2014年03月26日

『フルートベール駅で』

フルートベール駅で信じ難い悲劇。これが現代アメリカの恐ろしさ。
2009年1月1日に無抵抗のまま警察に射殺された22歳の黒人青年オスカー・グラントの最後の一日を描き、第29回サンダンス映画祭で作品賞と観客賞を受賞したこの作品。
これが有色人種への差別が未だ無くならない現代アメリカが生み出す、いつ起こってもおかしくない悲劇と思うだけで、物凄く怖くなる映画でした。

OPで流される事件当日に実際に撮影された映像に映し出された2つのアメリカ。一つは権力が有色人種を理不尽に差別するアメリカ、もう一つは人種を問わず理不尽な差別に抵抗の声を上げるアメリカ。
どちらも紛れも無い現代アメリカの姿なんですが、でもこの映画はそんなアメリカを声高に描こうとは一切せず、ただ一人の青年の人生最後の一日を淡々と描いているだけ。

なので彼が警官に射殺されるまでの「あと何時間」といったカウントダウンもなければ、彼と関わった誰かの言葉が皮肉にもあの悲劇に繋がったという感傷的な演出も一切なし。
本当にどこにでもいる優しい青年の一日を描いているだけ。普通に明日が来ることを疑わず、ただ恋人と3歳になる娘のために一念発起して頑張ろうと決意した、誰からも好かれる人のいい兄ちゃんの一日を描いているだけ。

魚のフライの料理法が分からない初対面の白人女性のため祖母に電話を繋ぎ、仕事をクビになっても大晦日が誕生日の母親のためにカニを購入し、ガソリンスタンドの傍で車に轢かれた野良犬を介抱し、父親大好きな娘と共に駆けっこをし、仲間と共に新年の花火を見に行った先で恋人や偶然通りかかった妊婦のために閉店した店主にトイレを貸してもらえるように頼み込み、その妊婦の夫からの「無職だったが自分で仕事を始めた」という経験談に貧しさからの抜け出す希望を抱く、本当に何の変哲もない一日が描かれているだけ。

ですからそんなありふれた日常に突如理不尽な差別が襲い掛かってくると、物凄く怖いんですよね。
オスカーはただ電車内で昔のムショ仲間から暴行を受けただけ。それにより警察のご厄介になるのは仕方ないとしても、明らかに黒人青年たちの言葉に耳を傾けず、一方的に暴力を振るい、何の前触れもなく背中から銃弾を浴びせる白人警官たちの行動は潜在意識のレベルで人種差別が行われている証拠。

フルートベール駅に到着するまでは誰もオスカー・グラントの肌の色など気にすることはなかったはず。でもこの悲劇が顔を見せ始めた途端、頭ではなく心で感じる有色人種が差別される国、それがアメリカだという恐怖。
例え日本人であっても、白人以外はオスカー・グラントと同じ悲劇に遭わないという保証が一切ない国、それがアメリカだという恐怖。

しかもこの優しき青年を射殺した白人警官は「テーザー銃と拳銃を間違えた」ということで過失致死罪で懲役2年の判決を受けまがらも、わずか11ヶ月で出所したという信じ難いことが平然と行われる国がアメリカならば、カリフォルニア州フルートベール駅で正義が下されることを信じて集会を開く輪の中で一人俯く8歳のタチアナを3歳にして父親を奪われた少女にしてしまった国もアメリカであるというこの事実。

でもスパイク・リー監督作品が好きだという27歳の新鋭ライアン・クーグラー監督は決してオスカー・グラントを黒人青年としては描かず、最後まで一人の青年として描く。それがこの作品に込められた差別なきアメリカを実現させたいという明日への希望だと思えました。

深夜らじお@の映画館にとってサンダンス映画祭で評価された作品にハズレなしです。

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acideigakan at 23:46│Comments(2)clip!映画レビュー【は行】 

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この記事へのコメント

1. Posted by ノラネコ   2014年03月30日 18:37
日本でもネパール人の方が見ず知らずの男たちにいきなり殴り殺される事件がありました。
マイノリティにとって、恐怖はどこの国にも日常にあるという事でしょう。
そして被害者をアイコンではなく顔のある人間として描いたこの映画、派手さはないですが、心に長く残る作品となりました。
2. Posted by にゃむばなな   2014年03月30日 23:02
ノラネコさんへ

あのネパール人殺害事件もこの作品が訴えていることと同じことですよね。
一部の人種による排斥を望む深層心理。
自分と違う者を受け入れられない人間が増えるのは哀しいだけですよ。

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