2012年05月11日

『孤島の王』

孤島の王理不尽な仕打ちに服従しない限り、人は誰でも王になれる。
1915年に実際に起きたノルウェー・バストイ島の少年矯正施設で暴動を映画化したこの作品。この史実を多くのノルウェー国民がつい先日まで知らなかったというだけあって、理不尽な仕打ちに立ち向かいながらもこの人間の尊厳を守る戦いが歴史の闇に葬られていたことが冬の海以上に冷たさを感じました。

『告発』で描かれたアルカトラズ島のような監獄島、『スリーパーズ』で描かれたような少年施設での虐待、そして『シルミド』の如く孤島で起こる反乱。
まずこの映画を見て思ったのは、さほど新鮮味のある映画ではないということ。いくら史実とはいえ上記に挙げた作品などと同じようような展開を迎えるので、大まかな流れは読めくるのですが、ただこの映画には底知れぬパワーが漂っているように感じるんですよね。

その象徴が冒頭とラストで印象的に描かれる3本の銛を打たれても泳ぎ続けるマッコウクジラの雄姿。
力尽きるまで抵抗を続け、絶対に服従しないという姿をこの作品の主人公であるC19ことエーリングだけでなく、卒院間近のC1ことオーラヴを通して描いているのが素晴らしいこと。

特にC5ことアイヴァーが寮長からの性的虐待を苦にして極寒の海に飛び込み自殺してから反乱に至るまでのくだり。
厳しくも理不尽ではなかった院長が寮長から横領疑惑で脅されたことで理不尽な大人側に完全移行し、卒院式あたりから怒りを抑えきれなくなったC1がついに卒院当日に怒りを抑えられなくなることで漂い始める緊張感。
脱走を何度も試みる反抗的なC19をずっとなだめてきた穏健派のC1だけに、彼が怒りをあらわにすることで他の少年たちにも反乱の火が燃え移る一方で、逆にこれまで反抗的だったC19が冷たいまでの冷静さを保ちながら反乱を指揮するという寒温の差を巧く用いた演出。

荒れた海に厚い氷が張り、草木を覆うほど雪が積もったバストイ島の風景。銃も持たずに反乱を起こした少年たちを銃を構えた軍隊が鎮圧に来るという光景。
人間としての尊厳を守るために立ち上がった少年たちに対して容赦なく降りかかる大人の汚さと北国の冷たさが、怒りに身を任せることなく寮長を殺さなかったC19たちと軍隊まで使って暴動を鎮圧しようとする院長たちのどちらがいったい大人なのかと疑わずにはいられない悲しさを抱かせてくれるんですよね。

そして足を怪我したC1と共に厚い氷の上を渡って逃げようとしたC19が氷の薄い部分が割れたことで極寒の海にはまってしまうラスト。短い在位期間であれ、バストイの王となった少年が最後に選択したのは友人を王の語り部として生かし続けること。そのために自分の命を諦め、自分の思いを友人C1に託す。
王の雄姿もマッコウクジラの雄姿も語り部がいるからこそ、その不屈の魂が生き続けるもの。

汚さと冷たさで理不尽な現実を闇に葬ろうとする大人は今も世界中にいます。シリアや北朝鮮だけでなく、この日本国内にも。
そんな理不尽な現実に対して立ち上がる底知れぬパワーを秘めたこの映画は、これまでに見た他の映画とは少し違うものを感じた作品でした。

深夜らじお@の映画館は表には出せない裏情報も語り継いでいきたいと思います。

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acideigakan at 18:43│Comments(8)clip!映画レビュー【か行】 

