2013年06月25日

『イノセント・ガーデン』

イノセント・ガーデン白と黒の対決。どちらが勝っても最後は黒に染まる。
あのパク・チャヌク監督のハリウッドデビュー作となったこの作品は、まるでさなぎから蝶が脱皮する様をゆっくりと見ているかのような丁寧で美しいサイコサスペンス。韓国時代の作品とは違い湿り気のない乾いた雰囲気で覆われてはいるものの、ミア・ワシコウスカ独特の美しさまでも見事に描き出した傑作です。

インディアが幼い頃から履き続けてきた靴。その柄は白が両端と上部から黒を囲うような、どこにでもあるもの。
しかしこの映画を見終わって振り返ると、この柄はまるでインディアの中に眠る黒いものを亡き父親の愛という白が押さえ込んでいるかのようにも見えるんですよね。言い換えればあの靴はある意味インディアがサイコの道に歩まないようにするための拘束具。

そんな歴代の靴に囲まれたインディアが交通事故により帰らぬ人となった父親の葬儀で初めて顔を会わせた叔父のチャーリーに対し、当初は歳相応の反抗期のような抵抗しかしていなかったものの、老ハウスキーパーの亡骸を地下にある冷凍庫で見つけ、モーテルで大伯母がチャーリーにより亡き者にされたことで、チャーリーとの本格的対決姿勢を取っていくその開戦の儀式としてピアノ協奏を持ってくるのも、さすがパク・チャヌク監督。
純真無垢なインディアとサイコなチャーリーに白と黒の対決構図を描き、その一方でインディアにはこの開戦の儀式前に地下でチョコとバニラを混ぜたアイスを食べさせている。つまり今は白である彼女は時が来れば黒になる準備が無意識のうちに出来ている。そう思わせるようなこのパク・チャヌク監督独特の世界がとにかくたまらないこと。

しかもニコール・キッドマンの存在を極力薄くしていくことで、インディアの同級生男子ホイップを味方にする作戦の失敗を強烈に印象付けるかと思いきや、逆にインディアが目の前で自分を襲ってきたホイップがチャーリーによって殺される光景を思い浮かべながらシャワールームで自慰行為することで少女だった自分に別れを告げて単独でサイコな叔父に戦いを挑む大人になったと描くんですもん。
こうなるともはやチャーリーの手の内などは全て予想の範疇。気になるのはチャーリーの懐に飛び込み、拘束具の靴を脱いでチャーリーから贈られたワニ革ハイヒールを履き、これまで以上に静かにゆっくりと動くようになったインディアのサイコな動向ですよ。

首から掛けた鍵で開けた戸棚で見つけた銃ではなく、父親から手解きを受けた猟銃でまるで飛び立つ鳥を狙うかのように静かに構えて引き金を引き、チャーリーを仕留める。
そしてこれで白の勝利か、これで万事解決かと思わせておきながら、叔父からもらったハイヒールを履き、母のブラウスと父のベルトを身に纏い、家を出て行くインディアは白でも黒でもない彼女独特の色に染まった無二の存在。

そんなインディアがスピード違反で近づいてきた保安官を刺し、最後は猟銃でしっかりと仕留め、「花は自分で色を選べない」という言葉を否定するかのように白い花を血で染めるラスト。間違いなくサイコの道を歩み始めたインディアは黒に染まっているはずなのに、それを感じさせないこの素晴らしきパク・チャヌク監督の演出。
ハリウッドに行ってもこの才能が澱むことはないのでしょうね。

深夜らじお@の映画館はこれからもこの鬼才を追い続けます。

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この記事へのコメント

1. Posted by くろねこ   2013年06月27日 23:45
なるほど〜
私はパク・チャヌク監督の独特の演出をまったく読めてなかったみたいですわ〜。お恥ずかし〜。
毎度目から鱗のコメント。読めて感謝です!!
2. Posted by かのん   2013年06月28日 09:40
繊細で妖艶な美しさが漂うサスペンス作品でした。ハリウッドでもパク・チャヌク監督が放つ狂気は健在で堪能出来ましたが、一方で何だかあまりに上品なテイストが不思議な感じでもありましたけど、それは舞台と役者の違いが大きいのでしょうね。
3. Posted by にゃむばなな   2013年06月29日 18:04
くろねこさんへ

パク・チャヌク監督ほどの凄腕監督になると、絶対に映像で何かしらのメッセージも込めていると思うんですよね。
それが当たっているかどうかはわかりませんけど。
4. Posted by にゃむばなな   2013年06月29日 18:08
かのんさんへ

恐らく韓国で見せたパワーをハリウッドで見せるのは難しいでしょうね。
でもそれは韓国には韓国のパワフルさがあり、ハリウッドにはハリウッドのパワフルさがあり、そのパワフルさの毛色が違うだけの話なんでしょうね。
それでこれだけの作品を撮れるんですから、凄いもんですよ。
5. Posted by オリーブリー   2013年06月30日 21:06
こんばんは。

黒髪が似合っていましたね。
新境地って感じも受けましたが、ミアは作品ごと実力をつけているような気がしました。
6. Posted by にゃむばなな   2013年06月30日 23:20
オリーブリーさんへ

この女優さんはきっと将来オスカー女優になると思いますよ。
でもいったいどのジャンルの作品でオスカーを手にするか。これだけは全く予想がつかないですね。
7. Posted by mig   2013年07月01日 22:26
こんばんは、弾丸旅行してておくれちゃいました。

パクチャヌクらしい映像美、
それにニコールの美しさがマッチして溶け込んだ雰囲気がすてきでした〜。
8. Posted by にゃむばなな   2013年07月01日 23:24
migさんへ

弾丸旅行、お疲れ様でした。

パク・チャヌク監督の映像美は国境を越えても健在でしたね。
それにしても最近のニコール・キッドマンはまた色気が復活してきましたかね?
9. Posted by dai   2013年07月18日 01:19
こんばんは。

>「花は自分で色を選べない」という言葉を否定するかのように白い花を血で染めるラスト

ここはこの映画をしめるという意味で非常に秀逸なシーンだったかと思います。これからも期待したいものです。
10. Posted by にゃむばなな   2013年07月19日 17:42
daiさんへ

この監督の巧さがこのラストシーンに集約されてますよね。
本当にハリウッドに行っても期待に応えてくれる素晴らしい監督でしたよ。
11. Posted by latifa   2013年12月06日 13:50
にゃむばななさん、こんにちは!
今年もあと残りわずかになってきましたね。

にゃむばななさんの感想を読んで、白と黒の部分、なるほどー!って思いました。
そこまで思い至らずに見ていたので。
12. Posted by にゃむばなな   2013年12月06日 23:16
latifaさんへ

パク・チャヌクという才能は稀有なものですからね。
ほんの小さな違和感がその作品の隠れた魅力にもなると思うのですよ。

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