2012年03月02日

『メランコリア』

メランコリア世界が終わる。そのとき全てから解放される。
長年散発的な鬱病を患ってきたラース・フォン・トリアー監督だからこそ描くことのできる、幽閉されていた心が解放されたときに見える美しき世界。これを地球に迫る惑星メランコリアを通して見せるこの静かなる傑作。映像以上に美しいラストシーンがとにかく素晴らしい映画でした。

私も過去に精神的に辛い時期を過ごした経験があるのですが、人間関係に過剰反応してしまう鬱病というのは花粉に過剰反応してしまう花粉症と同じで、条件さえ揃えばいつでも誰にでも起こりうる病気。決して特別な病気ではないからこそ、実はもっと世間が理解すべき病気でもあるんですよね。

そんな鬱病を患った花嫁ジャスティンを中心とした第一部「ジャスティン」で描かれるのは鬱病患者の精神状態。
そもそも鬱病患者の精神状態というのは常に目に見えぬ壁に四方を囲まれたような感じで、しかも腕も伸ばせない距離までその壁が接近しているような圧迫感を受けるので、必然的に周囲のことを考える余裕がなくなってしまうんですよね。

そうなると考えることはその幽閉された状態から解放されることだけ。
披露宴でも仕事の話しかしない上司や無能にも微笑むだけの客人たちの雑談が騒音に聞こえる世界から逃げ出したいから披露宴を抜ける。でも精神的には何も解放されない。
結婚式などの儀式を忌み嫌うも本音をズバズバ言う母親には時に誰より信用性を感じる。でも母親は何も助けてくれない。
解放感を求めてゴルフ場で放尿する。後輩クンに騎乗位で腰を振る。ウェディングドレスを脱ぐ。何も考えず長風呂に浸かる。披露宴当日に花婿と離婚する。でも心が解放されるのはほんの一時だけ。

結局最後は川辺に何の縛りもない全裸で寝転がり、惑星メランコリアの地球衝突に全てが消え去り何もかもから解放されることを望む形でジャスティンは落ち着きを取り戻しましたが、ここまでの人間関係の種類によって浮き沈みのある鬱病患者を見事に演じたキルスティン・ダンストは、実際に鬱病を患った経験があるだけに、素晴らしいの一言。

また惑星メランコリアが地球に接近する第二部「クレア」でも、ジャスティンの優しき姉クレアを鬱病患者から見た滑稽で無能な健常者として見せるなど、鬱病を患った者ならではの視点で描かれているところが面白いこと。

特に惑星メランコリアの接近に狼狽し屋敷から逃げ出そうとするもゴルフカートの電源切れで屋敷に戻ってしまうクレアと、嗅覚が異常に敏感になると今まで気付かなかった悪臭や芳香に過剰反応してしまうように、鬱病により人間関係に敏感になると自分を含めた全ての人間関係において小さな言動にさえも過剰反応してしまうことで、逆に一部の能力が研ぎ澄まされるという副作用で冷静さを保つジャスティンを対照的に描いているあのラストはとにかく美しい。そして素晴らしい。

地球消滅という最後の瞬間に怯えて繋いだ手を離す健常者クレア。全てから解放される瞬間に繋いだ手のぬくもりから大切なものを知る鬱病患者ジャスティン。
世界で最も美しいものを最も美しい瞬間に感じる。それは思い悩むことで心の奥底に辿り着いた者にしか感じることのできないこと。決して鬱病を経験したことのない人には撮れない映像だと思いましたよ。

絵画のように幻想的な冒頭8分間のプロローグ映像で全てが語られているこの映画。
悲劇マニア:ラース・フォン・トリアー監督が鬱病から解放されたからこそ、冷静にあの頃の自分を振り返れるようになったからこそ、この映画は独特の美しさを解き放っているのではないでしょうか。

深夜らじお@の映画館は精神的に辛かったあの頃の気持ちを忘れません。

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この記事へのコメント

1. Posted by ノラネコ   2012年03月02日 23:40
「アンチクライスト」からこれへの流れを観る限り、トリアーは結構良くなってる気がしましたよ。
前作はもう見るからに鬱でしたけど、こっちは滅亡でとは言え、最後には解放されてスッキリしてますしね。
それ故に観やすくもなっているし。
まあ、この人はもう鬱な世界が作風になっちゃてるんで、治ったら治ったでこんなんトリアーじゃないって人も多そうですけど(笑
2. Posted by ジョニーA   2012年03月03日 00:52
地球の危機、鬱病のキキ!
なんか「日本の夏、キンチョーの夏」みたいw
3. Posted by KLY   2012年03月03日 02:27
扱っている題材はともかくとして、何気に解り易いんですよね。テーマ的にも最後に待っているのが滅亡ですから、いわゆる観ている方に投げっぱなしじゃないですし。だから今回はシネコンにもかかってるという…(苦笑)
4. Posted by にゃむばなな   2012年03月03日 15:32
ノラネコさんへ

そうですね。病状はよくなっているのでしょう。
昔から悲劇マニアな作風ばかりでしたから、これから先、鬱な作品じゃなくなると…、かつてのデヴィッド・リンチのようにファンからあれこれ言われるんでしょうね。
5. Posted by にゃむばなな   2012年03月03日 15:36
ジョニーAさんへ

えらいおもろいことを言いますね〜。
是非ラース・フォン・トリアー監督に送ってあげたいですよ。
6. Posted by にゃむばなな   2012年03月03日 15:38
KLYさんへ

確かに今回の公開規模は意外と大きいですよね。こんな内容なのに。
でも監督が本当に訴えたいことがどこまで一般観客に伝わるのか。
そこが少し疑問ですが。
7. Posted by オリーブリー   2012年03月04日 01:49
こんばんは。

この映画観た数日後、ご近所のお友達から、娘さんが結婚することになって、、、とお話をされたんです。
その娘さんは、1年ほど前から欝だったので、完治したのかと思いきや、まだ不安定な状態だそうで、これでいいのかとものすごく心配していました。
現実問題、厳しいです…(汗)
8. Posted by にゃむばなな   2012年03月04日 10:28
オリーブリーさんへ

鬱がどの段階で完治したとかは、最終的には本人の判断ですからね。
いつ再発するかも分かりませんし、でも出会った人のおかげで完治することもありますしね。
その御近所さんの場合は後者を期待しましょう。
9. Posted by yukarin   2012年03月04日 20:36
こんばんは♪
美しく幻想的な映像にすっかりやられました〜。
監督についてはあまり知らないのですが、鬱病を経験した人ならではの作品なのですね。
10. Posted by にゃむばなな   2012年03月04日 21:24
yukarinさんへ

ラース・フォン・トリアー監督の鬱病経験は結構有名な話みたいですよ。
この監督の映画は独特なだけに、その裏側を知ることはより映画を楽しむためには重要ですよらね。

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