2014年01月27日

『小さいおうち』

小さいおうち小さいおうち。それはタキちゃんが守りたかった大切な時間。
第143回直木賞を受賞した中島京子先生の原作を山田洋次監督が映画化したこの作品は、「さすが名匠!」と言わんばかりの静かで温かな演出が後半に光り輝く一方で、「山田洋次劇団」ならぬ御馴染みのキャスティングに退屈さを感じさせる要素も持ち合わせている、色んな意味で山田洋次監督らしい作品でした。

まずこの映画の素晴らしいところは、何と言ってもタキちゃんの奉公先である平井家のあの温かな雰囲気でしょう。
まるで親戚のお姉さんのように優しい時子奥様、全幅の信頼を寄せてくれるご主人、姉のように慕ってくれる恭一坊ちゃん。そんな平井家で暮らすタキちゃんは、まさに『ALWAYS 三丁目の夕日』の六ちゃんと同じく、東京に出来たもう一つの家族を誰よりも大事に思っている存在であり、平井家にとっても大事な家族そのもの。

小児麻痺になった坊ちゃんの毎日の病院通いもマッサージも欠かさないタキちゃんだからこそ、坊ちゃんも小中先生もタキちゃんのマッサージしか受け付けず、時子もタキちゃんに合わない不躾な年寄りとの見合いを断る。
タキちゃんが女中さんであることなんて関係のない、血の繋がりよりも心の繋がりを重視した昭和ならではの家族像。これは凄く温かみのある映像でしたね。

ですから時子と板倉正治の密会に対してどう対処していいか悩むタキちゃんの気持ちも凄く純粋で温かなもの。
別に時子に恩を売りたい訳でもないのに、帯の締め方が変わっていても何も言わず、密会を目撃した酒屋のおじさんには事実を否定する。

そんなタキちゃんが、どうしてもこの東京に出来たもう一つの家族を守りたいという思いだけで動く純粋なタキちゃんが最後の最後で選んだ「嘘」。それは嫁入り前の少女にとっては、戦争により人生を翻弄されたあの時代に生きた少女にとっては、あまりにも辛いもの。

赤紙が来た板倉と時子をもう一度会わせてあげたい。でもそれでは時子が姦通罪に問われ、平井家が崩壊してしまう。だからこそ苦肉の策として、時子に板倉宛の手紙を書いてもらい、それを板倉に届けると嘘をつく。
しかし戦争がそんな少女の小さな嘘を一生後悔するものに昇華してしまう。

もし手紙を板倉に渡していれば、平井家は崩壊してしまう。でも時子が姦通罪で捕まれば戦火を逃れて生き残っていたかも知れない。
ただタキちゃんは板倉に手紙を渡さなかったので、平井家は崩壊しなかった。でも時子は防空壕の中で夫と抱き合いながらとはいえ絶命してしまった。

手紙を渡していても渡さなくても、どちらを選んでもタキちゃんに残されるのは一生苦しむ後悔のみ。
せめて時子が生き残っていたら、手紙を渡さなかったことを謝り、タキちゃんも救われていただろうに、戦争がそれを阻み、60年経ってもタキちゃんに「長く生き過ぎた」と言わせてしまう。

戦争により他人の目ばかり気になる時代は窮屈な時代。それは戦争がなくても他人の目ばかり気になる現代にも通ずること。
そんな現代劇を描く中で、時より学校のチャイムを何気に挟む演出に、山田洋次監督なりの未来への期待を感じずにはいられませんでした。

てな訳で山田洋次監督作品のキャスティングはまるで劇団のように毎度同じで、しかも各々の役者が演じる役柄も同じというのは退屈に感じる一方で、健治が喪服にスニーカ−って大学生としてはアカンやろ、それを若者を描く演出にするのもアカンやろなど、ちょっと現代感覚とズレたところもある意味山田洋次監督らしさを感じずにはいられませんでした。

深夜らじお@の映画館は黒木華さんのあの素朴さが凄く好きです。

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acideigakan at 16:26│Comments(6)clip!映画レビュー【た行】 

