2013年12月11日

『利休にたずねよ』

利休にたずねよ己を汚れと認めた者だけが、美を追求することが出来る。
第140回直木賞受賞作を映画化し、第37回モントリオール国際映画祭では最優秀芸術貢献賞を受賞したこの作品。
茶人・千利休の人生には全てにおいて美しさを感じられるも、その美を追求する原点となった恋物語が意外と長く感じただけに、全体的には美しさに欠けた作品に思えてしまいました。

水を張った重箱に満月を浮かべては織田信長を満足させたり、その織田信長の怒りを買って落ち込む羽柴秀吉に原点を思い出せと言わんばかりに稗湯と梅干を差し出した上でリフレッシュのために茶の湯を振舞うなど、時に芸術家のように、時に人生相談に乗る和尚のように、されど茶人としての道を踏み外さない千利休。

茶を単なる飲み物ではなく、茶室に入れば湯が沸くまでの待ち時間さえも心を落ち着かせるための時間と捉え、十二分に自分自身と向き合った客人に対し、最後に一服の茶で背中を優しく押す。
なので必要な言葉は極力少なく、ただ客人に自分で感じ取ってもらうように控え目に振舞う。

そんな本質を見抜き、その上で美を追求する茶人・千利休の所作もまた一つ一つが美しいんですよね。その辺りはさすが梨園の人間である市川海老蔵さん。まさに文字通り日本の美を体現していたという感じでしたよ。

ただこの映画が美しく、その美しさを興味深く見れたのは、正直なところ織田信長が生きていた頃まで。いざ美しき伊勢谷信長が途中退場してしまうと、豊臣秀吉が美を理解出来ていない愚者であることも加味してか、千利休からは美しさが、映画からは面白さが消えてしまったように思えて仕方ないんですよね。

もちろん千利休の人生をなぞる上で豊臣秀吉との関係は絶対に描かなければならないものです。しかし天下人がその人間的な汚さを露呈していくのなら、茶人・千利休の美しさは逆に増すべきではないでしょうか。
その天下人と茶人を対称的に見せる演出がないおかげで、千利休から美しさが奪われた状態で肝心要の美を追求する原点を見せられても説得力に欠けてしまうのですよ。

しかもその高麗の女性との恋物語が意外と長いこと。もう少しあの恋物語を短く描けば、彼女と過ごした浜小屋をモチーフにあの狭い茶室を作り上げたとか、朝鮮出兵に批判的だったとかだけでなく、あの小壺を大事にしていた想いも、愛しの女性と心中出来なかった弱さも、その女性が残してくれた言葉も、そして形見の品である小壺を割るに割れない妻・宗恩の複雑な女心も際立っていたと思うのです。

てな訳で茶人・千利休ではなく、茶人であり人間・千利休で描いていたら、この映画には最後まで映像的な美しさだけでなく精神的な美しさも残っていたように感じてしまいました。

深夜らじお@の映画館は冬になると日本茶が恋しくなります。

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この記事へのコメント

1. Posted by 悠雅   2013年12月15日 21:25
高麗の女性との恋物語が長いのは、
この作品が、そちらにこそ重きを置いているからなのだと思います。
つまり、描きたいのは年齢を重ねてからの出来事ではなく、
若き日に、一生を左右する物語があったのだ、ということだと。
そこが魅力的に感じられなかったら、
この作品は面白く感じられないですね。
2. Posted by にゃむばなな   2013年12月15日 23:17
悠雅さんへ

ご指摘ありがとうございます。
まさにそのご指摘通りの感想が私のレビューです。
やはり個人的に千利休といえば茶人というイメージが強すぎたのかも知れませんね。
3. Posted by FREE TIME   2013年12月16日 21:38
こんばんは。
自分も高麗女性との恋話が不必要に長いと感じました。
あれで、ちょっと本作品に対する評価が下がったかなと(汗)
4. Posted by にゃむばなな   2013年12月17日 22:52
FREE TIMEさんへ

やはり千利休に対するイメージからするに、我々にはあの後半の恋物語が長く感じてしまったのでしょうね。
逆にあの恋物語を高く評価されている方も多いみたいですね。
5. Posted by Ageha   2013年12月29日 16:23
確かに恋物語の部分が無意味に長いのが
ちょっと残念でした。
女性とのやりとりをいれたいのなら
奥さんとのエピだって
彼の人間性に全く影響しなかったわけではないのですから
そこんとこがまったくないのは
妻目線でみたら
「ただの実用向きかいっ」って
ツッコミたくもなり(わわわわわ)。

ただ、歌舞伎役者の立ち振る舞いというのが
役になりきる姿勢とともに
とても凛としていて適役でしたね。
これぞ日本だよねってそこんとこは
尊敬しました・・・。
6. Posted by にゃむばなな   2013年12月30日 01:33
Agehaさんへ

そうそう、奥さんとのことがちょっとおざなりになっているのは淋しい限りですよね。
これが生涯独身男の話なら納得はいくのですが…。
7. Posted by ノルウェーまだ〜む   2014年01月05日 00:55
にゃむばななさん☆
そうなんですー
ものすごく日本の美に特化している映画なのに、茶人千利休としての美しさが、どこか半減している気がしていたのは私だけではなかったのですね。

奥さんの最後のシーンが切なくて・・・
さすが中谷美紀と、感心しました。
8. Posted by にゃむばなな   2014年01月06日 17:17
ノルウェーまだ〜むさんへ

日本の美って内面も含めてだと私は思っていたので、この内容を考えると、どこか物足りなく感じてしまうんですよね。
しかも千利休の若かりし頃がどこか主演俳優と似ているのもマイナスに働いたかも知れませんね。

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