2014年05月05日

『とらわれて夏』

とらわれて夏永遠になる夏の5日間。
官能的に見せる映像とプラトニックなストーリー。世の中に恋愛映画は数あれど、これこそ本当の意味での大人の恋愛映画、いや愛の映画。
乾いた人生に一滴だけ浸り落ちた愛が永遠に人生を潤し続ける。そんな男と女と少年の、コーヒーのように苦く、ピーチパイのように甘い出会いが素敵すぎます。

離婚により情緒不安定になった母親アデル、その母親を支える13歳の少年ヘンリー、そして盲腸の手術中に脱獄した殺人犯フランク。それぞれが求めるものは女として求める愛、少年として求める父親像、そして男として求める安らぎ。

エロ雑誌を手に取ろうとした時にスーパーでフランクに声を掛けられた時からヘンリーの中では本能的に確信があったのでしょう。脱獄犯に怯えることもなく、彼を助けたいと願うその少年には、フランクのような男こそが自分が求めている父親像だと。
家の修理、車のタイヤ交換、そしてピーチパイを始めとする料理。一人の男として力不足を自覚していた少年にとって、何でも出来るうえに「迷惑は掛けない」と紳士的に振る舞う脱獄犯は、待ちに待った自分が男として目標としたい男性像でもあったのだと。

対して当初は息子を守ることだけに必死だったアデルも、一度縛られればウソ発見器に掛けられても大丈夫だという優しさに満ちたフランクにどう心を許していくのかというと、これがヘンリーと共に3人でピーチパイを作るという過程から徐々に胸元を見せる衣装を選ぶなど、心を許す母親というよりも男を求める女性になっていく瑞々しさ。

その情緒不安定なアデルを傷みやすいが美しく甘い桃に例えるかの如く、フランクがアデルやヘンリーと共に作るピーチパイ。
ただ料理をしているだけなのに、ジェイソン・ライトマン監督はこのシーンで料理を男と女の交わりの代用として描くことで、官能的な映像でありながらプラトニックなストーリーを貫くことで、出会うべくして出会った一組の男女の愛をより美しいものへと昇華していく演出が素晴らしいこと。
後半でも描かれるダンスを男女の交わりとして描くことはよくあれど、料理で触れ合う手でここまで官能的に見せる映画は初めて。

さらに浮気妻を事故で殺してしまった過去がフラッシュバックで描かれる、幸せな家族の安らぎを求めていただけのフランクがアデルとヘンリーに本当の家族像を求め始める時に徐々に顔を見せ始める、ヘンリーの13歳の少年としての幼さ。

突拍子もない計画を話すと誰もが冗談だと思うフランクのエピソードを活用して見事に銀行での大金の引き出しを成功させる頭のいい少年も、近所に住む本当の父親への想いを完全に捨てきれない13歳。父親に手紙を残すという大人になりきれない行動が警察の疑いを招き、そして自分たちが不在の時にフランクがご近所さんと不意に遭遇してしまう不運をも招いてしまう。

そうしてカナダに家族で逃げるという計画よりも、大好きな母親が求め続けていた愛と心から慕っていたフランクの安らぎを奪ってしまった罪悪感がヘンリーを一人の大人として成長させ、やがてピーチパイの店で成功したことがきっかけで再び繋がるフランクとの絆。

「A」と記された生地で優しく包み込まれた傷みやすいが美しくピーチのように、ヘンリーやフランクの愛で優しく包み込まれてたアデルと、仮釈放により25年ぶりに愛する女性の元に帰ってきたフランク。そんな2人が手を繋ぎ道を歩くあのラストシーン。

あの夏の5日間が永遠になる。

ヘンリーの作るピーチパイを2人がどう味わうのだろうか。それを想像するだけでも、この映画は瑞々しい。そんな素敵な愛の映画でした。

深夜らじお@の映画館もピーチパイを作りたくなりました。その前にお相手を探さないと。

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acideigakan at 23:59│Comments(2)clip!映画レビュー【た行】 

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1. 「とらわれて夏」  [ YUKKOのI LOVE MOVIES ]   2014年05月06日 22:12
離婚して息子と暮らす母親が怪我をした脱獄囚をかくまう・・・そして二人の間に愛が芽生え、息子は脱獄囚に父親の姿を感じる。母親役アデルがケイト・ウィンスレット。最初あらわ ...
2. 映画・とらわれて夏  [ 読書と映画とガーデニング ]   2014年05月12日 14:51
原題 Labor Day2013年 アメリカ 夏の終りの5日間過去の傷にとらわれた母を救い出したのは心優しい脱獄犯だった− 1987年の夏の終わりアメリカ東部、ニューハンプシャー州の小さな町に住む13歳のヘンリー(ガトリン・グリフィス)は、過去のつらい出来事からト...
3. 『とらわれて夏』  [ 京の昼寝〜♪ ]   2014年05月21日 08:29
□作品オフィシャルサイト 「とらわれて夏」□監督・脚本 ジェイソン・ライトマン□原作 ジョイス・メイナード□キャスト ケイト・ウィンスレット、ジョシュ・ブローリン、ガトリン・グリフィス、       トビー・マグワイア、トム・リピンスキー ■鑑賞日 
4. とらわれて夏 ★★★.5  [ パピとママ映画のblog ]   2014年07月02日 20:12
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5. とらわれて夏  [ いやいやえん ]   2015年05月31日 09:44
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この記事へのコメント

1. Posted by YUKKO   2014年05月06日 22:11
脱獄囚との愛と言ったら、最後は悲劇のはずがこんなに心安らかな最期が見れるなんて。桃のパイが幸せのキーワードでしたね。大人の愛はこうでなくてはと思えました。
2. Posted by にゃむばなな   2014年05月07日 01:22
YUKKOさんへ

そう、悲劇になるはずがそうはならないラスト。
あのラストも大人の愛の映画に相応しいと思いましたよ。

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