2013年03月26日

『偽りなき者』

偽りなき者自ら確認しない限り、それは偽りの正義でしかない。それが分からぬ者はこの世で最も愚かである。
これは現代の魔女狩りを描いた秀作、いや第65回カンヌ国際映画祭で主演男優賞を受賞したマッツ・ミケルセンの力強い演技とあのリアルで恐ろしいラストを見ると傑作と評すべき作品です。そして大人の男性にとっては後学のためにも見ておくべき映画だと思います。

子供と酔っ払いは嘘をつかない。デンマークにはこんな諺があるそうですが、まずどこの国でも子供は絶対に嘘をつきます。特に女の子は自我が芽生えた時点で既に女心も持ち合わせていますから、『つぐない』でも描かれていたように、その女心が傷つけられれば嘘をつくことも往々にしてあるものです。

でもこの世の中にはそんな自分の子供時代を振り返れば誰でも分かることが分からないという大人がアホみたいにいるんですよね。
それがルーカスへの調査もほとんど行わずに変質者と決め付けただけでなく吹聴したグレテ園長やクララに誘導尋問をした調査員、無実の人間に暴力を振るった無関係なはずの食料品店の店員や共に肩を並べて飲み明かした友人たち、自分が卑猥な映像を妹に見せたことが原因であることも振り返らずに涙ぐむテオJr.、愛犬ファニーを殺した謎の存在、そして「親友の嘘は分かる」と豪語した割には真実が全く見抜けないテオ。

特に子供の嘘を鵜呑みにし、確証もないのに偽りの正義を振りかざし、無責任にルーカスの人生を台無しにしたグレテとテオは最低です。自分たちの行為がいかに恐ろしく愚かであるかということも考えずに、ただひたすら嘘つき少女クララの言葉を信じるだけでルーカスの言葉は何一つとして聞かない。

そんな最低な人間たちに対してルーカスはどう反撃に出るのか。それがクリスマスイヴに教会で行われたミサでの親友テオに真正面から偽りなき目で訴えかけるというものでしたが、このルーカスの尊厳を賭けた戦いのシーンを見て思ったのはやはり人間という生き物は偽りがあれば目を逸らすものだということ。

というのも証拠もないのにルーカスを信じてくれる息子マルクスや彼の名付け親である友人ブルーンはルーカスと話す際は一切目を逸らしていないのに、クララの証言を妄信するグレテやテオはルーカスに迫られると逃げたり目を逸らしたりしているんですよね。
自分の信じる証拠に自信があれば逃げないでいいはずなのに、なぜか逃げる。そこには自分自身に向き合わずに見過ごされた心の奥に眠る正義が存在している裏返しでもあると思うのです。

その正義に向き合おうとしたのが親友の目を見て、そして娘からの告白で真実を知ったテオだと思うのですが、でもその一方でそんな正義に向き合おうとせず、顔も見せずに偽りの正義をかざそうとする輩がいる。1年経ってもルーカスを疑い、彼の命をも狙おうとする輩がいる。このラストはあまりにも生々しすぎます。

ルーカスの人生は「台無しにされた」のではなく、今も「台無しにされている」のです。偽りの正義に酔いしれた存在によって死ぬまで命を狙われ続ける。ここまで考えたうえで他人を疑えるのか。自ら確認もせずに疑えるのか。

疑うことにも責任はついてくる。それを忘れず、また男性諸君はこういう少女の嘘が普段の生活でも「痴漢冤罪」という形で襲い掛かってくることも忘れずに生きていかねばならないのです。
あぁ、男とは苦しき人生を歩むものなりけり。

深夜らじお@の映画館もよく疑われる悲しき人生を送っています。

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この記事へのコメント

1. Posted by かのん   2013年03月26日 23:53
圧倒的で衝撃的な作品でした。
少女の何気ない嘘をきっかけにした集団心理の恐ろしさをまざまざと突きつけられた思いです。

これが決して映画という虚構の世界でのお話に留まらないというところが怖いんですよね。
2. Posted by mig   2013年03月27日 09:38
こんにちは、

期待の北欧映画でしたが
良い作品でしたね〜。


疑うことにも責任はついてくる。それを忘れず、また男性諸君はこういう少女の嘘が普段の生活でも「痴漢冤罪」という形で襲い掛かってくることも忘れずに生きていかねばならない

