2014年05月14日

『百瀬、こっちを向いて。』

百瀬、こっちを向いて。人を好きになったら、嫌いな自分も好きにならないと。
透明感と甘酸っぱさを兼ね備えた映像、10代のほろ苦い恋愛という切なさが徐々に心を締め付けるストーリー、誰かを好きになるということの裏に潜む最も重要な「自分も好きになる」ということの大切さ。
お願いだから百瀬ちゃん、ノボルの方を向いてあげて!

雑誌ムーを笑顔が絶えない同級生・田辺クンと読む相原ノボルが、自ら日陰の女という立場を選んだ百瀬陽と疑似恋人を演じる。それは実家再建のために恋より夢を選んだ宮崎瞬先輩と百瀬の噂を払拭するため、ノボルの命の恩人でもある宮崎先輩は笑顔と美貌と人の好さで人気者の神林徹子先輩と二股を掛けているという噂を消すため。

誰かを好きになるということ。それは同時に自分も好きにならないといけないこと。自分のことが嫌いで誰かを好きになっても、それは単なる恋に恋した恋煩い。一瞬でも通じ合えたらなんて詭弁は自分を好きになれていないから出てくる言葉。

ノボルは恋を知らない。百瀬は自分を好きになれない。宮崎先輩は素直になれない。神林先輩は真実を見ようとしない。つまり誰もが不完全。誰もが悪役になれない。誰も悪いヤツだとは言えない。だから余計にこの疑似恋愛がもどかしく、ほろ苦い。

恐らく百瀬も分かっていたはず。幼い弟妹の面倒を見なければならないリップクリーム愛用の自分は口紅で大人っぽく着飾った神林先輩には勝てないと。
また宮崎先輩も分かっていたはず。百瀬のことも大事な存在ではあるけれど、自分は夢より恋を選べるほど強い人間ではないと。
そして神林先輩も分かっていたはず。同じ女性として百瀬の想いを。だからボートであの組合せを提案し、帰りのバスで宮崎先輩に「浮気」が花言葉のほおずきを渡したのだと。

でもノボルだけは田辺クンに言われるまで知らなかった。百瀬が自分を大切にしていないことを、宮崎先輩が百瀬を介して自分自身まで傷つけていることを。

そうして宮崎先輩に書いてもらった手紙を百瀬に手渡してノボルと話しながら歩く川べりのシーン。それまでノボルが百瀬を異性として見る胸の膨らみや風で舞い上がりそうなスカートといったカメラワークは一切影を潜め、ただただ恋愛対象として見る百瀬の後ろ姿。

散髪後に顔を近づけて一緒に鏡を見た百瀬。学校を出ても手を放すことさえ忘れていた百瀬。自分のために作ってくれたパイナップル入りカレーをおいしいと喜ぶ百瀬。電車に乗る前に淋しそうに手を振る百瀬。映画館で宮崎先輩と神林先輩のくっつく姿を見るしかない百瀬。帰りのバスでずっと外の景色を見ていた百瀬。そして今、必死に涙をこらえようとしている百瀬。

「百瀬、こっちを向いてよ」という言葉に応じたらノボルは百瀬に想いを告げていたはず。でも百瀬は振り向かない。ここでノボルに甘えたらもっと自分自身を嫌いになる。そんな恐怖心が彼女の心にはあったのかのように。

15年ぶりに帰郷した時に再会した神林先輩は今は幸せだと言い切る。宮崎先輩は実家再建を無事に果たした。そして思い出の川べりで髪を伸ばした百瀬とすれ違う。
百瀬はノボルに気付きもしなかったけれど、神林先輩も宮崎先輩も百瀬もしっかりと前に進んでいる。ノボルだけがあの嘘から始まった初恋に囚われて立ち止っていたのかも知れない。

初恋の終わりを告げるすれ違い。「百瀬、こっちを向いて。」をあえて言わなかったすれ違い。
甘酸っぱく、ほろ苦く、切ない初恋がノボルの思い出になる。その瞬間も甘酸っぱく、ほろ苦く、切ない。そんなラストもステキな映画でした。

深夜らじお@の映画館にもこっちを向いてほしい女性はたくさんいました。

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1. 百瀬、こっちを向いて。/早見あかり  [ カノンな日々 ]   2014年05月15日 09:20
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2. 百瀬、こっちを向いて。★★★  [ パピとママ映画のblog ]   2014年05月18日 20:41
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4. 百瀬、こっちを向いて。  [ 銀幕大帝α ]   2014年11月24日 23:03
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5. 百瀬、こっちを向いて。  [ いやいやえん ]   2014年12月10日 10:02
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6. 百瀬、こっちを向いて。  [ タケヤと愉快な仲間達 ]   2015年01月05日 21:52
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この記事へのコメント

1. Posted by かのん   2014年05月15日 17:02
青春の甘酸っぱさとほろ苦さがぐっと心に染み入るいいお話でした。その昔「未来日記」って台本ありのセミドキュメンタリー的なTV番組がありましたけど、フェイクのカップルがやがて本物の恋に発展って実はとてもリアルな感情の動きだったように感じられました。
2. Posted by にゃむばなな   2014年05月16日 16:19
かのんさんへ

懐かしいですね〜、サザンオールスターズの「TSUNAMI」や福山雅治さんの「桜坂」がイメージソングとして使われた「未来日記」って番組が。
確かにあんな感じですよね、この作品も。
3. Posted by ふじき78   2014年06月15日 03:13
深い。深いなあ。
そこまでの深さを感じ取れなかったなあ。
4. Posted by にゃむばなな   2014年06月16日 10:06
ふじき78さんへ

映画は出逢ったタイミングですからね。
私はこの映画に出逢ったタイミングが良かっただけだと思います。
なので、このようなレビューを書くことが出来たのだと思いますよ。
5. Posted by ジョニーA   2015年03月31日 03:26
原作では、現在のノボルが、百瀬らしき人を見かけて「こっちを向いて!」と言うと振り向いてくれるハッピーエンドなのだそうです。
そして、どうなったか含みを持たせる形でのタイトルの使い方にもまた、映画ならではの味があったように思いますー。
ただ恋愛模様に関しては、主要登場人物の4人ともが、なんか噂を消すために(周りの目を気にして?)偽装デートなんて繰り広げちゃって・・・もっと傷つけちゃってる人いっぱいいるだろうに!(ノボルのお母さんとか・・・)と「ニル・アドミラリイ」を強く感じてしまいました〜メルアド、ニルアド〜♪
6. Posted by にゃむばなな   2015年03月31日 10:07
ジョニーAさんへ

原作はハッピーエンドなんですか〜。
でも個人的には映画の方が好きかもです。

確かにノボルのお母さんはねぇ〜。
「ニル・アドミラリイ」=「何事にも驚かない」のは大人だからということになっているんですかね?

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