を抱えて、何とか生活していた。しかし、失踪した父親は家と土地を保釈金の担保にしたまま。父を見つけなければ家を立ち退かざるを得ない窮地に陥ってしまい…。

この記事へのコメント

1. Posted by ノラネコ   2011年11月01日 23:28
心に染み入るバンジョーの音色。
いい映画でした。
ただ、まあ暗いし淡々としてるし、背景を知らない日本のマーケットじゃ受けないだろうなあと思いました。
まあ仕方が無いのですけど。
ジェニファー・ローレンスの力だけは誰にでもわかるほどパワフルでした。
2. Posted by mig   2011年11月01日 23:31
こんばんは☆
この日は相当眠かったのもあったけど淡々しすぎてて寝が入っちゃったのでちゃんと評価できないんだけど、
これだけ評価受けてるしいい映画なのかもだけど あまりピンとこず。。。
にゃむばななさんやノラネコさんなど気に入る人がいるのも頷けます
3. Posted by ともや   2011年11月02日 00:16
こんばんは、にゃむばななさん♪
途中何度も『なんでそこまで頑ななの?』と思ったけど、そこまでしないと家族を守れない場所なんですよね。
その頑さが痛くて痛くて…叔父さんが味方になってくれた時は、ホッとしたけれど、やっぱり痛みの残る映画でした。
そう思えるのはジェニファー・ローレンスの演技力の凄さでもあるんだけどね。
4. Posted by にゃむばなな   2011年11月02日 12:39
ノラネコさんへ

そうですね。他国のことについてはあまり関心がない日本のマーケットでは厳しいですよね。
恐らくDVDなどで再評価されるのがオチのような気がしますよ。
5. Posted by にゃむばなな   2011年11月02日 12:45
migさんへ

確かに眠気のある日にこの映画を見たら確実に寝てしまうと思いますよ。
ただ私はあの軍曹のシーンから、心に来るものがあったので、こういう評価になりましたですわ。
6. Posted by にゃむばなな   2011年11月02日 12:47
ともやさんへ

都会とはまた違う閉塞的な田舎ならではの人間関係。
本当ならリーたちを周りの大人がもっと助けたれよ!って思うのですが、それが出来ないというのが閉塞的な田舎の人間関係なんでしょうね。
でもあの状況下で頑張るリーは本当に凄いと思いましたよ。
7. Posted by KLY   2011年11月03日 00:21
正直言って置かれた環境自体は別に珍しいものではないし、『フローズン・リバー』程のどうしようもなさを感じられなかったです。ただどちらかと言うとふわっとした感じのジェニファー・ローレンスが、コレだけ厳しい覚悟を見せ付けてくれたことに引き込まれました。
8. Posted by にゃむばなな   2011年11月03日 09:16
KLYさんへ

どうしようもなさという点では『フローズン・リバー』の方が分かりやすかったですね。
私も映画の好き度でいえば、『フローズン・リバー』の方が上ですわ。
それにしても最近のアメリカの若手俳優たちは芸達者ですな〜。
9. Posted by ノルウェーまだ〜む   2011年11月04日 14:02
にゃむばななさん、こんにちは☆
私も軍曹とのやりとりが、実に暖かいと感じました。
お金目当てで入隊する人も多いでしょうが、頭ごなしに否定せずにきちんと諭してくれる。
こんな大人がもっといたら、あのような寒村も、もうすこし何とかなってくれそうですが・・・
10. Posted by オリーブリー   2011年11月04日 14:42
こんにちは。

これがアメリカ?!と思うような現状に、ただただビックリ。
でも彼らがそう生きなければならない歴史(?)があったのを後で知ると、なるほどと肯けることが多々ありました。

イラク戦に志願した女性兵士は、この辺りの方が多いそうで、入隊=村から抜け出す唯一の策であり、奨学金制度で大学進学とか、道が開けるのかな〜と思いました。
でもリーが身売り同然に入隊希望したのは、何だか切なかったです。
11. Posted by にゃむばなな   2011年11月04日 20:21
ノルウェーまだ〜むさんへ

そうですよね。厳しいはずの軍隊なのに、あの温かさ。
あの軍曹は愛国心が何たるか、人を愛することが何たるかを知っているから、あのようなことが言えたのでしょうね。
12. Posted by にゃむばなな   2011年11月04日 20:22
オリーブリーさんへ

そうか〜、実際イラク戦争に従軍した女性兵士にはリーみたいな女性が多かったんですね。
そりゃアメリカで評価が高くなるのも納得ですわ。
13. Posted by かのん   2011年11月10日 21:49
このタイトルが暗示する通りに骨身にしみるような寒さが伝わってくるような物語の空気感でしたが、それゆえに周囲の人の僅かな優しさにも温もりを感じ、そして家族を守ろうとする少女リーの思いに胸熱くさせられる作品でした。
14. Posted by にゃむばなな   2011年11月11日 17:08
かのんさんへ

そうですね。寒さを知る者こそ、温かさを再確認できるんですよね。
17歳にして家族を守ろうとするリーの姿を見ていると、より頑張っている人には優しく接していこうと思いましたよ。

この記事にコメントする

名前:
URL:
  情報を記憶: 評価: 顔   
 
 
 
昨日の訪問者数
  • 今日:
  • 昨日:
  • 累計:

※オススメです♪※
『KANO~1931海の向こうの甲子園〜』主題歌
ぷろふぃ〜る

にゃむばなな

Twitter始めますた
nyamu_bananaをフォローしましょう
livedoor 天気
ちょいとした広告掲載