この記事へのトラックバック

1. 孤島の王/Kongen av Bastoy  [ LOVE Cinemas 調布 ]   2012年05月11日 22:13
1900年から1970年までノルウェーのバストイ島にあった少年矯正施設で実際に起こった暴動を映画化したサスペンスドラマだ。絶対に脱走不可能な孤島で理不尽な虐待を受ける子供たちの姿を描く。出演は『ドラゴン・タトゥーの女』のステラン・スカルスガルド、クリスト
2. ■『孤島の王』■ ※ネタバレ少々  [ 〜青いそよ風が吹く街角〜 ]   2012年05月12日 16:22
2010年:ノルウェー+フランス+スウェーデン+ポーランド合作映画、マリウス・ホルスト監督、ステラン・スカルスガルド、クリストッフェル・ヨーネル、ベンヤミン・ヘールスター、トロン・ニルセン出演。
3. 孤島の王 【KONGEN AV BASTOY】  [ 映画と旅行、にゃんぱらりんな日々 ]   2012年05月12日 17:34
1915年、罪を犯した元船乗りの少年エーリング(ベンヤミン・ヘールスター)が、ノルウェー本土からバストイ島に送り込まれてくる。外界から隔絶されたその島には、11歳から18歳までの非行少年を更生させる施設があり、少年たちは過酷な重労働を課せられていた。かなり高...
4. 孤島の王/ステラン・スカルスガルド  [ カノンな日々 ]   2012年05月12日 21:27
福祉先進国としても知られるノルウェーに実在するバストイ島の刑務所で20世紀初頭に起きた少年たちによる暴動事件と脱走劇を描いたサスペンス・ドラマです。主演は『マイティ・ソ ...
5. 孤島の王 / Kongen av Bastoy/King of Devil's Island  [ 我想一個人映画美的女人blog ]   2012年05月13日 09:20
ランキングクリックしてね ←please click 「トロール・ハンター」に続き、楽しみにしていたノルウェー映画 ノルウェーの孤島に存在した少年向けの矯正施設の真実と、 そこに収容されていた少年たちによる命を賭した反乱を描くサスペンス。 ん?サス...
6. 「孤島の王」鯨になった少年  [ ノルウェー暮らし・イン・原宿 ]   2012年05月13日 10:53
今年のベスト入りになりそうな予感の、ノルウェーの傑作映画をやっているのは、なんと東京ではヒューマントラスト有楽町1館のみ。 実際にあったノルウェー少年矯正施設での、虐待と反乱と鎮圧。 凍てつく景色と少年たちのリアルな眼差しに釘付けになる。
7. 孤島の王  [ いやいやえん ]   2012年10月23日 09:25
ノルウェーの孤島にあった少年矯正施設で暴動が起き鎮圧のために150名の兵士が出動したという実話をベースにしたストーリーのようです。 外界と隔絶した矯正施設のあまりにも理不尽な現実…重労働の懲罰、性的虐待などが引き金になり、少年たちが暴動を起こすサスペンス

この記事へのコメント

1. Posted by KLY   2012年05月11日 22:35
何というかですね、例えばこの作品をハリウッドでリメイクしたとしても、やっぱり駄目だと思うんです。ノルウェー含めて北欧の作品て、北欧で北欧の俳優が演じる、それも含めて完結する作品な気がするんです。 
2. Posted by にゃむばなな   2012年05月12日 14:16
KLYさんへ

まさにその通りだと思います。これは北欧の雰囲気だからこそ成り立つ作品ですからね。
だからこそハリウッドでのリメイク話なんて出てほしくないですよ。まぁ今のところは出ていないので安心ですけどね。
3. Posted by にいな   2012年05月12日 17:33
この施設が70年も存在していたのですからおどろきです。ここを出た少年たちはどんな人生を歩んだのでしょうか?厚生施設なのに少年たちの未来が心配になります。

暴力で人間の心までは押さえつけることはできないですね。
4. Posted by にゃむばなな   2012年05月12日 20:25
にいなさんへ

そうそう、この暴動が起きて廃止されたのではなく、まだ施設が存続していた訳ですからね。
このような人道無視な非道はこの後も繰り返されなかったのかと疑問に思わざるを得ませんでしたよ。
5. Posted by ノルウェーまだ〜む   2012年05月13日 11:03
にゃむばななさん☆
この凍てつくような冷たさがこの映画の真髄ですよね。
福祉に厚い、弱者に優しいと思っていたこのノルウェーでも、こんな史実があったなんて、本当に驚きです。
ところで実際ノルウェーでは冬、ボートを引っ張った救急車がよく通ります。
氷上釣りをしていて落ちる人を救出するんですよ。
6. Posted by にゃむばなな   2012年05月13日 13:12
ノルウェーまだ〜むさんへ

ボートを引っ張る救急車ですか〜。ノルウェーならではの光景なんですね。
ああいう凍てつく風景を見ていると、そういう御国事情もよく分かりますよ。
7. Posted by mig   2012年05月14日 08:03
おはようございます、
そうそうにゃむばななさんおっしゃる通り、これは北欧映画というところがポイントで、実話ベースだし、
アメリカ映画だったら普通というか、、、
内容的には衝撃というほどじゃないけど、雰囲気がよかったから作品全体がよく感じます(笑)あとラストが良かったかな。
8. Posted by にゃむばなな   2012年05月14日 21:15
migさんへ

これはアメリカでリメイクしちゃうと一気にトーンダウンしてしまうタイプの映画でしょうね。
北欧の雰囲気だからこそ成立する映画でしょうね。

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