まさにその通りですね。
3. Posted by にゃむばなな   2013年03月27日 12:15
かのんさんへ

そうなんですよね。これがお伽話で終わらないのが怖いんです。
それをラストの1シーンでまざまざと見せ付けるこの映画の巧さ。
たまりませんでしたわ。
4. Posted by にゃむばなな   2013年03月27日 12:18
migさんへ

この映画を見ていると、まるで男である以上、常に冤罪の恐怖に怯えながら生きていかなければならないと言われているようでもありましたよ。
ルーカスが有罪であるか無実であるかは関係なし。とにかく誰かを痛めつけたいから犠牲にされたような恐怖も感じましたね。
人間心理とは本当に恐ろしく、そして愚かなものですよ。
5. Posted by ノラネコ   2013年03月28日 22:40
一番ダメな人は間違いなく園長先生ですね。
あの人がきちんと確認もせずに事を大きくしてしまった。
まあ似たようなケースは痴漢冤罪とかで日本でもあり得ますし、男にとっては恐ろしい話でした。
無実を立証する事なんて出来ませんからねえ。
6. Posted by にゃむばなな   2013年03月29日 16:58
ノラネコさんへ

その問題に対して自分の言動に周囲に大きな影響を与える人に限って、こういう園長先生みたいに自分の立場もわきまえない言動を取る人って実際にいますからね。
無実を立証するなんて、ほんま出来ませんよ。
それで有罪にされるんですから、この世の中はおかしいですよね。
7. Posted by えい   2013年03月29日 23:34
あの園長にしろ、母親にしろ、
自分の思い込みで
事態をどんどん悪化させていく。
逆に言えば、
それだけ自分の中で
「悪」をイメージ化できるということ。
ここまでではなくとも、
世の中にはこういうことって多いような…。
なんともリアルな恐怖を持った作品でした。
8. Posted by オリーブリー   2013年03月29日 23:37
こんばんは。

あらゆる意味で恐ろしくて腹立たしい、でも実にリアルな怖さがある作品でした。
クリスマスミサの場面、「お前の目を見れば嘘が分かる」と言っていた親友に、それみたことかと思いましたよ。
園長に関しては、皆さん、同意見ですねェ〜ホント、あそこでしっかりとした判断をしてくれていれば、、、。
あの兄の涙の意味は何だったのだろうと気になってます。
9. Posted by にゃむばなな   2013年03月30日 17:21
えいさんへ

無責任に正義ぶる人間って本当にどこにでもいますよね。
誰かを疑うということの重大性を理解せず、冤罪と分かっても責任も取れない。
これぞ現代の魔女狩り以外の何物でもないですよ。
10. Posted by にゃむばなな   2013年03月30日 17:22
オリーブリーさんへ

教育現場にいる責任者という立場でありながら、あの園長の言動は最低最悪ですよ。
少なくともああいう輩には罰を与えるべきですよ!
ついでにテオは自分の息子にもきちんと教育しないと!
11. Posted by latifa   2013年10月21日 14:54
にゃむばななさん、こんにちは!
本当にひどい、腹だたしい、許しがたい映画でした。可哀想過ぎました・・・。
あの園長が、そもそもイカンでしたね。

ps キッズリターン、ごらんになって来たんですね。私も前作が大大大好きなので、行きたいんですが、近くで上映していないんですよ・・・。
12. Posted by にゃむばなな   2013年10月22日 23:03
latifaさんへ

こういう事例って我々の普段の生活でも十二分に起こりえることが怖いですよ。
あんなエセ正義に酔いしれた園長みたいな人は世の中にたくさんいますからね。
13. Posted by yukarin   2013年12月03日 15:12
こんにちは♪
ずっと腹が立ちながら観てました。
町の人も彼がどういう人かわかっているはずにのに....。そして園長がびどい。
それに容疑が晴れてもそれでも疑う人がいるという....怖いですね。
また他人事ではないことも恐ろしいですよね。
14. Posted by にゃむばなな   2013年12月03日 16:45
yukarinさんへ

一度疑い始めるともはや過去のことなど一切無視するという人間の恐ろしさ。
それがまざまざと描かれている映画でしたね。
ほんま、他人事ではないですよね。

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