この記事へのトラックバック

1. 小さいおうち  [ Akira's VOICE ]   2014年01月28日 11:07
この世は小さいおうちの集合体なんだな。  
2. 「小さいおうち」  [ ここなつ映画レビュー ]   2014年01月28日 12:47
私にはとても染みる作品でした。染みるのは、「心に」だったり「記憶に」だったり「視覚に」だったりするのだけれど。生まれた時からサラリーマン家庭しか知らない私ですが、幼い時高度成長期の頃は、お正月になると父の会社関係の方々が沢山お年始に見えて、あのお正月なの
3. 映画『小さいおうち』観てきたよ〜  [ よくばりアンテナ ]   2014年01月28日 13:51
山田洋次監督最新作。 公式HPはコチラ。 あ、なんと、私、山田洋次監督作品を劇場で観るの初めてだ・・・・(;゚∀゚) いつも地上波で放送されてから見てるな。 原作の記事はコチラ。 今回は妻夫木聡くんは大伯母のタキさん(倍賞千恵子)の自叙伝の中へ導く役割で
4. 小さいおうち  [ 心のままに映画の風景 ]   2014年01月29日 00:19
大伯母・布宮タキ(倍賞千恵子)が亡くなり、晩年つづっていた自叙伝を託された大学生の健史(妻夫木聡)は、若かりしタキの秘密を知ることになる。 昭和初期。 山形から東京に出てきたタキ(黒木華)は、赤い三角屋根のモダンな屋敷を構える平井家の女中として働く
5. 小さいおうち  [ 花ごよみ ]   2014年01月29日 10:30
中島京子の直木賞受賞作の 小説を映画化。 監督は山田洋次。 小さなおうちの主婦、 時子には松たか子。 小さなおうちの女中で、 昭和のタキには黒木華。 後の平成のタキには倍賞智恵子、 家の主人、雅樹に片岡孝太郎、 雅樹の部下の板倉正治には吉岡秀隆、 タキの親...
6. 小さいおうち  [ to Heart ]   2014年01月29日 19:13
製作年度 2013年 上映時間 136分 原作 中島京子 『小さいおうち』(文藝春秋刊) 脚本 山田洋次/平松恵美子 監督 山田洋次 音楽 久石譲 出演 松たか子/黒木華/片岡孝太郎/吉岡秀隆/妻夫木聡/倍賞千恵子/橋爪功/吉行和子 健史(妻夫木聡)の親類であった、タキ(倍賞千恵...
7. 小さいおうち ★★★★  [ パピとママ映画のblog ]   2014年01月30日 21:55
第143回直木賞を受賞した中島京子の小説を、名匠・山田洋次が実写化したラブストーリー。とある屋敷でお手伝いさんだった親類が残した大学ノートを手にした青年が、そこにつづられていた恋愛模様とその裏に秘められた意外な真実を知る姿をハートウオーミングかつノスタル...
8. 『小さいおうち』  [ ラムの大通り ]   2014年01月30日 22:33
----『小さいおうち』−−。 “山田洋次監督が挑む、新しい世界”って、どういうこと?、 山田洋次監督の前作って『東京家族』。 その前も 『母べえ』だの『おとうと』だのって “家族”の話ばかりのような気がするけど…。 「う〜ん。 ぼくも観る前まではそう思っていたん
9. 小さいおうち : タキちゃんに見事に裏切られました  [ こんな映画観たよ!-あらすじと感想- ]   2014年02月01日 22:42
 今日の広島は、晴れたり曇ったり雨降ったと大変にぎやかな天気となっております。こんな日には、こんな落ち着いた映画を観るのがよいかもですよ。 【題名】 小さいおうち
10. 「小さいおうち」  [ NAOのピアノレッスン日記 ]   2014年02月01日 23:19
〜あの小さな家に閉じ込めた、私の秘密〜 2013年  日本映画     (2014.01.25公開)配給:松竹        上映時間:2時間16分監督:山田洋次原作:中島京子  『小さいおうち』(文藝春秋刊)脚本:山田洋次/平松恵美子音楽:久石譲出演:松たか...
11. 小さいおうち  [ とりあえず、コメントです ]   2014年02月02日 18:07
中島京子著の直木賞受賞作を山田洋次監督が映画化したドラマです。 原作は未読ですけど、オレンジ色のチラシを見ていたので、どんな作品だろうなと気になっていました。 タイトルから想像するよりも、もっと大人な雰囲気の愛と人生の物語でした。
12. 『小さいおうち』  [ 京の昼寝〜♪ ]   2014年02月04日 08:30
□作品オフィシャルサイト 「小さいおうち」□監督 山田洋次□脚本 山田洋次、平松恵美子□原作 中島京子□キャスト 松 たか子、黒木 華、片岡孝太郎、吉岡秀隆、妻夫木 聡、倍賞千恵子■鑑賞日 1月25日(土)■劇場 TOHOシネマズ川崎■cyazの満足度 ★★
13. 小さいおうち  [ 映画的・絵画的・音楽的 ]   2014年02月04日 20:41
 『小さいおうち』を、吉祥寺バウスシアターで見ました。 (1)山田洋次監督の新作ということで映画館に行ってきました(注1)。  本作は、中島京子氏が直木賞(2010年上期)を受賞した同名の小説(文春文庫)に基づくもの。  戦前の山の手(注2)の丘の上に建てられた...
14. 静かに反戦を謳う〜『小さいおうち』  [ 真紅のthinkingdays ]   2014年02月05日 21:02
 昭和初期、山形から東京へ女中奉公に出されたタキ(黒木華)は、赤い屋根瓦 がかわいい山の手の 「小さいおうち」 に雇われる。そこには、まだ若く美しい 時子奥様(松たか子)がいた。  山田洋次監督の映画を初めて観た。感動しました。  原作は、直木賞を
2010年・第143回直木賞を受賞した中島京子の同名小説を山田洋次監督が映画化『小さいおうち』(脚本・山田洋次、平松恵美子)。音楽・久石譲物語・健史(妻夫木聡)の大伯母で、先日亡くなったばかりのタキ(
16. 映画・小さいおうち  [ 読書と映画とガーデニング ]   2014年02月15日 13:15
2014年 日本原作 中島京子 物語の時代背景は1935年(昭和10年)から終戦直後、そして2000年(平成12年)から2009年(平成21年)頃ふたつの時代が交差しながら、やがてひとつにつながっていく様が描かれる 東京郊外のモダンな家で起きた、ある恋愛事件の秘密を...
17. 『小さいおうち』 原作を離れて「失敗作」を撮る理由  [ 映画のブログ ]   2014年02月17日 04:33
 【ネタバレ注意】  山田洋次監督の『小さいおうち』を鑑賞して、こんなことがあるのかと驚いた。  本作は中島京子氏の小説に基づいて山田洋次監督と平松恵美子氏が脚本を書き、山田洋次監督みずからメガホンを取った作品だ。決して山田洋次監督のオリジナル企画では
「小さいおうち」は中島京子原作の作品を山田洋次監督で映画化した作品で、田舎から都会に出てきた女性が女中としてある小さなおうちに奉公し、そこで起きた出来事を亡くなる直前 ...
19. 映画 小さいおうち  [ こみち ]   2015年03月22日 14:07
JUGEMテーマ:邦画     昭和初期の不倫を扱ったちょっと暗い感じのする映画でした。   見ているだけでちょっと滅入ってしまうのが難点ですね。   暗い時代が舞台なので当たり前かもしれませんが   もう少し華やかな部

