2013年12月18日

『武士の献立』

武士の献立古狸なくして包丁侍は成り立たず。
加賀藩に実在した料理担当侍・舟木伝内が残した「料理無言抄」を題材に、包丁侍の夫を支え続けた妻の愛を描いたこの作品。
夫婦っていいなぁ〜と思えるほどにほっこりとした夫婦愛が何とも心地いいものの、加賀騒動後の近隣大名に料理を振る舞う響応料理のくだりなど、肝心なところで盛り上がりに欠けるのが何とももったいない映画でした。

かつら姿はあまり似合わぬものの、その演技力と雰囲気で見事なヒロインを演じ切った上戸彩さん演じる料理上手な春と、「料理は女・子供がするもの」という考えで剣術への未練が捨てきれぬ高良健吾さん演じる舟木安信。

まずこの2人のほっこりとした掛け合いが何とも心地いいこと。
包丁侍なのに料理が苦手どころか真摯な取り組み姿勢も見せぬ夫を刺身対決で見事に打ち負かし、料理の手解きを一から叩き込む春の姉さん女房っぷりといい、その修行の成果で上司から誉められると妻の有難味を理解する夫の成長ぶりといい、この若夫婦を優しく見守ってあげたいと思えるエピソードばかり。

特に卵を産まなくなった鶏を殺処分するのが可哀想とばかりに逃がしてやった夫に対し、「鶏と一緒に逃げた夫を探しております」と夫の親友宅まで押し掛ける妻の強気ぶりは、今井定之進・佐代夫婦の表情からも見て分かるように、本当に仲のいい夫婦だことといった感じでした。

その一方で夫の出世を心から望む妻としての愛だけでなく、佐代への想いが心の片隅に残っている夫に対する不安、育ての親でもある蟄居を命じられた真如院への面会を叶えてくれた夫への感謝など、様々な気持ちが入り混じった春の乙女心を「夫婦とは紆余曲折があってナンボのもの」とばかりに凄くいいスパイスとして効かせているので、加賀騒動のくだりも本当に夫婦っていいなぁ〜と思えるんですよね。

夫は自分が前田土佐守直躬暗殺に加わることで妻に危害が及ばないようにと離縁状を用意し、妻は夫がその計画に加わってほしくないと刀を持って逃げる。共に心の奥底にあるのはパートナーには生きていてほしいという愛。武士としての誇りや出戻りという世間体よりも大事なもの。それを言葉ではなく行動で示す姿は本当に良かったです。

でもこの映画が良かったのはここまで。義父・伝内が倒れたことにより安信と一緒に春が能登巡りに同行するくだりから、この映画は何かちょっとズレてしまっているんですよね。
それは恐らく前半は料理を主軸に夫婦愛を描いていたものを、中盤以降は夫婦愛を主軸に料理シーンを描かなくなったことで、包丁侍の夫婦を描いた作品が普通の夫婦を描いた作品に成り下がってしまったのが原因だと思われるのです。

思えば春は安信を一人前の包丁侍にするために嫁入りした身。ということはこの若夫婦にとって響応料理は夫婦二人三脚で挑む最大のイベントのはず。
なのに能登でどんなレシピを学んできたのかも描かれなければ、響応料理の献立も全く見せてくれない。また家で夫を信じ待ち続けるしかない妻の不安も描かれなければ、夫が繰り出す料理が諸大名たちの胃袋と心を掴むくだりにも盛り上がりがない。
唯一、料理を楽しむ諸大名たちの表情が包丁侍の立派な腕前を証明しているものの、この『武士の献立』というタイトルからして料理の出来栄えも映像として見せてくれないと盛り上がるに盛り上がれませんでしたね。

なので夫への配慮から舟木家を去った春が能登の貝焼きを作り、そんな妻を探し続けた安信が迎えに来るというラストも、互いを思いやる夫婦愛がきちんと描かれていて良かったのですが、逆にああいうシーンを肝心要の響応料理のくだりでも見せて欲しかったと強く思ってしまいましたね。

