2012年06月04日

『11.25自決の日 三島由紀夫と若者たち』

11.25自決の日三島由紀夫1970年11月25日、三島由紀夫はなぜ割腹自殺を選んだのか。
個人的に昭和史最大の謎である作家・三島由紀夫の自衛隊・市ヶ谷駐屯地での演説後の割腹自殺事件。作家は文章でこそ志を訴えるべき存在なのに、なぜ彼は言葉ではなく自殺という死をもって志を訴えようとしたのか。
その答えはこの映画を見終わった後の観客一人一人の心の中に確実に存在するものだと確信しました。

全共闘による東大安田講堂立て籠もり事件、17歳の少年・山口ニ矢による浅沼委員長刺殺事件、日本赤軍によるよど号ハイジャック事件など、若者が国家を憂い学生運動という形で行動に出ていた1960年代。
今改めてあの時代を冷静に振り返ると、凄く熱い血潮が流れていた時代であると同時に、当時の若者たちは情報が少ない中で考えていくうちに視野が狭くなってしまったのではと思うことがよくあります。

だからこそ不思議に思うのは、「大人」である三島由紀夫がなぜ学生と同じような行動に出たのかということ。
そもそも学生はいくら熱い信念を持っているといえ、卒業と共に活動をやめる可能性のある期限付きの仲間。しかも知識も冷静さも未熟がゆえ、信念だけで行動を起こしてもその信念が少しでも揺らげば本来の目的を知らぬ間に見失い、やがて暴徒化という末路を辿るだけ。
ならば三島由紀夫は「大人」として、ノーベル文学賞候補にまでなったその作家としての実力で文章をもって国家を憂う気持ちを訴えるべきだったはずではないでしょうか。

でも彼が望んでいたのは「自分が日本を変える」ではなく「自分の後に続く者が出てくる」こと。つまり解釈が分かれる文章では伝えきれない、行動を起こすことでしか訴えることのできない志があることを彼は「大人」として理解していたからこそ、大人よりも志の熱い学生たちと共にあのような行動に出たのではないかと思うのです。

現代は情報は多いですが、考える若者が少ない、自分の意見を他人任せにするようになった時代です。対して1960年代は自分の意見をしっかりと持った若者が多いものの、情報の少なさから考える幅が狭く暴徒化する危険性が高かった時代。
どちらがいい時代かは一概に言えませんが、ただ死をも文化として捉える日本という美しい国において、「いかに生きる」ことだけを考える人よりも「いかに死ぬべきか」までを考える人がいる時代といない時代のどちらがよりこの国を愛している日本人が多い時代かは誰もが分かるはず。

もし三島由紀夫が文章だけで志を訴えていたら、もし軍人になりたいなど思わず「楯の会」も結成することがなかったなら、もし「自衛隊は違憲なんだよ」という演説で自衛隊が決起していたなら、この国はどう変わっていたのでしょうか。そして三島由紀夫はどんな幕引きを迎えていたのでしょうか。

歴史に「もし」はない。だからこそ見直すべき三島由紀夫という存在。三島由紀夫と共に行動した若者たちの存在。

全編をセピア色で、まるであの場にいた人の記憶を実録ドラマとして映画化したようなこの作品。ヘリの音と観衆の野次で掻き消されようとする三島由紀夫の演説に、三島由紀夫と若者たちの無念の色が濃くなり、割腹自殺を選ぶ終盤。
「死んだら終わり」という西洋的考えではなく、「死をも文化」とする日本的な考えでこの映画を見てほしいと思える、若松孝二監督の昭和史三部作の最終作でした。

深夜らじお@の映画館は三島由紀夫を演じるにあたり横文字の名前では相応しくないという理由で芸名を変えた井浦新さんにも熱いものを感じました。

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acideigakan at 21:32│Comments(4)clip!映画レビュー【さ行】 

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この記事へのコメント

1. Posted by にいな   2012年06月04日 22:15
日本を良くしたいという純粋な想いが三島と楯の会の若者から感じました。命をかけて日本をここまで愛せる純粋さ。

山口二弥が17という若さで「七生報国 天皇陛下万才」と独房の壁に書いて自殺したことは、三島にとってもいかに死ぬべきかを考えさせられたことと思います。

2. Posted by にゃむばなな   2012年06月05日 17:06
にいなさんへ

17歳でもあんなにも熱い志を持って行動していたというのは、ある意味三島由紀夫にとって強烈でしたでしょうね。
いかに生き、いかに死ぬべきか。
それを今一度考えさせられる映画でした。
3. Posted by KLY   2012年06月07日 22:48
丁度三島が生きた時代が悪かったのかな。彼は自衛隊員に直接話しかければきっと彼らは自分たちについてきてくれると信じていた節があります。でも時代はもう変わっていた。むしろ野次を飛ばしている自衛隊員は現代そのものかもしれません。
あの日本刀のように剥き身で鋭すぎたのでしょう。三島は頭が良すぎたんだと思います。だから絶望してしまったんだと。
4. Posted by にゃむばなな   2012年06月08日 21:42
KLYさんへ

あの時代って、ちょうど時代の変化の節目だったのかも知れませんね。
やはり作家は繊細な方が多いだけに、あぁなってしまったのでしょうかね。

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