この記事へのコメント

1. Posted by AKIRA   2014年01月28日 11:13
タキが抱える切実な葛藤が切なかったですね。
そこから生まれるドラマもメッセージ性に満ちていました。

でも、ほんとキャスト陣はもう少し変更してほしかった。ややこしい!w

喪服にスニーカー、たしかに。。
2. Posted by にゃむばなな   2014年01月28日 15:33
AKIRAさんへ

お馴染みの役者がお馴染みの役しか演じさせてもらえない。
これは山田洋次作品の問題点ですよね。
たまには違った役も演じさせてあげてほしいですよ。

なんせ、これだけ素晴らしい作品を毎度撮る名監督なんですから。
3. Posted by えい   2014年02月02日 18:40
こんばんは。

なるほど。
喪服にスニーカーですか…。
そういえば、中学の頃、
クラス代表である葬儀に参列したときは、
学生服にスニーカーだったなと…。
それも山田洋次監督の演出なのかもしれませんね。
いつも同じキャスティング、
これは人によっては安心するのでしょうが、
同じ色合いになるのは
壁を打ち破っていないようで
惜しいなと思います。
まったく新しい<山田洋次映画>を観たいです。
4. Posted by にゃむばなな   2014年02月03日 09:19
えいさんへ

中学生が喪服にスニーカーはまだしも、大学生がそれではダメでしょう。
その辺りに関する山田洋次監督の関心の無さが毎度同じキャストになってしまう要因の一つなのかも知れませんね。
5. Posted by ジョニーA   2014年09月16日 04:14
DVDで鑑賞しました♪
ネット上でいろいろな方の感想も読み
ましたが、人それぞれの賛否両論が興味
深かったです。妻と部下が不倫した、と
いう設定をそのまま実体験し、美人妻を
略奪されたターザン山本は猛烈批判して
いたり、自虐史観を嫌悪する小林よしの
りは、品のいい反戦部分に共感したよう
でゲキ褒めしてるし。。。と。個人の主
義主張によって、感想が両極端に分かれ
る作品のようだなと感じましたー。
6. Posted by にゃむばなな   2014年09月16日 09:58
ジョニーAさんへ

ターザンさんにそんな過去があったとは知りませんでした。
あの陽気な声の裏にはそんな悲しく苦しい出来事が…。
そりゃ、この映画に共感出来ないのは当たり前ですわ。
吉岡クンのことが一気に嫌いになってしまったのでしょうね。

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