2014年03月01日

『ネブラスカ ふたつの心をつなぐ旅』

ネブラスカ老いても鯛。それが父親というもの。
息子にとって父親は人生最初の英雄。ゆえにその英雄の名誉を守るのは男としての一生の使命。例えその英雄が老いて衰えようが、ボケて意固地になろうが、この使命だけは絶対に守らなければならない。
そんな父親と息子の普遍の絆をロードムビーという形で丁寧に描いた、これは温かい涙なくして見れない心優しき映画でした。

100万ドルの宝くじに当選した。だから賞金を受け取りにモンタナ州ビリングスからネブラスカ州リンカーンまで歩こうとして、高速道路で警察にご厄介になった老いた父親ウディ。
無口で頑固なうえに、その当選宝くじがインチキなものであることも分からないほどボケてしまっているので、丸顔の母親の愚痴もヒートアップするばかり。

しかも次男坊デイビッドが仕方なく父親と共にネブラスカ州を目指して付き添うも、ラッシュモア山を見て未完成だと言い出すわ、自動車修理工場を共同経営していた旧友エドに故郷ホーソーンで再会すると当選の話をバラすわと、手に負えない始末。

さらにこのエドが「賞金にタカる奴に気をつけろよ」と言っておきながら金を貸していただのと理由をつけてタカってくるわ、ホーソーンの町で立ち寄った実兄の家でもプー太郎の甥たちがタカってくるわ、集まった親戚もこれまた「困った時に助けてあげたでしょ」とハイエナのように集まってくるわと、デイビッドも実兄ロスも大迷惑。

ただここで愚痴る母親がハイエナ達に「十二分に恩は返したでしょ!ファック・ユー!」と一喝すると、デイビッドとロスが父親のためリベンジとばかりに「40年前から貸している空気圧縮機をエドから取り替えそう」と動き出しては家を間違えるわ、ウディの家族が眠る墓地に行けば丸顔の母親が陰部を露出して憎き故人に文句を垂れるわ、廃屋となったウディの生家に行けば息子たちが知らない事実を次々とバラすわ、さらにプー太郎従兄弟に襲撃され当選手紙を盗まれ挙句に小汚いエドが当選手紙がインチキだとウディをバカにすればデイビッドが怒りの一発お見舞いするわとムチャばかりするこの家族なんですが、でもこコミカルに描かれたムチャがどこか家族団欒という温かさを感じさせてくれるんですよね。

そもそも家族というのは、トラックや空気圧縮機が欲しいと言っていた父親が「子供たちに何か残してやりたい」と本音を漏らしたように、何かしてあげたいと心から思える関係。
しかも親が子供に対して健康でいてくれることが最高の親孝行と思うように、子供もまた親には思い出以上に残してほしいと思える財産などないと思っているのに、いくら血の繋がっていても言葉にしないと伝わらない不思議さもあるもの。

でも言葉にしない気持ちは行動で示すことが出来るもの。それがリンカーンまで付き添いで終わらせることなく、スバル製の愛車を売ってトラックと空気圧縮機を買い、ホーソーンの町に着くと父親にハンドルを預けるというデイビッドの機転が、当選手紙がインチキだと証明された雑誌社でもらった「当選おめでとう」と描かれた帽子と見事に化学変化を起こした時に始まるウディの凱旋ドライブ。もうこれがたまらんのですよ。

ウディの凱旋ドライブに町中で出会った友人は賞賛の言葉を掛けてくれ、小汚いハイエナは目を丸くし、かつての恋人はその雄姿を優しく見守ってくれる。
息子に隠れるように言う父親にこの栄光の時間を独占させてあげたいと願うデイビッドの気持ちに共感しつつ、行き交う車を見るのが好きな親戚に掛ける「じゃあな、アルバート」という一声が100万ドル以上の価値を持つ宝物となる嬉しさ。

白黒映画として描くことで、どんな色にも染まる、つまりは誰にでも当てはまる物語として描いたアレクサンダー・ペイン監督の巧みな演出。
子供にとって父親は永遠なる英雄だからこそ、どんな状況であっても子供の前で父親を愚弄してはならない。この男としての絶対的ルールを思い出しながら、デイビッドと同じく息子という立場にいる者として温かい涙を存分に流させてもらいましたよ。

深夜らじお@の映画館も改めて父親孝行をしたくなりました。

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acideigakan at 23:57│Comments(8)clip!映画レビュー【た行】 

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この記事へのコメント

1. Posted by ノルウェーまだ〜む   2014年03月02日 15:14
にゃむばななさん☆
心温まる、ゆる〜い可笑しさがたまらない映画でした。
ぷちボケていても、最終的にしっかりと残っているものが息子への愛というのが、また堪らなくいいですね。
2. Posted by にゃむばなな   2014年03月02日 15:41
ノルウェーまだ〜むさんへ

老いたコミカルさを見せつつ、息子への愛も描く。
一方で老いた父親に対する息子としての気持ち。
これもまた素晴らしい作品でしたよ。
3. Posted by オリーブリー   2014年03月02日 22:20
父親だったり、祖父だったり、親戚のおじさんだったり、誰かしら思い出して寄り添える作品でしたね。
ゆるい笑いがツボでしたが、あのバカ従兄弟には別意味で笑わされました。
4. Posted by にゃむばなな   2014年03月02日 23:21
オリーブリーさんへ

私は現在老父と2人暮らしなので、この映画は凄く胸に来るものがありましたね。
どこか他人事に思えないこの感情。
さすがアレクサンダー・ペイン監督ですわ。
5. Posted by yukarin   2014年03月05日 12:56
こんにちは♪
ラストでのドライブシーンは泣けました。
本当に親孝行の息子でしたね。
ウディは宝くじの当選より素晴らしいものを手に入れましたね。
6. Posted by にゃむばなな   2014年03月05日 22:54
yukarinさんへ

これぞ息子がするべき父親孝行でしたね。
私も見習わないと。
7. Posted by えい   2014年03月15日 14:43
こんにちは。

このラストは、なるほどでした。
それまで、
あの頃、どこにでもいたような
かつての若者たちの今を見せながら、
最後で勝利の凱歌をあげさせる。

長い、
人から見たらどうってことない、
でも大切な自分たちの歴史を歩んできた男への
素晴らしいプレゼントでした。
8. Posted by にゃむばなな   2014年03月16日 00:12
えいさんへ

モノではない栄誉というプレゼント。これこそ父親に送る最高のプレゼントですよね。
その栄誉も他の人から見たらどうってことないものでもいい。
それが何とも心地いい映画でしたね。

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