てな訳で紆余曲折はあっても最後はほっこりした夫婦愛を見て気持ち良く劇場を去ろうと思った矢先に、この映画に似合わぬ主題歌がその心地良さを台無しにしてくれたのも、この映画が全体的にもったいないと思えた大きな要因でした。

深夜らじお@の映画館はこの楽曲を選んだスタッフのセンスが何だかチャラく感じてしまいました。

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acideigakan at 15:09│Comments(4)clip!映画レビュー【は行】 

この記事へのトラックバック

1. 武士の献立/上戸彩、高良健吾  [ カノンな日々 ]   2013年12月21日 10:21
加賀藩に実際に存在した料理担当武士・舟木伝内と息子が残したレシピ集「料理無言抄」を題材にして『釣りバカ日誌』シリーズの朝原雄三監督がメガホンをとり江戸時代に包丁侍とし ...
2. 武士の献立  [ だらだら無気力ブログ! ]   2013年12月30日 00:08
イイ映画だったのに、ED曲がアレで台無し。
3. 武士の献立  [ 映画1ヵ月フリーパスポートもらうぞ〜 ]   2014年01月02日 20:15
評価:★★★【3点】(AF) クライマックス、淀みなく出てくる饗応料理の豪華さは圧巻である!
4. 武士の献立  [ C’est joli〜ここちいい毎日を♪〜 ]   2014年01月12日 23:44
武士の献立 '13:日本 ◆監督:朝原雄三「釣りバカ日誌20 ファイナル」 ◆主演:上戸彩、高良健吾、西田敏行、余貴美子、夏川結衣、緒形直人、成海璃子、柄本佑、鹿賀丈史、中村雅俊 ◆STORY◆春(上戸彩)は人並み外れた料理の才能と味覚を持っていたが、勝ち気過ぎて...
5. 映画『武士の献立』&舞台挨拶観てきたよ〜(*´∀`*)b.:゚+♪  [ よくばりアンテナ ]   2014年01月12日 23:49
ここ石川県のご当地映画です。 石川県だけ先行上映ってことで、本日から上映です。 県内のシネコン6カ所を次々と舞台挨拶で回られた、 朝原監督、上戸彩ちゃん、高良健吾くん、お疲れさまでした〜〜!! 前から3列目のいい場所で見てきました。 とにかく、上戸
6. 武士の献立  [ 映画的・絵画的・音楽的 ]   2014年01月21日 06:39
 『武士の献立』を渋谷シネパレスで見ました。 (1)昨年12月に和食がユネスコの無形文化遺産に登録されたことでもあり久しぶりの上戸彩の主演作ということで映画館に出向きました。  映画の冒頭では、武家屋敷の台所で料理を作る武士の姿が映し出され、「包丁侍」と呼...

この記事へのコメント

1. Posted by kajio   2013年12月20日 01:59
こちらは未見ですが、前作(ではないですが)の『武士の家計簿』にしても、途中からいきなり話のスケールが大河ドラマチックに大きくなり戸惑った記憶があるので、制作のプロデューサーさんは映画のなんたるか・必ず泣かせなくてはいけないまたは必ず感動させなければいけない的な勘違いをしている様な印象が残りました。
2. Posted by にゃむばなな   2013年12月22日 14:54
kajioさんへ

なまじ有名な役者を主人公に起用しているからか、それとも原作が大河風に仕立て上げようとしているからか、仰る通りに最近この手のパターンが多いですよね。
もっとシンプルでいい。映画の原点に製作側もそろそろ帰ってきてほしいものです。
3. Posted by きさ   2013年12月28日 08:20
なかなか面白かったのですが、今ひとつ演出に冴えが足りなかった感じですね。
俳優さんはみな好演しているのにかなりもったいない。
最後の主題歌は私もこれはこの映画には合わないだろうと思いました。
4. Posted by にゃむばなな   2013年12月28日 22:50
きささんへ

主題歌にしてもそうですが、この作品は少しセンスがズレているんですよね。
武士の生活を描きたいのか、それとも夫婦愛を描きたいのか。
その辺りが全く定まっていなかったのでしょう。

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